ユビキタス情報社会に向けた遠隔看護支援システムの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201266A
報告書区分
総括
研究課題名
ユビキタス情報社会に向けた遠隔看護支援システムの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
東 ますみ(兵庫県立看護大学附置研推進センター)
研究分担者(所属機関)
  • 川口孝泰(兵庫県立看護大学)
  • 太田健一(武庫川女子大学)
  • 南裕子(兵庫県立看護大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,760,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人口の少子・高齢化が進む中、医療環境は病院型医療から在宅型医療へと急速に変化している。このような状況において医療ニーズの多様化・高度化に適切に対応するために、病者が生活している場へ出向いて治療や看護を行う体制作り、すなわち、遠隔地で看護を支援するシステム作りの必要性に迫られている。2001年に政府が発表したe-japan戦略により、インターネットの普及は急増しており、高速のブロードバンドインターネットの利用者も年々増加傾向にある。そして、生活空間のあらゆる物にコンピュータが組み込まれ、「いつでも、どこでも、だれでも」コンピュータ・ネットワークを通じて情報を入手したり、サービスを受けたりする「ユビキタス情報社会」が到来すると予測される。そこで、情報通信技術(IT)を利用した遠隔医療と共に、アメリカやイギリスにおいてここ5年ほどの間に発展してきた「遠隔看護(telenursing)」をユビキタス情報社会に対応する支援システムとして、機器の開発も含め構築することを目的とした。
研究方法
遠隔看護システムをモバイル・コンピューティングに移行し、ユビキタス情報社会における遠隔看護支援システムを構築するために①モバイルに対応する画面構成の設計②ユーザビリティに配慮したデザイン構成の設計を行った。その後、このシステムで遠隔看護を実施するために、遠隔地からクライエントの健康状態を的確に把握するためのバイタル情報の取得方法について研究を行った。対象者は、研究の趣旨に同意の得られた健康な成人ボランティア6名と糖尿病患者1名である。成人ボランティアには、電話回線上で指尖容積脈波を延べ72回測定し、遠隔情報としての特性を捉えた。その後、糖尿病患者に対して、遠隔看護システムを試験的に1ヶ月間実践し、このシステムから得られた計30回の指尖容積脈波データについて、その有用性の検討を行った。指尖容積脈波の有用性の検討は、カオス解析によるカオス・アトラクターの視覚的評価と、第1リアプノフ指数・KSエントロピーについての定量的評価である。最後に、試験運用と評価を行うために、糖尿病患者1名と担当看護師1名に対して約3ヶ月間の遠隔看護を実践した。糖尿病患者からは、「ビデオメール」、「文書メール」、「バイタルメール」をメインセンターに送信してもらい、翌日、担当看護師からは状態に関する総合的なコメントを「ビデオメール」によって患者に返信した。メインセンターからは「バイタルメール」の分析結果をコメントとともに患者及び担当看護師に返信した。評価は、システムに対する問題点や遠隔看護に対する満足感などを半構成的面接法により実施した。また、患者から送信された「ビデオメール」の発言内容、「文書メール」の記述内容、「バイタルメール」を分析し、自己管理行動に対する評価を行った。
結果と考察
遠隔看護システムは、兵庫県立看護大学附置研推進センターのサーバーを介して、地域に配置されるサブセンターと、サブセンターが管理しているケア対象者、および対象の担当医との相互ネットワークにより構築された。附置研推進センターでの役割は、データベース基地として機能するが、それのみならずデータウェアハウスやデータマイニングなどのデータの倉庫として、必要な情報を直ぐに取り出せる機能や、膨大な情報から目的の情報を取り出せる、情報の採掘場所としての機能も果たせるようなシステム化がなされた。対象から配信される遠隔看護に必要な電子化されたケア情報は、3種類を設定した。日々の健康相談を文書でやりとりする「文書メール」と、定期的
な血圧や体温、脈拍などの指標を計測して送信してもらう「バイタルメール」、そして動画を通じて実際に健康相談などを行う「ビデオメール」である。これらの情報は、附置研推進センターのサーバー上で管理され、そこを通じて担当の看護師が必要な情報を得て、通信上でケアを提供するか、あるいは訪問するか・・などの看護上の意思決定を行う。医療措置が必要な場合には、担当医との情報連携も可能なシステムとなっている。操作性向上のため、画面にランチャーを作成し、ランチャーのボタンをクリックすることで、操作手順の表示、ビデオメール用ソフト、脈波メール用ソフト、附置研推進センターへの接続ができるようにした。また、基本的に「次へ」「もどる」の2つのボタンで画面移動ができるようにした。このように、モバイルに対応する画面構成の設計やユーザビリティに配慮したデザイン構成の設計が完成したことから、今後、遠隔看護支援システムをモバイル・コンピューティングに移行し、ユビキタス情報社会で活用できる基盤が整えられたと考えられる。遠隔看護支援システムで活用できるバイタル情報として、指尖容積脈波についてその有用性を検討した結果、指尖容積脈波のカオス解析によって得られるカオス・アトラクターや第1リアプノフ指数・KSエントロピーは、視覚的にも定量的にもその人に応じた健康状態を提供しうることが示唆された。指尖容積脈波は、測定方法においても、指尖腹部に赤外線センサーの付いたスポンジ製のピックアップを装着することで、非観血的で苦痛がなく短時間で簡便に測定することができ、しかも比較的安価であるため、遠隔看護支援システムにおけるバイタル情報として、活用できると考えられる。そして、実際に糖尿病患者に遠隔看護を実践した結果、月日の経過とともに糖尿病に関する発言が増加したり、日々のデータから自己管理行動を修正する姿が伺えた。また、遠隔看護全体に対する評価は、「満足」のいくものであったとの回答を得た。これらのことから、遠隔看護支援システムは、糖尿病患者に対する在宅型看護支援として有効であると考えられる。
結論
構築した遠隔看護支援システムは、メインセンター、ケア対象者、担当看護師、担当医師の間でネットワークが構築され、PHSカードによる無線通信によってインターネットを介して行う看護援助の方法である。このシステムで用いるバイタル情報として、指尖容積脈波についてその有用性を検討した結果、多様な情報を含む複雑系の指尖容積脈波は、視覚的にも定量的にもその人に応じた健康状態を提供しうることが示唆された。そして、遠隔看護を実践した結果から、遠隔看護支援システムは糖尿病患者に対する在宅型看護支援として、有効であることが明らかとなった。

公開日・更新日

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