医療負担のあり方が医療需要と健康・福祉の水準に及ぼす影響に関する研究(平成15年度総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300035A
報告書区分
総括
研究課題名
医療負担のあり方が医療需要と健康・福祉の水準に及ぼす影響に関する研究(平成15年度総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
金子 能宏(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 大日康史(国立感染症研究所)
  • 小島克久(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 山田篤裕福(慶應義塾大学経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「国民生活基礎調査」の再集計を用いて、高齢者の健康状態別に所得格差を把握するとともに、公平性に配慮した医療負担の意義を考察するとともに、経済協力開発機構(OECD)による国際比較を参照しつつ、所得格差要因と医療負担との関係、医療保健サービス利用と所得格差との関係について分析する。また、所得低下に直面する可能性の大きい高齢者と若年者については、負担能力に応じた負担について今後も留意すべきであることから、アンケート調査により将来の医療負担の方向性について考察を加える。
研究方法
健康状態別の所得格差を把握するために、「国民生活基礎調査」の再集計を用いて所得格差と医療負担の関係を示すカクワニ係数を計測するとともに、所得格差要因の分解を行う。要因分解では、(OECD)で用いられている世帯規模を勘案した一人当たり調整済可処分所得を用い、所得分布のMLD分解とSCV分解を行う。アンケート調査は、調査機関のモニターを利用し、仮想市場法を応用した問いをこれに含めて、今後の医療保険制度が変化したときに人々の医療需要などがどのように変化するかを定量的に分析することが可能となる内容とした。
本調査は医療保険の枠組みでの負担のあり方を分析するものであるが、国際比較の観点からは税財源による皆保険もありうる。そこで、カナダの医療制度改革の動向をフォローすることにより、将来の財源確保のため国庫負担引き上げで対処することの長所と短所について考察した。
結果と考察
高齢者の所得格差は健康状態に関係なく縮小傾向にあるが、健康でない高齢者については、外来受診では所得格差に関係なく負担していたため低所得層にとって不利な状況にあったが、入院では高所得層がより多く負担していたことが明らかになった。保健医療サービスの利用についてOECDの比較方法を参照した実証分析を行った結果、わが国の保健医療サービス利用には不平等はないが、その費用負担については高所得層で多いという傾向が見られることが確かめられた。仮想市場法を含めて将来の医療負担のあり方に関する問いへの回答を勤労世代と高齢者と比較した結果、世代によって制度改革に対する反応の違いが明かになった。税財源により連邦補助金を利用して皆保険を実現しているカナダでは、予算の制約から給付範囲がわが国よりも狭いことや医療の技術進歩への対応が遅れたことが今日問題となっており、上院と首相の諮問機関双方において皆保険を維持する枠組みの中での医療改革の検討が進められている。
結論
高齢者の所得格差の要因分解等を用いた所得格差と医療負担とに関する分析から、2002年10月の老人保健制度改正のように高所得の人に応分の負担を求めることは、合理的な面があることが明らかとなった。ただし、所得格差要因の分解から、所得再分配効果は家族構成などにより異なることが理解されるので、様々な階層の所得格差に配慮した医療費負担の検討は今後も必要であると考えられる。また、仮想市場法による調査回答が世代によって制度改革に対する反応の違いを示していることから、医療保険制度の構築には高齢者と勤労世代を分離することには一定の合理性があると考えられる。このような医療保険の枠組みの中で将来の方向性について考察することに加えて、カナダの税財源による皆保険制度に関する上院と首相の諮問委員会それぞれの改革案を比較することにより、公費負担の役割が大きくなると予想されるわが国の医療制度改革において留意すべき点について基礎的資料を得ることができる。

公開日・更新日

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