侵襲の運命決定因子HMGB1を分子標的とした救命的治療法の開発

文献情報

文献番号
200817002A
報告書区分
総括
研究課題名
侵襲の運命決定因子HMGB1を分子標的とした救命的治療法の開発
課題番号
H18-トランス・一般-003
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 征郎(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石坂 彰敏(慶應義塾大学 医学部)
  • 北川 雄光(慶應義塾大学 医学部)
  • 野口 隆之(大分大学 医学部)
  • 中島 利博(海里マリン病院)
  • 前川 剛志(山口大学 医学部)
  • 安波 洋一(福岡大学 医学部)
  • 松下 健二(国立長寿医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(基礎研究成果の臨床応用推進研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
59,405,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臓器不全、ショックや播種性血管内凝固症候群(DIC)などの原因として同定されてきている核内DNA 結合蛋白 HMGB1を循環血中から除去あるいは生体内で中和することで、上記疾患・病態の救命的治療法を開発する。これまでの研究で、ラット、マウスを使った実験で、1)「局所性HMGB1」は傷害部位の感染防御、出血防止、そして修復のアジュバントであること、しかるにこの「局所性HMGB1が血中を循環」すると、遠隔臓器に“止血、修復、自然免疫”などの反応が“転移”して、DIC、全身性炎症(SIRS)、最終的にはショックと多臓器不全の原因となること、2)この循環性HMGB1への介入、すなわち中和抗体、あるいはHMGB1除去カラムで劇的救命効果が得られることを明らかにした。そこで今年度は、ヒトへの【医師主導型】パイロットスタディにトランスレーションすることを目的とする。
研究方法
1)in vitro研究:HMGB1の細胞外遊離機構、受容体との相互反応についての分子細胞機構を研究した。
2)ヒト化抗体の作成と活性検証
3)ブタの体外循環による HMGB1の除去:ヒトへの展開の前ステップとして、ブタ用カラム作成し、パイロットスタディを行った。
結果と考察
Ⅰ.HMGB1の細胞外遊離機構の解明:培養細胞系においてヒストン脱アセチル化剤でHMGB1遊離の増加、またアセチル化酵素阻害剤でHMGB1 の細胞外への能動的遊離の抑制が観察され、HMGB1の細胞外能動的分泌にはアセチル化が重要であることが確認された。HMGB1の遊離に異常を来たす変異体はすべて胎生致死であったので、細胞内外でのHMGB1の動態は発生段階において重要な役割を果たしているものと推定された。
Ⅱ.ヒト化HMGB1は実験に使用する段階までは到達しえなかった。
Ⅲ.中空糸にHMGB1の吸着効果のあるトロンボモデュリン(TM)固定化カラムにはHMGB1の吸着効果が確認された。ついでビーヅに HMGB1吸着効果のある硫酸化セルロファインを固定化したカラムを作成し、ブタに応用を開始中である。
結論
“局所性HMGB1”が侵襲局所の止血、自然免疫、修復のアジュバントであること、局所の場合でも遷延性の存在はその臓器の障害を招くこと、更にはHMGB1の全身化は多臓器不全、ショックなどの原因であること、動物実験において循環血中のHMGB1の中和・除去で劇的改善と救命が得られる事に関しては、ほぼ完全に証明しえた。現在、これをヒトの治療へトランスレーションするための試行中で、当初の計画より遅れてはいるが、医師主導型のパイロットスタディを開始する予定である。

