少子高齢社会の社会経済的格差に関する国際比較研究

文献情報

文献番号
200601008A
報告書区分
総括
研究課題名
少子高齢社会の社会経済的格差に関する国際比較研究
課題番号
H16-政策-一般-020
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
白波瀬 佐和子(東京大学大学院人文社会系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 松浦克己(広島大学大学院社会科学研究科)
  • 玄田有史(東京大学社会科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
4,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、少子高齢化に代表されるマクロな人口変動に着目し、社会経済的格差について時系列的かつ、国際比較の観点から検討することにある。本年度検討したテーマは、不平等意識、世帯構造、雇用情勢、健康問題、教育問題、若年の無業問題、ジニ係数変化の程度、高齢一人暮らし、子どものいる世帯の経済格差、職業と経済格差、経済格差の要因分解、等であった。
研究方法
 本研究で用いた研究方法は、大規模実証データを用いた計量分析手法である。分析したデータは、「国民生活基礎調査」「ルクセンブルグ所得データ:LIS」「国際社会調査データ(不平等意識):IPSS」であった。
結果と考察
 日本の経済格差の位置づけは23カ国中18位と、格差が高い方に位置するが、アメリカやイギリスほどではない。不平等と関連する階層帰属意識については、日本の若年層における相対的に低い結果が目立った。若年層の無業については、単なる労働市場の問題のみならず無業の子の親もまた無業であるという、親子関係も無視できないことが明らかになった。高齢女性の一人暮らしについては、近年高齢層の経済格差が改善されたといっても恵まれない状況が確認できた。高齢女性の一人くらしは同じ高齢の一人くらしでも男性に比べて経済的ウェルビーイングは低く、その状況は欧米、台湾も共通していた。近年日本で未就学児のいる世帯での経済格差が開き、貧困率が上昇している。また、母親の就労に伴う家計への寄与度は日本が低いことも確認できた。
結論
 少子高齢化という産業諸国に共通する人口変動の中、経済格差の状況は日本だけが特異であったわけではなかった。高齢期に一人で生活することや一人で子どもを育てる状況に、高い経済リスクが伴うことは欧米とも共通していた。ただ、老後の所得保障や子育てを家族やジェンダーの視点からどう制度設計しているかによって、ライフステージごとの経済格差の程度が違っていた。世帯主の年齢が上がるごとに経済格差が上昇するパターンは日本と台湾にのみ認められた。ひとの一生を長い時間軸でとらえられるような、複線型の生活保障制度が一層求められている。

公開日・更新日

公開日
2007-04-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-10-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200601008B
報告書区分
総合
研究課題名
少子高齢社会の社会経済的格差に関する国際比較研究
課題番号
H16-政策-一般-020
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
白波瀬 佐和子(東京大学大学院人文社会系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 松浦克己(広島大学大学院社会科学研究科)
  • 玄田有史(東京大学社会科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、所得に代表される経済格差を教育、世帯・家族、健康といった社会的格差とも関連させて実証データを用いて分析、検討することにある。分析視角としては、時系列比較と国際比較に着目する。少子高齢化という欧米で共通する人口変動の中での、社会経済格差について議論する。
研究方法
 本研究は主として、実証データを用いた計量分析手法を用いる。本研究で分析したデータは、「国民生活基礎調査」(1986年、1995年、1998年、2001年)、ルクセンブルグ所得(LIS)データ、国際社会調査:不平等観調査データ(International Program of Social Survey 1999)である。特に、LISデータについては、1980年代半ば、1990年代半ば、2000年の3時点比較を実施した。さらに、健康については「健康と生活に関する調査」(日本大学、1999年)、資産については「家計と貯蓄に関する調査」(郵政総合研究所、1996~2002年)を活用した。
結果と考察
 少子高齢化とともに世帯構造が変化し、それは経済格差を伴って進行した。特に、高齢一人くらし、一人親世帯の貧困率は高い。若年無業者数が上昇している中、彼らの中で健康上の問題を抱えるものが少なくない点が指摘された。これは、若年の労働問題が単なる雇用対策をこえて福祉対策の対象としても展開されるべきことが明らかになった。これまで義務教育は標準化されたカリキュラムのもと機会の平等が確保されてきたと見なされてきた。しかし、日本の教育制度は不平等を内包し、それは巧みに隠蔽された形で制度に組み込まれていた。健康については、疾病率や健康意識について欧米ほど明らかは社会的階層差が見いだせなかった。しかしその一方で、身体のだるさといった見えにくい健康状態に明らかな階層差が認められた。資産の継承は、スタートラインの明らかな違いを生み、人々に閉塞感をもたらす。その一方で少子高齢化が進む中、人々は自己責任論のみでリスクに対応しようとしているわけではなかった。
結論
 本分析結果として大きく2点をあげる。近年格差論が盛んに議論されているが、我が国における格差は近年急に登場したわけではないし、その程度もアメリカやイギリスほどには至っていない。しかし、高齢者のいる世帯や子どものいる世帯で高い貧困率が認められ、この点は欧米とも共通していた。第2に、少子高齢化が進み、経済格差が拡大する中、雇用、教育、健康、家族、資産といった側面一つ一つの中身は、巷騒がれているほど単純ではないことが確認された。

