統合失調症の基本障害に基づいた診断装置の実用化

文献情報

文献番号
200500778A
報告書区分
総括
研究課題名
統合失調症の基本障害に基づいた診断装置の実用化
課題番号
H16-こころ-003
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
小島 卓也(日本大学医学部精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 片山 征爾(鳥取大学医学部統合内科医学講座精神行動医学分野)
  • 倉知 正佳(富山大学医学部精神医学教室)
  • 松島 英介(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 医学部心療ターミナル医学)
  • 前田久雄(久留米大学医学部神経精神医学講座 久留米大学高次脳疾患研究所)
  • 大久保 善朗(日本医科大学精神医学教室 精神医学・臨床生理学)
  • 林 拓二(京都大学大学院医学研究科心理医学)
  • 平安 良雄(横浜市立大学大学院医学研究科 生体システム医科学専攻 神経システム医科学分野 精神医学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高い判別率をもち、中枢神経回路網の特有な形態的・機能的異常と相関し、臨床遺伝学的および分子遺伝学的基盤を備えた心理・生物学的マーカーを用いた診断装置を作成する。そして、大量のデータベースを備え、操作が簡便な普及型装置を完成させる。これによって中核的な統合失調症を客観的自動的に診断し、中間表現型として分子遺伝学的研究に役立て、均質な対象の抽出という面で種々の生物学的研究の発展に貢献し、ハイリスクの未発症の統合失調症を抽出して発症予防のための早期介入に役立てる。
研究方法
1.診断装置のデータベースの作成
診断装置の妥当性の検討とデータベースの作成:2年間の全施設の統合失調症、気分障害、健常者各300名、その他の疾患60名の装置による診断結果、DSM-IV診断、臨床情報を整理し、データベースを作成する。
2.探索眼球運動と基底症状の関係:
 ボン大学基底症状評価尺度52項目短縮版を用いて、患者の症状評価を行い、探索眼球運動の結果との関連を調べる。
3.発症予防に関する研究:統合失調症の前駆症状と思われる症状を持つ児童青年期患者の眼球運動を測定し、発症予測について検討する。
結果と考察
診断装置の結果は、統合失調症262名中、71.8%が統合失調症と判定され、非統合失調症では気分障害110名中、71.8%、不安障害17名中、94.1%、健常対照者265名中、80.4%が非統合失調症と判定された。感受性71.8%、特異性(平均)78.6%であった。判別された統合失調症、非統合失調症の2群間ではBPRS総得点、陽性症状、陰性症状ともに統合失調症群が非統合失調症群よりも高値で、中核的統合失調症が判定されていた。基底症状の研究では反応的探索スコアが対人反応を反映することが実証された。
結論
約70%の感受性、約80%の特異性で診断できる統合失調症診断補助装置を開発した。統合失調症と臨床診断された患者のうち、本装置により判定された統合失調症は非統合失調症と判定されたものよりも、BPRS総得点、陽性症状、陰性症状とも有意に高かった。これらの症状の背景にある基底症状を調べると、診断装置の中核をなす反応的探索スコアが「対人場面での情動反応の低下」などと関連し、立津のいう対人反応の障害と関連するものと考えられた。本装置は発症予防に関する研究、統合失調症の予後推測などにも利用可能と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200500778B
報告書区分
総合
研究課題名
統合失調症の基本障害に基づいた診断装置の実用化
課題番号
H16-こころ-003
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
小島 卓也(日本大学医学部精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 片山 征爾(鳥取大学医学部統合内科医学講座精神行動医学分野)
  • 倉知 正佳(富山大学医学部精神医学教室)
  • 松島 英介(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医学部 心療ターミナル医学)
  • 前田 久雄(久留米大学医学部神経精神医学講座 久留米大学 高次脳疾患研究所)
  • 大久保 善朗(日本医科大学精神医学教室 精神医学・臨床生理学)
  • 林 拓二(京都大学大学院医学研究科 心理医学)
  • 平安 良雄(横浜市立大学大学院医学研究科 生体システム医科学専攻 神経システム医科学分野 精神医学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
統合失調症の異種性の問題を解決するために、①高い判別率を有し、②臨床および精神病理学的成果を反映し、③中枢神経回路網の特有な形態的・機能的異常と相関し、④臨床遺伝学的および分子遺伝学的基盤を備えた心理・生物学的マーカーである探索眼球運動を用いた統合失調症診断装置を開発する。そして、データベースを備えた操作の簡便な普及型装置を完成させる。これによって中核的な統合失調症を客観的・自動的に診断し、均質な統合失調症を抽出し、分子遺伝学的研究の発展に寄与し、予防法を提供することを目的とする。
研究方法
1.診断装置およびデータベースの作成(平成16~17年)
 普及型診断装置を作成し、全施設の統合失調症、気分障害、健常者各300名について、診断装置に よる診断結果、DSM-IV診断、臨床情報の関係を整理して妥当性を検討し、データベースを作成する。
2.探索眼球運動と基底症状の関係 17年:
 ボン大学基底症状評価尺度52項目短縮版を用いて、患者の症状評価を行い、探索眼球運動との関 連を調べる。
3.診断装置の応用に関する研究 17年:児童青年期の患者の眼球運動を測定し、発症予測につ いて検討する。
4.探索眼球運動の形態学的、機能的、分子遺伝学的基盤16年
 統合失調症患者、対照健常者のMRIおよびfMRIを記録し、関連研究を行う。
結果と考察
普及型の診断装置を完成させ(16年)、診断装置を用いて統合失調症262名、気分障害110名、不安障害17名、健常対照者265名について検査を行い、感受性71.8% 特異性78.6%であった。本装置で判定された統合失調症群が非統合失調症群よりもBPRS総得点、陽性症状、陰性症状で高値を示し、中核的統合失調症を示していた(17年)。統合失調症患者にボン大学基底症状評価尺度 の症状評価を行い、反応的探索スコア(RSS)と対人反応の障害が関連していた(17年)。RSS類似課題施行中のfMRIを記録し、統合失調症では視床は賦活されず回路網の形成不全を認めた。RSSは形態学的に右頭頂眼野、右前頭眼野、右下前頭回の体積と相関していた(16年)。
結論
本装置は中核的統合失調症を診断する補助装置として有用であり実用化可能と判断された。今後発症予防、分子遺伝学的研究の中間表現型として利用されると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500778C

