文献情報
文献番号
200200989A
報告書区分
総括
研究課題名
DNAマイクロアレイ技術を応用した有害物質による健康障害発生の種差の評価法および遺伝子毒性の総合評価法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大前 和幸(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 武林亨(慶應義塾大学医学部)
- 中島宏(慶應義塾大学医学部)
- 佐野有理(慶應義塾大学医学部)
- 高田礼子(慶應義塾大学医学部)
- 出来尾史子(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
24,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、種差や変異原性の評価法としてのDNAチップから得られた発現プロファイルの有用性を検討するため、既知の化学物質、物理要因を用いて知見を集積する。DNAチップで得られた発現プロファイルの有用性が証明されれば、実験動物データのヒトへの外挿の際の危険性を大幅に小さくすることができ、健康リスクアセスメント、マネージメントに貢献できることが期待される。また、変異原では、変異原性の有無やタイプについての情報が得られることが期待される。
研究方法
種差では、マウスでは肝癌を発症し、ラットとヒトではしないトリクロロエチレン(以下、TCE)とジクロロメタン(以下、DCM)を対象とした。DCMでは、ラットに8000ppm・6時間の吸入曝露を行い(対照群は6時間空気曝露)、曝露終了後0、3、6、24、48時間後に摘出した肝臓の遺伝子発現プロファイルを得た。種間の遺伝子発現プロファイルを比較するには、種間の相同遺伝子を同定する必要があるので、DNAチップに含まれている遺伝子及びESTの相同遺伝子を検索するためのNCBIのBLASTプログラムをベースとするプログラムを作成した。相同性は、アミノ酸配列で決定し、相同遺伝子が複数個見つかった場合、e-value、scoreが最も高く、DNAチップ上に存在しているものを一つ決定するスペックになっている。このプログラムを使い、TCE in vivo実験における種差の比較を行った。in vitro実験では、マウス、ラット、ヒトの初代培養肝細胞を用いた。ヒトの細胞は国内での入手が困難で、アメリカより輸入する。コラーゲナーゼ肝還流法で分離した肝細胞をコラーゲンでコーティングした培養ディッシュに撒き、Willams'E培地で細胞がディッシュ上に接着するまで培養、接着後コラーゲンゲルを細胞の上に重層させて培地をHepatozyme-SFMに変更する方法により、85%以上のviabilityがあり、72時間以上の培養後でもviabilityを保ち、種々のチトクローム系酵素の誘導能を有する初代培養肝細胞の構築に成功した。この細胞をTCEに曝露しin vitro実験の実験条件を決定、遺伝子発現プロファイルを得た。変異原性に関する研究では、DNA相補鎖の架橋剤マイトマシンC(以下、MMC)の曝露24時間後の発現プロファイルを得た。リンパ球を分離、レクチンで一日刺激後、0.025、0.1、0.3μMの3段階で3時間MMCに曝露し、細胞数をみたところ0.1μMを境に低下していたので、0.025と0.1μMを曝露濃度とし、MMCを曝露した、昨年度までの実験で変化の多彩であった曝露24時間後にRNAを回収した。アルキル化剤メチルニトロソウレア(以下、MNU)についても検討した。
結果と考察
DCM吸入曝露実験では、ラットで177のプローブが有意差のある遺伝子として抽出された。ラットで発現亢進したものにはGST M2、G6Pase、メタロチオネイン等があり、減少したものには17-beta hydroxysteroid dehydrogenase type 2等があった。また、代謝経路の一つであるCyp2E1遺伝子の発現が10倍以上亢進していた。遺伝子発現プロファイル上の個々の遺伝子の発現変化を一つ一つ機能別に検討していく作業は大いに時間を要する。特に本研究のように曝露濃度、曝露時間、曝露物質、曝露担体が複数ある場合は組み合わせを考慮するとその数は膨大であり、個々の遺伝子の変化を機能や代謝カスケードにまで掘り下げて体系的に解析し、結果を解釈していくことは極めて困難である。そこで我々は、遺伝子を分子機能別、生物学的プロセス別、細胞構成成分別に分類するGene Ontology
