喫煙室の形態変更に伴う受動喫煙環境の評価及び課題解決に資する研究

文献情報

文献番号
202209014A
報告書区分
総括
研究課題名
喫煙室の形態変更に伴う受動喫煙環境の評価及び課題解決に資する研究
課題番号
20FA1020
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
大和 浩(産業医科大学 産業生態科学研究所・健康開発科学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 姜 英(キョウ エイ)(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
  • 朝長 諒(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
  • 河井 一明(産業医科大学 産業生態科学研究所)
  • 大森 久光(国立大学法人熊本大学 大学院生命科学研究部)
  • 若尾 文彦(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所)
  • 樋上 光雄(産業医科大学 産業保健学部 作業環境計測制御学)
  • 伊藤 ゆり(大阪医科薬科大学 研究支援センター医療統計室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
12,500,000円
研究者交替、所属機関変更
令和4年度より、産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室の助教、朝長諒氏が分担研究者として参加した。

研究報告書(概要版)

研究目的
 令和2(2020)年4月より「望まない受動喫煙をなくす」ことを求めた改正健康増進法(以下、改正法)が全面施行された。第二種施設として分類された飲食店等のうち、客席面積が100 m2を超える、あるいは、資本金が5,000万円以上の規模が大きい飲食店は、屋内禁煙または喫煙専用室の設置による客席の受動喫煙防止対策が義務となった。全面施行時に営業されていた既存の小規模(客席面積が100m2以下)な飲食店は経過措置として喫煙可能を選択することが可能であるが、一定数の店舗は自主的に全面禁煙を選択している状況である。
 本研究は、喫煙可能店から禁煙店への形態変更に伴う受動喫煙環境の評価及び課題解決に資する情報を飲食店等のオーナーに提示し、飲食店等の第二種施設の禁煙化を促すことを目的とする。
研究方法
1)改正法の施行、あるいは、コロナ対策として喫煙可能店から全面禁煙に形態変更した飲食店、特に、酒類を提供する店舗に聞き取り調査を行った。
2)屋内に残した喫煙可能な場所から禁煙区域へのタバコ煙の拡散を微小粒子状物質(PM2.5)で評価した。
3)喫煙専用室の壁等から発生する三次喫煙の測定法の確立を試みた。
4)喫煙可能室を禁煙化する前後の化学物質濃度の測定と改装費用の実費を評価した。
5)健診・人間ドック受診者において、喫煙と受動喫煙による尿中バイオマーカーと呼吸機能を評価した。
結果と考察
 バーやスナックなど酒類を提供する飲食店が改正法、あるいは、コロナ対策をきっかけに全面禁煙とし、店舗の禁煙化はその後の営業に影響しなかった事例を収集、メディアでの情報公開を行った。過去の研究から喫煙専用室ではタバコ煙の漏れの防止は困難であること、今年度の研究から喫煙フロアのタバコ煙は階段スペースを経由して禁煙フロアに拡散することを確認できたことから、喫煙できる場所を残すのではなく全面禁煙を推奨する根拠が得られた。室内で喫煙した場合に壁紙に染みつくタバコ成分の精密な測定法を確立するとともに、実際に某ホテルで喫煙可能客室を禁煙室に転換した前後での実測データから、残留タバコ成分(三次喫煙)を除去するためには、壁紙やカーテン、什器の交換、絨毯の清掃、さらに、エアコンの洗浄が必要であり、多額の費用が必要であることも明らかになったことから「喫煙可能店から禁煙店への変更を行おうとする事業者にとって参考となる技術的留意事項」をとりまとめた。
 また、健康診断・人間ドックの問診と余剰尿の477名分の集計結果から、職場や家庭で受動喫煙がある者は尿中のタバコ煙曝露マーカー(ニコチン、コチニン、3-ヒドロキシコチニン)、発がん性ニトロソアミン代謝物(NNAL) ならびにDNA損傷マーカー(8-OHdG、m7G)が有意に高い値を示すことを明らかにした。さらに、非喫煙女性で同居者に喫煙者がいる群では呼吸機能の指標が有意に低値を示し、受動喫煙との関連が示唆された。
結論
 本研究の成果は、わが国において喫煙可能室を禁煙化するために有用な情報を提供し、最終的には屋内の自主的な全面禁煙化を促し、受動喫煙防止対策の推進に寄与すると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2023-07-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202209014B
報告書区分
総合
研究課題名
