文献情報
文献番号
200100734A
報告書区分
総括
研究課題名
日和見感染症の治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
木村 哲(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
- 味澤篤(都立駒込病院)
- 小池和彦(東京大学医学部附属病院)
- 河野茂(長崎大学医学部)
- 斎藤厚(琉球大学医学部)
- 仙道富士郎(山形大学)
- 竹内勤(慶應義塾大学医学部)
- 中村哲也(東京大学医科学研究所)
- 森亨(結核研究所)
- 安岡彰(国立国際医療センター)
- 余郷嘉明(東京大学医科学研究所)
- 吉崎和幸(大阪大学健康体育部)
- 米山彰子(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
75,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目標はHIV感染症における各種日和見合併症実態を把握し、その発症予知と早期診断に向けた方法・技術の確立、新しい治療法の研究・開発、およびHIVと共に感染したHCVによる慢性肝炎、肝硬変の治療法・進行阻止法の研究・開発にある。
研究方法
以下のa)からe)までの項目を平行してそれぞれ3ヶ年計画で実施する。
a)日和見合併症の実態及び動向の調査と解析(主として木村哲、森亨、安岡彰、吉崎和幸が担当):全国の拠点病院を対象にエイズ指標疾患の発症状況、診断時のCD4数、抗HIV療法の状況などを調査し、日和見合併症の頻度・推移を解析し、その対策についての提言をまとめる。結核については、結核を中心に診療している機関を対象に患者背景など、より詳細な調査を行う。
b)日和見合併症予知マーカーの開発と効率的予防法並びに早期診断法の構築(主として木村哲、中村哲也、味澤篤、安岡彰、余郷嘉明、吉崎和幸が担当):血中サイトメガロウイルス(CMV)のreal-time PCRによる定量法を用いCMV感染症の予知及び早期診断を可能にする。同様のことをEBウイルス、HHV8を指標とし、リンパ腫及びカポジ肉腫の発症予知の可能性を探る。病原性JCVの検出法を確立し、進行性多巣性白質脳症(PML)の診断を可能にする。
c)日和見感染症の診断法、治療法の改良と開発(主として竹内勤、仙道富士郎、米山彰子が担当):トキソプラズマ、赤痢アメーバの血清学的診断方法あるいは遺伝子診断法を使用して、迅速診断システムを開発する。新規化学療法薬開発に向けた検討を行う。非定型抗酸菌につき日本の臨床分離保存株で薬剤感受性を検討し、適切な併用療法を創出する。
d)薬剤耐性の迅速診断法の開発と耐性菌感染症の克服(主として河野茂、斎藤厚、中村哲也、米山彰子が担当):結核菌の薬剤耐性にかかわる遺伝子の異常を利用し、簡便かつ迅速に耐性を検出できる系を確定する。真菌や原虫の耐性化の機序についても検討する。また耐性菌による感染症の治療に向け、NKT細胞の賦活などによる新しい治療法の開発をする。
e)B型肝炎、C型肝炎の治療法の開発(主として木村哲、小池和彦、中村哲也、安岡彰が担当):HIV感染症における肝炎のインターフェロンとリバビリンあるいはPEGインターフェロンとリバビリン併用療法の妥当性について検討する。更に肝硬変症、肝細胞癌合併例の生体肝移植の適応について検討し、条件が整った場合はこれを実施する。
(倫理面への配慮)本研究は患者のプライバシー保護に十分配慮すると共に患者の不利益となるような事態が生じないよう配慮し、慎重に実施する。全国調査においても患者名、病院名など解析に必要のない個人情報は入力しない。動物を用いる研究においても動物に苦痛を与えないよう配慮しヘルシンキ宣言にのっとって実施する。
a)日和見合併症の実態及び動向の調査と解析(主として木村哲、森亨、安岡彰、吉崎和幸が担当):全国の拠点病院を対象にエイズ指標疾患の発症状況、診断時のCD4数、抗HIV療法の状況などを調査し、日和見合併症の頻度・推移を解析し、その対策についての提言をまとめる。結核については、結核を中心に診療している機関を対象に患者背景など、より詳細な調査を行う。
