細胞組織利用医薬品・医療用具の品質・安全性等の確保に関する基盤技術開発研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300406A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞組織利用医薬品・医療用具の品質・安全性等の確保に関する基盤技術開発研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
早川 堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 土屋利江(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 山口照英(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 川西 徹(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 川崎ナナ(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 新見伸吾(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 宮澤 宏(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 鈴木孝昌(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
76,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、バイオテクノロジー応用技術の進歩や再生医学の技術的進歩により、ヒトまたは動物の細胞や組織を培養、加工し、様々な疾患の治療に用いる細胞・組織加工医薬品等の開発が急速に進んでいる。本邦においても、様々な形での細胞・組織加工医薬品等の開発が進められているところであるが、本格的な実用化に至るために検討すべき課題は多い。
本研究では、細胞・組織加工医薬品等の品質、安全性等を確保するために、1)ウイルス等の感染性危険因子を排除するための基盤技術の開発や評価方法に関する研究、2) 細胞の同一性・純度・遺伝的安定性評価技術の開発研究、3)細胞由来タンパク質プロフィールを指標とする細胞特性の迅速・高感度解析法の開発、4)細胞・組織のがん化を予測する評価技術の開発に関する研究、5)細胞等による望ましくない免疫反応の検出技術開発に関する研究、6)細胞・組織由来目的生理活性タンパク質の新規体内動態解析法の開発研究、7)幹細胞や前駆細胞を素材とする細胞・組織加工医薬品等の製造過程における品質・安全性確保技術や製品の評価方法に関する研究などを行う。
本研究の成果により、より安全性の高い細胞・組織加工医薬品等の開発や実用化を適正に推進するための基盤作りをすることが可能となり、これを通じた保健医療の向上への貢献が期待される。
研究方法
1) 高感度ウイルス検出法開発の一環として、PEI磁気ビーズを用いたウイルス濃縮への抗ウイルス抗体の影響を調べた。また、ヒト感染性ウイルスとしてHCVやHBVを取り上げ濃縮条件の検討を行った。2) 血球系細胞を取り上げ、細胞の同一性や変異の検出におけるshort-tandem-repeat(STR)の有用性について検討した。3)サイトカインアレイを用いて細胞由来タンパク質プロフィール解析への適応について解析した。また、LC/MS/MSを用いてタンパク質のトリプシン消化物を対象として、タンパク質一次構造、糖鎖結合部位、部位特異的糖鎖構造の解析を行った。4)ポリL-乳酸(PLLA)によるマウス発ガン系を用いて、非常に初期の皮下細胞を用いてギャップジャンクションに関連する変化を解析した。テロメア結合タンパク質(TRF1)の細胞不死化との関連について検討を行い、TRF1の細胞がん化指標としての有用性について検討した。5)修飾ポリウレタンでコートした新規免疫隔離膜にドナー細胞を封入し、in vitroでレシピエント細胞との相互作用を解析した。6)細胞治療の有効成分としての目的タンパク質の分離及びMALDI-TOF-MS解析のために磁性ナノ粒子を用いた検討を行った。7)血管内皮前駆細胞(EPC)、肝幹細胞、神経細胞や心筋細胞分化誘導系を取り上げ、その細胞特性指標の解析を行った。
結果と考察
1) ウイルス等の感染性危険因子を排除するための基盤技術の開発や評価方法に関する研究:
ウイルス等の感染性危険因子の高感度検出のための基盤技術の開発や評価方法に関する研究として、新たに開発したPEI磁気ビーズによるウイルス濃縮法の機構解析を行い、陽イオン解離基を高密度に持つPEIが濃縮に有用であること、抗体が同時に濃縮されることなどを明らかにした。また、これらの解析結果の応用として抗ウイルス抗体を添加してウイルス濃縮を行うことでさらなる高感度化が可能なことを明らかにした。さらに、PEI磁気ビーズを用いたHBVやHCV濃縮における最適条件を明らかにした。
2)細胞の同一性・純度・遺伝的安定性評価技術の開発研究:
複数のSTRマーカーを組合わせてマイクロサテライト多型を検出することにより、細胞の同一性等の確認試験に非常に有用であることを明らかにすることができた。また、STRマーカーを利用することにより細胞亜株間の遺伝的変異も検出可能なことを示すことができ、細胞の変異を検出するのにも有用な手法となり得ることを示唆した。
