ネットワーク型医療の評価と推進に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201361A
報告書区分
総括
研究課題名
ネットワーク型医療の評価と推進に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
高本 和彦(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 馬場園明(九州大学健康科学センター)
  • 田久浩志(中部学院大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,150,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国においては、地域ごとに適切な医療を受けることが可能な医療供給体制の確立が急務である。今後の医療分野の急速な情報化の進展に対応し、情報通信機能等の積極的活用等により医療機関内外の本格的な機能分化と連携を実現して、高質な医療サービスの提供等に寄与できる医療システムをどのように構築していくかが医療政策検討上の焦点となっている。このような観点から、医療機関が同一の医療情報環境を効果的かつ効率的に共有する基盤を構築しながら、時間や空間の制約等を軽減化して、適時適切に患者にサービスの提供を行うネットワーク型医療システムについて、先進事例での実際の医療提供環境下での効果と効率をはじめ、財政的運用基盤へのエンドユーザーの見解、ユーザーの個人情報保護対策、システム信頼性や運営への見解、日常業務上の負担変化等の実務ベースでの体系的な評価を試みるとともに、ネットワーク経営に係る諸問題について医療・病院管理上の検討を行うこととした。
研究方法
研究3年目の今年度は、2年目に引き続き、研究1年目に検討を行ったネットワーク型医療システムの効果と効率に関する評価枠組みに基づき、診療過程の変化や専門職種および患者のシステムへの受容・満足度等に着目して、国内のネットワーク型医療システムの先進的展開事例について、システム関係者・関係機関との共同研究を実施し、実運用下のシステムの効果と効率、システム成熟過程および医療・病院管理学的影響等に関する具体的な検証を行った。また、ネットワーク型医療システムの経営に係る諸問題等を病院管理学的視点から検討するため、わが国の病院における電子カルテシステムやオーダリングシステム等の情報システム整備の実状とシステム導入背景要因等を分析するとともに、情報システム導入が病院の経営管理に及ぼす影響等の評価研究を実施した。先進事例としては、急速な普及と適用が予定されている電子カルテを中心とした総合医療情報システムを基盤とし保健医療サービスを提供している先進的事例として、NTT東日本関東病院(東京都品川区)で構築された病院内ネットワークを対象として追加し評価研究を行った。調査対象は、総合医療情報システムを日常的に活用し業務を行っている医療スタッフ、システムを基盤とした保健医療サービスの提供を受けている患者であり、自記式無記名の質問紙法により、ネットワーク化された病院システムの効果や効率等について、システム利用者の受容・満足度等の観点から評価を行った。また、広島・岡山両県の連携医療機関から構成された広域的な脳神経科診療ネットワークシステムについては、ネットワークシステム運用状況の推移、一次医療機関の患者管理の変化等に着目した長期運用によるシステムの成熟化に関する評価等を行った。さらに、病院情報システム整備の背景要因と影響等に関する評価研究では、公的統計や学術文献等の公開された資料に基づき補完して作成したデータベースを利用して、情報システムの整備状況、自治体病院をモデルケースとしたシステム稼動による一般的な経営指標への影響等の分析を行うとともに、病院情報システム導入が本格化する前の二次医療圏別の医療供給に関する各種因子と、情報システム導入の程度の関係を比較し、情報システムの導入に関連する諸要因について検討した。
結果と考察
電子カルテシステムを基盤とした病院内ネットワークは、職種別に見解の差異は認められるものの、定型的な業務の処理や情報確認等をはじめとするサービスまたは業務の実行容易性と迅速さを向上させ、診療等の標準化、安全管理の向上、チーム医療の推進等の
影響を及ばすとともに、再診患者へ円滑な対応等の保健医療提供の各過程や地域施設間ネットワーク化の有用性に影響する可能性が示唆された。しかしながら、医師等病院スタッフの情報入力等精神的・身体的負担の増大が当該システム運用で生じる可能性、個人情報保護、システム保守等に高い関心があることが併せて明らかになった。また、システムに基づく診療体制や体制下でのサービス提供等への患者受容・満足度は相応に高く、かかりつけ医等の人間関係要素やシステムで説明を受ける頻度等に関連することが示唆された。救急・急性期診療型の広域的な脳神経科診療ネットワークでのシステムの成熟化に関する評価研究では、システム運用の長期的影響として一次医療機関の患者管理の質向上がもたらされること等が明らかとなった。病院情報システム整備の背景要因と影響等に関する評価研究では、電子カルテ導入は都市型で医療資源投下の多い地域の病院で進んできている等の二次医療圏レベルでの地域的な医療供給因子とシステム導入の程度の関係が明らかになり、自治体病院をモデルケースしたオーダリングシステム稼動と経営管理指標と関係の検討では、患者フローの改善等の医療の効率化の目的に添う経営指標への影響もしくは経営改善によるシステム導入期への対処等が示唆された。ネットワーク型医療は、その動向に大きな関心が寄せられており、当該システムによる患者へのサービス提供の適時性、適切性等の評価の需要がさらに高まることが予想される。しかしながら、新しい医療システムとしてのネットワーク型医療が、実際の臨床場面でどのように診療活動の過程や患者の健康結果に影響を及ぼしているかを明らかにした研究はほとんど見当たらない。本研究では、わが国の代表的な3つの異なる臨床応用事例の評価研究を行い、その特性に応じた具体的な評価枠組みや指標等の設定を試みており、当該システムの体系的な評価のモデルとして活用することが可能と考えられる。また、実際の医療提供環境下で通常医療と比較を行った実証的評価によりその効果を示唆する結果を得ただけでなく、医療・病院管理への影響の評価を現実の実務ベースで試みているため、ネットワーク型医療の推進上の隘路等についての知見を得ることができたものと考えられる。
結論
情報技術を活用したネットワーク型医療システムに対する包括的な評価研究の一環で、電子カルテを中心とした総合的な情報システムを構築して保健医療サービスを提供している病院内ネットワークシステムの先進的事例の評価研究、長期的な運用実績を有する脳神経科広域診療ネットワークシステムのシステム成熟化に関する評価研究、および病院情報システム整備に関する背景要因と導入の経営管理上の影響等に関する評価研究を行い、情報システムが適用され医療組織内外で形成される新たな医療システムで実現される情報の一元化と集約化等は、医師等の情報入力等の負担の増加を前提としつつも、診療活動の過程や患者満足度等への良好な影響、医療施設間の患者管理の質向上と機能分化、患者フローの改善等による病院全体の経営管理指標への影響を及ぼしていること等を明らかにすることができた。

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