b)日和見合併症予知マーカーの開発と効率的予防法並びに早期診断法の構築(主として木村哲、中村哲也、味澤篤、安岡彰、余郷嘉明、吉崎和幸が担当):血中サイトメガロウイルス(CMV)のreal-time PCRによる定量法を用いCMV感染症の予知及び早期診断を可能にする。同様のことをEBウイルス、HHV8を指標とし、リンパ腫及びカポジ肉腫の発症予知の可能性を探る。病原性JCVの検出法を確立し、進行性多巣性白質脳症(PML)の診断を可能にする。
c)日和見感染症の診断法、治療法の改良と開発(主として竹内勤、仙道富士郎、米山彰子が担当):トキソプラズマ、赤痢アメーバの血清学的診断方法あるいは遺伝子診断法を使用して、迅速診断システムを開発する。新規化学療法薬開発に向けた検討を行う。非定型抗酸菌につき日本の臨床分離保存株で薬剤感受性を検討し、適切な併用療法を創出する。
d)薬剤耐性の迅速診断法の開発と耐性菌感染症の克服(主として河野茂、斎藤厚、中村哲也、米山彰子が担当):結核菌の薬剤耐性にかかわる遺伝子の異常を利用し、簡便かつ迅速に耐性を検出できる系を確定する。真菌や原虫の耐性化の機序についても検討する。また耐性菌による感染症の治療に向け、NKT細胞の賦活などによる新しい治療法の開発をする。
e)B型肝炎、C型肝炎の治療法の開発(主として木村哲、小池和彦、中村哲也、安岡彰が担当):HIV感染症における肝炎のインターフェロンとリバビリンあるいはPEGインターフェロンとリバビリン併用療法の妥当性について検討する。更に肝硬変症、肝細胞癌合併例の生体肝移植の適応について検討し、条件が整った場合はこれを実施する。
(倫理面への配慮)本研究は患者のプライバシー保護に十分配慮すると共に患者の不利益となるような事態が生じないよう配慮し、慎重に実施する。全国調査においても患者名、病院名など解析に必要のない個人情報は入力しない。動物を用いる研究においても動物に苦痛を与えないよう配慮しヘルシンキ宣言にのっとって実施する。
結果と考察
a)日和見合併症の実態および動向の調査と解析:2000年1月1日~12月31日の期間におけるエイズ指標疾患としての日和見合併症(AIDS-OI)の実態調査を行った。調査対象は全国366のエイズ診療拠点病院で、回収率71%、総計318件のAIDS-OIの発症例が報告された。この件数は3年連続の増加であり、HAARTが普及しているにもかかわらず減少していない。解析の結果、抗HIV療法を受けていない人での発症が著増していることが判明した。更にHAARTなどの治療を受けている人からの発症にも増加傾向がみられ、HIVの薬剤耐性化が進んできた可能性が示唆された。今後、厳重な監視体制が必要である。結核の発生動向では治療群において増加傾向が明らかであった。
b)日和見合併症の予知マーカーの検索と早期診断:血液中のCMVをreal-time PCR法を用いて定量する方法を開発した。111例のHIV感染者の血液で検討でき、ブレイクポイント値を3,000コピー/mLとした場合、CMV感染症診断の感度は90%、特異度88%であった。また、この定量値は治療経過、臨床症状とも良く相関した。更に、プロスペクティブ研究の結果、全血中CMV10,000コピー/mLかつ血漿中CMV2,000コピー/mLをブレイクポイントとするとCMV感染症の発症予知の感度は100%、特異度は89%となることが明らかとなった。以上から、今回開発したCMV-DNAのreal-time PCR定量法はCMV感染症の予知や早期診断、治療効果の判定に極めて有効であることが示された。HHV8、EBVについても同様の検討を進めている。PMLの原因であるJCVの髄液PCRは診断に有効であった。しかし、脳の生検材料のみから検出できる症例が存在することも判明した。