Consortiumの分類を採用し、この分類に従ってDANチップに乗っている全ての遺伝子の体系的な機能別解析を行った。昨年度までに得られたTCE in vivo実験は一部再ハイブリダイゼーションを行い、遺伝子発現プロファイルを更新して、新たな統計学的手法や機能解析を加えて再解析を行った。TCE in vivo実験のデータを用いた種間の比較では、まず、DNAチップ間の比較を可能とするためにnormalizationを行い、cross-gene error model等の統計学的手法を用いて各実験ポイントごとにコントロール群と曝露群の間に有意差があるプローブを選択した。これらの遺伝子群に対して、開発したプログラムを用いて相同遺伝子を検索し、マウスとラットの遺伝子が対応する新たな遺伝子発現プロファイルを作成、階層的クラスタ‐解析を行ったところ、マウスとラットはほぼ明確に区別された。一部に種差を区別しない遺伝子発現がみられた理由としては、DNAチップのデータを解析する際のcross hybridizationなどによる思われる不確かな遺伝子発現シグナルの取捨選択、有意差の検出方法、欠損値の取り扱いなどが考えられる。より多くの統計処理方法でこれらの莫大な遺伝子発現プロファイルデータを解析し、より適切な解析法を見出す検討を行った。in vitro実験の条件を決定する際には、種々の濃度と曝露時間でTCEを曝露し、得られたRNAを使って、in vivo TCE曝露実験で遺伝子発現が変化し、その変化が既知の知見から判断して適当であると思われる遺伝子について、定量PCR法によって半定量した。マウスやラットでは、TCEがCYP2E1によって抱水クロラールに代謝される。TCEを5mMでマウスの初代培養肝細胞に曝露させると、CYP2E1では24時間後にはほぼ3倍の遺伝子発現増加が観察された。また、in vivo実験で発現の増加がみられたCYP2A4が5mM TCE曝露で24時間後に2倍以上の遺伝子発現の増加を示した。この予備実験の結果によりin vitro実験における適切な曝露条件が決定され、DNAチップにハイブリダイゼーションさせることが可能となった。この曝露条件でマウス、ラット及びヒトのin vitroにおける遺伝子発現プロファイルが得られれば3種間での比較が可能となり、命題であるヒトのTCE曝露による遺伝子発現の変化がマウスとラットのどちらの種と近いのかという問いに答えることが可能となる。また、in vitro実験のマウスとラットの遺伝子発現プロファイルはin vivo実験のマウスとラットの遺伝子発現プロファイルと比較可能であるので、in vitroとin vivoにおける肝細胞の反応の差を遺伝子レベルでダイナミックに検出することとなり、in vitro実験が化学物質が生体に及ぼす影響をリスクアセスメントする際に用いることが出来るか否かの問いに重要な示唆を与える。まず、マウスの初代培養肝細胞の遺伝子発現プロファイルが得れられたが、TCEの全てのデータを用いて階層的クラスター解析すると、大きくin vitroとin vivoの2つに分かれ、in vivoでは腹腔内投与実験と経口投与実験の2つに分かれるという結果が得られた。また、経時的変化を追いかけた経口投与実験とin vitro実験では共通に有意差があった遺伝子の数が多く、複数のポイントを設けることの重要性が示唆された。3つの実験系に共通して有意に変化した遺伝子も明らになり、この中にTCEに特異的に反応するものがあれば、vivoとvitroに共通の曝露指標となり、健康傷害発生の評価方法となる可能性がある。今後はラット及びヒトにおけるin vitro実験の遺伝子発現プロファイルを加えた解析を行い、in vitro実験でマウス、ラット、ヒトでどのような種差が観察されるかを検証していく。変異原のMMCについては、アポトーシスに陥った細胞の貪食を促進するCED-6の発現亢進がみられ、MMCによるアポトーシスの断面を捉えていると考えられた。DNA helicaseをドメインにもつhypothetical protein FLJ12178の発現亢進もみられ修復との関連も考えられた。MNUはMMCと同様に50、100、200μg/mlの3段階で曝露したところ200μg/mlで細胞数が著明に低下したので100および200μg/mlで曝露を行いRNAを回収している。
Consortiumの分類を採用し、この分類に従ってDANチップに乗っている全ての遺伝子の体系的な機能別解析を行った。昨年度までに得られたTCE in vivo実験は一部再ハイブリダイゼーションを行い、遺伝子発現プロファイルを更新して、新たな統計学的手法や機能解析を加えて再解析を行った。TCE in vivo実験のデータを用いた種間の比較では、まず、DNAチップ間の比較を可能とするためにnormalizationを行い、cross-gene error model等の統計学的手法を用いて各実験ポイントごとにコントロール群と曝露群の間に有意差があるプローブを選択した。これらの遺伝子群に対して、開発したプログラムを用いて相同遺伝子を検索し、マウスとラットの遺伝子が対応する新たな遺伝子発現プロファイルを作成、階層的クラスタ‐解析を行ったところ、マウスとラットはほぼ明確に区別された。