「健康づくりのための睡眠指針2014」のブラッシュアップ・アップデートを目指した「睡眠の質」の評価及び向上手法確立のための研究

文献情報

文献番号
202009018A
報告書区分
総括
研究課題名
「健康づくりのための睡眠指針2014」のブラッシュアップ・アップデートを目指した「睡眠の質」の評価及び向上手法確立のための研究
課題番号
19FA1009
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
栗山 健一(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 兼板 佳孝(日本大学 医学部 社会医学系公衆衛生学分野)
  • 井谷 修(日本大学医学部 社会医学系公衆衛生学分野)
  • 内山 真(日本大学医学部精神医学系)
  • 鈴木 正泰(日本大学医学部 精神医学系精神医学分野)
  • 尾崎 章子(東北大学大学院医学系研究科 保健学専攻 老年・在宅看護学分野)
  • 田中 克俊(北里大学大学院医療系研究科)
  • 三島 和夫(国立大学法人秋田大学 大学院医学系研究科医学専攻 病態制御医学系 精神科学講座)
  • 角谷 寛(京都大学 医学研究科)
  • 渡辺 範雄(名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学)
  • 岡田 清夏(有竹 清夏)(公立大学法人埼玉県立大学 保健医療福祉学部)
  • 駒田 陽子(明治薬科大学 薬学部)
  • 岡島 義(東京家政大学 人文学部 心理カウンセリング学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
6,923,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「睡眠の質」は睡眠時間と異なる、睡眠健康の一側面を表現する指標として考えられているが、その生理学的背景・意義は明らかになっていない。多忙な毎日を送る学生・社会人などの、長い睡眠時間を確保するのが難しい状況にある人々、また、不眠症などにより満足な睡眠が得られていない人々にとって、睡眠時間を補完し「睡眠の質」を反映した睡眠関連健康増進指標の開発・提案は重要である。
研究方法
我々は、国民の健康増進に資する新たな「睡眠の質」指標の開発を目的とし、文献システマティックレビュー、既存研究データの再解析を行うとともに、これを適切に国民に普及・啓発するための方法の検討を進めた。令和2年度は以下の調査・研究を実施した。(1)睡眠健康指標としての「睡眠休養感」と、「睡眠の質」の構造・性質的差異の検討。(2)国内コホート研究および米国睡眠研究データベース(NSRR)を用いた、「睡眠休養感」および「睡眠の質」の健康アウトカムへの影響調査。(3)ピッツバーグ睡眠質問票を指標とした「睡眠の質」と健康アウトカムの関連調査(システマティックレビュー)。(4)「睡眠の質」改善・向上法に関するシステマティックレビュー・メタ解析。
結果と考察
(1)主観的な睡眠の質を測る指標である「睡眠休養感」が寿命延伸の予測因子であった。睡眠時間、床上時間、および「睡眠休養感」と総死亡リスクの関係は中年世代と高齢世代の間で異なり、中年世代(40歳以上64歳以下)では、7時間以上の睡眠時間確保は総死亡を減らした。さらに「睡眠休養感」を同時に考慮すると、休養感のある十分な長さの睡眠時間が総死亡リスクを低下させた。これに対し高齢世代(65歳以上)では、長く臥床(8時間以上)しているにもかかわらず休養感が乏しい場合、総死亡を増加させた。さらに、低い「睡眠休養感」がうつ病と高血圧症の新規発症危険因子であった。(2)主観的睡眠時間と客観的睡眠時間の比で示される、睡眠時間の主客比と総死亡の関係を検討した結果、高い主客比が総死亡リスク増加と関連した。低いレム睡眠出現率も同時に総死亡リスクに寄与するが、主客比はレム睡眠出現率と独立して総死亡リスクと関連した。(3)PSQI得点で示される「睡眠の質」評価と健康アウトカムの関連におけるシステマティックレビューの結果、低い「睡眠の質」と、生活習慣病(体重増加・心血管疾患)やうつ病の発症リスクが関連した。PSQI得点で示される「睡眠の質」評価を向上しうる非薬物的介入効果を評価するメタ解析の結果、非薬物介入(ピラティス、指圧、太極拳、社交ダンス、アロマ)に一定の効果が示された。「睡眠の質」と「睡眠休養感」は近似の性質を有する指標であるが、「睡眠の質」は不眠症状が強い集団においては、不眠の重症度を反映しやすい。これに対し、「睡眠休養感」は睡眠不良感による影響が弱く、覚醒時の機能障害(QoL)に基づいた睡眠評価指標と考えられる。「睡眠の質」、睡眠時間ともにQoLに影響する評価指標であるが、「睡眠の質」指標の方が一貫性の高い指標といえる。PSQIを用いた「睡眠の質」評価は、主に2つの潜在要因から成り立ち、主観的な「睡眠の質」と「睡眠時間」に関する2要因から構成される。さらに、日中のQoLを反映する要因は、睡眠時間より狭義の「睡眠の質」要因であることから、「睡眠の質」指標として、「睡眠休養感」を用いることが、睡眠時間と相補的関係性を担保する上でも、妥当性が高いと考えた。
結論
国民の健康増進に資する「睡眠の質」指標として、「睡眠休養感」を用いることの有用性が示された。また睡眠時間指標として、従来の主観的睡眠時間に加え、客観的な睡眠時間・床上時間を評価し、これらの乖離度指標を用いることの有用性が示された。

