軽度認知障害の、推定背景病理に基づく、最適認知症進展予防法の開発

文献情報

文献番号
200821018A
報告書区分
総括
研究課題名
軽度認知障害の、推定背景病理に基づく、最適認知症進展予防法の開発
課題番号
H18-長寿・一般-028
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
村山 繁雄(財団法人 東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 徳丸 阿耶(東京都老人医療センター・放射線科)
  • 石井 賢二(東京都老人総合研究所 ポジトロン研究施設附属診療所)
  • 金丸 和富(東京都老人医療センター 神経内科)
  • 齊藤 祐子(東京都老人医療センター 剖検病理科)
  • 松田 博史(埼玉医科大学病院 脳核医学)
  • 本吉 慶史(国立病院機構下志津病院 神経内科)
  • 池田 学(熊本大学医学部 精神科)
  • 栗崎 博司(国立病院機構東京病院神経内科・リハビリテーション科)
  • 有馬 邦正(国立精神・神経センター病院 臨床検査部)
  • 小尾 智一(国立病院機構静岡てんかん神経医療センター 神経内科)
  • 高尾 昌樹(美原記念病院 神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
12,650,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者ブレインバンク登録例により、軽度認知障害(MCI)の背景病理を明らかにする。その情報を元に、ものわすれ外来受診者にサロゲートバイオマーカーを用い、背景病理を推定し、認知症予防への最適介入法を開発することを目的とする。
研究方法
高齢者ブレインバンク登録例について、病歴、主治医、介護者へのインタビューよりClinical Dementia Rating(CDR)を決定、CDR 0.5例の神経病理学的背景を明らかにする。その知見を背景に、もの忘れ外来受診者より、MMSE 24以上、Rivermead行動記憶検査16点以下の例を操作的にMCIとして抽出、髄液バイオマーカー、MRI VSRAD、ECD SPECT eZis 3.0 Spefici Voxel Analysisにより背景病理を推定する。診断困難例は、18F-FDG、PIB、Dopamine - PETで、より進んだ診断を試みる。推定背景病理に基づき、最適介入法を選択、認知症予防を試みる。
結果と考察
 高齢者ブレインバンク登録例中CDR 0.5群には、アルツハイマー病(AD)、血管障害性認知症(VD)、レビー小体型認知症(DLB)以外に、多数の高齢者タウオパチー(嗜銀顆粒性認知症:AGD、神経原線維変化優位型老年期認知症:NFTD)が含まれた。また数は少ないながら、海馬硬化、側頭葉てんかん例が含まれた。本年度PIB-PETと髄液Abetaとの関連を求め、髄液Abetaが正常であれば、PIBは陰性と言ってよい結果を得た。これは、髄液Abetaと剖検時のAbeta沈着との対応でも同様の結果を確認できた。高齢者ブレインバンク登録例で、Abeta沈着が軽い症例は、認知機能障害の進行が緩徐であるが、PIB陰性、あるいは髄液Abeta正常例は、記憶障害、遂行機能障害とも、進行が緩徐であり、記憶のリハビリ等の良い対象となることが明らかとなった。
結論
 髄液Abetaが正常であることは、ADを否定する大きな根拠となる。その場合、記憶障害、遂行機能障害とも、進行は緩徐であり、記憶のリハビリのよい適用になる。