成果

専門的・学術的観点からの成果
統合失調症の診断は面接によって把握された症状の組み合わせで行われ、この症状があれば統合失調症という特定の症状はない。成因的に異種な統合失調症が混在すると考えられる。遺伝学的に70-80%は遺伝的素因が関与するといわれており、臨床的にはプレコックス感、対人反応などの基本症状が指摘されてきた。そこで遺伝的素因を反映し、一定の神経回路網の障害、臨床の基本症状を反映するマーカーで客観的に中核的統合失調症(臨床診断された統合失調症の約70%)を抽出できるという意味は極めて大きい。世界で最初の成果である。
臨床的観点からの成果
探索眼球運動の中でも反応的探索スコアは対人反応を反映し、自動的な自己監視機能を表す。日常の臨床の中での印象を客観的に抽出しているといえる。しかもそれが分子遺伝学、中枢回路障害などの基礎的な障害と結びついているということである。今後中核的統合失調症の臨床診断の捕助的な役割を果たすものと考えられ、診断捕助的な医療機器として実用化する段階に来ている。
ガイドライン等の開発
現在統合失調症の診断のための客観的な指標は見つかっていない。これが臨床に応用され実用化されれば、現在の国際診断基準に客観的な指標を導入するという、これまで望まれながらも出来なかった新しい方法が採用される可能性がでてくる。当然ガイドラインなどの変更が必要になる。
その他行政的観点からの成果
統合失調症の発症予防に関する研究に寄与できる。すなわち児童青年期において一過性に精神病状態を呈したもの、1度の親族に統合失調症患者がいて、神経症症状、あるいは社会機能が低下してきた場合など、統合失調症と診断できないが本装置で統合失調症と判定され得る。すなわち統合失調症ハイリスクの人を早期に抽出し発症しないように介入することが出来る。オーストラリアでは始まっているがこの種の研究に本装置を導入し利用して統合失調症の発症率を低下させることが可能である。発症予防は今後の施策として重要である。
その他のインパクト
分子遺伝学的な研究において、臨床診断だけでなくて客観的な指標を用いて遺伝解析することが推奨されている。すなわち中間表現型を用いることである。その中でも探索眼球運動は判別率が高く、心理学的生物学的基盤が明らかになっており、最も優れた指標といえ遺伝学的研究の進歩に貢献できるといえよう。
また、日経産業新聞2006年3月22日号に「統合失調症の判定装置‐日大の開発‐精度7割、医師の診断の補助」として取り上げられた。統合失調症の客観的診断方法について一般の人々に知ってもらった。

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
28件
その他論文(英文等)
17件
学会発表(国内学会)
110件
学会発表(国際学会等)
47件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
特願:2003-97608 名称:統合失調症診断装置 審査請求書提出日:2006年3月23日 
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
日経産業新聞2006年3月22日号に「統合失調症の判定装置‐日大の開発‐精度7割、医師の診断の補助」として取り上げられた。統合失調症の客観的診断方法について一般の人々に知ってもらった。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
小島卓也 他
探索眼球運動の神経機構―反応的探索スコア類似課題遂行時の脳賦活部位の検討―
日大医学雑誌 , 63 , 352-359  (2004)
原著論文2
Kurachi M. et al.
Structural brain differences in patients with schizophrenia and schizotypal disorder demonstrated by voxel-based morphometry.
European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience , 254 , 406-414  (2004)
原著論文3
Kurachi M. et al.
Volume reduction of the right anterior limb of the internal capsule in patients with schizotypal disorder.
Psychiatry Research Neuroimaging , 130 , 213-225  (2004)
原著論文4
Okubo Y. et al.
Brain activation associated with evaluative processes of guilt and embarrassment: an fMRI study
NeuroImage , 23 , 967-974  (2004)
原著論文5
Kurachi M. et al.
Volumetric analysis of sulci/gyri-defined in vivo frontal lobe regions in schizophrenia: Precentral gyrus, cingulate gyrus, and prefrontal region.
Psychiatry Research Neuroimaging , 139 , 127-139  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-