文献情報
文献番号
200101016A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病進展予防のための疾病管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
武田 倬(鳥取県立中央病院)
研究分担者(所属機関)
- 池上直己(慶應義塾大学医学部)
- 坂巻弘之(財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
糖尿病は、生涯にわたる疾患であり、とりわけ2型糖尿病は、その発症と生活習慣とには密接な関係があるとされ、糖尿病発症予防のために日常生活の改善が重要であり、罹患予防のために住民への教育・啓蒙が重要である。また、検診による早期発見により、糖尿病の疑いがある住民を適切に医療機関への受診に結びつける必要があるとともに、糖尿病発症後の適切な血糖コントロールや合併症予防のためにも、患者が糖尿病に対して正しい知識をもち、セルフケアにつながるようなコメディカルスタッフによる啓発が重要である。網膜症をはじめとするさまざまな糖尿病合併症を予防するためには、かかりつけ医における定期的な受診とともに、眼科医や糖尿病専門医との連携による合併症予防のための検査・診療なども行われなくてはならず、かかりつけ医-専門医間および職種間の役割分担や連携が必要な疾患である。
医療機関多職種間の連携が適切に行われるためには、連携がなされる医療機関や職種間で一定のルールを定めておくことが必要になる。このルールは、診療ガイドラインあるいはガイドラインをもとにしたマニュアルの形で提供される。さらに患者・住民への教育・啓蒙のための教育ツールについても、ガイドラインをもとに、糖尿病の病状に合わせて作成、適用される。このような、ある特定の疾病を対象に、患者・住民のセルフケアのための教育とともに、診療ガイドラインをもとに医療関係者の教育を重視するアプローチは「疾病管理」(Disease Management)とよばれている。わが国では、疾病管理の概念も十分浸透しておらず、その取り組みも限定されている。
しかしながら、島根県安来・能義地域(安来市、広瀬町、伯太町)においては、平成10年から糖尿病手帳を情報共有化の手段とし、さまざまな介入ツール、診療マニュアル等による診療、紹介の標準化を進め、地域における糖尿病疾病管理の取り組みを行ってきている。そこで、本研究においては、糖尿病に対する疾病管理の効果を明らかにするとともに、地域での病疾病管理を実施する上での諸課題を明らかにすることを目的として研究を実施した。
医療機関多職種間の連携が適切に行われるためには、連携がなされる医療機関や職種間で一定のルールを定めておくことが必要になる。このルールは、診療ガイドラインあるいはガイドラインをもとにしたマニュアルの形で提供される。さらに患者・住民への教育・啓蒙のための教育ツールについても、ガイドラインをもとに、糖尿病の病状に合わせて作成、適用される。このような、ある特定の疾病を対象に、患者・住民のセルフケアのための教育とともに、診療ガイドラインをもとに医療関係者の教育を重視するアプローチは「疾病管理」(Disease Management)とよばれている。わが国では、疾病管理の概念も十分浸透しておらず、その取り組みも限定されている。
しかしながら、島根県安来・能義地域(安来市、広瀬町、伯太町)においては、平成10年から糖尿病手帳を情報共有化の手段とし、さまざまな介入ツール、診療マニュアル等による診療、紹介の標準化を進め、地域における糖尿病疾病管理の取り組みを行ってきている。そこで、本研究においては、糖尿病に対する疾病管理の効果を明らかにするとともに、地域での病疾病管理を実施する上での諸課題を明らかにすることを目的として研究を実施した。
研究方法
研究は、大きく4つのサブテーマを実施した。
①登録患者を対象とした疾病管理の評価に関する研究:平成11年以降、平成13年12月末日までに安来・能義地域糖尿病管理協議会に参加している医療機関を受診し、登録された患者698名を対象とした。検査値、合併症、診療内容等については糖尿病手帳から転記・入力されたデータセットを用い、日常生活、QOL等についてはアンケートでの調査を行った。本調査においては、患者に対して、あらかじめ安来・能義地域における糖尿病管理システムについての説明を行い、糖尿病手帳に記載されているデータが記録・管理されることについての同意が取得されている。調査項目は以下の通り。登録後の検査値の変化、糖尿病合併症の罹患あるいは合併症重症度の変化についての検討。診察回数、検査回数、教育などの回数と検査値や合併症罹患・重症度変化との関係についての検討。日常生活と糖尿病病状との関係の検討。QOLについて、病状、日常生活などとの関係の検討。
