高次脳機能障害診断のための経頭蓋磁気刺激による誘発脳波計測システム等の開発

文献情報

文献番号
200713003A
報告書区分
総括
研究課題名
高次脳機能障害診断のための経頭蓋磁気刺激による誘発脳波計測システム等の開発
課題番号
H15-フィジ-指定-003
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
諏訪 基(国立身体障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中島八十一(国立身体障害者リハビリテーションセンター 研究所 )
  • 伊良皆啓治(九州大学大学院システム情報科学研究院)
  • 三木 幸雄(京都大学大学院放射線医学講座)
  • 鎗田 勝(日本光電工業(株)フロンティアオフィス)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(身体機能解析・補助・代替機器開発研究)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
60,476,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 高次脳機能障害者の診断法として、経頭蓋磁気刺激(TMS)による短潜時誘発脳波とテンソルMRIによる診断法の開発をなし、臨床有用性を確認する。19年度はTMSによる誘発脳波形の実用機を作成する。磁気刺激に伴う物理学的アーチファクトの一層の除去を研究課題とする。また、関連する機器開発として32チャネル誘発脳波計の量産設計並びに製作を行う。一方で形態学的に大脳白質病変を描出するための拡散テンソル画像による脳内線維束表示を形態学的臨床検査として、その有用性を確立する。
研究方法
対象者を必要とした研究はTMSを用いた誘発脳波に関する研究と3T MRIを用いた形態画像の研究である。誘発脳波については刺激装置、記録装置ともに医療用機器を用いた。3TMRIについても同様に医療用機器として承認が得られた機器を用いた。健常者と患者を必要に応じて被験者としたことは共通である。
結果と考察
 一次運動野および前頭前野背外側部の異なる部位の刺激による短潜時誘発脳波成分を確定した。患者例における一次運動野刺激では、脳波成分の振幅値や潜時などで健常者と異なっていても、頭皮上分布に関しては類似していたことから、同じ成分の振幅と潜時の異常として理解された。
 アーチファクト除去の研究では、ノイズ成分のみを独立成分分析を用いて信号と分離する方法を開発し、刺激後10ms位から安定した信号が取れるようになることを確認した。
形に変化が見られた。また、TMS刺激が視覚注意機能の一種である視覚探索に与える影響を調べた結 TMSによる短潜時誘発脳波を測定可能なマルチチャネル誘発脳波計の量産設計並びに製作について、本年度は32チャネル誘発脳波計の量産設計並びに製作を行った。
 3テスラの臨床研究用高磁場MRI装置を使用し、脳占拠性病変においてさらに症例を追加し、錐体路や視放線などの重要な神経線維束のtractography を拡散テンソル画像を利用して作成することにより、この装置の臨床応用および有用性を確認した。
結論
高次脳機能障害を診断するためのTMSによる短潜時誘発脳波を記録法を確立し、磁気刺激に伴う物理学的ノイズを顕著に軽減する記録方法と信号処理技術を開発した。TMSによる短潜時誘発脳波の記録を効率的に実施可能な32チャンネル増幅器を備えた実用機が開発され、その性能試験が実施され問題点も明らかにした。3T MRI装置を用いた拡散テンソルMRI画像による高次脳機能障害診断法を確立した。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

文献情報

文献番号
200713003B
報告書区分
総合
研究課題名
高次脳機能障害診断のための経頭蓋磁気刺激による誘発脳波計測システム等の開発
課題番号
H15-フィジ-指定-003
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
諏訪 基(国立身体障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(身体機能解析・補助・代替機器開発研究)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高次脳機能障害者について、その診断・評価を容易にかつ全国的に共通化するために、経頭蓋磁気刺激(TMS)による誘発脳波と拡散テンソルMRIが客観的な診断方法を提供する。これにより高次脳機能障害を有する者が全国で統一的かつ適切に医療と福祉サービスを受けられるようにする。
研究方法
対象者を必要とした研究はTMSを用いた誘発脳波に関する研究と3T MRIを用いた形態画像の研究である。誘発脳波については刺激装置、記録装置と烽ノ医療用機器を用いた。3TMRIについても同様に医療用機器として承認が得られた機器を用いた。健常者と患者を必要に応じて被験者としたことは共通である。