公開日・更新日

公開日
2021-11-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-11-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202009018B
報告書区分
総合
研究課題名
「健康づくりのための睡眠指針2014」のブラッシュアップ・アップデートを目指した「睡眠の質」の評価及び向上手法確立のための研究
課題番号
19FA1009
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
栗山 健一(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 兼板 佳孝(日本大学 医学部 社会医学系公衆衛生学分野)
  • 井谷 修(日本大学医学部 社会医学系公衆衛生学分野)
  • 内山 真(日本大学医学部精神医学系)
  • 鈴木 正泰(日本大学医学部 精神医学系精神医学分野)
  • 尾崎 章子(東北大学大学院医学系研究科 保健学専攻 老年・在宅看護学分野)
  • 田中 克俊(北里大学大学院医療系研究科)
  • 三島 和夫(国立大学法人秋田大学 大学院医学系研究科医学専攻 病態制御医学系 精神科学講座)
  • 角谷 寛(京都大学 医学研究科)
  • 渡辺 範雄(名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学)
  • 岡田 清夏(有竹 清夏)(公立大学法人埼玉県立大学 保健医療福祉学部)
  • 駒田 陽子(明治薬科大学 薬学部)
  • 岡島 義(東京家政大学 人文学部 心理カウンセリング学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「睡眠の質」は睡眠時間と異なる、睡眠健康の一側面を表現する指標として考えられているが、その生理学的背景・意義は明らかになっていない。多忙な毎日を送る学生・社会人などの、長い睡眠時間を確保するのが難しい状況にある人々、また、不眠症などにより満足な睡眠が得られていない人々にとって、睡眠時間を補完し「睡眠の質」を反映した睡眠関連健康増進指標の開発・提案は重要である。
研究方法
我々は、国民の健康増進に資する新たな「睡眠の質」指標の開発を目的とし、文献システマティックレビュー、既存研究データの再解析を行うとともに、これを適切に国民に普及・啓発する方法の検討を進めた。全研究期間を通して以下7項目の調査・研究を実施した。(1)睡眠健康に関する市民公開講座・講演会の際に、従来の睡眠健康指標である睡眠時間と、「睡眠の質」に対する関心度および、睡眠医療の充実度に関するアンケート調査。(2)睡眠時間を指標とした健康増進の限界および、睡眠習慣・環境が睡眠時間に及ぼす影響に関する文献レビュー。(3)睡眠健康指標としての「睡眠休養感」と、「睡眠の質」の構造・性質的差異の検討。(4)国内コホート研究および米国睡眠研究データベース(NSRR)を用いた、「睡眠休養感」および「睡眠の質」の健康アウトカムへの影響調査。(5)ピッツバーグ睡眠質問票を指標とした「睡眠の質」と健康アウトカムの関連調査(システマティックレビュー)。(6)「睡眠の質」改善・向上法に関するシステマティックレビュー・メタ解析。(7)新規「睡眠の質」指標の普及・啓発法の開発調査。
結果と考察
(1)睡眠健康に関心を寄せる国民の多くが睡眠時間の確保よりも「睡眠の質」向上に期待していることが示唆され、現状の睡眠医療が不十分であると感じている実態が明らかとなった。(2)睡眠時間は個人差が存在するとともに、年齢や人種・文化、経済・生活状況、睡眠環境等の様々な人口統計学的条件や心理・精神医学的因子の影響も受ける。また睡眠時間の主観的評価には限界が存在することから、こうした弱点を担保する工夫が必要と考えられた。(3)「睡眠の質」と「睡眠休養感」は近似の性質を有する指標であるが、「睡眠の質」は不眠の重症度をより強く反映しやすいのに対し、「睡眠休養感」はこの影響がやや弱く、覚醒時の機能障害(QoL)を反映しやすい指標と考えられる。PSQIを用いた「睡眠の質」評価は、主に主観的な「睡眠の質」と「睡眠時間」に関する2潜在要因から構成される。さらに、日中のQoLを反映する要因は、睡眠時間より狭義の「睡眠の質」要因であることから、「睡眠の質」指標として「睡眠休養感」を用いることが、睡眠時間と相補的関係性を担保する上でも妥当性が高いと考えた。(4)主観的な睡眠の質を測る指標である「睡眠休養感」が健康増進・寿命延伸の予測因子であった。睡眠時間、床上時間、および「睡眠休養感」と総死亡リスクの関係は中年世代と高齢世代の間で異なり、中年世代(40歳以上64歳以下)では、休養感のある7時間以上の睡眠時間確保は総死亡を減らした。これに対し高齢世代(65歳以上)では、長く臥床(8時間以上)しているにもかかわらず休養感が乏しい場合、総死亡を増加させた。さらに、低い「睡眠休養感」がうつ病と高血圧症の新規発症危険因子であった。主観的睡眠時間と客観的睡眠時間の比で示される、睡眠時間の主客比と総死亡の関係を検討した結果、高い主客比が総死亡リスク増加と関連した。低いレム睡眠出現率も同時に総死亡リスクに寄与するが、主客比はレム睡眠出現率と独立して総死亡リスクと関連した。(5)PSQI得点で示される「睡眠の質」評価と健康アウトカムの関連におけるシステマティックレビューの結果、低い「睡眠の質」と、生活習慣病(体重増加・心血管疾患)やうつ病の発症リスクが関連した。(6)PSQI得点で示される「睡眠の質」を向上しうる非薬物的介入効果を評価するメタ解析の結果、非薬物介入(ピラティス、指圧、太極拳、社交ダンス、アロマ)に一定の効果が示された。(7)Webベースの普及・啓発システムが不可欠であることが示された。SNS等を活用しながら、普及・啓発基盤の有用性・活用度をモニタリングするとともに、個人差を随時フィードバック可能なシステムを構築する必要性がある。睡眠計測ウェアラブルデバイスのデータを取り込むとともに、「睡眠休養感」や主観的睡眠時間・床上時間と併せて活用可能なシステムを組み込むことでより実用性・実効性を高めることが可能である。
結論
国民の健康増進に資する「睡眠の質」指標として、「睡眠休養感」を用いることの有用性、妥当性が示された。さらに、従来の主観的睡眠時間に加え、客観的な睡眠時間・床上時間、および両者の乖離度指標を「睡眠休養感」指標と併せて用いることの有用性が示された。