②地域における生活習慣リスクの検討と糖尿病予防対策についての研究:安来・能義地域3市町の住民台帳から無作為に抽出された20歳から69歳までの住民4,520名を対象に、生活習慣、糖尿病やその他の疾患罹患有無、治療状況、検診受診状況、生活習慣病に対する知識、QOL等を盛り込んだアンケート用紙を送付した。
③糖尿病モデルの検討:地域の一次予防から三次予防までの流れを明らかにするために、糖尿病の管理に関連する諸要素を明らかにし、モデル化を検討する。①ならびに②のデータを参考にモデル化の検討を行った。
④糖尿病教育介入のためのツールの開発とその評価に関する研究:携帯情報端末機器システム(ウェルナビ)は患者が食事を写真撮影し、これを即時にセンターに転送することによって、カロリーと食品バランスが分析されて返送されるシステムである。このシステムを使用して、患者の食事療法に対する意識、行動、血糖コントロールがどう変わるかを検討した。
①登録患者を対象とした疾病管理の評価に関する研究:平成11年以降、平成13年12月末日までに安来・能義地域糖尿病管理協議会に参加している医療機関を受診し、登録された患者698名を対象とした。検査値、合併症、診療内容等については糖尿病手帳から転記・入力されたデータセットを用い、日常生活、QOL等についてはアンケートでの調査を行った。本調査においては、患者に対して、あらかじめ安来・能義地域における糖尿病管理システムについての説明を行い、糖尿病手帳に記載されているデータが記録・管理されることについての同意が取得されている。調査項目は以下の通り。登録後の検査値の変化、糖尿病合併症の罹患あるいは合併症重症度の変化についての検討。診察回数、検査回数、教育などの回数と検査値や合併症罹患・重症度変化との関係についての検討。日常生活と糖尿病病状との関係の検討。QOLについて、病状、日常生活などとの関係の検討。
②地域における生活習慣リスクの検討と糖尿病予防対策についての研究:安来・能義地域3市町の住民台帳から無作為に抽出された20歳から69歳までの住民4,520名を対象に、生活習慣、糖尿病やその他の疾患罹患有無、治療状況、検診受診状況、生活習慣病に対する知識、QOL等を盛り込んだアンケート用紙を送付した。
③糖尿病モデルの検討:地域の一次予防から三次予防までの流れを明らかにするために、糖尿病の管理に関連する諸要素を明らかにし、モデル化を検討する。①ならびに②のデータを参考にモデル化の検討を行った。
④糖尿病教育介入のためのツールの開発とその評価に関する研究:携帯情報端末機器システム(ウェルナビ)は患者が食事を写真撮影し、これを即時にセンターに転送することによって、カロリーと食品バランスが分析されて返送されるシステムである。このシステムを使用して、患者の食事療法に対する意識、行動、血糖コントロールがどう変わるかを検討した。
結果と考察
以下の結果を得た。
①登録患者を対象とした疾病管理の評価に関する研究:登録後1回以上の診察を受け解析対象となった患者は、585名であった。患者背景をみると、性別では、男337名(57.6%)、女248名(42.4%)であり、発症時年齢は、平均52.0歳で、50歳台での発症が最も多かった。登録後、1回以上観察されている患者は、476名であり、これらの治療内容は、内服薬の服用割合が観察期間とともに増加している傾向が観察された。登録後の検査値の変動については、体重、BMI、空腹時血糖、HbA1cそれぞれについて改善傾向が認められた。合併症重症度の推移では、観察期間と網膜症進展に関する明確な関係はみられず、腎症については、観察期間が延びるに従い、臨床的腎症の割合が増加する傾向が観察された。