公開日・更新日

公開日
2011-11-04
更新日
-

文献情報

文献番号
200817002B
報告書区分
総合
研究課題名
侵襲の運命決定因子HMGB1を分子標的とした救命的治療法の開発
課題番号
H18-トランス・一般-003
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 征郎(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石坂 彰敏(慶應大学 医学部)
  • 北川 雄光(慶應大学 医学部)
  • 野口 隆之(大分大学 医学部)
  • 中島 利博(海里マリン病院)
  • 前川 剛志(山口大学 医学部)
  • 安波 洋一(福岡大学 医学部)
  • 松下 健二(国立長寿医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(基礎研究成果の臨床応用推進研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
侵襲による壊死細胞、活性化マクロファージなどの核から遊離してきたHMGB1は侵襲【局所】では損傷部位の止血・感染防御、そして修復のアジュバントとして働くが、【全身循環性】の場合には、遠隔臓器の炎症と血管内凝固を惹起する。本研究では、このHMGB1を標的分子としたインターベンションによるショックの救命的治療法の確立を目指す。
研究方法
1)HMGB1の細胞生物学的研究
①HMGB1の細胞外遊離機構の解明
DNA結合蛋白HMGB1 の細胞外への能動的遊離機構を、脱アセチル化酵素阻害剤、アセチル化酵素阻害剤、あるいは薬物誘導型の変異体遺伝子を作成(細胞外分泌型、非アセチル化型)して研究した。
②HMGB1の受容体とシグナル伝達経路の解明
2)HMGB1の生体に対する作用とそのインターベンション
①動物実験
ラット、マウスにエンドトキシン(LPS)血症モデル(LPS 投与、盲腸結紮)、誤嚥性肺炎マウスを作成して、血中HMGB1のダイナミクスと病態との関連を検討した。
②ヒトの各種病態発生と HMGB1 の関連と検証と HMGB1 インターベンションのための大型動物での実験
各種の侵襲(感染症性ショック、食道がん、くも膜下出血など)患者の血中HMGB1を測定し、侵襲度合いと HMGB1 の関連を解析した。またヒトの血中HMGB1 の吸着カラムを試作し、ブタに試用した。
結果と考察
誤嚥性肺炎マウスでは肺胞液中と循環血中のHMGB1が高値を示した。また敗血症モデルラットにおいてもHMGB1が循環血中に増加し、中和抗体投与、あるいは除去カラムにより、HMGB1 の低下と生存率の改善を認めた。ヒトでもHMGB1は臓器障害のマーカーとしてだけでなく、それ自体が次の臓器障害を招くことが食道癌臨床例、中枢神経系、移植片拒絶反応でも証明された。 さらにHMGB1にトロンビンが共存すると、これらは相乗的にDICや臓器障害を惹起することも判明した。
結論
動物実験、および臨床例において、侵襲局所のHMGB1が血中を循環すると、遠隔臓器の障害、多臓器不全、ショックとなることが検証された。実験動物において中和抗体、吸着カラムの有効性がラットにおいて証明されたので、ヒトへの展開を早急にスタートするつもりである。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-10-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200817002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)局所障害により、壊死細胞、あるいは活性化免疫細胞の核からはDNA 結合蛋白 HMGB1 が細胞外に放出され、局所の「止血、感染防御、修復」に働くこと、しかしこれが血中を循環すると、遠隔臓器に反応が波及し、ショック、播種性血管内凝固症候群、多臓器不全を惹起することを証明した。 
2)循環血中のHMGB1を抗体やカラムで除去すると救命しうることを動物モデルで証明した。
3)局所のHMGB1 の全身化は内皮細胞上のトロンボモデュリンが結合・分解してブロックしていることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
1)HMGB1 の高感度測定系を確立し、約世界30ヵ国中に供給している。
2)このキットで HMGB1 を測定することで、侵襲の度合い、予後などをあらかじめ予測することが可能となってきた(術後合併症の予測など)。
3)ショック、多臓器不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)などの病態生理とそれに基づいた治療法(HMGB1 の除去、抗体による中和など)の展望が開けてきた。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
核内 DNA 結合蛋白:HMGB1が、壊死細胞や、活性化マクロファージ、樹状細胞から放出されて、局所では“止血、自然免疫、修復”のメディエーターとなるが、これが全身化すると、炎症や、免疫、止血反応の原因となること、このHMGB1 の全身化は内皮細胞上のトロンビン・トロンボモデュリンによって制御されているという新規パラダイムの確立に成功した。これに関しては国内外の学会やシンポジウムで発表した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
69件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
48件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Into T, Kanno Y, Matsushita K, et al.
Pathogen recognition by Toll-like receptor 2 activates Weibel-Palade body exocytosis in human aortic endothelial cells.
J. Biol. Chem. , 282 (11) , 8134-8141  (2007)
原著論文2
Into T, Inomata M, Matsushita K et al.
Regulation of MyD88-dependent signaling events by S nitrosylation retards toll-like receptor signal transduction and initiation of acute-phase immune responses.
Mol Cell Biol. , 28 (4) , 1338-1347  (2008)
原著論文3
Iwai T, Tomita Y, Yasunami Y, et al.
The immunoregulatory role of NKT cells in cyclophosphamide-induced tolerance.
Transplantation , 84 (12) , 1686-1695  (2007)
原著論文4
