食品中臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質の汚染実態の解明に関する研究  (総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200200955A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質の汚染実態の解明に関する研究  (総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中川 礼子(福岡県保健環境研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 堀 就英(福岡県保健環境研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、臭素化ダイオキシン類の食品中の残留実態を明らかにすることを目的とする。また今後の臭素化ダイオキシン類による人体曝露量の軽減と環境汚染対策に繋げるための基礎資料とすることを目的とする。臭素化ダイオキシン類のうち少なくとも4臭素化ダイオキシンについては、4塩素化ダイオキシン類と同等の毒性を有することが報告されており、臭素化ダイオキシン類による人体影響が懸念され社会的関心も高い。最近、国内の研究でヒトの脂肪組織からの検出が初めて報告されたが、主たる摂取源と考えられる食品における臭素化ダイオキシン類の残留濃度についての知見は極めて限られている。他の先進国における報告例を見る限り、食品中の臭素化ダイオキシン類の残留度は塩素化物に対して有意に高いとは思われないが、塩素化物と同様に脂肪中での蓄積性が高いと考えられることから、食品特に動物性食品から検出される可能性がある。食物連鎖を通した人体影響を推定しそのリスク軽減のためには、臭素化ダイオキシン類の食品中の残留実態を明らかにすることが必要である。
研究方法
臭素化ダイオキシンは臭素系難燃剤を添加されたプラスチックの焼却等や火災によって発生する非意図的生成物である。本物質の食品中での汚染実態は明らかでなく、ヒトへの健康影響を評価するために、早急に食品中の汚染調査を実施する必要がある。 しかしながら、臭素化ダイオキシンは標準物質の供給体制が不完全なため、食品中臭素化ダイオキシン類を測定できる高感度分析法が未だ確立されていなかった。従って、本研究課題の実施には、入手可能な標準物質についての高感度分析法の確立が優先事項である。また、分析方法の開発と汚染実態の解明という趣旨に鑑み、分析工程の迅速・省溶媒化も重要な事項である。そこで、平成13年度は標準物質を可能な限り整備した上で、凍結乾燥と高速溶媒抽出を導入して被検サンプルの大量化を図り、さらに高分解能ガスクマロトグラフィー/高分解能質量分析計(HRGC/HRMS)での測定において大量注入方式を導入するなど、高感度分析法の開発検討を実施した。平成14年度も継続して、臭素化ダイオキシン類の感度向上を図るため、キャピラリーカラムの選択や大量注入法について検討を加えた。また、精製工程における省溶媒化策として、簡易ミニカラムの導入についても検討した。実態調査では、個別食品の外、陰膳試料や、塩素系ダイオキシンでは高汚染食品群である魚貝類、肉・卵類、乳・乳製品類などのトータルダイエット食品群(第10、11、及び12群)の試料について、臭素化ダイオキシン類とその関連化合物である臭素化ジフェニルエーテルの分析を行った。
結果と考察
13年度に(1)高分解ガスクロマトグラフ/高分解質量分析計(HRGC/HRMS)上、S/N比>10で、4臭素化体の2,3,7,8-TeBDD及び2,3,7,8-TeBDFが0.05pg、5臭素化体の1,2,3,7,8-PeBDD、2,3,4,7,8-PeBDF及び1,2,3,7,8-PeBDFが0.05pg、1,2,3,4,7,8-HxBDD/1,2,3,6,7,8-HxBDD、1,2,3,7,8,9-HxBDD、及び1,2,3,4,7,8-HxBDFが0.5pgと、1990年代の文献で見られるものよりも10倍程度高い測定感度を得ることができている。(2)また、HRGC/HRMSに大量注入装置(Solvent Cut Large Volume Injection System )を装着した場合、4臭素化体についてさらに数倍高感度が得られることがわかった。また(3)分析工程の改善法として、試料の大量化を可能とし、かつ抽出に用いる溶媒の量を削減できる「凍結乾燥+高速溶媒抽出」法を検討し、食品中PBDDs/PBDFs分析へ適用が可能であることがわかった。 汚染実態調査では、3種の個別食品でPBDDs、PBDFsは不
検出(回収率61~90%)等の成果を得ている。14年度は、(1)実際の食品(魚)試料のHRGC/HRMS通常注入測定時の臭素化ダイオキシン類の感度を3種類のキャピラリーカラムで検討した。DB-5とMP65HTの2種類のカラムで同様の高感度が得られ、4臭素化体は塩素化ダイオキシン類と同じ検出限界値にすることが可能であること、5及び6臭素化体は塩素化ダイオキシン類の約2倍の検出限界値にまで近づけられることがわかった。(2)食品の汚染実態調査では12種類の個別食品に加え、3日分の陰膳試料、トータルダイエット食品群(魚の10群、卵・肉群の11群、乳及び乳製品の12群の3群各2試料計6試料)を分析した。臭素化ダイオキシンは全試料とも検出下限値未満であったが、臭素化ジフェニルエーテルについては#47、#49、#100、#99、#153、#154等数種の異性体を検出した。これらの結果と毒性に関する文献値から、毒性評価を試みた。(3)分析法の開発検討としては、昨年度に引き続き、大量注入法(SCLV注入法)を、また簡易ミニカラム(活性炭及びフロリジルの2種類)の検討を4~6臭素化ダイオキシン、臭素化ジフェニルエーテルについて実施した。大量注入法ではプレカラム及び分析カラムの選択やガスクロ条件の最適化により、保持(溶出)時間の短縮化とPBDDs/PBDFsの6臭素化体の測定に成功したが、5及び6臭素化体の更なる感度向上とその維持(安定性)についての検討が必要であることも明らかとなった。
結論
食品中の臭素化ダイオキシン(PBDDs/PBDFs)のさらなる高感度分析法を検討し、それを用いた個別食品、陰膳試料及びトータルダイエット食品群試料(10、11及び12群)での汚染実態調査では、PBDDs/PBDFsは検出されなかった。一方、その関連化合物である臭素化ジフェニルエーテルは全試料から数種の異性体が検出された。今後も、PBDDs/PBDFsの測定感度の向上を図りつつ、対象項目や対象食品を広げ、臭素化ダイオキシン及びその関連物質による汚染実態のより詳細な情報を得ることが、食品を介したヒトへの健康被害を防止する上で重要であると考える。

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