エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100750A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
大石 敏寛(特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会)
研究分担者(所属機関)
  • 大石敏寛(特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会)
  • 風間孝(特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会)
  • 柏崎正雄(特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会)
  • 菅原智雄(特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会)
  • 稲場雅紀(特定非営利活動法人 動くゲイとレズビアンの会)
  • 嶋田憲司(せかんどかみんぐあうと)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
男性の同性愛者/両性愛者/MSM(以下、同性愛者等)への普及啓発において、NGOを積極的に活用するモデルを全国規模で提示し、同性間の個別施策層対策のあり方を研究・提言する。各地域が同性愛者等への普及啓発に取り組むに当たり、必要な方法論/データを導き、効果評価を含めた普及啓発の実践例をモデル化する。
本研究班の分担(1~4)は以下のように関連している。まず「研究2」で、男性同性愛者のHIV感染リスク規定要因を明らかにするため、リスク・アセスメントを行う。その結果を踏まえ、予防介入方法を開発し、実施するとともに効果評価を行う(研究3)。普及啓発を行う上での課題(方法論、人材、資材、等)を克服してゆく手段としてNGOの連携モデル(研究1)、およびNGO行政間の連携モデル(研究4)を開発する。また特別研究として「研究5 HIV感染者/エイズ患者の人権侵害事例の対応方法及び相談窓口普及に関する研究」と「研究6 学校現場におけるHIV感染者/エイズ患者の人権教育に関する研究」を併せて実施した。
研究方法
1.NGO連携モデルの構築。平成12年度の研究地域である関東に加え、新規対象地域として北海道(札幌)、東北(仙台)、四国(松山)、九州(福岡)、沖縄(那覇、沖縄)の5地域を設定し、研究や啓発を担う体制づくりを進めた。
2.同性愛者等の知識・性行動・リスク要因に関する研究(リスク・アセスメント)。リスク・アセスメントの実施にあたっては、欧米の行動科学研究において採用されている社会-心理的アプローチを参照した。質問票の開発ではリスク要因の仮説づくりにフォーカス・グループ・インタビュー(22名)を用いた。質問票の調査項目は、属性、知識、準備・意図、行動実践、誘発要因、スキル(交渉技術)、生活環境、社会背景、自己効力感の9つの観点から構成した。
3.予防啓発手法に関する研究。リスク・アセスメント結果をもとに啓発の方向性を全国・地域レベルで整理した。啓発形態を「個人レベル」「小グループ・レベル」「コミュニティ・レベル」の3類型に整理し、啓発手法の開発、パイロット実施を行った。
4.行政サービスとの連携に関する研究。NGOと行政の連携として、行政との共同主催で男性同性愛に焦点化した保健医療従事者向けの研修事業を実施し、効果評価を行った。具体的にはエイズ研修会参加者に質問票を配布し、効果評価を行った。
5.HIV感染者/エイズ患者の人権侵害事例の対応方法及び相談窓口普及に関する研究。(1)HIV感染者・エイズ患者からの人権・法律関係の相談事例に関する検討、(2)相談機関および解決方法の検討、(3)情報普及/広報のあり方の検討、を行った。
6.学校現場におけるHIV感染者/エイズ患者の人権教育に関する研究。2001年4月~12月にかけ国立6大学の協力を得て調査を実施した。うち3大学はHIV感染者による介入群、1大学を大学教員による介入群、2大学を統制群とした。
結果と考察
1.NGO連携モデルの構築。札幌、仙台、東京、松山の4地域でアセスメント調査の実施、介入実施に向けた支援(エンパワメント)、予防啓発手法の共同開発を行った。2.同性愛者等の知識・性行動・リスク要因に関する研究(リスク・アセスメント)。2001年6月~11月にかけ4地域で、同性愛者向けのバーの利用者およびコミュニティ・サークルの参加者を対象に、質問票調査を実施した(回収数341)。札幌、松山、東京、全体ごとに、調査項目とリスク行動との相関係数を算出した。リスク行動との相関係数が高かったのは、主張スキルの乏しさ、(コンドーム使用に関する)周囲規範の乏しさ、行動変容意図の乏しさ、魅力・快感への弱さ、エイズへの関心の乏しさだった。またリスク行動および主張スキルを従属変数とするパス解析を行った。6つの独立変数(自己効力感、周囲規範、環境、魅力・快感、行動変容意図、主張スキル)によってリスク行動を説明できた割合(決定係数)は、R2=0.51であった。