喫煙室の形態変更に伴う受動喫煙環境の評価及び課題解決に資する研究
課題番号
20FA1020
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
大和 浩(産業医科大学 産業生態科学研究所・健康開発科学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 姜 英(キョウ エイ)(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
  • 朝長 諒(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
  • 河井 一明(産業医科大学 産業生態科学研究所)
  • 大森 久光(国立大学法人熊本大学 大学院生命科学研究部)
  • 若尾 文彦(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所)
  • 樋上 光雄(産業医科大学 産業保健学部 作業環境計測制御学)
  • 伊藤 ゆり(大阪医科薬科大学 研究支援センター医療統計室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 令和2(2020)年4月より全面施行された改正健康増進法(以下、改正法)により、客席面積が100m2を超える大規模店と新規店では全面禁煙化、あるいは、喫煙専用室による受動喫煙対策が義務とされ、特定飲食提供施設(2020年4月で既存、客席面積100m2以下)でも自主的に同様の対策をとる店舗が増加している。本研究の目的は以下の5点である。
第1:改正法により喫煙可能店から禁煙店へ変更を行う施設事例に関する情報を収集すること。
第2:業種や施設の状況、設備の実態等で異なる受動喫煙の曝露について粒子状物質とガス状物質の両面からの分析を行うこと。
第3:受動喫煙対策の変更時に講じられた設備面や運用面に関する対策や取り組みに関する情報の収集、分析及び評価を行うこと。
第4:喫煙可能店から禁煙店へ変更を行おうとする事業者にとって参考となる技術的な受動喫煙対策について留意事項を提示すること。
第5:喫煙と受動喫煙による生体への悪影響を明らかにすることで改正法の意義を改めて裏付けるとともに、自主的に喫煙可能店から禁煙店に移行する社会的な風潮を醸成すること。
研究方法
1)改正法の施行前に喫煙可能店を全面禁煙店に変更した飲食店等の営業収入に関する情報の収集と聞き取り調査。
2)屋内の喫煙可能場所から禁煙区域へのタバコ煙の拡散を微小粒子状物質の重量濃度と個数濃度、ガス状物質の濃度の変化により詳細に評価した。
3)喫煙可能であった部屋を禁煙化する前後で、室内のガス状物質の測定を行った。
4)喫煙可能店から禁煙店に変更をする際に壁紙や絨毯、什器の交換、エアコンの特殊洗浄などを行った事例で必要であった費用を算出した。
5)健診・人間ドックの受診者で職場や家庭で受動喫煙に曝露されている者の余剰尿と呼吸機能の測定を行った。
3)
結果と考察
1)改正法の施行前に自主的に喫煙可能店から禁煙店に形態変更した飲食店のインターネット調査においても、施行後に禁煙店に変更した飲食店においても、店舗の禁煙化は営業への悪影響は発生しなかった。
2)喫煙専用室の設置、喫煙フロアと禁煙フロアの分離のいずれにおいても、喫煙場所から禁煙区域にタバコ煙が拡散し、受動喫煙を防止することは出来なかった。閉鎖空間で燃焼するタバコから発生する粒子状成分は壁紙等に付着し、長時間にわたってガス状物質を放出することが認められた。
3)喫煙可能な部屋を禁煙化する際には、壁紙やカーテン、絨毯、什器、エアコンの特殊清掃が必要であることが分かった。
4)喫煙可能な50平方メートルの店舗を禁煙化する場合に必要な費用を算出したところ、約36万円が必要となることが試算された。
5)令和2〜4年度に健診・人間ドックを受診した非喫煙者の477サンプルの結果から、同居者に喫煙者がいる場合の尿中総ニコチン代謝物(TNE:ニコチン、コチニン、3-ヒドロキシコチニンの合計)ならびに発がん性ニトロソアミン代謝物(NNAL)およびDNA損傷マーカー(m7G)は、喫煙する同居者がいないグループに比べて有意に高い値を示した。その結果は、紙巻きタバコ、加熱式タバコのいずれにおいても同様であった。職場における受動喫煙頻度が高いグループにおいて、尿中TNEおよびNNALが高い傾向が見られた。さらに、受動喫煙対策が行われていない職場では、非喫煙者の尿中TNEおよびNNALレベルが有意に高かった。非喫煙の女性83名において、同居者に喫煙者がいる群(21名)は、同居者に喫煙者がいない群(62名)と比べて呼吸機能の指標が有意に低値であった。
結論
本研究は、わが国の屋内の喫煙場所の減少に寄与し、改正健康増進法の第1の目的である「望まない受動喫煙をなくす」ための社会環境の整備、つまり、屋内の禁煙化の推進に資するものと考えられた。最終的には、喫煙しにくい社会的な雰囲気の醸成により、喫煙率が低下することが根本的な受動喫煙対策となることが期待された。

