ナノチューブ、ナノ微粒子、マイクロ微粒子の組織反応性とバイオ応用(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300628A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノチューブ、ナノ微粒子、マイクロ微粒子の組織反応性とバイオ応用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
亘理 文夫(北海道大学大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大森守(東北大学金属材料研究所 附属新素材設計開発施設)
  • 田路和幸(東北大学大学院工学研究科)
  • 橋田俊之(東北大学大学院工学研究科 附属破壊制御システム研究施設)
  • 戸塚靖則(北海道大学大学院歯学研究科)
  • 川崎貴生・横山敦郎(北海道大学大学院歯学研究科)
  • 野方文雄(岐阜大学工学部)
  • 羽田紘一(石巻専修大学理工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
95,699,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
チタンのような生体親和性材料も微粒子になると組織刺激性を示す。ナノ微粒子は新たな毒性の発生源ともなるのか?というナノトキシコロジーの指摘が最近多い。微粒子のバイオ応用を図るには、材料のマイクロ・ナノサイズ化によって特異的に発現する組織反応性をまず明らかにする必要がある。生化学的細胞機能性試験(in vitro)に基づく材料の評価法を導入し、動物実験(in vivo)による組織反応の病理学的検索と比較した。カーボンナノチューブ(CNT)のバイオ応用のためにサイズ制御、親水基付与、糖鎖、アパタイト(HAP)表面処理を行い、CNT単体の応用として、高い細胞付着性を利用した細胞培養スカフォールド、コラーゲンへの選択吸着、アルジネートカプセルによる経口投与等行った。放電プラズマ焼結(SPS)によりCNT焼結体を作製し、機械的特性と生体適合性を調べ、また水熱合成法によりHAPコーティングを行った。摩耗粉に対する対策として高硬度の窒化チタン(TiN)に注目し、耐摩耗性TiN/HAP傾斜機能型インプラントの開発研究を行った。ナノ磁性微粒子の生成と細胞試験・医療モデル実験、アクチュエータ用ナノ分子構造制御高分子ゲルの強化研究も行った。
研究方法
Ti, Fe, Ni(各500nm, 3, 10, 50, 150μm), TiO2(30, 60, 300, 500nm, 2μm), ポリ乳酸(1, 13μm)の各種微粒子およびCNT(30, 200nm, 1, 2μm)、CNF(2μm)ほか粒度調整を行った微粒子について、ICP元素分析による溶出試験を行った後、ヒト好中球、歯根膜細胞、マクロファージ、真皮繊維芽細胞、骨芽細胞様細胞、ラット腹腔・肺胞マクロファージ 、筋芽細胞、骨芽細胞様細胞、マウス脾臓細胞、ゾウリムシほかの各種細胞を用い、細胞生存率、増殖率、LDH、活性酸素、サイトカインTNF-α, IL-1β, IL-8, M-CSF産生を調べ、埋入試験により組織反応の病理学的検索を行った。バイオ用CNTとして加熱焼却・酸処理による精製高純度化、強酸処理による切断・可溶・分散化・サイズ制御を行い、また糖鎖、アルジネート、HAPによる表面修飾を行った。
結果と考察
微粒子径の減少とともに細胞生存率は低下し、LDH、活性酸素、サイトカインTNF-α, IL-1β, IL-8, M-CSF産生は増加した。特に細胞より小さくなる10μm以下では貪食を誘発して刺激性は増大し、ナノ領域でも継続した。組織埋入試験でも約100μm以上では巨視的サイズのインプラントと同様の生体親和性を示すが、50μm以下では刺激性が亢進し、特に10μm以下になると貪食作用を誘発し、長期間炎症反応を引き起こした。これらは材料によらず見いだされ、微粒子と細胞・組織とのサイズの相対的な関係に由来する効果である。その為害性の程度は細胞内毒素に比べると1/1000以下と低いが、組織内で貪食を誘発し、金属微粒子の場合には細胞死を導いて局所に残留し長期間炎症を継続する点で注意が必要である。インプラントの経年使用で発生する摩耗粉を抑制し、機能性の発現を最適化するために、デンタルインプラントにおいて、耐摩耗性・機械的特性が重視されるコア部およびアバットメント部にTiN、応力緩和・生体親和性が要求される歯根部にはHAPを多く配し、各部位間は濃度傾斜させた耐摩耗性TiN/HAP系傾斜機能型インプラントをSPSにより作製した。動物埋入試験においても良好な骨親和性を示した。C
