新生児及び乳幼児のMRSA感染等の院内感染のリスク評価及び対策に関する研究

文献情報

文献番号
200100998A
報告書区分
総括
研究課題名
新生児及び乳幼児のMRSA感染等の院内感染のリスク評価及び対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
武澤 純(名古屋大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所)
  • 北島博之(大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 中村友彦(長野県立こども病院新生児科)
  • 宮澤廣文(国立国際医療センター)
  • 近藤 乾(福岡市立こども病院新生児科)
  • 志賀清悟(順天堂伊豆長岡病院新生児センター)
  • 側島久典(名古屋第二赤十字病院新生児科)
  • 堀内 勁(聖マリアンナ医科大学西部病院周産期センター)
  • 茨 聡(鹿児島市立病院周産期医療センター)
  • 一山 智(京都大学大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①厚生労働省院内感染サーベイランス事業として平成14年度の開始が予定されているNICU部門の入力項目、分析方法、出力項目、および臨床指標のサーバー管理システムを確立する、②研究班参加施設に限定して、院内感染対策の施設間比較を行う方法の確立および院内感染発生のリスク因子の確定を行う、③わが国のNICUでの院内感染対策の基盤整備を行うことの3点を目的とした。
研究方法
平成12年7月から開始されている厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業ICU部門および米国NNIS/CDCのNICUサーベイランスシステムを参考にして、NICU部門で収集するデータの入力項目、解析方法、出力項目およびサーバー管理システムを確定した。次に、研究班参加施設を対象にNICUでの院内感染対策の施設間比較の方法を確定し、加えて、院内感染のリスク因子をこれまでの論文や研究報告から抽出し、その解析のために入力項目の確定を行った。最後にNICUにおける院内感染対策の基盤整備に関する予備的研究としてNICUにおける院内感染対策の基盤整備に関する予備的調査を行った。
結果と考察
厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業NICU部門の院内感染対策に関する入力項目と臨床指標を以下の様に確定した。
リスクで調整した感染率:人工呼吸器関連肺炎=(肺炎患者数/人工呼吸器装着日)x1000、中心静脈カテーテル関連血流感染=(中心静脈関連血流感染患者数/中心静脈カテーテル留置日数)x1000、尿道カテーテル関連尿路感染=(尿路感染患者数/尿道カテーテル留置日)x1000、全感染=(人工呼吸器関連肺炎患者数+中心静脈カテーテル関連血流感染患者数+尿道カテーテル関連尿路感染患者数)/人工呼吸器装着日+中心静脈カテーテル留置日+尿道カテーテル装着日)x1000
重症度分類から見た患者生命予後への影響:体重別入室患者数(感染・非感染)、体重別感染患者率(感染患者数/全患者数)、体重別のリスクで調整した感染率(人工呼吸器関連肺炎・カテーテル関連血流感染・尿道カテーテル関連尿路感染)、体重別生命予後(薬剤耐性菌感染・薬剤感性菌感染・非感染)、CRIBスコアー別生命予後(薬剤耐性菌感染・薬剤感性菌感染・非感染)
究班参加施設で収集する院内感染のリスク因子を以下のように確定した。
施設/環境など衛生管理に関するリスク因子の抽出:設計・構造に関するもの(NICU全体の床面積、病床面積、1病床あたりの面積、病床間距離、換気回数、空気清浄度)、人員の配置に関するもの(勤務時期帯別人員配置、衛生管理に関するもの(クベース消毒法、手洗い/手袋、カンガルーケア、積極的常在菌接種法)、感染管理教育に関するもの(マニュアル、教育モジュール、抗菌薬のDDD)
研究班参加施設に限定した院内感染対策の施設間比較法の以下のように確定した。
体重別入室患者数(感染・非感染)、体重別感染患者率(感染患者数/全患者数)、体重別のリスクで調整した感染率(人工呼吸器関連肺炎・カテーテル関連血流感染・尿道カテーテル関連尿路感染)、体重別生命予後(薬剤耐性菌感染・薬剤感性菌感染・非感染)、CRIBスコアー別生命予後(薬剤耐性菌感染・薬剤感性菌感染・非感染)、体重別MRSA患者率(MRSA感染/全感染患者数)、体重別のリスクで調整したMRSA感染率(人工呼吸器関連肺炎・カテーテル関連血流感染・尿道カテーテル関連尿路感染)、体重別MRSA生命予後(MRSA感染・非MRSA薬剤耐性感染・薬剤感性菌感染・非感染)、CRIBスコアー別MRSA生命予後(MRSA感染・非MRSA薬剤耐性菌感染・薬剤感性菌感染・非感染)
分担研究者のNICUの院内感染対策に関する基盤整備の予備的研究結果は以下のごとくである。
大学病院のNICUにおける検体材料からの細菌分離状況と薬剤耐性菌の出現状況(一山):平成13年の1年間に京都大学病院NICUに入室した患者から分離された分離細菌とその薬剤耐性化状況を検討した。1年間で831株が検出され、CNS 340株、MRSA 132株、腸球菌 67株、の順であり、MRSAは黄色ブドウ球菌の約80%であった。また、多剤耐性のEnterobacter cloacae、Burkhoderia cepacia、Sternotophomonous maltophiliaも一定程度検出され、これらの耐性菌に対する監視・対策も重要である。