公開日・更新日

公開日
2009-04-22
更新日
-

文献情報

文献番号
200821018B
報告書区分
総合
研究課題名
軽度認知障害の、推定背景病理に基づく、最適認知症進展予防法の開発
課題番号
H18-長寿・一般-028
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
村山 繁雄(財団法人 東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 徳丸阿耶(東京都老人医療センター 放射線科)
  • 石井賢二(財団法人 東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所 )
  • 金丸和富(東京都老人医療センター 神経内科)
  • 齊藤祐子(東京都老人医療センター 剖検病理科)
  • 古田 光(東京都老人医療センター 精神科)
  • 松田博史(埼玉医科大学病院 脳核医学)
  • 池田学(熊本大学医学部 精神科・神経科)
  • 栗崎博司(国立病院機構東京病院 神経内科・リハビリテーション科)
  • 有馬邦正(国立精神・神経センター病院 臨床検査部)
  • 小尾智一(国立病院機構静岡てんかん神経医療センター 神経内科)
  • 高尾昌樹(美原記念病院 神経内科)
  • 嶋田裕之(大阪市立大学医学部 老年科・神経内科)
  • 本吉慶史(国立病院機構下志津病院 神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者ブレインバンク登録例より、軽度認知障害(MCI)の背景病理を明らかにする。その情報を元に、ものわすれ外来受診者にサロゲートバイオマーカーを適用することで、背景病理を推定し、認知症予防への最適介入法を開発する。
研究方法
高齢者ブレインバンク登録例について、病歴、主治医、介護者へのインタビューよりClinical Dementia Rating(CDR)を決定、CDR 0.5例をMCI相当例として、その神経病理学的背景を明らかにする。その知見を元に、もの忘れ外来受診者より、MMSE 24以上、Rivermead行動記憶検査16点以下で操作的にMCIを抽出、髄液バイオマーカー、MRI VSRAD、ECD SPECT eZis 3.0 Spefici Voxel Analysisにより背景病理を推定する。診断困難例は、18F-FDG(flouro deoxy glucose)、11C PIB (Pittsuburgh Compound B)、Dopamine - PET(11C- CFT, 11C raclopride)で、より進んだ診断を試みる。推定背景病理に基づき、最適介入法を選択、認知症予防を試みる。
結果と考察
高齢者ブレインバンク登録例中CDR 0.5群には、アルツハイマー病初期(eAD)、血管障害性認知症初期(eVD)、レビー小体型認知症初期(eDLB)以外に、多数の高齢者タウオパチー(嗜銀顆粒性認知症:AGD、神経原線維変化優位型老年期認知症:NFTD)が含まれた。また少数ながら海馬硬化例の存在が確認できた。またこれらの病変の二重複、三重複例も多数認められた。
 上記を背景に、操作的抽出MCI例をサロゲートバイオマーカーで評価した。AGDは、神経病理学的に、左右差を伴う側頭葉内側面の変性・萎縮が特徴であることを解明、MRI、SPECTで同病変が抽出可能であることを、FDG、PIBで確認できた。NFTDもPIB陰性が診断的意味を持った。AGD、NFTDとも進行が緩徐である点で、記憶のリハビリが有効と考えられた。eDLBについては、剖検例DLBより髄液5HIAA, HVAが、MIBG心筋シンチと並び有用である知見が得られ、これを適用することが診断上有用であった。eDLBは、塩酸ドネペジルが著効を呈した。髄液Abeta正常例は、PIBは陰性であることが明らかとなった。またMRI冠状断FLAIRが、海馬硬化、扁桃核腫大を伴う側頭葉てんかんの抽出に有用であった。
結論
軽度認知障害の背景病理は多岐に飛んでおり、非AD病理を明らかにすることは、生活予後の改善につながる。

公開日・更新日

公開日
2009-04-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200821018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
軽度認知障害(MCI)は、アルツハイマー病(AD)前駆状態ととらえられていたコンセンサスに修正を加え、非AD病理を多数含み、特に高齢者タウオパチーが多数含まれることを、後方視的病理学;的研究と、前方視的臨床縦断研究で明らかにした点が、重要である。また、汎用マーカーを特殊検査であるPETで確認することで、特異度感度の検討を行った点も重要である。
臨床的観点からの成果
髄液Abeta 1-42値が正常である例は、アミロイドPET(PIB)が陰性であることを明らかにした点は、汎用マーカーとしての髄液の有用性を再確認する知見である。高齢者タウオパチーとして嗜銀顆粒性疾患が、MRI、SPECTを用いることで、診断可能であることを示した点及び、MRI FLAIR画像で、海馬硬化、扁桃核腫大を伴う側頭葉てんかんが診断可能であることを示した点も重要である。
ガイドライン等の開発
嗜銀顆粒性認知症の診断・治療ガイドラインの開発を現在完了進行形で行っている。もの忘れ、易怒性、性格変化を臨床的特徴とし、経過が長く、形態・機能画像で、左右差を伴う側頭葉内側面前方の限局的変性を特徴とする点が、診断的価値を有すること、また治療としては、記憶障害のリハビリと、精神療法が有効であることが特徴であり、病理確定診断例の、病歴による確認を行っている。
その他行政的観点からの成果
PIBが陰性であることは、ADでないことを意味し、この診断により、患者のみならず、家族に福音をもたらすことが明らかとなった。髄液Abetaは、より汎用性が高く、これが正常である場合は、ADである可能性が極めて低いことが、後方視的病理研究でも、前方視的臨床縦断研究でも明らかにできた点は、介護における負担の軽減に、大きく貢献することが期待できる。
その他のインパクト
軽度認知障害に関して、2007年度メディカルトリビューンに取り上げられた。また、三年間にわたり、東京都科学技術週間で、高齢者ブレインバンクに関する公開教育講義を行った。

