住民参加による地域保健活動の実態と促進に関する研究-歯科保健対策を中心として-(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201098A
報告書区分
総括
研究課題名
住民参加による地域保健活動の実態と促進に関する研究-歯科保健対策を中心として-(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
石井 拓男(東京歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 池主憲夫(8020推進財団)
  • 大久保満男(財8020推進財団)
  • 米満正美(岩手医科大学歯学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康増進法、「健康日本21」の推進には住民参加の視点が重要である。本研究では、平成13年度に先駆的な住民参加型地域保健事例の分析を行い、全国の市町村と郡市区歯科医師会を対象に調査を行い、厳密な意味での住民参加の歯科保健活動はまだ少なく、住民参加の概念を普及させる必要があることが明らかとなった。本年度は①平成13年度の調査では回答方式が自由回答であり、住民参加型保健活動の定義に則しない記載あったことから、昨年度の調査から住民参加型歯科保健活動の成功要因の探索をすべく再度全国の市町村と郡市区歯科医師会を対象に調査を行った。②平成13年度の住民参加型保健活動事業の基礎調査では実施できなかった自由回答についてテキストマイニングが行えるソフトウエアーであるText Mining for Clementineを用いて解析を試みた。③自主グループの活動が極めて積極的になされているとされている「町作り」について、研究班との議論の中から地域歯科保健活動における町作り的な住民参加のあり方を検討した。④NPO活動(特定非営利活動法人)に対し、厚生労働省が推進している「住民参加による地域保健活動」の認知、健康保健活動への係わり、今後の活動意向の有無等を把握し、住民参加による地域保健活動の推進への資料とするためのパイロットスタディとしてこの研究を行った。⑤岩手県における一つの町に焦点をしぼり、成人の社会活動の実態と意識を明らかにし、ボランティア活動を含む地域における住民参加の可能性を探ることを目的に調査を実施した。
研究方法
①市町村と郡市歯科医師会に調査用紙を送付し郵送にて回収した。昨年度回答を得た歯科医師会、自治体に対しては昨年度回答を得た事業名を記入し保健活動の成功要因に対する項目に回答をしてもらった。さらに昨年度の調査後に把握された事業がある場合には、その事業名を記入してもらいさらに前述の項目に対して回答してもらう形式をとった。②昨年度自治体、歯科医師会に対し郵送法により得られた自由回答のデータを用いて、単語の発現頻度の分析、各単語の連関としてバスケット分析を行った。さらに因子分析により因子構造を把握し、共分散構造分析により因果の連鎖を検討した。③NPO法人まちづくり学校とNPO法人都岐沙羅パートナーズによる町づくりにおける住民参加の経緯と事例に対し、研究班員と保健所、市町村の保健行政担当者による質疑の形式で議論をすすめた。④NPOの12分野の中からⅰ保健、医療又は福祉の増進、ⅱ社会教育の推進、ⅲまちづくりの推進、ⅳ文化、芸術はスポーツの振興、ⅴ男女共同参画社会の形成の促進、ⅵ子供の健全育成の6分野に着目し、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県で任意選定し、「住民参加型の地域保健活動」についてヒアリング調査した。⑤2003年1月、岩手県T町の住民基本台帳を基に年齢20歳から75歳までの住民へ郵送法による「社会活動についての意識調査」17項目を実施した。「余暇活動」に関しては12種類(その他を含む)の活動の中から該当するものをすべて選択させた。その他の質問項目に関しては五段階の順位尺度であらわした回答肢を設け、その中から最も適当なものを選択させた。
結果と考察
①市町村から500件(68.4%)郡市歯科医師会から338件(42.5%)の回答を得た。住民参加型保健活動の成功を判断するために設定した質問項目において複雑に絡み合った要因から成功要因を導き出すため、ニューラルネット、ロジステック回帰分析、決定木分析により健康への動機付け,健康・生活習慣の改善、自主的な健康づくり活動の推進の3項目をそれぞれ目