c)日和見合併症の診断法と治療法の改良・開発:抗アメーバ薬をスクリーニングし、Caチャネルブロッカー、カルモジュリン阻害薬などにも抑制活性を認めた。また、無症候性嚢子排出者の末梢リンパ球由来の抗体遺伝子ライブラリから、ヒトモノクロナル抗体を作成し、有効なクローンを得た。新しい治療法になると思われる。抗トキソプラズマ薬候補を求め15万種の化合物をスクリーニングし、5系統の化合物をつきとめた。クリプトスポリジウムに対しては本年度もSCIDマウスを用い治療薬候補のスクリーニングを行った。その結果ラザロシド(動物用抗コクシジウム薬)がやや有効であった。
d)薬剤耐性の迅速検査法の開発と耐性菌感染症の克服:カリニ原虫(PC)の薬剤耐性の原因を探る手段としてサルファ剤の標的酵素であるdihydropteronate synthaseのアミノ酸変異の有無を検討し、24例中6例にThr55Ala、Pro57Ser変異を認めた。これらの変異PC症例はST合剤による治療に抵抗性で、この変異が原因と思われる。世界に先駆けた発見である。結核菌の薬剤感受性試験は責任遺伝子の変異を調べることにより迅速化が進められている。従来の培養法と比較したところ、INH、SMについては不一致例が多く、更なる改良が必要と思われた。マウス肺クリプトコッカス症モデルにおいてクリプトコッカスの排除に最近新しく発見されたNKT細胞が重要な働きを担っていることを立証した。薬剤耐性を克服する方法の一つとして臨床応用も考えられる。
e)慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌の治療:HIV感染症とC型肝硬変を有する血友病患者が家族をドナーとした生体部分肝移植を希望したため、東大医学部付属病院人工臓器移植外科の協力を得、これを行った。HIV感染症(CD4数150/μL)、HCVによる肝硬変、血友病Bと多くのリスクファクターを抱えていたが、肝移植が成功し、血友病は治癒、C型肝炎はインターフェロン+リバビリン治療で完全寛解し、肝機能も正常化している。HIV感染症の方もCD4数600~400のレベルに回復し、HAARTは不要の状態を維持している。C型慢性肝炎については、HIV感染血友病患者ではgenotype 1aが多く、かつHCV-RNA量も多いためインターフェロン単独療法が効きにくい。そこでインターフェロン+リバビリン療法を試み、12例中3例でHCV-RNAの持続的低下が認められた。PEGインターフェロン+リバビリンの臨床試験も開始した。
f)日和見合併症診療に関する普及・啓発:原虫感染症診断技術を向上させるため、エイズ診療拠点病院検査部の医師・検査技師を対象に講義と実習による講習会を行った(1月26日~27日、参加者82名)。HIV感染症に合併する結核の診断・治療に関するガイドラインの原稿が全て整えられた。近く印刷・発行する予定である。HIV合併B型肝炎、C型肝炎についても治療のガイドラインを準備している。NHK番組「サイエンスアイ」に出演し、一般国民に向けた啓発活動を行った。
b)日和見合併症の予知マーカーの検索と早期診断:血液中のCMVをreal-time PCR法を用いて定量する方法を開発した。111例のHIV感染者の血液で検討でき、ブレイクポイント値を3,000コピー/mLとした場合、CMV感染症診断の感度は90%、特異度88%であった。また、この定量値は治療経過、臨床症状とも良く相関した。更に、プロスペクティブ研究の結果、全血中CMV10,000コピー/mLかつ血漿中CMV2,000コピー/mLをブレイクポイントとするとCMV感染症の発症予知の感度は100%、特異度は89%となることが明らかとなった。以上から、今回開発したCMV-DNAのreal-time PCR定量法はCMV感染症の予知や早期診断、治療効果の判定に極めて有効であることが示された。HHV8、EBVについても同様の検討を進めている。PMLの原因であるJCVの髄液PCRは診断に有効であった。しかし、脳の生検材料のみから検出できる症例が存在することも判明した。
c)日和見合併症の診断法と治療法の改良・開発:抗アメーバ薬をスクリーニングし、Caチャネルブロッカー、カルモジュリン阻害薬などにも抑制活性を認めた。また、無症候性嚢子排出者の末梢リンパ球由来の抗体遺伝子ライブラリから、ヒトモノクロナル抗体を作成し、有効なクローンを得た。新しい治療法になると思われる。抗トキソプラズマ薬候補を求め15万種の化合物をスクリーニングし、5系統の化合物をつきとめた。クリプトスポリジウムに対しては本年度もSCIDマウスを用い治療薬候補のスクリーニングを行った。その結果ラザロシド(動物用抗コクシジウム薬)がやや有効であった。
