糖尿病進展予防のための疾病管理に関する研究

文献情報

文献番号
200201110A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病進展予防のための疾病管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
武田 倬(鳥取県立中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 池上直己(慶應義塾大学 医学部)
  • 坂巻弘之(財団法人 医療経済研究・ 社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
8,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.研究の目的と背景
疾病管理(Disease Management)は、特定の疾病について、予防からリハビリまで最適の組み合わせを標準化し、診療の質を維持・向上させながら費用のコントロールをはかることを目標としている。糖尿病は生涯にわたる疾患であり、不適切な血糖コントロールにより網膜症、神経障害、腎障害、足病変などの合併症を発現する。これらの合併症は患者のQOLを著しく損ねるばかりでなく、医療費へのインパクトも大きいことが知られており、欧米では糖尿病の疾病管理への取り組みが盛んに行われている。
2.研究結果
本研究は、3年計画研究であり、糖尿病の疾病管理に関して以下の研究を実施した。なお、患者データの使用、アンケート結果の利用に関しては、倫理委員会に諮るとともに、文書による患者の同意を取得し、研究を実施した。
【1年目】
(1) 島根県安来・能義地域における糖尿病疾病管理システムに関する研究
島根県安来・能義地域(安来市、広瀬町、伯太町)では、1998年4月に安来能義地域糖尿病管理協議会が発足し、自治体、医師会、患者会、コメディカルも含めた関係者、機関が一体となって地域における糖尿病管理を実施している。初年度は、地域において「管理システム」に登録された患者の受療行動、紹介等について糖尿病手帳により調査するとともに、紹介、患者受療行動と登録患者の血糖コントロールレベルや合併症罹患率との関係を検討し、登録後2年目までの血糖値を始めとする検査値の変動、合併症罹患状況、それらに影響を与えると思われる受診状況等との関係を調査し、網膜症予防のための課題を明らかにした。
(2) 糖尿病網膜症に関わる医療機関連携、患者教育に関する検討
糖尿病網膜症に焦点を当てた糖尿病管理のための体制作りに向けた診療システムの課題を検討する目的で、西東京地区の眼科医・内科医ならびにそれらを受診している患者に対するアンケート調査を行い、網膜症発見動機、発見時の網膜症の状況等を調査し、糖尿病網膜症診療に関する課題を明らかにした。
【2年目】
(1) 安来・能義地域における糖尿病疾病管理のアウトカム研究
上記地域での登録患者について、登録後3年目までの血糖値を始めとする検査値の変動、合併症罹患状況、それらに影響を与えると思われる受診状況等との関係を調査した。また、医療機関間の紹介状況、患者の医療機関の受診状況と、HbA1c、BMIなど医学的指標の変化等について検討を行い、食習慣、満足度、QOLなど患者の自覚的な満足度についても調査を行い、医学的指標ならびに食習慣とQOLとの関連を検討した。
(2) 安来・能義地域における糖尿病疾病管理課題に関する検討
上記地域から無作為抽出された一般住民約3000名を対象に、食生活、運動生活、糖尿病有無、その他生活習慣病有無、生活習慣病に罹患している場合には受診行動、QOLについて調査を行い、糖尿病に対する地域でのリスク状況をもとに一次予防、二次予防の必要性について検討した。
(3) 糖尿病介入システム評価に関する研究
電話を用いた糖尿病患者の日常生活への介入システムの評価を天理よろず相談所病院において実施し、日常生活の改善につながることを明らかにした。
【3年目】
(1) 安来・能義地域における糖尿病疾病管理のアウトカム研究
2年目に引き続き、登録患者について登録後4年目までの血糖値を始めとする検査値の変動、合併症罹患状況、それらに影響を与えると思われる受診状況等との関係を調査した。
(2) 患者自己管理ツールの作成
患者自己管理をサポートするツール(ライフスタイルノート)の作成と、事前評価、介入効果測定のための調査用紙を作成した。それらを用いた介入効果を、日常生活、検査値、合併症状況、通院・服薬などのコンプライアンス、QOLにより評価し、日常生活や検査値の改善が確認された。
(3) 米国における疾病管理プログラムに関する調査
米国ヘルスシステムとその中での疾病管理への取り組み状況、疾病管理専門の企業における疾病管理プログラム、健康保険プランとの契約形態などの調査を行い、わが国へのシステム導入の可能性を検討した。
(4) 疾病管理関連文献調査・レビュー
国内外の糖尿病に関する自己管理、介入評価に関する論文約1,800報の文献を抽出し、これらの文献ついてADA(American Diabetes Association)のevidence guideline (ADA,2002)の水準レベルを参考にして、有意差が得られる因子を抽出した。自己管理に関して有意差がみられた因子は総計86件で、「知識・教育」「心理面」「満足度」「個人的要因」「治療」「保険」「家族」の7カテゴリーに分類できた。
(5) 衛生関係調査データによる理論モデルの検討
栄養調査、国民生活基礎調査の個票データの提供を受け、それらをもとに平成元年以降の糖尿病ならびに合併症罹患状況、通院状況等について検討した。
