バイオテクノロジー応用食品の安全性確保及び高機能食品の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200482A
報告書区分
総括
研究課題名
バイオテクノロジー応用食品の安全性確保及び高機能食品の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
長尾 拓(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小関良宏(東京農工大学)
  • 米谷民雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 手島玲子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 菅野純(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 熊谷進(東京大学大学院)
  • 加藤順子(三菱化学安全科学研究所)
  • 江崎治(国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(バイオテクノロジー応用食品分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
92,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子組換え食品の安全性に関し消費者の関心が高まり、その安全性確保が強く求められる一方国際的な基準作りが進められている。本研究では、バイオテクノロジーを応用した食品の安全性確保のための科学的知見の蓄積、当該食品の検知法の確立及びリスクコミュニケーションに関する調査研究、並びに高機能食品の開発を行うことを目的とする。具体的には、遺伝子組換え(GM)植物の遺伝的安定性からみた安全性評価、組換え食品の検知法、アレルギー性に関する安全性評価手法、慢性毒性試験のあり方、遺伝子組換え高機能食品、クローン技術を利用した動物肉の安全性、抗生物質耐性マーカー遺伝子の細菌叢への移行性、リスクコミュニケーションに関する調査研究を行うとともに、諸外国における遺伝子組換え食品に関する法制度等や遺伝子組換え微生物を用いた食品、遺伝子組換え魚に関する国際動向等の調査研究を行うことにより、遺伝子組換え食品の安全性のより一層の確保を目的とした。
研究方法
遺伝子組換え植物の遺伝的安定性では、我が国に輸入されている遺伝子組換え大豆の穀粒の中から PCR 法によって遺伝子組換え体を検出し,その穀粒もしくは植物体から DNA を抽出し,導入遺伝子領域を PCR 法によってクローニングし,塩基配列を決定した。また遺伝子の発現を調べるために,ELISA 法によって導入遺伝子由来のタンパク質が発現しているかどうかを調べた。遺伝子組換え食品の検知法に関する研究では、PCRによる定性及び定量分析法を作成するためのプライマー設計を行った。抗生物質耐性マーカー遺伝子の移行性では、自然形質転換能を持つアシネトバクター菌(Acinetobacter sp.)の自然形質転換系の確立と、外来DNA(ここではカナマイシン耐性遺伝子)と相同なDNAをプラスミド上に保持させ、カナマイシン耐性遺伝子の移行性を調べるための形質転換系の最適化を行った。また、組換え微生物の安全性研究では、接合伝達性プラスミドを導入した組換え乳酸菌と受容菌を肛門閉鎖マウスに投与することによる非伝達性プラスミドの移行を調べた。アレルギー性に関する安全性評価手法の開発では、患者血清と新規産生タンパク質との反応性の検討、動物を用いるアレルゲン性試験の検討、新規産生タンパク質等の人工胃腸液による分解性試験の改良及びvalidation試験を行った。慢性毒性試験として、90日間の亜急性試験の結果を踏まえ、遺伝子組換えとうもろこし(Mon810)の混餌投与による、2年間の慢性毒性試験を開始した。クローン技術を利用した動物肉の安全性では、国内外の試験研究機関により作出されたクローン牛の成育、呼吸数や心拍数等の一般所見、血液学的所見、内分泌機能、繁殖機能等のデータや我が国において死亡した体細胞クローン牛の病理学的検索結果などを収集し、体細胞クローン牛の食品としての安全性を考察した。リスクコミュニケーションに関する調査研究では、欧州,米国における(GM)食品に関するコミュニケーション実施体制について聞き取り調査等を行った。遺伝子組換え高機能食品の開発では、リノール酸からα-リノレン酸への変換酵素であるイネω-3 fatty acid desaturase(OsFAD3)cDNAを取得し、OsFAD3遺伝子を酵母に高発現させ、PCRを用いて遺伝子内に変異を導入し、OsFAD3タンパク質の改変を試みた。また、遺伝子組換え食品の動向調査として、