公開日・更新日

公開日
2021-11-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-11-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202009018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国際的にも主観的「睡眠の質」が健康に及ぼす影響は明確に示されていなかったが、主観的「睡眠の質」指標の一つである「睡眠休養感」が健康アウトカムに及ぼす影響を初めて示すことに成功した。さらに、長時間睡眠が死亡率を増加させる理由が明らかにされていなかったが、これに関わる明確な科学的根拠の一つを示すことができた。
臨床的観点からの成果
年代により、適切な睡眠衛生のあり方が異なることを示すことができた。中年世代では積極的に睡眠時間を確保し、睡眠休養感を高めることが重要であるが、高齢世代では睡眠時間をむしろ制限し、適度な床上時間に留めることが寿命を延伸することが明らかとなった。これにより、睡眠衛生指導の質が高められるとともに、不要な睡眠薬処方の削減にも寄与すると思われる。
ガイドライン等の開発
特記なし。
その他行政的観点からの成果
本研究成果は、2022-2023年度に予定されている、「健康づくりのための睡眠指針2014~睡眠12箇条~」のアップデートの際に、新指針の設定根拠として活用される予定である。その際には、国際的にも初となる「睡眠の質」指標の睡眠健康指針への導入と、年代ごとの睡眠時間指針の差別化、および客観的測定に基づく睡眠時間指標導入を試みる予定である。また、2022年度以降、「次期健康づくり運動プラン作成と推進に向けた研究」研究班に参加し、次期健康日本21日本研究班の成果を還元する。
その他のインパクト
日本睡眠学会等において、本研究テーマに基づくシンポジウムを開催する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大のあおりを受け、実施することができなかった。2021年度の睡眠学会では、「健康・長寿を目指した新たな睡眠指標の開発」というタイトルのシンポジウムを開催した。また、2022年度には本テーマに関連したシンポジウムを2つ開催予定である。

発表件数

原著論文(和文)
16件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
26件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
「睡眠の質」研究班のHP作成

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-04-04
更新日
2023-06-22

収支報告書

文献番号
202009018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,999,000円
(2)補助金確定額
8,712,000円
差引額 [(1)-(2)]
287,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,851,991円
人件費・謝金 2,085,884円
旅費 0円
その他 1,699,050円
間接経費 2,076,000円
合計 8,712,925円

備考

備考
物品や謝金、消費税等で差異が生じたため

公開日・更新日

公開日
2022-04-12
更新日
2022-05-06