発表件数

原著論文(和文)
22件
原著論文(英文等)
90件
その他論文(和文)
93件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
147件
学会発表(国際学会等)
30件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
15件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sengoku R, Saito Y, Ikemura M et al
The incidence and extent of Lewy- body related alpha- synucleinopathy in human aging olfactory bulb.
J Neuropath Exp Neurol , 67 , 1072-1083  (2008)
原著論文2
Takahashi Y, Seki N, Ishiura H et al
Development of a high-throughput microarray-based resequencing system for neurological disorders and its application to molecular genetics of amyotrophic lateral sclerosis.
Arch Neurol , 65 , 1326-1332  (2008)
原著論文3
Ikemura M, Saito Y, Sengoku R et al
Lewy body pathology involves cutaneous nerves.
J Neuropath Exp Neurol , 67 , 945-953  (2008)
原著論文4
Saito Y, Murayama S
Neuropathology of mild cognitive impairment.
Neuropathology , 27 , 578-584  (2007)
原著論文5
Mohri I, Kadoyama K, Kanekiyo T et al
Prostaglandin D2 receptor, DP1 is selectively up-regulated in microglia and astrocytes within senile plaques from human patients and a mouse model of Alzheimer’s disease.
J Neuropath Exp Neurol , 66 , 469-480  (2007)
原著論文6
Fumimura Y, Ikemura M, Saito Y et al
Analysis of the adrenal gland is useful for evaluating pathology of the peripheral autonomic nervous system in Lesy body disease.
J Neuropath Exp Neurol , 66 , 354-362  (2007)
原著論文7
Mizuta I, Satake W, Nakabayashi Y et al
Multiple candidate gene analysis identifies a-synuclein as a susceptibility gene for sporadic Parkinson's disease.
Hum Mol Gen , 15 , 1151-1158  (2006)
原著論文8
Waragai M, Yamada T, Matsuda H.
Early diagnostic value of brain perfusion SPECT using an easy Z-score imaging system in patients with neurodegenerative disease.
Dement Geriatr Cogn Disord , 26 , 547-555  (2008)
原著論文9
Hashimoto M, Kawasaki K, Suzuki M et al
Pre- and post-synaptic nigrostriatal dopaminergic function in multiple system atrophy.
NeuroReport , 19 (2) , 145-150  (2008)
原著論文10
Matsuda H, Mizumura S, Nagao T et al
Automated discrimination between very early Alzheimer disease and controls using an easy Z-score imaging system for multicenter brain perfusion single-photon emission tomography.
Am J Neuroradiol , 28 , 731-736  (2007)
原著論文11
Ishikawa T, Ikeda M.
Mild cognitive impairment in a population-based epidemiology
PSYCHOGERIATRICS , 7 , 104-110  (2007)
原著論文12
Toyota Y, Ikeda M, Shinagawa S, et al
Comparison of behavioral and psychological symptoms in early-onset and late-onset Alzheimer’s disease.
Int J Geriatr Psychiatry , 22 , 896-901  (2007)
原著論文13
Shinagawa S, Ikeda M, Toyota Y
Frequency and clinical characteristics of early-onset dementia in consecutive patients in a memory clinic.
Dement Geriatr Cogn Disord , 24 , 42-47  (2007)
原著論文14
Mishina M, Ishii K, Kitamura S
Correlation between each task of the Mini-Mental State Examination and regional glucose hypometabolism in at-rest Alzheimer’s disease patients.
Geriatr Gerontol Int , 7 , 124-130  (2007)
原著論文15
Sahara N, Maeda S, Yoshiike Y et al
Molecular chaperone-mediated tau protein metabolism counteracts the formation of granular tau oligomers in human brain.
J Neurosci Res , 85 , 3098-3108  (2007)
原著論文16
Maeda S, Sahara N, Saito Y et al
A: Granular Tau Oligomers as Intermediates of Tau Filaments.
Bioshcmistry , 46 , 3856-3861  (2007)
原著論文17
Matsumoto N, Ikeda M, Fukuhara R et al
Caregiver’s burden associated with behavioral and psychological symptoms of dementia in the local community elderly people
Dement Geriatr Cogn Disord , 29 , 219-224  (2007)
原著論文18
Takao M, Tsuchiya K, Mimura M et al
Corticobasal degeneration as cause of progressive non-fluent aphasia: a clinical,radiological and pathological study of  an autopsy case.
Neuropathology , 26 , 569-578  (2006)
原著論文19
Matsuda H
Functional neuroimaging in Alzheimer’s disease.
Radiation Medicine , 24 (4) , 302-308  (2006)
原著論文20
Mitsui J, Saito Y, Momose T et al
Pathology of the sympathetic nervous system corresponding to the decreased cardiac uptake in 123I-metaiodobenzylguanidine (MIBG) scintigraphy in a patient with Parkinson disease.
J Neurol Sci , 243 , 101-104  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-