保健医療分野における研究評価のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200133A
報告書区分
総括
研究課題名
保健医療分野における研究評価のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
林 謙治(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 小山秀夫(国立保健医療科学院)
  • 土井徹(国立保健医療科学院)
  • 曽根智史(国立保健医療科学院)
  • 岡本悦司(国立保健医療科学院)
  • 三砂ちづる(国立保健医療科学院)
  • 緒方裕光(国立保健医療科学院)
  • 伊藤弘人(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究評価は、科学技術基本法に基づき策定された第1期科学技術基本計画および第2期科学技術基本計画において、優れた成果を生み出す研究開発システムの実現のために必要なシステムとして位置づけられた。平成13年には「国の研究開発評価に関する大綱的指針」が改定され、また『「厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針」の策定について』が通知されるとともに、総合科学技術会議においても「競争的研究資金制度改革について:中間まとめ(意見)」が公表され、公正で透明性の高い研究評価システムの確立が求められている。そこで、本研究では、保健医療分野の研究開発の評価方法に関する内外の実施状況の把握を行うことを目的として、研究評価の現状に関する調査を実施し、わが国における研究評価のあり方の方向性を論じた。
研究方法
研究内容は、研究評価に関する米英調査、研究評価に関する関連情報収集・分析、および研究助成後の研究課題の追跡調査からなる。保健医療分野の専門家による研究会議を開催し、進行状況の把握と調整を行いつつ、適宜専門家からの情報提供を受けながら実施した。研究評価に関する米英調査では、米国の国立健康研究所(National Institutes of Health: NIH) 、国立疾病管理・予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)、英国MRC(Medical Research Council)の研究評価方法の調査を実施した。研究評価に関する関連情報収集・分析は、インターネットによる検索、関係機関への聞き取り調査などにより、研究評価に関する資料の収集を行うとともに、システム分析等により、研究評価に関する基本的な考え方を整理した。研究助成後の研究課題の追跡調査については、厚生(労働)科学研究のヒトゲノム・遺伝子治療研究事業およびヒトゲノム・再生医療等研究事業の採択課題のうち、平成11~13年度までに事後評価が行なわれた43件に対して、自記式調査票を用いた郵送法で実施した。
結果と考察
(1)研究評価に関する米英調査に結果は次のとおりである。(1-1)米国の国立健康研究所の専門家によるグラント申請書の審査の特徴として、1. 外部の科学者で当該分野での研究実績の豊富な審査者が一堂に会し一定のルールに基づいて様々な意見を戦わせる点、2. reviewプロセス全体を通じて審査者に対する方針が極めて明確であるという点、3. 利害関係の排除と守秘の厳守に細心の注意を払っている点、が明らかになった。研究評価においてプログラムディレクターの役割が大きかった。また事前評価に重点が置かれていることが明らかになった。研究助成は大きく2種類に分類されていた。一つはNIH内部の研究者に対するものでintramuralと呼ばれ、NIH予算の10%が充てられている。二つ目はextramuralと呼ばれ、全国の大学や病院、研究所に対するものでこれは予算の78%(US$20-22bilion)を占めている。NIHにおいては、研究評価にたずさわる専門家はScientific Review Administrator(SRA)と呼ばれ、審査者の選定、審査委員会の運営、summary statementの執筆などにあたっている。その数はreviewのための機関であるCenter for Scientific Reviewに百数十名、各instituteに数名ずつで、合計200~300名が配置されていた。(1-2)国立疾病管理・予防センターが配分している研究費は主に契約型とグラント型の2種類に分けられ、金額及び件数の両面で前者が多くの割合を占めていた。研究費交付可否を決定する際、申請された研究テーマのニーズ、研究計画の妥