アンケートへの回答数は423名であったが、糖尿病手帳データと突合できたものは、348名分であった。患者の日常生活の自己管理、治療への遵守は一部血糖コントロールと相関が認められたが、必ずしも自己管理や食生活が血糖コントロールと相関しているとはいえない。しかし、これは、本研究が断面調査であるため、血糖コントロールが悪い患者がむしろ日常生活の管理や食生活の改善につとめている可能性が高く、そのため相関が認められなかったものと推察される。一方、調査時点のHbA1c、BMI、EQ-5Dより算出したQOLスコア(効用値)、PAIDスコア、食生活スコアのそれぞれについて相関係数を求めた。HbA1cとBMIとの間に有意な相関が認められたが、検査値とQOLスコアならびに検査値と食生活スコアとの間には相関は認められなかった。QOLスコアとPAIDスコアとの間には有意な相関が認められ、PAIDスコアと食生活スコアとの関係では、食生活スコアが悪くなるに従ってPAIDスコアも悪くなり、有意な相関が認められた。
②地域における生活習慣リスクの検討と糖尿病予防対策についての研究:糖尿病に罹患しているものは、生活習慣、検診受診状況は、糖尿病に罹患していないものに比べ良好である。しかしながら、食生活をみると、糖尿病に罹患していないもののうち、44.9%が「少し問題ある」、7.7%が「問題が多い」と回答しており、同地域の40歳以上住民の40%が食生活になんらかの問題をかかえている。検診についても、糖尿病と診断されたことのあるものは、78.2%が毎年基本検診を受けており、糖尿病との診断を受けたことがないものの71.4%が毎年受けているのに対し、受診率が高かった。検診を受診したことのないものは、糖尿病との診断を受けたことがないもので14.3%あり、地域40歳以上住民のうち約2,400人程度と推計される。糖尿病と診断されたことのあるもののうち、現在治療を受けているものは、28%、1,300人であり、境界域とされたものも含め、治療の必要性を明らかにした上で継続的な治療への意向を促す仕組みが重要であり、生活習慣の改善を含め、地域での糖尿病対策の重要性が確認された。糖尿病のうち2型糖尿病は生活習慣との関連が深く、糖尿病対策として地域住民への一層の啓蒙の必要性が考えられた。
③糖尿病モデルの検討:海外で作成された糖尿病モデルを参考にマルコフモデルの作成を試みた。海外で1型糖尿病について作成されたものとしては、合併症として、網膜症、腎症、神経障害をとりあげているが、安来・能義地域では、神経障害についてスコア化していないため、神経障害を除き、暫定的なモデルの作成を試みた。ただし、全国で実施されている国民栄養調査、国民生活基礎調査の公表データは断面調査であるため、各状態間の移行確率に関するデータが得られず、シミュレーションにまでは至っていない。
④糖尿病教育介入のためのツールの開発とその評価に関する研究:同意の得られた糖尿病患者18例について2群に分け、ウェルナビを使って食事療法を6か月継続する群とコントロール群にした。結果の評価法としては、食事意識調査、HbA1cを用い、調査開始前、開始後1-1.5か月、終了時のデータを比較した。食事意識調査は、食事の際に総カロリー、栄養バランス、菜量にどの程度注意しているかを尋ねるものであり、「大変気をつけている」を3点、「全く気にしていない」を0点として、12点満点で評価した。ウェルナビ実施群7例のスコアは前値6.1から1か月後9.8と改善。非実施例9例では前値7.3から後値8.1で有意差が見られなかった。また改善度について有意な群間差が認められた。ウェルナビ実施群7例のHbA1cは前値7.65%から1か月後7.43%と改善。非実施例11例では前値7.51%から後値7.63%で有意差が見られなかった。
①登録患者を対象とした疾病管理の評価に関する研究:登録後1回以上の診察を受け解析対象となった患者は、585名であった。患者背景をみると、性別では、男337名(57.6%)、女248名(42.4%)であり、発症時年齢は、平均52.0歳で、50歳台での発症が最も多かった。登録後、1回以上観察されている患者は、476名であり、これらの治療内容は、内服薬の服用割合が観察期間とともに増加している傾向が観察された。登録後の検査値の変動については、体重、BMI、空腹時血糖、HbA1cそれぞれについて改善傾向が認められた。合併症重症度の推移では、観察期間と網膜症進展に関する明確な関係はみられず、腎症については、観察期間が延びるに従い、臨床的腎症の割合が増加する傾向が観察された。