3.研究により得られた成果の今後の活用・提供                     
わが国の国民医療費を疾病中分類で金額の大きい順にみると、糖尿病は、悪性新生物、脳血管疾患、高血圧性疾患に次いで大きな額を占める疾患である。しかも、伸び率でみると、糖尿病の伸びは特に顕著である。糖尿病患者数は、生活習慣、高齢化により増加が懸念されており、糖尿病医療の効率化のための疾病管理が重要である。また、「健康日本21」においても糖尿病を中心とした生活習慣病への対策は喫緊の課題である。本研究における目的は、地域における糖尿病疾病管理の成果を明らかにするとともに、わが国における疾病管理普及の課題、介入ツールの評価を行うことにある。本研究を通して得られた成果は以下のとおりである。
①わが国の糖尿病対策、とりわけ網膜症についての課題を明らかにした。すなわち、網膜症に関しては、必ずしも、内科医から眼科医への紹介が適切に行われておらず、糖尿病患者の眼科初診時にはかなりの割合の進行した網膜症患者が存在する。
②糖尿病疾病管理のための事前評価、介入ツールの開発、介入評価システムを開発した。
③地域での糖尿病の血糖コントロールレベル、BMIなどの検査値と糖尿病合併症罹患リスク、地域における糖尿病リスク(食生活、運動など)、医学的指標とQOL、等の疫学データを収集し、地域における糖尿病疾病管理の効果を予測・評価するためのモデルを試作した。
今後、これらのデータを公表していくとともに、糖尿病管理のためのモデルを提示していく予定である。
4.研究の実施経過
(1) 安来・能義地域における糖尿病疾病管理のアウトカム研究(1~3年目)
平成11年以降、平成14年12月末日までに登録された患者680名を対象とした。本研究では、患者データを扱うため、患者情報の扱いには十分配慮し、当該地域医師会での了承のもとに実施するとともに、外部へのデータ流出のないよう必要な手段を講じた。また、本研究への患者の参加は、あらかじめ本研究の目的・内容を説明した上で、患者の自由意志のもとに行われ、試験不参加により患者が不利益を蒙らないこと、参加の意思表明後であっても自由に撤回できることを保証した。また、臨床検査用に採取された検体(血液、尿など)は、医療機関内で適切に処理され、臨床以外の目的に使用されることはないよう留意した。
上記の内容を研究計画書に記載し、実施地域における中核医療機関である町立広瀬病院の倫理委員会に諮り、研究の倫理性の検討を経て研究を実施した。
同地域での研究は、1年目から3年目にかけ実施し、患者データは患者が保持し、医療機関や自治体の保健師・栄養士などが必要事項を記載する「糖尿病手帳」、アンケートによりデータ収集を行い、同地域の糖尿病管理の推進母体である「安来・能義地域糖尿病管理協議会」事務局において入力されたデータを疫学研究のためのデータセットに変換し、分析を行った。
(2) 安来・能義地域における糖尿病疾病管理課題に関する検討(2年目)
上記地域から無作為抽出された一般住民約2,239名を対象に、食生活、運動生活、糖尿病有無、その他生活習慣病有無、生活習慣病に罹患している場合には受診行動、QOL(EQ-5Dを使用)について調査を行い、糖尿病に対する地域でのリスク状況をもとに一次予防、二次予防の必要性について検討した。またあわせてQOLの調査を行うことで、糖尿病に罹患していない群、糖尿病に罹患しているが、同地域の疾病管理システム以外で受診しているものについてのデータを得た。
(3) 糖尿病網膜症に関わる医療機関連携、患者教育に関する検討(1年目)
糖尿病網膜症に焦点を当てた糖尿病管理のための体制作りに向けた診療システムの課題を検討する目的で、西東京地区の眼科医・内科医ならびにそれらを受診している患者に対するアンケート調査を行った。
(4) 糖尿病介入システム評価に関する研究(2~3年目)
米国の疾病管理に関して調査、診療ガイドライン、疾病管理ツールの収集を行い、調査の結果、米国を中心にインターネットを利用した疾病管理など、新たな取り組みが進んでいる。こうした米国における教育ツールをそのままわが国で用いることは困難であるため、2年目には、わが国独自で開発された電話を用いた糖尿病患者の日常生活への介入システムの評価を天理よろず相談所病院において実施し、日常生活の改善を検討した。
また、3年目には、実際に米国への訪問調査を行い、健康保険会社(マネジドケア組織)、疾病管理企業、団体へのインタビューを通し、疾病管理プログラムの開発、評価方法などについて調査した。
(5) 衛生関係調査データによる理論モデルの検討(2~3年目)
2年目には、国内外の糖尿病モデルに関する文献調査、公表衛生関係調査データを用い、マルコフモデルの作成を試みた。3年目では、栄養調査、国民生活基礎調査の個票データの提供を受け、それらをもとに平成元年以降の糖尿病ならびに合併症罹患状況、通院状況等について検討するとともに、前年度に試作したマルコフモデルへのデータ当てはめを行い、モデル化を試みた。
(6) 疾病管理関連文献調査・レビュー(3年目)
国内外の糖尿病に関する自己管理、介入評価に関する論文、医学中央雑誌691件、MEDLINE1,175件、CINAHL921件の文献を抽出し、これらの文献ついてADA(American Diabetes Association)のevidence guideline (ADA,2002)の水準レベルを参考にして、有意差が得られる因子を抽出した。


研究方法
結果と考察
結論

公開日・更新日

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