座作業における腰痛予防に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301172A
報告書区分
総括
研究課題名
座作業における腰痛予防に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
白井 康正(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大成清一郎(大成整形外科)
  • 伊藤博元(日本医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
座作業における腰痛の原因は長時間にわたり同一の姿勢を拘束される場合、極端に腰部を屈曲する場合、腰部に前後屈・回旋運動負荷がかかる場合、精神的ストレスなどが考えられるが、実際に腰痛の発現機序に関与する危険因子を同定するには至っていない。このような背景において信頼性のある大規模な調査により座作業の中でもどのような要因が腰痛の発現に関連するかを検討することを目的として当研究を行った。
研究方法
対象は座位を中心として就労する事務作業者とした。また、労働者との比較のため座位において授業を受け拘束時間の長い中学生と高校生で腰痛の頻度などを調査した。腰痛に関するアンケートを作成し、対象に回答を求めた。質問ごとに単純集計を行い、さらに腰痛のあるものとないものとの間に回答の傾向に差があるかを解析することとした。
結果と考察
1.座作業者の回答の集計
有効な回答の総数は座位労働者では492通で回収率は90.4%であった。
(1) 回答者の性別や年齢構成
座位労働者の回答者平均年齢は39歳であった。男女の構成は男276名、女201名だった。
(2)通勤時間や勤務時間など
通勤時間は30分以下としたものが多かった。通勤が体に負担になっていると回答したものが20.3%、腰痛の原因になると回答したものが19.5%であった。
(3)職場の椅子や机などの環境について
机の高さが高過ぎると感じるものが4.9%、ちょうど良いとするものが86.2%、低すぎるとするものが7.5%であった。椅子の高さが高過ぎると感じるものが2.4%、ちょうど良いとするものが87.8%、低すぎるとするものが8.5%であった。長時間の座位での作業が腰痛の原因になると考えているものが90%であった。
(4)健康状態について
疲れやすいかという質問では疲れやすいとしたものが51.4%あり、気分が晴れないというものが32.5%だった。体で痛いところや具合の悪いところを聞いた質問では、1.8箇所の部位があると回答し、特に4ヵ所以上の不調を訴えたものも12.6%あった。また、そのような症状が半年以上持続していると答えたものが22.8%みられた。腰痛以外に何らかの病気で通院中であると答えたものが32.5%みられた。
(5)職場での精神的な負担
職場に休憩場所がある回答したものが30.1%だった。職員との間での人間関係にストレスを感じるものが44.5%だった。対外的な人間関係にストレスを感じるとしたものが54.7%だった。
(6)日常生活
30.6%があまり眠れないと答えた。自宅であまり休めないと答えたものが80.8%だった。
(7)腰痛に関連する質問
腰痛に関連する既往があると回答したものは13.4%だった。就職する前に腰痛があったかの質問では18.1%で腰痛があったと答えた。現在の職場に勤務後腰痛のあったものは55.1%だった。現在の職場に勤務後腰痛のため仕事を休んだことがあるかの質問では11.0%があると回答した。調査直前の一週間で腰痛があったものは31.9%だった。腰痛を来す既往歴のないもののうちで最近一週間以内に腰痛があったもの124名にその程度をvisual analogue scaleを用いて聞いた質問では平均4.1(標準偏差2.3)点であった
(8)腰痛による日常生活障害
最近1週間以内に腰痛のあったものに対し、ローランドとモリスのスコアで日常生活動作の障害を24項目にについて聞いた質問では平均2.5項目で障害があると答えた。
2.中学生、高校生の集計
有効な回答の総数は中学生高校生では742通で回収率は96.9%であった。
(1) 回答者の性別や学年構成
中学2年生235名、高校2年生471名だった。
(2) 椅子や机の高さなど
学校の机の高さがちょうど良いとするものが85.9%、低すぎるとするものが13.4%であった。椅子の高さがちょうど良いとするものが88.3%、低すぎるとするものが9.6%であった。
(3)健康状態について
疲れやすいとしたものが43.1%あり、気分が晴れないというものが35.8%だった。よく眠れないというものが20.1%だった。体で痛いところや具合の悪いところを聞いた質問では、477名で痛いところがあると回答し、特に4ヵ所以上の不調を訴えたものも58名(7.8%)あった。症状の持続期間を聞いた質問では6ヶ月以上持続していると答えたものも11.4%であった。
(4)日常生活