Ito T, Kawahara K, Maruyama I, et al.
High-mobility group box 1 protein promotes development of microvascular thrombosis in rats.
J Thromb Haemost. , 5 (1) , 109-116  (2007)
原著論文5
Inoue K, Kawahara K, Maruyama I, et al.
HMGB1 expression by activated vascular smooth muscle cells in advanced human atherosclerosis plaques.
Cardiovasc Pathol. , 16 (3) , 136-143  (2007)
原著論文6
Taniguchi N, Yoshida K, Maruyama I, et al
Stage-specific secretion of HMGB1 in cartilage regulates endochondral ossification.
Mol Cell Biol. , 27 (16) , 5650-5663  (2007)
原著論文7
Noma S, Arimura K, Maruyama I, et al.
Two cases of acute exacerbation of interstitial pneumonia treated with polymyxin B-immobilized fiber column hemoperfusion treatment.
Intern Med. , 46 (17) , 1447-1454  (2007)
原著論文8
Yasuhara D, Maruyama I, Inui A, et al.
High mobility group box 1 and refeeding-resistance in anorexia nervosa.
Mol Psychiatry , 12 (11) , 976-977  (2007)
原著論文9
Kawahara K, Takao S, Maruyama I, et al
HMGB1 release in co-cultures of porcine endothelial and human T cells.
Xenotransplantation. , 14 (6) , 636-641  (2007)
原著論文10
Hiwatshi K, Maruyama I, Aikou T, et al.
A novel function of the receptor for advanced glycation end-products (RAGE) in association with tumorigenesis and tumor differentiation of HCC.
Ann Surg Oncol. , 15 (3) , 923-933  (2008)
原著論文11
Satoshi Yamasaki, Naoko Yagishita, Toshihoro Nakajima, et al.
Resistance to endoplasmic reticulum stress is an acquired cellular characteristic of rheumatoid synovial cells
International Journal of Molecular Medicine. , 18 , 113-117  (2006)
原著論文12
Satoshi Yamasaki, Ikuro Maruyama, TOshihiro Nakajima, et al.
Cytoplasmic destruction of p53 by the endoplasmic reticulum-resident ubiquitin ligase 'Synoviolin
The EMBO Journal , 26 , 113-122  (2007)
原著論文13
Wu W, Nakajima T, Ohta T, et al.
BRCA1 Ubiquitinates RPB8 in Response to DNA Damage.
Cancer Res , 67 (3) , 951-958  (2007)
原著論文14
Koichi Suda, Yuko Kitagawa,Akitoshi Isizaka, et al
3. Anti-High-Mobility Group Box Chromosomal Protein 1 Antibodies Improve Survival of Rats with Sepsis.
World Journal of Surgery , 30 , 1755-1762  (2006)
原著論文15
Into T, Inomata M,Matsushita K, et al.
Regulation of MyD88-dependent signaling events by S-nitrosylation retards Toll-like receptor signal transduction andinitiation of acute-phase immune responses.
MolCell Biol , 28 , 1338-1347  (2008)
原著論文16
Kanno Y, Into T, Matsushita K, et al
Nitric oxide regulates vascular calcification by interfering with TGF- signalling.
Cardiovasc Res , 77 , 221-230  (2008)
原著論文17
Iohara K, Matsushita K, Nakashima M, et al
A novel stem cell source for vasculogenesis in ischemia: subfraction of side population cells from dental pulp.
Stem Cells , 26 , 2408-2418  (2008)
原著論文18
Tajima A, Maruyama I, Kobayashi K, et al.
rescues rats from cerebral infarction by attenuating the release of high-mobility group box-1 in neuronal cells.
nteract Cardiovasc Thorac Surg. , 7 , 1114-1120  (2008)
原著論文19
Ito T, Kawahara K, Maruyama I, et al.
Proteolytic cleavage of high mobility group box 1 protein by thrombin-thrombomodulin complexes.
Arterioscler Thromb Vasc Biol. , 10 , 1825-1830  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-