結果と考察
 高次脳機能障害者の損傷された神経ネットワークを評価するため、経頭蓋磁気刺激を用いた短潜時誘発脳波の記録法確立を確立した。刺激点は一次運動野と前頭前野背外側部の2点で実施した。一次運動野を刺激した時には得られる短潜時誘発脳波成分として、P25-N40-P55の3成分からなる複合波形を報告した。さらに前頭前野背外側部の刺激ではN40-P50-N60の3成分からなる複合波形を報告した。この方法を用い、高次脳障害患者例で得られた誘発脳波成分の特徴を明らかにした。その結果、形態学的検査で明確にし得なかった異常所見を、本法により検出できることを明確に示した。また磁気刺激時のアーチファクトを軽減する方法を開発し、ヒトにおいて磁気刺激時の誘発脳波の計測を可能とした。
 TMSによる脳誘発反応を測定可能なマルチチャネル誘発脳波計の開発がなされた。得られた知見を基に32チャネル誘発脳波計の量産設計、並びに製作を行った。性能試験の結果、誘発脳波計単体のアーチファクト除去性能は目的の性能を達成していることが確認できた。
 機能的検査法を検証する手段として、また形態学的検査法の一層の向上を目指して、高磁場(3T)MRI装置を用いた拡散テンソル画像による大脳白質線維束描出(tractography)を試み、安定的に描出可能であることを確認し、臨床検査としての有用性を確認した。
結論
 高次脳機能障害を診断するためのTMSによる短潜時誘発脳波を記録法を確立し、この誘発脳波の記録を効率的に実施可能な32チャンネル増幅器を備えた実用機を開発した。3T MRI装置を用いた拡散テンソルMRI画像による高次脳機能障害診断法が確立された。本研究で開発された機能的検査法と形態学的検査法の両方を適用することにより、高次脳機能障害者が適切に福祉サービスを受けられるようになると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200713003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
TMSによる誘発脳波を記録する際に、刺激点を変更することにより、ヒトで非侵襲性に神経ネットワークを観察できるようになった。特に前頭葉のように入出力を他の脳部位にもつ領域の神経ネットワークを直接観察できるようになったことは、新たな研究手法として活用できる。また、それを可能にする機器を開発できたことは本法を用いた研究を支援する。3TMRIによる白質の描出は、形態学的に神経ネットワークを知る上で画期的である。
臨床的観点からの成果
TMSによる誘発脳波はそのまま白質病変を病理にもつ患者の診断に実施できる臨床有用性をもつことが確認された。さらに、それを実施できる機器が開発されたことで、臨床現場で本法を実施できる可能性をもたらした。3TMRIによる白質の描出は形態学的に白質病変を病理とする疾患の診断に応用可能である。
ガイドライン等の開発
TMSによる誘発脳波と3TMRIによるtractgraphyのそれぞれによる診断方法が確立したことで、これらを用いて高次脳機能障害を診断するためのガイドラインが作成できる状態になった。
その他行政的観点からの成果
本研究で開発された機能的検査法と形態学的検査法の両方を診断に適用することにより、高次脳機能障害者の器質的病変陰性例は格段の減少をみることとなり、障害者が適切に福祉サービスを受けられるようになると考えられる。検査対象となる者は数万人に上ると考えられる。
その他のインパクト
厚生労働省が実施する高次脳機能障害支援普及事業における全国連絡協議会で、研究の進捗状況が報告され、その利用について理解と普及が図られた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
73件
その他論文(和文)
1件
著書として
その他論文(英文等)
3件
著書として
学会発表(国内学会)
40件
学会発表(国際学会等)
38件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
高次脳機能障害支援普及事業における診断技術の向上に資するところがあった。
その他成果(普及・啓発活動)
1件
高次脳機能障害支援普及事業における診断基準の普及に資するところがあった。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kohno Y., Nakajima Y., Sekiguchi H.
A study of brain-evoked potential in 100 ms after transcranial magnetic stimulation
nternational Congress Series , 284-287  (2005)
原著論文2
河野 豊,関口浩文,中島八十一
TMSによる短潜時誘発脳波と高次脳機能障害診断
臨床脳波 , 48 (11) , 671-684  (2006)
原著論文3
Sekiguchi H., Takeuchi S., Kadota H., Kohno Y., Nakajima Y.