公開日・更新日

公開日
2023-07-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202209014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1) 飲食店等が禁煙化する際の留意事項(喫煙専用室からの漏れ、喫煙フロアから禁煙フロアへの拡散)を定量的に評価した。喫煙可能室を禁煙化するための壁紙、絨毯、什器の交換、エアコンの清掃にかかわる費用を算出した。職場や家庭で受動喫煙の曝露を受けた場合の尿中曝露マーカーおよびDNA損傷マーカーが上昇、呼吸機能が低下することを明らかにした。
(2) 改正健康増進法に添って「望まない受動喫煙」をなくすための国民活動に寄与し、受動喫煙による健康障害の低減に貢献することが期待される。
臨床的観点からの成果
(1) 喫煙室や喫煙フロアを残すことなく全面禁煙を推奨する根拠が得られた。また、アルコール類を提供する飲食店に置いても営業上の不利益にならないことも提示できた。
(2) 「望まない受動喫煙」の機会が減ることで非喫煙者の健康障害が減少し、喫煙できる場所が減ることで喫煙率が低下し、根本的な受動喫煙対策につながること、さらには、喫煙者自身の疾病を減らすことにも繋がることが期待できる。
ガイドライン等の開発
先行研究から本研究に至る一連の成果は、2013年から2018年にかけて合計11回開催された厚生労働省の厚生科学審議会 「たばこの健康影響評価専門委員会」に提出され、「改正健康増進法の成立に寄与し、わが国の受動喫煙対策の大きな推進に繋がっている。
その他行政的観点からの成果
喫煙専用室からの漏れ、および、屋外喫煙所から半径25メートルでの受動喫煙の曝露濃度を明らかにしたことで、2019年7月に改正健康増進法の一部施行時、第一種施設である全国の学校、病院、行政機関の敷地内禁煙の導入に貢献した。
その他のインパクト
以上の成果は、研究主任者のホームページに掲載され、
http://www.tobacco-control.jp/
2018年3月、NHK「あさイチ」で40分間にわたって受動喫煙と三次喫煙の特集が組まれるなど、定期的にメディアに取り上げられた。さらに、伊藤班員の禁煙飲食店に関する調査結果は、飲食関係の業界誌「Foodist Media by 飲食店ドットコム」やネット記事「BuzzFeed」に取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
31件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yuya Kawasaki, Yun-Shan Li, Yuko Ootsuyama, Koichi Fujisawa, Hisamitsu Omori, Ayumi Onoue, Kenichi K
Assessment of exposure and DNA damage from second-hand smoke using potential biomarker in urine: cigarettes and heated tobacco products
Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition (J.Clin.Biochem.Nutr.) , Vol.72 (No.3) , 242-247  (2023)
10.3164/jcbn.22-144
原著論文2
飯田優里, 野下結衣, 大和浩, 土井たかし, 宮脇尚志, 中村亜紀
屋外の開放型喫煙所から拡散するタバコ煙の状況~就学年齢の子どもに対する受動喫煙防止に向けて~
京都女子大学生活福祉学科紀要 ,  (No.16) , 1-8  (2021)
原著論文3
大矢幸慧, 稲垣幸司, 増田麻里, 犬飼順子, 高阪利美, 長尾徹, 内藤徹, 田淵貴大, 姜英, 大和浩
歯科衛生士をめざす学生の加熱式タバコを含めた喫煙に対する認識
日本禁煙学会雑誌 , Vol.15 ( No.3) , 62-69  (2020)
10.14950/jstc.15.62
原著論文4
Yuya Kawasaki, Yun-Shan Li, Yuko Ootsuyama, Kazuhiko Nagata, Hiroshi Yamato and Kazuaki Kawai
Effects of smoking cessation on biological monitoring markers in urine
Genes and Environment , Vol.42 ( No.26) , 1-9  (2020)
10.1186/s41021-020-00165-z
原著論文5
Inomoto A, Deguchi J, Fukuda R, Michishita R, Jiang Y, Nishiyama S and Yamato H
Cohabiting with smokers is an independent factor for worsening arterial stiffness even in smoking workers.
J UOEH (産業医科大学雑誌) , Vol.42 ( No.3) , 251-259  (2020)
10.7888/juoeh.42.251

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
202209014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,200,000円
(2)補助金確定額
13,617,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,583,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,976,895円
人件費・謝金 3,620,587円
旅費 802,300円
その他 2,518,026円
間接経費 3,700,000円
合計 13,617,808円

備考

備考
自己資金808円

公開日・更新日

公開日
2023-08-29
更新日
-