3.予防啓発手法に関する研究。「個人レベル」の介入として開発したSTD情報ページは、インターネット上でのゲイのためのSTD情報を提供するホームページとして企画され、平成13年度にアップロードした。「小グループレベル」の介入として開発した「ライフガード2002」(ワークショップ)を2002年2月9日に川崎市後援のもと、パイロット実施した(参加者13人)。内容は、(1)参加者間の自己紹介、(2)HIVの基礎知識とHIV感染リスクの自己評価、(3)コンドームについての態度変容(コンドーム・イメージの改善に役立つような9種類のコンドームを紹介し、実物に触れてもらう)、(4)セイファーセックス・スキルを共有するケース・スタディ(ゲイどうしのセックスを前提に、予防行動の際に直面する15の事例を用意し、それについての対処法を出してもらうとともに、事前に準備した対処法を紹介した)、の4部構成とした。その結果、知識項目、コンドーム使用意識、自己効力感においてプレ調査とポスト調査の間で有意な差が見られ、HIV感染を避けるテクニックの認知についてはプレ調査とポスト調査、フォローアップ調査の間に有意な差が見られた。「コミュニティ・レベル」の介入として、「Brush Up! Safer Sex」と題するパンフレットを横浜市と共同で作成した。内容は関東地域でのリスク・アセスメント調査結果によって特定された啓発領域の上位5つをもとにした。
4.行政サービスとの連携に関する研究。今年度、当研究班が協力した医療従事者向けエイズ研修事業は、静岡県主催、東京都主催、沖縄県および県医師会主催、福岡県主催の4回であった。医療者研修の結果から、研修プログラム内容は、参加者がエイズ診療のなかで役立つ情報を提供し、それが今後の診療時に男性同性愛者に対してケアをする際の自信につながる可能性があることが示唆された。
5.HIV感染者/エイズ患者の人権侵害事例の対応方法及び相談窓口普及に関する研究。HIV感染者・エイズ患者が、感染による精神的打撃や精神的不安定によって自己尊重の意識が低下し、本来、より積極的な解決が望める問題について、自ら不利益を甘受したり、泣き寝入りをするケースが多くなっている。この点については、HIV感染者/エイズ患者を支え、自己尊重の意識を回復することにより、積極的な解決への動機付けをはかっていくことが必要であることが明らかになった。
6.学校現場におけるHIV感染者/エイズ患者の人権教育に関する研究。正確な知識を有することが感染者の偏見的態度の減少につながっていないことが明らかになった。また、感染者による介入の効果では、感染者介入群は統制群よりも感染体液についての正答率が有意に高かったが、感染者に対する偏見的態度の減少については、有意な変化を生み出すことはできなった。前年度の予備調査の結果と同様に、態度変容の困難さが示された。
結論
欧米で開発されたリスク・アセスメントを日本の文脈に合せて開発し、札幌、仙台、東京、松山の4地域において実施したことは、規模の異なる都市において調査と介入が結びついた国際的水準の予防対策モデルを提供したといえる。各地のゲイ・コミュニティにおける予防介入の状況は異なり、その多くは外部からのサポートを受けられず、地域格差が広がっている。プログラムの提供や財政援助といった一方的な関係でなく、コミュニティ・レベルの資源を共有し、地域性に即した予防介入の実践を相互支援するネットワークの構築はますます重要になると思われる。また、啓発手法の開発においては、関東地域の調査結果から特定された啓発領域を小グループレベルのワークショップやコミュニティ・レベルのパンフレットにおいて反映させることができた。調査結果とリンケージされた啓発手法の開発及び実施は、他の地域での今後の展開のモデルになると思われる。行政とは、リスク・アセスメント調査結果を活かす形で、川崎市でワークショップの実施を、横浜市でパンフレットの作成において連携を進めた。また次年度の本介入実施に向けて、札幌市(コミュニティ・レベルの介入計画を準備するため、市と地域2NGOと共同協議中)、松山市(コミュニティ・レベルの介入計画を準備するため、市と地域1NGOと共同協議中)との連携が並行して進められている。本研究の成果を各地域の自治体施策に効果的に反映させるためには、都市規模やゲイ・コミュニティの規模が近接した地域のデータや介入実践を参考にできる体制を構築することが重要である。したがって、大都市圏(関東)、政令都市(札幌)、中核市(松山)という3つを類型化し、介入モデルの構築を目指すとともに実施プロセスの記録化が最終年度の課題と言える。

公開日・更新日

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