公開日・更新日

公開日
2007-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200601008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、近年マスコミを中心に活発に議論されている格差拡大論に対し、実証データを用いて社会科学的手法をもって検証した。その結果、1980年代半ばから2000年にかけて所得格差は拡大していたが、その変化は一般に騒がれるほどには大きくないことが明らかにされた。また、世帯、教育、雇用、健康、社会保障制度に着目して格差の中身を検討したことも本研究の成果である。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
 少子高齢化が進む中、格差の問題は一層重要になる。特に、高齢一人暮らしが増え、離婚率の上昇に伴う一人親世帯の増加を、社会の中でどう捉えていくかは、実態をもとに新たな政策を展開していかなければならない。本研究は、今後の厚生行政にとって貴重な基礎資料である。
その他のインパクト
 『日本経済新聞』の「やさしい経済学」8回シリーズに「再考・日本の格差」を連載(2006年12月8日から12月20日朝刊)。『読売新聞』「論点」に「少子化の背後に「格差」」が2007年2月21日に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
白波瀬佐和子
高齢期をひとりで暮らすということ
季刊社会保障研究 , 41 (2) , 111-121  (2005)
原著論文2
白波瀬佐和子
少子高齢化にひそむ格差
白波瀬佐和子編著『変化する社会の不平等』 , 1-15  (2006)
原著論文3
佐藤俊樹
爆発する不平等感
白波瀬佐和子編著『変化する社会の不平等』 , 17-46  (2006)
原著論文4
白波瀬佐和子
不平等化の中身
白波瀬佐和子編著『変化する社会の不平等』 , 47-78  (2006)
原著論文5
玄田有史
中年齢無業者から見た格差
白波瀬佐和子編著『変化する社会の不平等』 , 79-104  (2006)
原著論文6
苅谷剛彦
少子高齢化時代における教育格差の将来像
白波瀬佐和子編著『変化する社会の不平等』 , 105-135  (2006)
原著論文7
石田浩
健康と格差
白波瀬佐和子編著『変化する社会の不平等』 , 137-163  (2006)
原著論文8
松浦克己
遺産、年金、出産・子育てが生む格差
白波瀬佐和子編著『変化する社会の不平等』 , 165-195  (2006)
原著論文9
宮里尚三
社会保障の個人勘定化がもたらすもの
白波瀬佐和子編著『変化する社会の不平等』 , 197-218  (2006)
原著論文10
白波瀬佐和子
変化する社会の不平等
白波瀬佐和子編著『変化する社会の不平等』 , 219-231  (2006)
原著論文11
白波瀬佐和子
シニア層の生活実態:多様な生き方と経済格差
年金と経済 , 25 (2) , 4-10  (2006)
原著論文12
Sawako Shirahase
Trends in Income Inequality: A Sociological Perspective
Japan Labor Review , 3 (4) , 76-94  (2006)
原著論文13
Sawako Shirahase
Widowhood Later in Life in Japan
Luxembourg Income Study Working Paper no.444 , 1-27  (2006)
原著論文14
Sawako Shirahase
Women's Economic Status and Fertility: Japan in Cross-national Perspective
The PoliticalEconomy of Japan's Low Fertility , 37-59  (2007)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-