アンケートへの回答数は423名であったが、糖尿病手帳データと突合できたものは、348名分であった。患者の日常生活の自己管理、治療への遵守は一部血糖コントロールと相関が認められたが、必ずしも自己管理や食生活が血糖コントロールと相関しているとはいえない。しかし、これは、本研究が断面調査であるため、血糖コントロールが悪い患者がむしろ日常生活の管理や食生活の改善につとめている可能性が高く、そのため相関が認められなかったものと推察される。一方、調査時点のHbA1c、BMI、EQ-5Dより算出したQOLスコア(効用値)、PAIDスコア、食生活スコアのそれぞれについて相関係数を求めた。HbA1cとBMIとの間に有意な相関が認められたが、検査値とQOLスコアならびに検査値と食生活スコアとの間には相関は認められなかった。QOLスコアとPAIDスコアとの間には有意な相関が認められ、PAIDスコアと食生活スコアとの関係では、食生活スコアが悪くなるに従ってPAIDスコアも悪くなり、有意な相関が認められた。
②地域における生活習慣リスクの検討と糖尿病予防対策についての研究:糖尿病に罹患しているものは、生活習慣、検診受診状況は、糖尿病に罹患していないものに比べ良好である。しかしながら、食生活をみると、糖尿病に罹患していないもののうち、44.9%が「少し問題ある」、7.7%が「問題が多い」と回答しており、同地域の40歳以上住民の40%が食生活になんらかの問題をかかえている。検診についても、糖尿病と診断されたことのあるものは、78.2%が毎年基本検診を受けており、糖尿病との診断を受けたことがないものの71.4%が毎年受けているのに対し、受診率が高かった。検診を受診したことのないものは、糖尿病との診断を受けたことがないもので14.3%あり、地域40歳以上住民のうち約2,400人程度と推計される。糖尿病と診断されたことのあるもののうち、現在治療を受けているものは、28%、1,300人であり、境界域とされたものも含め、治療の必要性を明らかにした上で継続的な治療への意向を促す仕組みが重要であり、生活習慣の改善を含め、地域での糖尿病対策の重要性が確認された。糖尿病のうち2型糖尿病は生活習慣との関連が深く、糖尿病対策として地域住民への一層の啓蒙の必要性が考えられた。
③糖尿病モデルの検討:海外で作成された糖尿病モデルを参考にマルコフモデルの作成を試みた。海外で1型糖尿病について作成されたものとしては、合併症として、網膜症、腎症、神経障害をとりあげているが、安来・能義地域では、神経障害についてスコア化していないため、神経障害を除き、暫定的なモデルの作成を試みた。ただし、全国で実施されている国民栄養調査、国民生活基礎調査の公表データは断面調査であるため、各状態間の移行確率に関するデータが得られず、シミュレーションにまでは至っていない。
④糖尿病教育介入のためのツールの開発とその評価に関する研究:同意の得られた糖尿病患者18例について2群に分け、ウェルナビを使って食事療法を6か月継続する群とコントロール群にした。結果の評価法としては、食事意識調査、HbA1cを用い、調査開始前、開始後1-1.5か月、終了時のデータを比較した。食事意識調査は、食事の際に総カロリー、栄養バランス、菜量にどの程度注意しているかを尋ねるものであり、「大変気をつけている」を3点、「全く気にしていない」を0点として、12点満点で評価した。ウェルナビ実施群7例のスコアは前値6.1から1か月後9.8と改善。非実施例9例では前値7.3から後値8.1で有意差が見られなかった。また改善度について有意な群間差が認められた。ウェルナビ実施群7例のHbA1cは前値7.65%から1か月後7.43%と改善。非実施例11例では前値7.51%から後値7.63%で有意差が見られなかった。
結論
糖尿病に対する疾病管理の取り組みとして島根県安来・能義地域の取り組みの評価を行い、登録後患者についての検査値等の改善傾向が認められたが、継続的な改善のためには集団を対象とした効果的な教育介入ツールの開発が必要である。また、介入効果を客観的に評価する必要があるが、地域の一般集団・患者を対象としていることから、厳密なランダム化試験は困難であり、標準的な糖尿病モデルの作成を行い、それと地域で得られたデータとの比較が必要である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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