当性など、複数の観点から厳密な評価が行われている。ただし、評価基準については、契約型とグラント型とでは重点の置き方が明らかに異なる。また、CDCにおける研究評価のプロセスは明確な形でマニュアル化されており、全体として首尾一貫したシステムとなっている。CDCにおいて研究評価にたずさわる専門家はプログラムオフィサーと呼ばれている。その数は、11あるCDCの各センターに数名ずつ、CDC全体で合計数十名が配置されていた。(1-3)英国MRCにおいては、研究評価をマネージメントする専門的なプログラムマネージャーの存在が大きかった。また、評価システム自体、ピアレビューを基本としているが、評価項目、委員の選定などにおいて、経験をつみあげて改良を加える「学習型」システムであることが伺われた。(2)研究評価に関する関連情報収集・分析により、各領域で研究評価のシステムが開発されていることが明らかになった。研究助成のシステム分析では、PERT (program evaluation and review technique)が適しており、その手法の1つであるクリティカルパスを求めること試みた。しかし、現在公表されている資料ではデータが不足していて実施できないことが判明した。ただし、対象となった研究助成において、審査する段階数、項目数、人数等に違いがあることは明らかになった。審査をより良好なものにするためには、評価基準の軸(新規性、独自性、行政的必要性など)に対する検討、たとえば、新規性について審査するグループ、緊急性について審査するグループ等、評価基準の軸ごとに審査し、それを合算する方法も検討する必要があると考えられた。(3)研究助成後の研究課題の追跡調査の結果、わが国における厚生労働科学研究助成を受けて実施された研究成果の社会への総合的なインパクトは、79%が「大いにあった」、「あった」と回答しており、「少しあった」を含めると全員がインパクトがあったと回答していた。なお、治療成績が向上した、診療ガイドラインに反映された、医療に関連する法律や規則に反映されたとの回答は少なかった。また、現在の研究評価が、新しい発見や解明を基準にした一元的な視点に基づいているとの指摘があった。(4)保健医療分野における研究評価について考えることを目的として、「保健医療分野における研究評価」に関するワークショップを、研究班外の専門家を招いて、平成15年3月18日(火)に国立保健医療科学院白金庁舎で開催した。
本研究から、米英の研究評価におけるそれぞれの要素については、すでに日本の保健医療分野における研究評価にも何らかの形で存在することが明らかになった。たとえば厚生労働科学研究においても、審査プロセスは明確化され評価に利害関係者が入らぬように改善の努力が続けられ、国民への説明責任を果たすために採択された研究課題名等はインターネットで情報提供がなされ、研究企画官やプログラムオフィサーの整備が進められている。
しかし同時に、わが国の保健医療分野における研究評価のあり方のおける最大の課題として、研究評価活動が「系統的に組織されていない」という点に集約されることも明らかになった。たとえば、NIHでは内部の研究者へのintramuralな研究助成と、全国の大学や病院、研究所に対するextramuralな研究助成が分離されている。また、グラント型と契約型の研究助成は、NIHにおいてもCDCにおいても分離されている。一方、わが国においてはグラント型と契約型の研究助成は実質的には分離されているが、米国ほど系統的に分離され組織・運営されているわけではない。わが国の研究評価は、それぞれの要素を、より厳密に行う努力が求められているのである。この努力には想像以上のエネルギーが必要となる。たとえば本研究で把握した米国のNIHとCDCだけでも、保健医療分野に数百人の研究評価の専門家が配置されていることがわかった。わが国においても研究企画官やプログラムオフィサーを任命する方向で施策が進められているが、研究評価における先進国と同等の研究評価の仕組みを構築するには現在の整備の速度では不十分であり、米英に肩を並べる研究評価体制を整備することは、現実的に不可能な現状であるといわざるを得ない。「科学立国」をうたうわが国において、研究の基盤を整備することは、最重要の課題であることは論を待たない。科学立国を支える研究を適切に評価し支援するためには、研究評価システムの整備、特に研究評価の専門家の整備と養成は急務である。
結論
米国研究所への訪問調査や国内専門家への聞き取り調査などを行いわが国の保健医療分野における研究評価の方向性を論じた。本研究により米英の研究評価におけるそれぞれの要素は、わが国の保健医療分野における研究評価制度において、何らかの形で位置付けられていた。しかし米英と比較して日本の研究評価では、これらの要素が「系統的に組織されていない」という点が大きな課題であることが明らかになった。科学立国をめざすわが国において、その基盤となる研究評価体制を改善するためには、研究評価の専門家の確保と養成は火急の課題である。

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