NTはbioinert材料一般に起きる程度の微粒子刺激性は有するものの、短期的にはアスベストに見られるような特異的な生体為害性は認められず、細胞・組織に対する特徴的な種々の親和性が多数見出された。生分解性ポリ乳酸グリコール酸共重合体のサイズ1~100μm、単一中空構造から多数の中空球を内包する構造までの球状微粒子を、エマルジョン中での溶媒の蒸発消失によりポリマーを析出させる乳化溶媒蒸発法で作製した。顕微鏡下その場観察により粒子形成過程を明らかにした。 磁性微粒子NiOとNiFe2O4に対するゾウリムシの細胞生存率は濃度が高くなるほど低下し、細胞増殖も強い増殖阻害効果を受けたが、CNTでは細胞生存率に影響無く細胞増殖率の低下も限定的であった。また共沈法合成Fe304ナノ微粒子をセンチネルリンパ節検出剤として用いた医療応用モデル実験も行った。 バイオ用CNTとして強酸中で超音波照射して切断後、メンブランフィルターでろ過し、平均長670 nm、540 nm、220 nmにサイズ調整し、水酸基とカルボキシル基の付いた可溶性CNTを開発した。またラクトース側鎖型ポリスチレン等の吸着による糖鎖修飾を行い、レクチンとの選択的結合を確認した。CNTおよびCNFはマクロファージならびにTLR2を介した転写因子NF-kBを活性化しなかった。CNTの表面は疎水性で細胞付着性にすぐれ、PTFEおよびPCろ過膜上にCNTを吸引して作製したスカフォールド上で、ヒト骨芽細胞様細胞Saos2を培養すると細胞は伸展して増殖は促進され、細胞突起がスカフォールド内に嵌入し強固に結合した。組織埋入試験においてCNF集塊は肉芽組織に被包されるものの強い炎症反応は示さず、TEM観察では多くがマクロファージ内に貪食され、ライソゾーム内にも認められたが、CNT集塊では貪食像はほとんど観察されなかった。CNTはエッチング処理した歯質上のエナメル質には吸着されず、コラーゲン線維が露出した象牙質に疎水的な相互作用により選択的に吸着された。擬似体液に浸漬するとCNTをコアとしてHAP結晶が放射状に析出し、表面修飾が容易に可能であった。親水性CNF/アルギン酸ナトリウム(CNFs/Na-ALG)コロイドを作製し、CNFが酸性の胃液中で凝集するのを避け、腸から吸収されるようにアルギン酸塩球状中空カプセルに内包し、ラットへの経口投与、吸収を介しての血液成分の生化学的試験に応用した。またCNFs/Na-ALG複合体にpCMV b-Gal発現プラスミドを結合し、H1299肺ガン細胞株への輸送に応用した。Ce含有カーボンナノカプセルの埋入試験から為害性が低いことを確認後、血管内投与し、体内循環、臓器への濃縮を検知した。CNT繊維強化金属(FRM)、プラスチック(FRP)を試作した。CNTは難焼結性であるがSPSにより、多層CNTではフェノール樹脂、またはポリカルボシランを結合材に用い、単層CNTではバインダーレスでも、物性が骨(密度1.6-2.1g/cm3, ヤング率7-30GPa)に近い緻密体(1.7g/cm3、3-10GPa)を得た。3点曲げおよびスモールパンチ試験では破壊時、繊維状のCNTの引抜効果による摩擦力のために、クラックが急激には進展せず、断続的な引抜と局所的な破断を繰返す結果、セラミックスとしてきわめて特異的な擬似塑性変形と高い破壊靭性を示した。CaHPO4・2H2OとCa(OH)2の縣濁液を、①表面塗布後、SPSで加圧・加熱する方法、②単一方向への熱間加圧装置であるホットプレス内で、熱間等方静水圧プレス (HIP) を擬似的に実現する二重構造カプセル法を開発し、カプセル内で反応させる方法、の2方法で、固化CNTおよびチタン表面に水熱合成により、強固な接合強度を有するHAPコーティング被膜を形成できた。多層CNT固化体のラット腹部皮下埋入試験では線維性結合組織に被包化され、結合材濃度が高いほど炎症性が増した。HAPコーティング材では良好な新生骨形成が認められた。電解質高分子Nafion膜をPMMA被覆し、劣化抑制、弾性率・発生力の向上、脱水により発生力低下抑制を達成し、医療用アクチュエータへの応用としてマイクロポンプを試作した。
結論
材料の生体為害性にはマクロサイズではイオン溶出から開始する材質依存的な化学的効果が支配的であるが、μm~nmになるとbioactiv
e, bioinert材料でも、材質非特異的な物理的サイズ効果が顕在化する。CNTには材料一般に起きる程度の微粒子刺激性はあるものの、特異的な生体為害性は認められず、糖鎖、HAPによる容易な表面修飾、高い細胞付着性等、細胞・組織に対する親和性が見出され、単体の応用としてスカフォールド、コラーゲンとの選択吸着等、またSPSで作製したCNT固化体ではセラミックスとして特異的な擬似塑性変形と高い破壊靭性を示した。

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