3)細胞由来タンパク質プロフィールを指標とする細胞特性の迅速・高感度解析法の開発:
細胞特性評価の一環として、サイトカインアレイの細胞由来タンパク質プロファイリングへの有用性を評価するために、血管内皮前駆細胞等を用いた検討を行い、サイトカインアレイは細胞が産生するサイトカインの網羅的解析が可能であり、簡便・迅速性にも優れていることを明らかにした。 細胞治療の有効成分としてのタンパク質プロファイル評価と糖鎖修飾を含むタンパク質の特性解析法としてタンパク質のトリプシン消化物をLC/MS/MSを用いて分析する手法の開発を行った。その結果,タンパク質一次構造,糖鎖結合部位,及び部位特異的糖鎖構造の解析が可能なことを示した。
4)細胞・組織のがん化を予測する評価技術の開発に関する研究:
PLLAによるBALB/cJマウスの発がん系を用いて非常に初期の皮下細胞においてギャップジャンクション依存性細胞間情報伝達及びコネキシン遺伝子の発現が抑制され、TGF-?産生能の亢進が見られることを明らかにし、がん化の予測指標となる可能性が示唆された。
TRF1が細胞の不死化と密接に関連することを明らかにすることができ、TRF1が細胞のがん化指標として非常に有用であることを示された。
5)細胞等による望ましくない免疫反応の検出技術開発に関する研究:
新たに開発した免疫隔離膜を用いてドナー骨髄細胞とレシピエントリンパ球細胞とのin vitroでの相互作用の解析を行い、新規免疫隔離膜を用いることにより、ドナー細胞の生存率の上昇とレシピエントリンパ球による拒絶反応時によって惹起されるサイトカインの産生等を抑制することが可能であることを明らかにした。これらの結果より、開発した免疫隔離膜を用いることにより細胞性免疫反応を起こさず移植する細胞によって引き起こされる可能性のある液性免疫の評価が可能なことが確認された。
6)細胞・組織由来目的生理活性タンパク質の新規体内動態解析法の開発研究:
タンパク質の分離及びMALDI-TOF-MSの高感度化のために磁性ナノ粒子が有用であることを明らかにし、細胞由来目的タンパク質の体内動態解析への有用性が示唆された。さらに、トランスフェリンやポリエチレングリコール等の高分子をあらかじめマトリックスに添加することにより質量分析の高感度化が可能なことを明らかにした。
7)幹細胞や前駆細胞を素材とする細胞・組織加工医薬品等の製造過程における品質・安全性確保技術や製品の評価方法に関する研究:
①ヒト血液幹細胞からEPCへの分化誘導系の解析より、EPCの細胞指標として、CD31に加えLox-1やコネキシン37が有用であることを明らかにした。②マウス胚性腫瘍細胞P19細胞をモデルに、神経細胞および心筋細胞に効率的に分化させる技術を確立した。種々の分化マーカーの解析から、神経細胞に分化誘導したP19細胞は主としてニューロンに分化することが明らかにした。2次元電気泳動による解析より、分化誘導過程初期から変動のあるタンパク質を見いだし、これらの誘導初期に発現してくるタンパク質が神経前駆細胞の特性指標になる可能性が示された。また、P19細胞のサブクローンCL6細胞の心筋細胞分化モデルを用いて、CL6細胞から自動能を持つ心筋様細胞に分化させた細胞の心筋マーカー遺伝子の発現や活動電位の解析結果から、得られた心筋様細胞の表現型は、幼若度の高い心房筋細胞に類似した特徴を持つことを初めて明らかにした。③小型肝細胞に特異的なアネキシンⅢの発現は転写レベルで制御されていることを明らかにし、肝幹細胞指標としての有用性が確認された。
結論
(1) PEI磁気ビーズを用いたウイルス濃縮時に抗ウイルス抗体を添加することによりさらに効率良くウイルスを濃縮できることを見いだした。また、PEI磁気ビーズを用いてHCVやHBVを濃縮可能な条件を明らかにすることができた。(2) STRマーカーが細胞の遺伝的同一性等の評価への適応可能なことを明らかにした。(3)サイトカインアレイが細胞由来タンパク質プロファイリングに適用できることを明らかにした。また、LC/MS/MS分析がタンパク質プロファイル評価法、糖鎖プロファイリング、及び目的タンパク質の特性解析法として有用であることを明らかにした。(4) マウス発ガンモデル系を用いてがん化前の細胞でコネキシン遺伝子の発現の抑制とTGF-?の産生能が亢進することを明らかにし、がん化の予測指標としての有用性を示唆することができた。TRF1が細胞のがん化指標として非常に有用であることを示された。(5) 新規免疫隔離膜を用いてin vitroでのドナーとレシピエント細胞の相互作用の解析を行い、細胞性免疫反応を起こさず移植する細胞によって引き起こされる可能性のある液性免疫の評価が可能なことが確認された。(6) 細胞治療の有効成分としての目的タンパク質の分離およびMALDI-TOF-MSの高感度化のために磁性ナノ粒子が有用であることを明らかにした。(7) EPCの細胞指標としてCD31に加えLox-1やコネキシン37が有用であることを明らかにした。アネキシンⅢの肝幹細胞指標としての有用性が確認された。マウス胚性腫瘍細胞P19から、心房筋タイプの心筋細胞およびニューロンタイプの神経細胞へ効率よく分化誘導させる系を確立し、分化誘導過程で複数のタンパク質の発現変動があることを見いだした。

公開日・更新日

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