文献情報
文献番号
202126017A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアル吸入曝露影響評価のための効率的慢性試験法の開発に関する研究
課題番号
21KD2004
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部・動物管理室)
- 津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
- 横田 理(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
- 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 渡部 徹郎(東京大学大学院医学系研究科(医学部))
- 石丸 直澄(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部(歯学系))
- 小林 憲弘(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
- 北條 幹(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
37,502,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は先行研究において開発してきた通常の二年間連続吸入曝露試験結果と比較可能な慢性間欠型曝露手法をより効率化し、複数慢性試験の同時進行が可能となる短期曝露型の曝露手法の開発を目的とする。さらに、定量的リスク評価のため吸入曝露後の体内分布とそのメカニズム解析を行うと共に、曝露評価手法の最新情報を入手することも目的とする。
研究方法
慢性影響評価法の改良と吸入曝露装置の効率化研究においては、今年度は短期間に高濃度曝露して慢性影響観察を行うプロトコールの開発、Taquann法の曝露手法のさらなる効率化のための自動化等を含めた曝露装置の改良と短期曝露に応じた分散手法の検討を行った。体内分布と慢性影響発現部位の解析に関して、リンパ系経路の解析を可能とするトランスジェニックマウス(Prox-1マウス)の導入、肺のリンパ管内皮間葉移行(EMT)に関する検討を行うと共に、先行研究で行われた2年間のMWNT-7の間歇曝露研究結果の病理及び免疫ネットワークの詳細な解析、TIPS法による慢性研究で、長さの異なる二層ナノチューブ(DWCNT)発がん実験の解析を行った。曝露評価モデル等の情報に関してはOECD作業グループの活動を中心に情報収集を行った。
結果と考察
本研究より、従来使用してきたMWNT-7と同様のNT-7を研究対象物資として使用することとしたため、まずTaquann法による繊維長や繊維長分布、MMADが従来のものと同等であることを確認した。次に、マウスへのNT-7の単回吸入曝露試験を行い、肺胞マクロファージのM2マクロファージへの分化を確認した。またNT-7吸入暴露により、肺組織のMMP-12 mRNAの発現が増加することを明らかにした。一方、吸入曝露システムの効率化に関する吸入曝露装置の改修については、ボトルネックとなっている検体調製工程を自動化する装置の作製を進めているところ、シーブの大型化ではろ過効率の低下、シーブの洗浄方法については、逆洗することにより自動化の目処が立った。ろ液の凍結方法について、滴下掻き取り凍結法では大量の検体処理は困難であり、噴霧凍結法は大量のろ液を瞬時に凍結可能あったが凍結検体の回収に課題が残った。今後これらの点の改良を進める必要がある。気管内投与実験では、全13回投与が完了し、肺のMWCNT蓄積率は予想よりも高くなったが、既報の情報から、用量依存的に肺腫瘍および胸膜中皮腫の誘発が期待できるレベルと考えられ、最終年度には、全動物の剖検が完了する予定である。リンパ管を可視化できるリンパ管レポーターマウス:Prox1-GFP に対するナノマテリアル吸入曝露の結果、肺組織の線維化や肺胞上皮細胞の内皮間葉移行(EMT)の誘導因子であるTGF-βの受容体の発現が上昇していた。これに関連して肺胞上皮細胞のTGF-βの作用を検討したところ、血管・リンパ管レポーターマウスの活用により、ナノマテリル曝露の体内分布の解析ならびに、病態悪性化の原因となるEMTの分子機構の解明が可能となることを示すことができた。先行研究で行われたNMNT-7の2年間の間歇吸入曝露試験データの解析では、群間に死亡率の差は認められなかった。肺負荷量と肺重量、及び、体重の関係からは高用量暴露群の吸入量は、発癌性に関する用量相関性の保証されない高負荷量である可能性が考えられたが、肺組織について免疫染色を用いた詳細な解析を行った結果、前駆病変に当たる組織変化などの検討を進める必要性が示された。また、長期曝露(24ヶ月)後のBALF細胞の解析では、肺胞マクロファージの割合が増加するともに、脾臓あるいはリンパ節など全身のマクロファージ分化にも影響が生じることが示された。一方、長さの異なるDWCNT(1.5、7.0および15μm)について発がん性において線維の長さによる差異はないことが示された。海外動向調査では、OECDの工業用ナノ材料作業部会(WPMN)及びOECDが主催するナノマテリアルの曝露評価手法に関するウェビナーに参加し,OECDが開発あるいは評価したナノマテリアルの曝露評価ツール・モデルに関する情報を得た。ただし,現状ではモデルの使用にあたって幾つか課題も見られ,引き続き情報収集を行う必要があると考えられた。
結論
現時点までの成果としては、間欠曝露型の吸入曝露装置の改良が進んでおり、慢性実験に向けた準備が整った。気管内投与では、短期間の間歇曝露による慢性観察試験を開始した。2年間の間歇曝露による影響と、通常の連続曝露慢性実験の結果についての分子マーカーによる比較やProx-1マウスの活用によるナノマテリル曝露の体内分布の解析を行える環境と、短期曝露に対応する分散性の確認ができたところである。曝露評価に関しては、曝露評価ツール・モデルに関するOECDの最新動向を入手できた。
公開日・更新日
公開日
2022-07-13
更新日
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