産業保健活動の効果指標及び健康影響指標に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301170A
報告書区分
総括
研究課題名
産業保健活動の効果指標及び健康影響指標に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
矢野 栄二(帝京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 川久保清(共立女子大学)
  • 山田誠二(松下産業衛生健康センター)
  • 栗原伸公(埼玉医科大学)
  • 錦谷まりこ(帝京大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来わが国では、理念と制度に基づき行われる諸施策や活動を客観的な指標で評価し、その成果と問題点を明らかにするということが十分でないといわれてきた。産業保健活動についても、労働安全衛生法の下、諸制度・諸活動が充実して、労働者の健康の保護増進に向けて成果を挙げてきていると考えられるが、それを具体的に示すということは少なかった。そこで産業保健活動における諸組織、事業主、労働者、および産業保健専門職の努力の成果を明らかにするべく、産業保健活動の実施状況を調査し、各事業場での産業保健活動の効率性・有効性を具体的に評価するための効果指標を探索する。そしてそれらをフィードバックして、更なる産業保健活動の発展につなげる手法を検討し、実践するための有用で使い易い健康影響指標を確立することを目的としてこの研究は計画された。計画初年度には文献調査等により、評価の領域や指標が整理され、わが国で用いられる評価指標の素案が検討された。これを現場での検証や外部基準・案との照合により充実し発展させることが本年度の課題である。
研究方法
現場での経験と内外の文献や他領域での試みも参考にしつつ、産業保健活動の課題と段階を分類・整理した。そして評価指標を、制度等の「構造」の評価、活動の質と量および機能性等「過程」の評価、「結果」としての健康影響や作業環境や作業面への効果の評価という包括的な視点により検討し評価指標の素案を得た。それらには産業保健の諸活動を網羅し、段階を与えた包括的な体系化、事業所の健康支援環境の評価指標、産業保健諸活動の顧客満足度を含む過程の評価、および健診の際得られる諸情報の健康影響指標としての評価基準がある。本年度はこれらの内容を発展、精緻化させるとともに、特に罰則規定を中心にした法体系を用いた領域の整理と位置づけの検証、実際の事業所における指標の試行による検証、関連学会による指標や要項との照合による検証、および過重労働者における影響評価指標としての妥当性の検証を行い、実際に現場で用いることのできる産業保健活動の効果指標、健康影響指標の検討を行う。
結果と考察
産業保健活動を『作業環境管理』、『作業管理』、『健康管理』、『労働衛生教育』、『総括管理』の5大課題に分類し、各々の課題を「法的項目の遵守」、「安全衛生配慮義務」、「リスクアセスメント」の3段階に分け、得られた総計15のマトリックスそれぞれの要素について、産業保健活動の評価指標となる項目を抽出した。特に本年度は「法的項目の遵守」の段階について、労働安全衛生法のうち、直接事業者と担当者に関係の深い4つの罰則条文に努力目標の条文を加え5つの基準として、各業務を分類した。その結果、罰則規定の強い第116、117条の基準1、2は、危険性のある機械や有害性物質の管理である「管理」状態であり、事業者の配慮義務違反を罰する第119条、第120条の基準3、4は「予防」段階であり、罰則規定のない努力義務である基準5は、「発展」段階であると分類できた。これらの3段階に含まれる産業保健活動項目を評価対象として取り上げることの妥当性が示唆された。事業場の健康づくり支援環境評価指標については「Checklist of Health Promotion Environment at Worksites 」を翻訳して前年度作成した調査票を用いて、今年度は栄養・食生活、身体活動、喫煙の3つに関連した支援環境項目を、複数の外部評価者が3事業所において評価を試行した。その結果、掲示板等の情報環境では、評価者間の不一致が多かったが、階段、運動室、社員食堂、飲食品自動販売機、
たばこ自動販売機、駐車場や敷地などの物理的環境については、観察者間の一致度が高く、評価しやすい傾向があった。昨年度は病院機能評価等、医療の質評価の為の指標分類を応用して、産業保健活動の指標と、それに対応する評価項目の提案を行ったが、これを近年わが国の関連学会で提案された産業保健活動に関する効果指標と比較検討した。その結果、労働者、雇用者等の満足度を指標に取り入れるなど、産業保健活動を広い角度から満遍なく評価する効果指標を提示することができた。健康影響指標に関しては、情報産業事業所の40歳未満の若年労働者について健康診断の際に、法定検査項目、自覚症状、生活習慣に関する質問紙調査に加え、職に対する意識と満足度や心理面での質問票を含む調査を行い、過重労働との関連性を解析した。その結果、昨年度と同様、従来の健康診断項目では、過重労働の健康影響はほとんど評価出来ないことが示された。一方、過重労働者の生活習慣では睡眠時間が有意に減少し、仕事のストレインが高いことが示され、今日的な労働状況の中での健康影響指標探索の方向性についての示唆が得られた。
結論
以上の研究で、従来の産業保健活動を根拠に基づいて包括的に整理することができ、また海外の試みや他分野の活動の成果を適応した評価指標が呈示されるとともに、新しい産業状況へ十分対応する上での現状の問題点が示された。これにより今後、新しい産業保健活動評価指標の更なる検討と、それを用いた現場での実践の基礎が提供されたと考える。

公開日・更新日

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