NICUの環境整備の院内感染に及ぼす影響(茨):鹿児島市立病院新生児センターが平成12年4月の増改築(60床/NICU12床→80床/NICU32床)に当たって、NICUの環境整備が院内感染に及ぼす影響について検討した。増改築以前(平成11年1月?12月)と増改築以降(平成13年1月?12月)の、細菌培養検査の結果を比較した。その結果、増改築以前で細菌検出は1762/2235(78%)であったのが、増改築後には1211/1946(62%)に低下した。MRSAの検出は321名(14%)から247名(12%)にわずかに低下した。NICUにおける環境整備は細菌検出率の低下につながったが、MRSAの検出率の低下には結びつかず、MRSAには別の方策が必要である。
NICUにおける院内感染事例データベースの作成(近藤):わが国では院内感染に関する症例報告は外国文献、日本語文献にかかわらずデータベース化されていない。そこで、NICUにおける院内感染の論文検索をPubMedで行い、そのデータベース化を試みた。このデータベース化はNICUだけではなく、今後他の部門へと拡大していくことが望まれる。
早産児に対するプロバイオティックスとしてのビフィズス菌投与による腸内細菌叢への影響および院内感染予防(志賀):在胎37週未満で出生した早産時に対してBifidobacterium breveの投与を行い、腸内細菌叢、特にBifidobacterium floraについて検討を加えた。その結果、1) 早産児におけるBifidobacterium floraの形成は正期産児に比べ遅れた。2) 在胎週数とBifidobacterium flora初回検出日齢とは負の相関を示した。従って、在胎28週以上の児においてはビフィズス菌製剤の投与開始時期はBifidobacterium floraの形成に大きな影響を与えないが、在胎28週未満においては投与開始時期、投与方法など、さらなる検討を要する。
超低出生体重児の上気道常在細菌叢の獲得とMRSA保菌に関する検討(中村):MRSA感染症が発生した場合に重症化しやすい出生体重1000g未満の超低出生体重児について、上気道常在細菌叢の獲得とMRSA保菌に関する検討を行った。超低出生体重児のうち生後7日以内に上気道に常在細菌が確立した児は、確立しなかった児に比べて有意にその後のMRSA保菌率が低く、常在菌叢の確立がMRSA定着阻止に重要な役割を果たしていることが判明した。また、常在菌叢の確立した群では生後早期の口腔内母乳塗布が行われており、この方策の有効性が示唆された。
医療従事者の鼻腔MRSAと陽性者へのムピロシン軟膏塗布後の追跡に関する研究(側島):平成9年から4年間、病院職員のMRSA保菌率調査を行い、保菌者には鼻腔内にムピロシン投与を行い、追跡調査を行った。全体での鼻腔MRSA保菌率は10%から、除菌対策を行うことによって6%台に減少した。
新生児集中治療室(NICU)における院内感染危険因子サーベイランスに関する研究(北島):新生児医療連絡協議会に所属する施設へ超出生体重児の院内感染に関するアンケート調査を行い、リスク因子に関する調査を行った。MRSA感染率の高い病院では、VLBWの総感染率が高い、MRSA保菌患児の治療が少ない、保菌職員の治療が多い、処置における手袋使用率が低い、児に使用する器具の個別化率が高い、手洗い消毒剤としてヨード・オゾン水の使用率が低い、保育器終末消毒の実施率も低いなどが浮かび上がってきた。今回の調査で得られたリスク因子も研究班のリスク因子サーベインスに組み込むこととした。
NICUで院内感染を引き起こす細菌に関する検討(荒川):NICUにおける院内感染論文の検索をPubMedから行った。新生児においては、MRSAを含むブドウ球菌属に関する論文が多数報告されていたが、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の報告は少なかった。連鎖球菌では、肺炎球菌よりGBSであるS. agalactiaeに関する報告が多く、本菌は新生児髄膜炎の起因菌であるため警戒すべき菌種と考えられる。Clostridium difficileに関する論文も見られるため警戒が必要である。他方、緑膿菌や肺炎桿菌、大腸菌などのグラム陰性桿菌による新生児院内感染に関する論文はMRSAよりも多く、今後これらのグラム陰性桿菌による新生児室や未熟児室における院内感染にも十分注意を払う必要がある。
パルスフィールド電気泳動法を用いたNICUにおけるMRSA感染の病院疫学調査(宮澤):国立国際医療センターNICUでMRSAによる院内感染の疫学調査をパルスフィールド電気泳動法を利用して行った。1999年代の未熟児室でのMRSA感染は同一菌株による流行が多かった。2001年4月より9月ごろまで未熟児室においてMRSAの院内感染と思われる流行があったが、未熟児室の感染流行は長期保菌者の存在と、産科病棟の流行が関与していたことが判明した。
出生直後のカンガルーケアがNICU入院児の細菌感染症に及ぼす影響(堀内):カンガルーケアと呼ばれる、出産直後の母子のskin to skin contact を行うことが健常細菌叢形成を促進するかを観察した。その結果、母体の細菌叢の一部が確実に新生児に伝達されることが示された。
結論
平成14年度から開始される予定の厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業NICU部門の概要を確定した。また、研究班参加施設に限ってNICUにおける院内感染のリスク因子を検討するための入力項目の確定および施設間比較の臨床指標を確定した。加えて、NICUにおける院内感染対策の基盤整備に関する予備的調査研究を行った。

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