一部に種差を区別しない遺伝子発現がみられた理由としては、DNAチップのデータを解析する際のcross hybridizationなどによる思われる不確かな遺伝子発現シグナルの取捨選択、有意差の検出方法、欠損値の取り扱いなどが考えられる。より多くの統計処理方法でこれらの莫大な遺伝子発現プロファイルデータを解析し、より適切な解析法を見出す検討を行った。in vitro実験の条件を決定する際には、種々の濃度と曝露時間でTCEを曝露し、得られたRNAを使って、in vivo TCE曝露実験で遺伝子発現が変化し、その変化が既知の知見から判断して適当であると思われる遺伝子について、定量PCR法によって半定量した。マウスやラットでは、TCEがCYP2E1によって抱水クロラールに代謝される。TCEを5mMでマウスの初代培養肝細胞に曝露させると、CYP2E1では24時間後にはほぼ3倍の遺伝子発現増加が観察された。また、in vivo実験で発現の増加がみられたCYP2A4が5mM TCE曝露で24時間後に2倍以上の遺伝子発現の増加を示した。この予備実験の結果によりin vitro実験における適切な曝露条件が決定され、DNAチップにハイブリダイゼーションさせることが可能となった。この曝露条件でマウス、ラット及びヒトのin vitroにおける遺伝子発現プロファイルが得られれば3種間での比較が可能となり、命題であるヒトのTCE曝露による遺伝子発現の変化がマウスとラットのどちらの種と近いのかという問いに答えることが可能となる。また、in vitro実験のマウスとラットの遺伝子発現プロファイルはin vivo実験のマウスとラットの遺伝子発現プロファイルと比較可能であるので、in vitroとin vivoにおける肝細胞の反応の差を遺伝子レベルでダイナミックに検出することとなり、in vitro実験が化学物質が生体に及ぼす影響をリスクアセスメントする際に用いることが出来るか否かの問いに重要な示唆を与える。まず、マウスの初代培養肝細胞の遺伝子発現プロファイルが得れられたが、TCEの全てのデータを用いて階層的クラスター解析すると、大きくin vitroとin vivoの2つに分かれ、in vivoでは腹腔内投与実験と経口投与実験の2つに分かれるという結果が得られた。また、経時的変化を追いかけた経口投与実験とin vitro実験では共通に有意差があった遺伝子の数が多く、複数のポイントを設けることの重要性が示唆された。3つの実験系に共通して有意に変化した遺伝子も明らになり、この中にTCEに特異的に反応するものがあれば、vivoとvitroに共通の曝露指標となり、健康傷害発生の評価方法となる可能性がある。今後はラット及びヒトにおけるin vitro実験の遺伝子発現プロファイルを加えた解析を行い、in vitro実験でマウス、ラット、ヒトでどのような種差が観察されるかを検証していく。変異原のMMCについては、アポトーシスに陥った細胞の貪食を促進するCED-6の発現亢進がみられ、MMCによるアポトーシスの断面を捉えていると考えられた。DNA helicaseをドメインにもつhypothetical protein FLJ12178の発現亢進もみられ修復との関連も考えられた。MNUはMMCと同様に50、100、200μg/mlの3段階で曝露したところ200μg/mlで細胞数が著明に低下したので100および200μg/mlで曝露を行いRNAを回収している。
結論
DNAチップを用いて、有害化学物
質曝露により発現する遺伝子の種差やin vitro実験とin vivo実験結果の違いを浮き彫りにした。新規の化学物質のリスクアセスメントには、幾つかの時点や曝露濃度で実験した結果を得る必要があり、コストの面でやや現実的ではない面もあるが、DNAチップが低価格化される可能性はある。遅れているラットのゲノムプロジェクトも、徐々にその塩基配列、cDNA、相同遺伝子は明らかとなりデータベースが整理されてきており、遺伝子レベルでのより精度の高い種間の比較は近い将来行うことが可能である。DNAチップは有害化学物質による健康傷害発生の種差やin vitro実験とin vivo実験の差の評価法として優れた方法であると結論づけられる。
質曝露により発現する遺伝子の種差やin vitro実験とin vivo実験結果の違いを浮き彫りにした。新規の化学物質のリスクアセスメントには、幾つかの時点や曝露濃度で実験した結果を得る必要があり、コストの面でやや現実的ではない面もあるが、DNAチップが低価格化される可能性はある。遅れているラットのゲノムプロジェクトも、徐々にその塩基配列、cDNA、相同遺伝子は明らかとなりデータベースが整理されてきており、遺伝子レベルでのより精度の高い種間の比較は近い将来行うことが可能である。DNAチップは有害化学物質による健康傷害発生の種差やin vitro実験とin vivo実験の差の評価法として優れた方法であると結論づけられる。
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