細胞・組織加工医薬品・医療用具の品質等の確保に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200481A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞・組織加工医薬品・医療用具の品質等の確保に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
早川 堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 土屋利江(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 山口照英(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 川西 徹(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 川崎ナナ(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 新見伸吾(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
86,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、バイオテクノロジー応用技術の進歩や再生医学の技術的進歩により、ヒトまたは動物の細胞や組織を培養、加工し、様々な疾患の治療に用いる細胞・組織加工医薬品等の開発が急速に進んでいる。本邦においても、様々な形での細胞・組織加工医薬品等の開発が進められているところであるが、本格的な実用化に至るために検討すべき課題は多い。
本研究では、細胞・組織加工医薬品等の品質、安全性等を確保するために、1)ウイルス等の感染性危険因子を排除するための基盤技術の開発や評価方法に関する研究、2)細胞由来タンパク質プロフィールを指標とする細胞特性の迅速・高感度解析法の開発、3)細胞・組織のがん化を予測する評価技術の開発に関する研究、4)細胞等による望ましくない免疫反応の検出技術開発に関する研究、5)細胞・組織由来目的生理活性タンパク質の新規体内動態解析法の開発研究、6)幹細胞や前駆細胞を素材とする細胞・組織加工医薬品等の製造過程における品質・安全性確保技術や製品の評価方法に関する研究などを行う。
本研究の成果により、より安全性の高い細胞・組織加工医薬品等の開発や実用化を適正に推進するための基盤作りをすることが可能となり、これを通じた保健医療の向上への貢献が期待される。
研究方法
1) 感染性ウイルスの迅速・高感度検出法の開発を目指して、細胞内に感染させたウイルスゲノムのポリスチレン球を用いた新規核酸抽出法を開発した。この核酸抽出法を用いて、指向性細胞に感染させたウイルスゲノムを迅速かつ効率よく抽出し、PCRを用いて高感度に細胞内で増幅したウイルスゲノムを測定した。2)イモビリン2次元電気泳動やキャピラリーLC/MS (CapLC/MS)を用いて細胞由来タンパク質プロフィール解析やその構造解析を行った。3)昨年度作製したヒトテロメラーゼ(hTERT)プロモーター領域とルシフェラーゼをつないだリポーター遺伝子のシスエレメントの解析を行った。4)修飾ポリウレタンでコートした新規免疫隔離膜を作製し、異系ラットへ脾臓を移植し、その免疫隔離能を調べた。5)FlAsH(4',5'-bis(1,3,2-dithioarsolan -2-yl) fluorescein)反応性のタグペプチドを持つ組換えTNF-?をモデルタンパク質として選び、組換えTNF-?とFlAsHの反応性を検討するとともに、タグが付加されたときの生物活性を解析した。6)血管内皮前駆細胞や肝幹細胞を取り上げ、その細胞特性指標の解析を行った。さらに、生分解性ポリマーのラット軟骨前駆細胞に対する作用を解析した。
結果と考察
1)ウイルス等の感染性危険因子を排除するための基盤技術の開発や評価方法に関する研究:
ウイルス等の感染性危険因子の高感度検出のための基盤技術の開発や評価方法に関する研究として、ウイルス感染性の迅速・高感度検出法(infectivity PCR)の新規開発を行った。本法は、指向性細胞にウイルスを感染させた後、新たに開発したポリスチレン球を用いた核酸抽出法と核酸増幅法(PCR)を組み合わせることにより細胞内ウイルスゲノムを迅速・高感度に検出しようとするものである。数種のウイルスについて検討した結果、すべてのウイルスに関して、細胞変性を指標とする方法に比べて非常に高感度に感染性ウイルスを検出できることを明らかにした。