d)薬剤耐性の迅速検査法の開発と耐性菌感染症の克服:カリニ原虫(PC)の薬剤耐性の原因を探る手段としてサルファ剤の標的酵素であるdihydropteronate synthaseのアミノ酸変異の有無を検討し、24例中6例にThr55Ala、Pro57Ser変異を認めた。これらの変異PC症例はST合剤による治療に抵抗性で、この変異が原因と思われる。世界に先駆けた発見である。結核菌の薬剤感受性試験は責任遺伝子の変異を調べることにより迅速化が進められている。従来の培養法と比較したところ、INH、SMについては不一致例が多く、更なる改良が必要と思われた。マウス肺クリプトコッカス症モデルにおいてクリプトコッカスの排除に最近新しく発見されたNKT細胞が重要な働きを担っていることを立証した。薬剤耐性を克服する方法の一つとして臨床応用も考えられる。
e)慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌の治療:HIV感染症とC型肝硬変を有する血友病患者が家族をドナーとした生体部分肝移植を希望したため、東大医学部付属病院人工臓器移植外科の協力を得、これを行った。HIV感染症(CD4数150/μL)、HCVによる肝硬変、血友病Bと多くのリスクファクターを抱えていたが、肝移植が成功し、血友病は治癒、C型肝炎はインターフェロン+リバビリン治療で完全寛解し、肝機能も正常化している。HIV感染症の方もCD4数600~400のレベルに回復し、HAARTは不要の状態を維持している。C型慢性肝炎については、HIV感染血友病患者ではgenotype 1aが多く、かつHCV-RNA量も多いためインターフェロン単独療法が効きにくい。そこでインターフェロン+リバビリン療法を試み、12例中3例でHCV-RNAの持続的低下が認められた。PEGインターフェロン+リバビリンの臨床試験も開始した。
f)日和見合併症診療に関する普及・啓発:原虫感染症診断技術を向上させるため、エイズ診療拠点病院検査部の医師・検査技師を対象に講義と実習による講習会を行った(1月26日~27日、参加者82名)。HIV感染症に合併する結核の診断・治療に関するガイドラインの原稿が全て整えられた。近く印刷・発行する予定である。HIV合併B型肝炎、C型肝炎についても治療のガイドラインを準備している。NHK番組「サイエンスアイ」に出演し、一般国民に向けた啓発活動を行った。
結論
1)日本ではHAART導入後も日和見合併症の発症は減少していない。これはHIV感染症に罹患していることを知らぬまま発症に至った症例が増えているためと思われる。2)血中のCMV-DNAをreal-time PCRで定量することにより、CMV感染症の診断が可能となり、発症も高い確率で予知可能となった。3)カポジ肉腫についても同様の検討が進められた。4)赤痢アメーバ症およびトキソプラズマ症の新規治療薬の候補品を見い出した。クリプトスポリジウム症については検討中である。5)臨床分離Pneumocytis cariniiの約25%に薬剤耐性と関連する遺伝子変異があることを明らかにした。6)動物モデルにおいて、NKT細胞の活性化が真菌症の治療に有効であることを見い出した。7)血友病に合併したHIV陽性、C型重症肝硬変患者に対し、生体部分肝移植を行い成功した。8)インターフェロン+リバビリンの臨床試験を実施した。9)PEGインターフェロン+リバビリンの臨床試験を開始した。10)HIV陽性抗酸菌症治療ガイドラインがまとまった。11)日和見感染症病原体検出法の講習会を行った。
公開日・更新日
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更新日
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