的変数として分析を行い成功の予想精度を比較した。決定木分析により健康への動機付け,健康・生活習慣の改善、自主的な健康づくり活動の推進の3項目に対して自治体、歯科医師会別に予想を行った。この分析により成功へのルール、失敗へのルールを作成した。全体的な傾向として事業の成果を数値で確認しているかが成功への大きな要因になるようであった。②テキストマイニングによる分析をおこなったところ、歯科医師会、自治体の歯科事業、自治体の一般保健事業における違いが明確となった。歯科医師会と自治体の歯科では全く対峙する象限に同様の用語が位置することとなった。また、保健活動の共分散構造分析では、自治体と歯科医師会では全く異なった結果となった。自治体の方がシンプルで明解な関連を示したのに対し、歯科医師会の場合は用語が多く、関連も複雑であった。③町づくりを行政や専門家だけで行われた場合に生ずる住民の疑問、不安、不満が、住民参加型となることで、問題解決への積極的な姿勢に変わった事例が示された。そのためには中間支援組織が必要で有効であることが多角的に議論され認識された。④13のNPOにヒアリング調査を行ったが、健康日本21を知らないとしたNPOが11法人あった。また、健康増進法の正確に理解そたNPOは一つもかった。8020運動を知っているというNPOが1法人、内容を知っているとしたのが4法人あった。住民参加型の地域保健活動を推進する要素を問うたところ、「リーダーの養成」をあげたNPOが最も多かった。⑤岩手県T町で「社会活動についての意識調査」を実施した結果、各活動への参加者(参加経験者を含む)は、「町内会」63.5%、「趣味の講習会やグループ.サークル活動」27.4%、「道路や公園の草取りや清掃」58.0%が主なものであった。ボランティア活動に関する意識について、「人生をより豊かにする」、「参加することは大事だ」、「仕事や家事・育児を調整するのは難しい」の3項目に年齢階級で差が認められた。「健康管理」に関して男性のほうがより強く感じている傾向が認められた。「予防」に関しては、60歳代、70歳代が他の年代と比較して有効性を強く感じている傾向にあった。歯科保健事業に関する意識では、60歳代が最も強く歯科保健事業の参加を希望し、20歳代が最も希望していないことが示された。
結論
①住民参加型保健活動の成功要因の探索を行い、成功へ至る各要因とそのプロセスを分析した。また、成功、失敗を判定するコンピュータープログラムを成した。このプログラムは住民参加型保健活動を実施するにあたり事前に成功、失敗をある程度予測可能であり有用であると思われた。②昨年度(平成13年)、自治体、歯科医師会から得られた自由回答部分につてい、テキストマイニングの手法を用いて解析をおこなった。その結果歯科医師会、自治体といった実施主体による保健事業の捉えたかの違いを、今回の情報の範囲ではあるがある程度表示できることから、この分析方法は有用であることが示唆された。③住民参加型の町作り活動は10年あまりの実績がすでにあること。中間支援組織としてのNPOがコーディネーターの役割を極めて効果的に果たしていること。住民参加はワークショップの形式をとり、ファシリテータを中間支援組織が提供し効果を上げていること。住民参加による活動は公開され透明性の高いこと。そこで得られたProductは、事業の進行に反映しそのことを住民にフィードバックしていること。等の提示が得られた。住民参加による地域歯科保健活動を促進するにあたり、行政、専門団体の姿勢を再考する必要性が示唆され、同時に地域保健においても中間支援組織の育成と活用が有用であることが考えられた。4.NPO活動(特定非営利活動法人)に対し、住民参加による地域保健活動の推進への資料とするためのパイロットスタディを行ったところ、意識の高い集団であっても「健康日本21」の認知度が高くないことが認められ、また、住民参加型を推進するにはリーダーの養成が必要と回答したNPOが各分野を越えて多いことが認められた。⑤岩手県T町において住民参加による地域保健活動を推進する担い手とし
て期待されるのは、一般的な社会活動の参加経験が豊富で参加意欲も高い人であり、意識の面では「ボランティア活動に参加することは自らのためにも有益である」と考え、「発病は自らの健康管理と関係する」と考えている人であると推測された。また、そのような人は余暇には読書や社会活動、スポーツを行っていることが示された。

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