地域保健における健康づくりと疾病予防のための関連要因に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200201096A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健における健康づくりと疾病予防のための関連要因に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 元伸(福岡大学)
研究分担者(所属機関)
  • 畝  博(福岡大学)
  • 門脇 謙(秋田県成人病医療センター)
  • 上芝 元(東邦大学)
  • 加藤 真澄(福岡大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
2,825,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、生活習慣病のうち虚血性心疾患における外部環境要因および生活習慣要因に関して、それぞれの要因毎に各要因間の関係を疫学的に明らかにすることで日本人独自の特徴を解明し、虚血性心疾患の一次予防対策の効果を上げることを目的とする。
研究方法
循環器疾患の治療を専門分野のひとつとしている秋田県内の一医療機関を対象としてCase-control studyを行なった。虚血性心疾患(急性冠症候群、安定狭心症、冠連攣症候群など)の診断を得た者、あるいは胸痛を主訴として外来を訪れた者の中から男性のみを母集団とした。症例数は424例であり、全例に冠動脈造影を実施している。冠動脈造影の結果によりグループを2群に分け、狭窄が認められた者を患者群、狭窄が認められなかった者をコントロールI群とした。さらに、この医療機関に基本健康診査を目的として来院した者で、虚血性心疾患の既往がなく、かつ安静時の心電図が正常な者をダブルコントロール(コントロールⅡ群、47例)とした。
測定した血清脂質の種類は、総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、LDLコレステロール(LDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白A-I (Apo A-I)、アポリポ蛋白A-II (Apo A-II)、アポリポ蛋白B (Apo B)、およびリポプロテイン(a) (Lp(a))である。ヘリコバクター・ピロリIgG抗体およびヘリコバクター・ピロリ抗体陽性者に対してのCagA抗体の測定は、いずれもEnzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)にて行なった。クラミジアニューモニアIgG抗体およびIgA抗体の測定もELISAにて行なった。統計解析には、Statistical Product and Service Solution 11.5J (SPSS Inc, Chicago, IL, USA)を用いた。オッズ比(OR)および95%信頼区間(95%CI)を求め、p<0.05を有意差ありと判断した。
結果と考察
結果
1.コントロールI群と狭窄群の比較
狭窄群(333例)とコントロールI群(91例)についてロジスティック回帰分析を用いて検討した結果、有意差が認められた要因は、HDL-C 40mg/dl未満(OR=2.13、95%CI;1.23-3.70、p<0.01)、糖尿病(OR=3.85、95%CI;1.90-7.81、p<0.01)および高脂血症(OR=1.83、95%CI;1.14-2.94、p<0.05)であった。
2.コントロールI群とコントロールⅡ群の比較
冠動脈造影において、75%以上の狭窄が認められた群(以下、70%<狭窄群、213例)とコントロール群(67例)とをロジスティック回帰分析した結果、有意差が認められた要因は、HDL-C未満 (p<0.05)および糖尿病(p<0.001)であった。
=考察
狭窄群とコントロールI群とにおいて、低HDL-C血症(HDL-C40mg/dl未満)と糖尿病(既往歴あるいは治療歴)および高脂血症(同)に有意差を呈した。冠動脈に狭窄を起こす要因としては、低HDL-C血症と糖尿病あるいは高脂血症が働いていることが示唆される。しかしながら、高TC血症や高LDL-C血症は、現時点までの研究からは直接の要因としての結果は得られていない。このことは高脂血症に対する治療薬が効いていることが示唆され、TCやLDL-Cが高値を呈さず有意な要因としての結果が得られないと考えられる。さらに、外部環境因子として検討したヘリコバクター・ピロリ感染およびクラミジアニューモニア感染については、現時点において明確な結果を得られなかった。
ここまでの我々の研究において、いくつかの問題点があることは否定できない。従って、コントロールⅡ群と狭窄群の比較、コントロールⅡ群と急性冠症候群など虚血性心疾患の臨床診断別の各Incidence case群との比較など疫学的に検討しなければならない課題は多い。さらなる症例数やコントロール群を増加し、これらの点を踏まえ本研究のさらなる疫学的追究を行なう予定である。得られた結果(エビデンス)は、現場における虚血性心疾患の保健指導に役立つデータや材料として示し、活用できる資料にすることが重要と考える。
結論
冠動脈に狭窄を起こす要因としては、低HDL-C血症と糖尿病が働いていることが示唆された。しかしながら、TCやLDL-Cあるいは外部環境要因として検討しているヘリコバクター・ピロリ感染とクラミジアニューモニア感染が、危険因子として作用しているのか否かについては、明確な結果を得られなかった。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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