社会保障負担のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200300040A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障負担のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
金子 能宏(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 松本勝明(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 勝又幸子(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 大石亜希子(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 山本克也(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 宮里尚三(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 江口隆裕(筑波大学社会科学系教授教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、公平で安定的な社会保障制度を構築するため、社会保障負担のあり方について制度横断的な検討を行うものである。社会保障負担については、現在、世代間などで負担の不公平感があるとともに、保険料負担が増大していく中で所得のみの賦課に負担過重感が生じている。そこで、本研究では、社会保障費用をどのように国民が公平に負担していくのが望ましいのかという理念的な側面の検討を行った上で、制度横断的な観点から、社会保障財源として社会保険料の変更と国庫負担の財財源の選択それぞれについて異なるケースを想定して、その変更がどのような影響を及ぼすのか、推計作業を行う。こうした推計結果に基づく考察に加えて、国際比較の観点から、OECD諸国、フランス、ドイツの社会保障負担に関する改革動向をフォローすることにより、社会保障負担のあり方に関する国民の議論に寄与することのできるエビデンスを提供する。
研究方法
専門家の意見を聴取し検討すべき論点などを整理した後に、各分担研究者により、次のような個別テーマの研究を実施した。①世代間と世代内の公平性両方の視点から結果を比較することのできる、四所得階層を持つ世代重複モデルを用いた保険料固定方式と給付維持方式における厚生年金の負担賦課の水準および国庫負担の財源選択に関するシミュレーション分析、②就業形態による社会保険適用の不公平さを是正するため、短時間労働者へ厚生年金を適用拡大することがマクロ経済に及ぼす影響に関するマクロ経済モデルによる分析、③年金・医療・介護の負担と給付の関係をコホート別に見るための世代会計による分析、④資産収益のリスクと寿命の伸びのリスクがある場合の最適な年金給付の所得代替率の世代重複モデルによる推計と負担のあり方に関する考察、⑤社会保障負担と人的控除が就業行動に及ぼす影響についての文献サーベイと女性パートタイム労働者を対象とする実証分析。また、国際比較の観点から、EU15カ国における社会拠出の動向をフォローしつつ、フランスの一般社会拠出金(CSG)及びドイツの年金・医療保険における国庫補助や適用範囲などに関して、その考え方、効果、問題点について、政策担当者・研究者などに対する現地ヒアリング調査、文献調査を通じて考察する。
結果と考察
世代重複モデルに基づくシミュレーション分析によれば、保険料固定方式の場合には、給付維持方式に比べて資本蓄積に対する抑制効果が少ないこと、並びに基礎年金国庫負担率の引上げを消費税で賄う場合は貯蓄と生産活動にプラスの影響を及ぼすが、世代内の公平性に配慮するとそれよりも総合所得税(賃金所得と利子所得への賦課)の方がより好ましい影響を及ぼすという結果が得られた。パートタイム労働者の厚生年金適用を拡大して第三号被保険者を縮小することは年金財政にプラスの効果を及ぼすが、マクロ経済モデルによる推計によれば、それが企業収益ひいては設備投資を減少させて国内総生産の伸びを小さくする場合があることが確認された。社会保障負担の水準を考察する際、好ましい給付水準を賄う水準以上の負担となっているかどうかも検討する必要がある。この観点から、資産収益のリスクと寿命の伸びのリスクがある場合の年金給付の所得代替率を世代重複モデルによって推計すると、生涯の期待効用を最大化する最適な所得代替率は50%以下の水準となる場合があり、この場合が成立する条件が現実に該当する場合には、これを上回
るほどの所得代替率を賄う社会保障負担を求める必要性は必ずしもないことが示された。
年金保険・医療保険・介護保険における負担に対する給付の比率を世代会計によって推計し、将来の負担のあり方について示唆を得るための分析を行った。平成13年「国民生活基礎調査」年齢別要介護度の分布を前提に将来推計すると、医療と介護の代替が働いて医療費が低下し介護費用の増加を補う時期があるものの、長期的には要介護度が高くなる割合の高い後期高齢者の増加が、介護費用を増加させるため、その費用を賄いつつ社会保険財政維持のため負担を上げざるを得ない側面があり、年金改革で将来の保険料率の引き上げが緩やかになったとしても、年金・医療・介護を合わせた負担に対する給付の比率は、将来世代ほど低下する傾向がある。ただし、社会保険料負担と国庫負担の税負担部分を合わせた負担をとっても、なお給付に対する負担の比率は将来世代も1を上回る水準にあり、社会保険加入のインセンティブは与え続けることができるという推計結果を得た。
さらに、国際比較の観点から、社会保障負担の現状と課題を考察した。EU15カ国の社会保障の財源構成は多様である。ベルギー・スペイン・フランス・オランダ・ドイツは65%以上を社会拠出としているのに対して、デンマーク・アイルアイルランド・ノルウェーは58%が税財源であり、イギリス・ルクセンブルク・スウェーデンも税が大きな割合を占めている。ただし、社会拠出中心国と税中心国の違いは、社会拠出中心国における税財源の割合の増加によって近年狭まりつつある。とくに、フランスとドイツでは、社会保障負担の増大を抑制するとともに、公平な負担の在り方を実現するための取組みが既に始まっていることが把握できた。
結論
少子・高齢化の進展、家族構造の変化、経済成長の鈍化、失業の増大、国際的な競争の一層の進展などに伴い、先進諸国においては、社会保障負担の増大を抑制するとともに、公平な負担の在り方を実現することが、重要な課題となっている。
そのための取組みが先行して実施されている欧州諸国では、賃金付随コスト削減の観点から、社会保障給付の抑制と併せて、社会保険料財源から税財源へのシフトがみられるとともに、賦課ベースを拡大し、より公平な負担を実現するためにCSGのような新たな財源の開発も行われている。また、これらの対策は、雇用の拡大、経済成長の促進、購買力の拡大といった国民経済に与える効果との関連性をもって考えられている。本研究によって、我が国に関しても、財源構成の変更や賦課ベースの変更・拡大が、国民経済や社会保障財政に及ぼす影響が明らかになることは、我が国の社会保障負担の今後のあり方についての具体的な検討を進める上での重要な基盤を作り出すことにつながるものと考えられる。

公開日・更新日

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