諸外国における遺伝子組換え食品に関する法制度等の調査、組換え微生物を用いた食品の安全性に関する国際動向の調査等を行った。
結果と考察
遺伝子組換え植物の遺伝的安定性では、我が国に輸入されている遺伝子組換え大豆穀粒の中に導入遺伝子が発現していないものが、低頻度でみられたが、導入遺伝子に基づく新たな蛋白質が生じる可能性はほとんどなく現行の食品安全性評価で問題はないものと考えられた。組換え食品の検知法に関する研究では、新たに安全性手続きが終了した遺伝子組換えトウモロコシ3品種の定量試験法が開発された。また、定性試験法で、安全性未審査の3品種の試験法を確立した。抗生物質耐性マーカー遺伝子の移行性の研究では、高い形質転換頻度が得られるように人為的に最適化された受容菌を用いたところ、組換え植物由来のDNAによるカナマイシン耐性の形質転換体の出現が低頻度であるが観察された。組換え微生物中の遺伝子の移行性に関する検討では、一般プラスミドが、接合伝達性プラスミドの働きで、肛門閉鎖マウス腸管内で他の菌に移行し得ることが示された。アレルギー性に関する安全性評価手法の開発では、人工胃腸液による新規産生タンパク質の分解性の検討では、特に人工腸液による分解性試験の場合に、加熱による分解性の著しい亢進がみられた。慢性毒性試験としては、ラットへのMon810とうもろこしの混餌投与による慢性毒性試験を開始し、13週経過の段階で、一般状態に異常は認められていない。クローン技術を利用した動物肉の安全性調査研究では、体細胞クローン牛について、従来技術により産生された牛にはないクローン牛特有の要因によって食品としての安全性が損なわれることは考えがたいが、新しい技術であることを踏まえ、慎重な配慮が必要と結論付けられている。リスクコミュニケーションに関する調査研究では、欧州,米国における(GM)食品に関するコミュニケーション実施体制の聞き取り調査から、英、独、米では、食のリスクコミュニケーション部局が整備されており、ジャーナリストの担当部局への雇用、研究者等に対する教育が行われている結果が得られた。遺伝子組換え高機能食品の開発では、イネOsFAD3を効率良く酵母内に発現させる系を確立したが、酵素活性を高めた変異体の作出までに至っていない。遺伝子組換え食品の動向調査では、各国におけるGM食品の規制状況や遺伝子組換え魚に関する文献調査から、大西洋サケ、ティラピア、アメリカナマズ,コイ等の現状把握等を行った。
結論
バイオテクノロジーを応用した食品のより一層の安全性確保のための科学的知見の蓄積に関して、わが国に流通する遺伝子組換え植物の遺伝的安定性についての確認、アレルギー性に関する安全性評価手法の高度化を図るとともに、消費者の意向にも配慮し、ラットを用いた慢性毒性試験が実施されているほか、クローン技術を利用した牛の肉等の安全性に関する検討がなされた。また、カナマイシン耐性遺伝子を用いて、抗生物質耐性マーカー遺伝子の細菌叢への移行性について検討された。遺伝子組換え食品の検知については、安全性未審査の品種の試験法を確立するとともに、表示義務化されている遺伝子組換え大豆、とうもろこしにつき高感度の定量的検知法の開発が終了した。リスクコミュニケーションに関する調査研究では、海外の調査データを踏まえ、情報提供の具体的方法に関する検討が行われた。高機能食品の開発では、生活習慣病予防に資するイネの開発が進められている。さらに、組換え微生物を用いた食品や遺伝子組換え魚の諸外国での開発動向、各国の規制状況等についても調査が行われた。
バイオテクノロジー応用食品については、安全性に関する研究を中心に、当該食品の検知に関する試験法の確立及びリスクコミュニケーションに関する研究等を持続するとともに、透明性を確保しつつ、より一層の安全確保、消費者の不安解消に努める必要があると考えられる。

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