高齢者の運動機能低下評価法と回復運動療法開発研究

文献情報

文献番号
200619046A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の運動機能低下評価法と回復運動療法開発研究
課題番号
H17-長寿-一般-036
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
越智 隆弘(社団法人日本整形外科学会)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 耕三(東京大学医学部附属病院)
  • 戸山 芳昭(慶応義塾大学医学部)
  • 中村 利孝(産業医科大学)
  • 松下 隆(帝京大学)
  • 阪本 桂造(昭和大学病院)
  • 安井 夏生(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
  • 高岸 憲二(群馬大学大学院医学系研究科)
  • 藤野 圭司(藤野整形外科医院)
  • 里宇 明元(慶応義塾大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
24,820,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、高齢者の運動器機能低下を予防し、更に、向上をはかる世界運動、「運動器の10年運動(Bone And Joint  Decade)」の日本委員会として、国内での施策検討目的での研究班構成案である。加齢とともに進行する諸種運動器疾患に伴う機能低下を早期発見し、その進行予防、更に回復の為の諸対策内容を解析研究して、運動器疾患による自立喪失高齢者数を現在の20%減、全原因による自立喪失高齢者数を現在の5%減とする施策案策定が本研究の目的である。

研究方法
研究分担者ごとに専門チームを構成し批判的査読を行うことによりEvidence Levelが高くかつ地域保険事業策定に有用あるいは関連すると考えられる論文を抽出し、要約を作成した。論文の内容をもとにそれぞれの疾患の発症または慢性化予防に必要な早期診断手法・指標について考察した。疾患によってはアンケート調査の結果も検討対象として加えた。
結果と考察
大腿骨頚部骨折に対する多施設前向きコホート研究の結果から、1)受傷後の治療成績を評価するためには、最良な環境下での歩行能力だけでは不十分で、日常生活の中でのADL を評価する必要がある、2)大腿骨近位部骨折のADL維持率を向上させて要介護予防を行うためには、単なる早期離床を目標とするだけでは不十分であり、荷重時期を明確に設定するとともに、杖歩行およびトイレなどへの屋内活動が可能となることを退院時の機能達成目標とする(平行棒内歩行だけでは不十分である)、3)NSTなどによる栄養介入などが必要となると考えられた。
 転倒予防に対する介入研究として、運動器疾患で来院した65歳以上の患者のうち片脚起立時間(開眼)15秒以下であった683名を対象に、バランス訓練・大腿四頭筋訓練を指導し、これを8ヶ月以上継続させた。その結果、最終観察時には転倒が44%、骨折が47%コントロールに対して減少し、片脚起立時間は2-3倍に改善していた。このことから、高齢者に対する持続運動療法は、転倒・骨折の予防として有効であることがわかった。
結論
変形性関節症、腰痛症、転倒し易さ(運動器不安定症)、廃用症候群、頚肩痛、および骨粗髪症はいずれも高齢者の運動器機能低下の主因となる疾患あるいは状態として重要である。本研究において、 EBMの観点からこれらの疾患に対する早期診断指標として必要な事案を抽出し、機能評価のためのフォームを作成した。高齢者に対する機能評価としては、日常生活の中でのADL 評価に加え、精神状態を含めた全身機能の評価が重要である。さらに高齢者に対する持続的な運動療法は機能改善に有効な治療であることが確認された。

公開日・更新日

公開日
2007-06-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200619046B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者の運動機能低下評価法と回復運動療法開発研究
課題番号
H17-長寿-一般-036
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
越智 隆弘(社団法人日本整形外科学会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究での対象疾患は、変形性関節症、腰痛症、廃用症候群、骨粗鬆症、転倒し易さ(運動器不安定症状)、大腿骨頸部骨折、頸肩痛とする。これらの疾患を対象に、運動器機能低下の早期診断評価項目と適切な診断手法などについて調査、検討する。先ず、それぞれの施策案を、医学中央雑誌に掲載されている国内、国外の論文からエビデンスをもって抽出する。
 