自宅であまり休めないと答えたものが20.8%だった。家族に腰痛のあるものが42.6%あった。
(5)腰痛に関連する質問
腰痛性疾患の既往があると回答したものはあわせて3.9%だった。小学生の頃に腰痛があったかの質問では7.5%で腰痛があったと答えた。今の学校に入学後腰痛のあったものは40.4%だった。今の学校に入学後腰痛の治療を受けたことがあるものは11.7%だった。今の学校に入学後腰痛のため学校を休んだことがあるものは1.2%だった。調査直前の一週間で腰痛があったものは19.1%だった。最近一週間以内に腰痛があったものに対しその腰痛の程度をVASで聞いた質問では平均5.1点であった。
(6)腰痛による日常生活障害
最近1週間以内に腰痛のあったものに対し、ローランドとモリスのスコアで日常生活動作の障害を24項目にについて聞いた質問では平均2.9項目で障害があると答えた。
(7)個人のプロフィール
回答者の体格は中学生が体重は平均男性54.8kg、女性49.7kgだった。高校生の体重は平均男性64kg、女性51kgだった。
腰痛を来す因子の解析
1.座業者の解析
(1)職場の椅子や机などの環境
腰痛の有るものと無いものとの間で有意な差のあった項目は、職場の机の高さが低いと感じているもの、椅子の高さが低すぎると感じるものであった。
(2)健康状態について
腰痛のある群と無い群とで有意な差のあった質問事項は朝気持ちよくおきられるか、疲れやすいか、気分が晴れないことが多いか、の項目であった。体で痛いところを聞いた質問では腰痛の無いものでは平均1.38ヵ所を痛いと回答したのに対し、腰痛のあるものでは平均2.42個所が痛いと回答し、その数は有意に腰痛のある群で多かった。
(3)職場での精神的な負担
腰痛のある群では職場にゆっくり休憩する場所が無いもの、職場での人間関係にストレスを感じているもの、対外的な人間関係にストレスを感じているものなどで腰痛の有る群とない群とで有意差を認めた。
(4)日常生活
睡眠時間、よく眠れない、家でゆっくり休めない、自宅で家事をするかの項目で腰痛有り群となし群との間で有意な差を認めた。
(5)腰痛に関連する質問
就職する前に腰痛があったもの、今の職場に勤務する前に腰痛のあったもの、今の職場に着いてから腰痛のあったもので有意に腰痛の頻度が高かった。
2.中学生・高校生での解析
(1) 椅子や机の高さなど
学校の机の高さが低すぎると感じているもの、 学校の椅子の高さがまたは低すぎると感じているもの、教室での姿勢が悪いと感じているもの、頬杖をよくつくものが腰痛あり群で有意に多かった。
(2)健康状態について
疲れやすい、気分が晴れない、人間関係でいやな気持ちになることがあると答えたものが腰痛あり群で多かった。体で痛いところを聞いた質問では腰痛の無いものでは平均1.07ヵ所を痛いと回答したのに対し、腰痛のあるものでは平均2.30個所が痛いと回答し、その数は有意に腰痛のある群で多かった。
(3)日常生活
自宅であまり休めない、よく眠れない、自宅で家事をするか、家族に腰痛の人がいる、テレビを見たりゲームをしたりする時間が短いなどの項目で腰痛のある群と無い群とで有意差を認めた。
(4)腰痛に関連する質問
腰痛に関連する質問項目のうち、調査前1週間以内に腰痛のあった群と無かった群とで有意な差を認めたものは、小学生の頃に腰痛があった、今の学校に入学後腰痛のあったものなどであった。
(5)個人のプロフィール
腰痛のある群の平均体重は、ない群に比し多かった。
今回の調査で座作業者と中学生・高校生とで腰痛を来す因子には共通するものが多かった。机の高さ、椅子の高さがそれぞれ不適切な場合には腰痛のある頻度が増しており、職場学校ともに体格に合わせたものを支給することが妥当と思われる。腰痛のあるものでは疲れやすい、朝気持ちよく起きられない、腰痛の他に体の不調を訴えるものが多いことより、運動器以外の側面まで含めた健康管理も重要であろう。さらに入学前、または就職前に腰痛があったとするものも多いことより、就職前後に検診や腰痛に関する啓蒙教育の機会を設けることが望ましい。また、気分がはれないことが多いか、という設問や職場や学校での人間関係でストレスを感じているかという設問などで腰痛のあるものとないものとの間で差を認めたことより、必要な際には心理的なカウンセリングを行えるように準備を行う必要がある。座作業者の業務を内容別に検討すると、コンピュータの操作時間の長いもので腰痛の頻度が多かった。コンピュータの操作が腰痛を来す機序は明らかでないが、今後その機序の解明と対策が必要になるものと思われた
結論
座作業者の腰痛の発生に関与する要因として、机や椅子の高さなど作業場の環境因子、腰痛の他に随伴する症状や疾患の因子、入職前の腰痛の既往、人間関係のストレスなど心理的な因子の存在が示唆された。座作業者の職業性腰痛の対策にはそれぞれの因子に応じた対策が必要と考えた。

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