電子カルテの相互運用に向けたHL7メッセージの開発および管理・流通手法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301073A
報告書区分
総括
研究課題名
電子カルテの相互運用に向けたHL7メッセージの開発および管理・流通手法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
坂本 憲広(神戸大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 木村通男(浜松医科大学医学部附属病院)
  • 山本隆一(東京大学大学院)
  • 小塚和人(昭和大学横浜市北部病院)
  • 美代賢吾(東京大学医学部附属病院)
  • 星本弘之(神戸大学医学部附属病院)
  • 増田剛(財団法人先端医療振興財団)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、多くの医療施設で電子カルテシステムの実運用が開始されようとしている。これらの電子カルテシステムの多くは、独自のデータフォーマットあるいはコード体系を用いており、異なるシステム間での相互運用性はほとんどない。これは、電子カルテ情報を交換するための標準的な記述形式が整備されていないからである。この問題を解決するために、厚生労働省「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」の「電子的情報交換のための用語・コード・様式の標準化」では、情報交換規約として「HL7 ver2.4以降およびver3.0(XML形式)」を用いることを推奨している。HL7は米国ANSIの規格であり、ISOでも採用の方向にあり、かつ日本を含め世界各国で最も広く用いられている医療情報交換規約である。しかしながら、HL7においても、国内の電子カルテシステムの情報交換に必要な全てのデータフォーマット(メッセージ)が定義されているわけではない。本研究の目的は、標準的な医療情報交換形式をHL7で定義し、それらをデータベース化し、そのレポジトリを公開し、標準HL7メッセージを流通させることによって、異なるベンダーの電子カルテシステムが、医療情報を安全・確実に共有・交換できる相互運用性を担保することにある。
研究方法
上記の研究目的を達成するため、1)すでにHL7で定義されているメッセージの体系化、2)国内の医療施設やシステムベンダーがHL7定義を独自に拡張して利用しているメッセージの収集および体系化、3)電子カルテシステムに必要なメッセージの開発、4)診療報酬請求に必要なメッセージの開発、5)臨床ゲノム情報交換のためのメッセージの開発、6)EBMを支援するメッセージの研究開発、7)収集、開発したメッセージの管理・流通システムの開発、を行う。
昨年度は、主に既存HL7メッセージの収集と体系化について研究を行った。その結果、HL7メッセージは、標準規約といえども使用するデータタイプの詳細や必須要素といった、使用時に決定しなければならない詳細項目があり、本研究班が中心となり我が国におけるHL7メッセージの推奨利用方法について早急に議論する必要があること、また、HL7の標準メッセージを普及させるためには、電子カルテの開発者が容易にHL7メッセージを使用できるライブラリやモジュールを一刻も早く開発し提供する必要があることが明らかになった。そこで本年度は、研究課題3)、4)、5)、6)の各課題でHL7バージョン3メッセージの開発を進める前に、HL7バージョン3メッセージに基づいた保健医療情報システムを開発する際の基盤となる、HL7標準メッセージングライブラリの開発を行なう。また、構築したライブラリに基づき、研究課題3)として、神戸大学医学部附属病院の電子カルテシステムで実際に使用するHL7バージョン3臨床検査メッセージおよび処方オーダーメッセージを開発する。さらに研究課題4)として、昭和大学横浜市北部病院の医事課で実際に行われている診療報酬請求業務の分析・調査を行なう。これらを、1. HL7バージョン3メッセージングライブラリの開発に関する研究、2. HL7バージョン3臨床検査メッセージの開発 3. HL7バージョン3処方オーダーメッセージの開発、4.診療報酬請求業務関連ドキュメントの調査、の4つの分担研究テーマとして執り行なう。
結果と考察
ライブラリの設計にあたり、HL7標準化規格の今後の変更にも容易に対応できるようにすること、及び、電子カルテシステムの開発者に対して可能な限り標準化規格についての詳細な知識を要求しないこと、の2点を設計方針とし、HL7の詳細な知識を隠蔽するために電子カルテアプリケーションから利用可能な中間的なインターフェースを実装した。これによって、アプリケーションからは、例えば「患者氏名を取得する」や「薬剤名を取得する」といったような、HL7仕様に依存しない、その領域で使われる語彙を使ってHL7メッセージ構造にアクセスすることが可能となり、標準メッセージに基づく電子カルテシステムを容易にかつ効率的に構築するための基盤を作ることができた。構築したライブラリは、研究計画3)「電子カルテシステムに必要なメッセージの開発」において、神戸大学医学部附属病院の電子カルテシステムのうち臨床検査システムおよび処方システムの開発に実際に適用し、HL7バージョン3臨床検査メッセージおよび処方オーダーメッセージを開発した。これらの成果は、平成16年1月に開催されたHL7国際ワーキンググループ会議において、HL7バージョン3の早期実装事例として登録された。これにより本研究班での成果を国際標準にも反映できる状況となった。さらに、研究計画4)「診療報酬請求に必要なメッセージの開発」として、昭和大学横浜市北部病院の医事課で実際に行われている診療報酬請求業務の分析・調査を行なった。また、本年度の成果として、HL7バージョン3の唯一の解説書として英国HL7協会から出版されている"Understanding Version3 A Primer on the HL7 Version 3 Communication Standard"の翻訳を行い、「HL7 Version3 入門 電子カルテに向けた医療情報標準化規格の理解のために」として出版した。これによりHL7バージョン3の国内普及にも大きく貢献できると期待する。
結論
本年度は、今後HL7メッセージに基づくシステムを開発するための基盤となる標準ライブラリの研究開発を行なった。現在、本ライブラリを用いて神戸大学医学部附属病院の検査部門システム及び処方部門システムの開発を行なっており次年度も引き続き研究を進めていく予定である。また、国立大学病院共通ソフトウェアとして構築されている感染症システムへの適用も決定しており、次年度の研究課題として進める予定である。さらに、静岡県版電子カルテプロジェクト、(株)SRL、(株)マイクロソフト等においても実システムへの組み込みが検討されており、医療情報システムの社会基盤として本研究の成果であるライブラリが普及しつつあり、非常に社
会的意義の高い研究と考える。次年度は、このメッセージングライブラリを用いることにより、電子カルテシステムの相互運用に必要となる、診療報酬請求、臨床ゲノム情報交換、EBM支援、感染症管理といった分野の標準HL7メッセージを研究開発する。また、本研究の最終年度であるため、開発したメッセージが有効に再利用されるようなシステムを構築し、本研究が保健医療分野において有意義な成果を継続的にもたらすようにし、本研究を総括する。これによって、電子カルテシステム間通信規約の国内で唯一の標準規格が整備され、システム間で医療情報が安全・確実に共有・交換されるための基盤が構築できると期待する。

公開日・更新日

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