研究方法
運動器疾患の基礎研究として、腰痛の原因となる椎間板変性に関する分子生物学的研究、および体幹筋の機能に関する力学的シミュレーションを行った。さらに高齢者の運動機能評価となりうる基礎的手法である3次元動作解析および体幹筋活動と筋血流計測を行った。
 大腿骨頚部骨折については多施設によるコホート研究を行い、大腿骨近位部骨折患者の予後を把握し、いかなる介入を行えば本骨折の機能予後を改善できる可能性があるかを検討した。
結果と考察
大腿骨頚部骨折に対する多施設前向きコホート研究の結果から、1)受傷後の治療成績を評価するためには、最良な環境下での歩行能力だけでは不十分で、日常生活の中でのADL を評価する必要がある、2)大腿骨近位部骨折のADL維持率を向上させて要介護予防を行うためには、単なる早期離床を目標とするだけでは不十分であり、荷重時期を明確に設定するとともに、杖歩行およびトイレなどへの屋内活動が可能となることを退院時の機能達成目標とする(平行棒内歩行だけでは不十分である)、3)NSTなどによる栄養介入などが必要となると考えられた。
 転倒予防に対する介入研究として、運動器疾患で来院した65歳以上の患者のうち片脚起立時間(開眼)15秒以下であった683名を対象に、バランス訓練・大腿四頭筋訓練を指導し、これを8ヶ月以上継続させた。その結果、最終観察時には転倒が44%、骨折が47%コントロールに対して減少し、片脚起立時間は2-3倍に改善していた。このことから、高齢者に対する持続運動療法は、転倒・骨折の予防として有効であることがわかった。
結論
多施設におけるコホート研究から、高齢者に対する機能評価として日常生活の中でのADL 評価に加え、精神状態を含めた全身機能の評価が重要であることが明らかとなった。さらに地域における臨床介入研究により、高齢者に対する持続的な運動療法は機能改善に有効な治療であることが確認された。

公開日・更新日

公開日
2007-06-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200619046C

成果

専門的・学術的観点からの成果
高齢者の運動器機能低下に関連する基礎的研究として、椎間板代謝に関する分子生物学的検討、日常生活動作の解析、体幹筋の血流計測などを行った。その結果、TIMP3が椎間板代謝に重要な因子であること、下肢に変形を有する患者では関節の不安定性や筋モーメントの低下が著明であること、負荷の大きい前屈などの動作は体幹筋の鬱血を生じる可能性があることなどを明らかにした。これらはいずれも運動器科学の分野では新知見であり、学術的意義が高いと考えられる。
臨床的観点からの成果
高齢者の運動器機能低下の主因となる疾患として変形性関節症、腰痛症、転倒し易さ(運動器不安定症)、廃用症候群、頚肩痛、大腿骨頚部骨折および骨粗髪症をとりあげ、EBMの観点からこれらの疾患に対する早期診断指標、機能評価のためのアセスメントフォームを作成した。多施設におけるコホート研究から、高齢者に対する機能評価として精神状態を含めた全身機能の評価が重要であることを明らかにした。さらに地域における臨床介入研究により、高齢者に対する持続的な運動療法は機能改善に有効な治療であることを確認した。
ガイドライン等の開発
本研究において、 EBMの観点から運動器機能低下の主因となる疾患に対する早期診断指標として必要な事案を抽出した。上記のように、高齢者の運動器機能低下の原因には環境因子に加え全身の身体機能や障害が大きく関与していること、さらに高齢者に対する持続的な運動療法は機能改善に有効な治療であることが確認された。以上の点を踏まえ、高齢者運動機能低下の予防および回復に必要な対策を提案し、地方保険事業案およびガイドライン作成の基礎を構築した。
その他行政的観点からの成果
本研究では、高齢者の運動器機能低下を予防し、更に、向上をはかる世界運動、「運動器の10年運動(Bone And Joint Decade)」の日本委員会として、国内での施策検討目的での研究班構成を行った。研究分担者ごとに専門チームを構成し、EBMの観点から運動器機能低下の予防と治療に必要な事案を提示した。本研究班および日本整形外科学会が中心となり、今後地域における臨床介入を実施・指導していくことで、運動器疾患による自立喪失高齢者数を現在の20%減とすることが期待される。
その他のインパクト
身体活動と運動は「健康日本21」の1項目をなし、医療行政においても高齢者の運動器機能評価は重要な事案である。本研究班において作成したアセスメントフォームや、実施した臨床介入試験結果についてはまだ十分に啓蒙されていない。特に高齢者に対する持続運動療法の効果については、多施設による前向き研究により十分なエビデンスが得られた。今後地方保険事業案またはガイドライン作成を行い、広く一般的周知を図る必要がある。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
44件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kita K, Hujino K, Nasu T, et al.
A simple protocol for preventing falls and fractures in elderly individuals with musculoskeletal disease.
Osteoporosis International , 18 (5) , 611-619  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-