タンパク質製剤および非ウイルス性遺伝子導入製剤の分子運動性に基づく安定性試験法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200637011A
報告書区分
総括
研究課題名
タンパク質製剤および非ウイルス性遺伝子導入製剤の分子運動性に基づく安定性試験法の確立に関する研究
課題番号
H16-医薬-一般-011
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 澄江(国立医薬品食品衛生研究所 薬品部第二室)
研究分担者(所属機関)
  • 米谷芳枝(星薬科大学 医薬品化学研究所 創剤構築研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
非ウイルス性遺伝子導入製剤としてのリポソーム製剤、及びタンパク質を対象とした凍結乾燥製剤について、分子レベルの運動性を測定し、それに基づいて製剤の安定性を効率的に予測する方法を確立する。同時に、分子運動性の制御による製剤の安定化法を開発する。
研究方法
ショ糖等を添加剤としたβ-ガラクトシダーゼ凍結乾燥製剤について、凍結乾燥過程におけるタンパク質の構造変化をFT-IRによって、製剤のグローバルな分子運動性およびタンパク質分子のローカルな運動性を、それぞれガラス転移温度(Tg)およびNMR緩和時間を指標として測定した。β-ガラクトシダーゼ内包デキストランゲルについてゲルおよびタンパク質の分子運動性をNMR緩和時間を指標として測定した。凍結乾燥再水和法によって調製したプラスミドDNA封入リポソーム製剤について、物性および遺伝子発現効率の加速温度における安定性を検討した。
結果と考察
β-ガラクトシダーゼ凍結乾燥製剤の保存中の凝集速度は、Tgの最も低いショ糖の添加によって最も遅くなり、グローバルな分子運動性は凝集速度の主要な決定要因ではないことが分かった。凍結乾燥過程において受ける二次構造変化の度合は添加剤間で有意な差がないことがFT-IRによって示された。タンパク質カルボニル炭素のスピン-格子緩和はショ糖によって著しく遅くなり、ローカルな運動性と凝集速度の関連が示された。デキストランによるゲル化はグローバルな運動性およびタンパク質のローカルな運動性を抑制することが明らかになった。ショ糖を添加した遺伝子封入リポソーム製剤は高いDNA活性を保持しており、50℃での保存によっても遺伝子導入効率が変化せず安定であったことから、ローカルな運動性や添加剤とDNA-リポソーム複合体との相互作用が安定性を支配することが示唆された。
結論
β-ガラクトシダーゼ凍結乾燥製剤の保存中の安定性を著しく改善するショ糖の作用は、タンパク質の局所的分子運動性を抑制する作用に起因することが明らかになった。また、ゲル製剤においてもタンパク質の局所的分子運動性を抑制することがゲルに内包したタンパク質の安定化につながる可能性が明らかになった。凍結乾燥再水和法で調製した遺伝子導入製剤は、凍結時にショ糖を添加すると保存中の局所的分子運動性が抑制され、遺伝子導入率が安定に保持されることが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2007-06-22
更新日
-

文献情報

文献番号
200637011B
報告書区分
総合
研究課題名
タンパク質製剤および非ウイルス性遺伝子導入製剤の分子運動性に基づく安定性試験法の確立に関する研究
課題番号
H16-医薬-一般-011
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 澄江(国立医薬品食品衛生研究所 薬品部第二室)
研究分担者(所属機関)
  • 米谷芳枝(星薬科大学 医薬品化学研究所 創剤研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
非ウイルス性遺伝子導入製剤としてのリポソーム製剤、及びタンパク質を対象とした凍結乾燥製剤について、分子レベルの運動性を測定し、それに基づいて製剤の安定性を効率的に予測する方法を確立する。同時に、分子運動性の制御による製剤の安定化法を開発する。
研究方法
インスリンおよびβ-ガラクトシダーゼ凍結乾燥製剤、β-ガラクトシダーゼ内包デキストランゲル製剤および凍結乾燥再水和法によって調製したプラスミドDNA封入リポソーム製剤について、ガラス転移温度、誘電緩和時間およびNMR緩和時間等を指標として分子運動性を測定し、それぞれ、保存によるインスリンの分解、β-ガラクトシダーゼの凝集および遺伝子発現効率の減少の速度と分子運動性の関連を検討した。
結果と考察
インスリン凍結乾燥製剤のグローバルな分子運動性はトレハロースの添加によって高くなるが、インスリンのローカルな運動性は低下し、その結果、保存中のインスリンの分解速度は低下した。β-ガラクトシダーゼ凍結乾燥製剤の保存中の凝集速度も、ショ糖を添加剤として用いてタンパク質分子のローカルな運動性を抑制することによって著しく低下し、保存安定性が改善された。これらの製剤中のタンパク質の安定性は、製剤のグローバルな運動性ではなく、ローカルな運動性に支配されることが分かった。β-ガラクトシダーゼはデキストランゲルやPVAゲルのナノキャビティの中に封じ込め、運動性を低下させることによって、保存時の失活を抑制できることが明らかになった。凍結乾燥再水和法で調製した遺伝子導入製剤は、凍結時にショ糖を添加するとグローバルな運動性は高くなるが、ローカルな運動性が抑制され、保存において遺伝子導入率が安定に保持されることが分かった。ローカルな運動性や添加剤とDNA-リポソーム複合体との相互作用が安定性を支配することが示唆された。
結論
熱的に不安定であるために、低温条件で膨大な時間と資源を費やす実証的な長期保存試験で評価されているタンパク質やDNA製剤の安定性が、分子運動性を指標にする方法によって予測できる可能性が示唆された。さらに、安定性を支配するタンパク質やDNAの分子運動性を抑制する作用のある添加剤を用いることによって、タンパク質製剤および非ウイルス性遺伝子導入製剤の安定性を効率的に改善できることが分かった。

公開日・更新日

公開日
2007-06-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200637011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
従来、タンパク質や非ウィルス性遺伝子導入製剤の保存中の安定性は構造緩和時間を指標とした分子運動性と関連すると考えられてきたが、本研究の成果により、β-緩和時間によって表されるスケールの小さな分子運動性と密接に関連することが明らかになった。
臨床的観点からの成果
従来、非ウィルス性遺伝子導入製剤は保存安定性に劣るため、用時調製されることが多いが、β-緩和時間を抑制する効果の大きいショ糖を添加した製剤においては50℃で50日の保存後において用時調製した製剤と同等の高い遺伝子導入効率を示し、臨床における本製剤の活用が期待される。
ガイドライン等の開発
保存実験によって製剤の保存安定性を実際に確認する現行の安定性試験ガイドラインにかわる省資源型の試験法として、β-緩和時間などの分子運動性パラメータに基づく安定性試験法の可能性が明らかになった。今後試験法の信頼性をさらに高める研究を継続する必要があると考えられる。
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
日本薬学会第126年会において発表された本研究の成果が報道機関向けの講演ハイライトとして公表された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
43件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
35件
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
S. Yoshioka, T. Miyazaki, Y. Aso
Degradation Rate of Lyophilized Insulin, Exhibiting an Apparent Arrhenius Behaviour aroun Glass Transition Temperarure Regardless of SignificantContribution of Molecular Mobility
J. Pharm. Sci. , 95 , 2684-2691  (2006)
原著論文2
S. Yoshioka, T. Miyazaki, Y. Aso
β-Relaxation of insulin molecule in lyophilized formulations conteining trehalose or dextran as a determinant of chemical reactivity
Pharm. Res. , 23 , 961-966  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-