Evoked brain potentials were changed by coil orientation of transcranial magnetic stimulation
Clinical Neurophysiology In press  (2008)
原著論文4
Fushimi Y, Miki Y, Ueba T, Kanagaki M
Liliequist membrane: three-dimensional constructive interference in steady state MR imaging.
Radiology , 229 , 360-365  (2003)
原著論文5
Nakai T, Muraki S, Miki Y
Application of independent component analysis to magnetic resonance imaging for enhancing the contrast of gray and white matter.
NeuroImage , 21 , 251-260  (2004)
原著論文6
Itasaka S, Miki Y, Tomimoto H
Appearance of leukoaraiosis may be attenuated with compression by a chronic subdural hematoma.
European Journal of Radiology , 49 (3) , 193-197  (2004)
原著論文7
Kikuta K, Takagi Y, Nozaki K, Hanakawa T, Miki Y
Asymptomatic microbleeds in moyamoya disease: T2*-weighted gradient-echo magnetic resonance imaging study.
Journal of Neurosurgery , 102 (3) , 470-475  (2005)
原著論文8
Yamamoto A, Miki Y, Tomimoto H
Age-Related Signal Intensity Changes in the Corpus Callosum: Assessment with Three Orthogonal FLAIR Images.
European Radiology , 15 (11) , 2304-2311  (2005)
原著論文9
Okada T, Miki Y, Fushimi Y
Diffusion Tensor Fiber Tractography: Intraindividual Comparison of 3.0-T and 1.5-T MR Imaging.
Radiology , 238 (2) , 668-678  (2006)
原著論文10
Fushimi Y, Miki Y, Kikuta K
Comparison of 3.0- and 1.5-T Three-dimensional Time-of-Flight MR Angiography in Moyamoya Disease: Preliminary Experience.
Radiology , 239 , 232-237  (2006)
原著論文11
Okada T, Mikuni N, Miki Y
Corticospinal Tract Localization: Integration of Diffusion-Tensor Tractography at 3-T MR Imaging with Intraoperative White Matter Stimulation Mapping—Preliminary Results.
Radiology , 240 , 849-857  (2006)
原著論文12
Mikuni N, Okada T, Nishida N, Taki J, Miki Y
Comparison between motor evoked potential recording and fiber tracking for estimating pyramidal tracts near brain tumors.
J Neurosurg , 106 , 128-133  (2007)
原著論文13
Yamamoto A, Miki Y, Urayama S
Diffusion tensor fiber tractography of the optic radiation: analysis with 6-, 12-, 40- and 81-directional motion probing gradients; a preliminary study.
AJNR Am J Neuroradiol , 28 , 92-96  (2007)
原著論文14
Fushimi Y, Miki Y, Okada T
Fractional Anisotropy and Mean Diffusivity; Comparison between 3.0-T and 1.5-T Diffusion Tensor Imaging with Parallel Imaging Using Histogram and ROI Analysis.
NMR in Biomed , 20 (8) , 743-748  (2007)
原著論文15
Ogiue-Ikeda M, Kawato S, and Ueno S
The effect of repetitive transcranial magnetic stimulation on long-term potentiation in rat hippocampus depends on stimulus intensity
Brain Research , 993 (1) , 222-226  (2003)
原著論文16
H. Sato, S. Ge, S. Ueno, K. Iramina
A TMS study of temporal aspect of the posterior parietal cortex involved in visual search
roc. World Congress on Medical Physics and Biomedical Engineering 2006 , 2669-2671  (2006)
原著論文17
S. Ge, A. Matsuoka, S. Ueno, K. Iramina
A TMS effect on visual search task
Proc. of the 28th IEEE EMBS Annual International Conference , 1118-1120  (2006)
原著論文18
伊良皆啓治 松岡彬 葛 盛
経頭蓋磁気刺激を用いた視覚探索課題の時間特性
認知神経科学 , 9 , 241-245  (2007)
原著論文19
Sheng Ge, Shoogo Ueno, Keiji Iramina
A Study of Temporal Aspect of Posterior Parietal Cortex in Visual Search Using Transcranial Magnetic Stimulation,
IEEJ Trans EIS , 127 (10) , 1651-1657  (2007)
原著論文20
Sheng Ge, Shoogo Ueno, Keiji Iramina
Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation Effect on Perceptual Reversals of Ambiguous Figures
Proceedings of 2007 IEEE⁄ICME International Coferece on Complex Medical Engineering , 1425-1428  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
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