2)細胞由来タンパク質プロフィールを指標とする細胞特性の迅速・高感度解析法の開発:細胞由来タンパク質プロフィールを指標とする細胞特性の迅速・高感度解析法の開発を目指して、モデル細胞を用い、培養上清に分泌される増殖因子等をヘパリンカラムで濃縮し、イモビリン2次元電気泳動法により2次元上で分離したスポットを質量分析により解析する方法を確立した。さらに、細胞・組織加工医薬品の特性解析・品質評価法の開発を目的として、ゲル電気泳動法とキャピラリー液体クロマトグラフィー質量分析法(CapLC/MS)を組合せた手法を開発し、目的タンパク質の構造解析への適用について検討した。その結果、モデルタンパク質として取り上げた組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)の一次構造確認及び糖鎖を含む翻訳後修飾の解析に本法が有用であることを明らかにした。また、生体細胞・組織への適用についても検討したところ目的タンパク質の構造解析に応用可能であることを明らかにした。
3)細胞・組織のがん化を予測する評価技術の開発に関する研究:
細胞・組織のがん化を予測する評価技術開発に関する研究の一環として、hTERTプロモーター領域とルシフェラーゼ遺伝子とをつないだレポーター遺伝子のシスエレメントの解析を行い、c-mycの強制発現によりhTERTの転写活性化が起こることを明らかにし、これによりがん細胞特異的な本レポーター遺伝子の活性化は少なくともc-mycを介していることが示唆された。高分子材料を足場として用いる細胞・組織加工医療用具において、腫瘍形成に伴って大きく変動する遺伝子群を見出した。
4)細胞等による望ましくない免疫反応の検出技術開発に関する研究:
免疫隔離膜を用いてドナーラットの脾臓器官をレシピエントラットに移植した時の免疫隔離能を評価したところ、免疫隔離膜を使用しない移植に比較してTNF-?の産生が抑制されたことから、非特異的な免疫反応を部分的に抑制できることが明らかになり、免疫隔離膜が液性免疫の影響を評価する上で有用であることが示唆された。
5)細胞・組織由来目的生理活性タンパク質の新規体内動態解析法の開発研究:
細胞由来目的タンパク質の体内動態の新規評価法として、目的タンパク質にフルオレセイン誘導体FlAsH反応性のタグペプチドを結合させる方法を開発するとともに、モデルタンパク質としたTNF-?にタグペプチドを導入してもその細胞からの分泌性や生物活性が保持されていることを確認した。
6)幹細胞や前駆細胞を素材とする細胞・組織加工医薬品等の製造過程における品質・安全性確保技術や製品の評価方法に関する研究:
①幹細胞や前駆細胞を素材とする細胞・組織加工医薬品等の製造過程における品質・安全性確保技術や製品の評価方法に関する研究として、ヒト末梢血及び臍帯血AC133陽性細胞を用いた血管内皮細胞への分化誘導系を確立し、その分化誘導初期に出現するCD31強陽性細胞が血管内皮細胞への分化能を持つことを分化抗原の発現や管腔形成能から確認した。これにより、CD31の発現が血管内皮分化能を持つ細胞の優れた特性指標となることを明らかにした。②昨年度、肝幹細胞として細胞治療への応用が期待されている小型肝細胞の特性指標解析を行いアネキシンⅢが有用な指標となる可能性を見出していることから、本年度は免疫学手法を用いたアネキシンⅢの免疫化学的試験法の開発を行い、その妥当性を確認した。③細胞培養におけるスカフォールドの生分解性ポリマーがインスリンと異なる機構でヒト軟骨前駆細胞の分化誘導能を示すことを明らかにした。
結論
(1) Infectivity PCRを利用した感染性ウイルスの迅速・高感度検出法の開発を行った。(2) 細胞由来タンパク質プロフィールの迅速・高感度解析法の開発として、培養上清に分泌される増殖因子等をMFP法によりその帰属を決定する方法を確立した。また、CapLC/MSによる目的タンパク質の構造解析法は、細胞治療用細胞の品質評価法として有用であることが確認された。 (3) hTERTレポーター遺伝子のがん細胞株における転写活性化能について評価した結果、その有用性が確認された。(4) 新たに開発した免疫隔離膜が非特異的な免疫反応を防ぐことが明らかになり、細胞由来タンパク質等によって惹起される液性免疫の影響を評価する上で有用であることが示唆された。(5) 細胞由来目的タンパク質の体内動態の新規評価法として、目的タンパク質にFluorescein誘導体FLAsH反応性のタグペプチドを結合させる方法を開発するとともに、モデルタンパク質としてTNF-?にタグペプチドを導入してもその機能が保持されていることを確認した。(6) ヒト末梢血幹細胞及び臍帯血AC133細胞を用いた血管内皮細胞への分化誘導系を確立し、CD31の発現が血管内皮前駆細胞の優れた特性指標となることを見出した。また、肝幹細胞の特性指標と考えられるアネキシンⅢの免疫化学的試験法の開発を行った。さらに、細胞培養におけるスカフォールドの生分解性ポリマーがインスリンと異なる機構でヒト軟骨前駆細胞の分化誘導能を示すことを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
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