文献情報
文献番号
200100731A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV及びその関連ウイルスの増殖機構及び増殖制御に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 裕徳(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 原田信志(熊本大学)
- 庄司省三(熊本大学)
- 服部俊夫(東北大学)
- 小島朝人(国立感染症研究所)
- 間陽子(理化学研究所)
- 増田貴夫(東京医科歯科大学)
- 岡本尚(名古屋市立大学)
- 増田道明(獨協医科大学)
- 足立昭夫(徳島大学)
- 高橋秀宗(国立感染症研究所)
- 仲宗根正(国立感染症研究所)
- 生田和良(大阪大学)
- 田代啓(京都大学)
- 巽正志(国立感染症研究所)
- 松田善衛(国立感染症研究所)
- 横幕 能行(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIVの複製・変異・細胞指向性研究を活性化し、ウイルス増殖機構の理解向上を目指す。得られた成果を抗HIV薬剤とワクチンの開発と改良に役立てる。
研究方法
以下の4つの研究項目を分担して実施する。(A)複製の分子素過程の研究(11名):本研究班の骨格をなす。ウイルスの標的細胞における複製は、ウイルス分子と細胞構成分子、あるいはウイルス分子間の特異的相互作用の連鎖からなる。これら複製素過程に携わる因子群と場を、分子遺伝学、分子生物学、生化学、細胞生物学的手法を用いて同定する。最終的には、各素過程における分子間相互作用の実体を構造生物学的手法により原子レベルで明らかにし、複製の分子機構の理解と阻害剤開発に資する。(B)変異研究(2名):HIVの高変異性は、このウイルスのin vivo増殖様式と生き残り戦略を特徴づける一方、抗HIV薬剤治療やワクチンの有効性確保にとって重大な障害となっている。逆転写酵素変異体の構造機能解析により基質特異性発現機構の理解を深め、高変異性発現の理解と制御法開発に資する。(C)細胞指向性研究(2名):HIV細胞指向性の変化は感染者の病態進行と密接に関係する。細胞のウイルス感受性に影響する宿主可溶性因子を解析し、細胞指向性の個体内変化の理解と診断法開発に資する。(D)新規方法論の開発(3名):感染者や世界のHIVは多様で、特定の株で確立された増殖様式や制御法は、必ずしも他の株に当てはまらない。HIV準種の複製と宿主免疫応答をより効率的に解析する方法を開発し、in vivo HIV増殖研究と診断・治療に適用する。
結果と考察
[結果](A)複製の分子素過程の研究:(i)吸着・侵入:HIV-1 中和抗体0.5βの作用機序および感染効率の温度依存性を解析し、吸着・侵入の成立にはgp120とレセプタ-の多価結合と膜の流動性の保持が必要であることを示唆した(原田)。Gp120およびGp41の立体構造を認識する種々のモノクロ-ナル抗体を用い、吸着・侵入時におけるEnv 立体構造変化を解析中(服部)。CCR5の第2細胞外ドメインの立体構造特異的単クロ-ン抗体(KB8C12)を作製し、複製への影響を解析することにより、同領域がR5ウイルスの細胞侵入に関与することを示唆した(庄司)。(ii)逆転写・核内輸送・組み込み:Env V3ル-プのサイレント変異ウイルスの複製を解析し、V3のRNA塩基配列が逆転写効率を支配するcis因子として働くことを見い出した(小島)。Vprドメインの構造・機能解析により、Vpr核移行は2つの分子過程(核膜吸着と核内移行)に分別されること、各過程にα-helical domain1と2が独立に関与すること、各ドメインの機能発現にはimportin αまたはnucleoporinとの相互作用が関与すること、を明らかにした(間)。インテグラ-ゼ変異体解析により、同酵素の多機能性(脱殻、逆転写、核内輸送、組み込みに関与)を示し、各機能ドメインをマップし、C末に結合する細胞因子(importin α, β, transportin)を同定した(増田貴)。転写: Tat依存性の転写を解析し、Tatの転写促進にはcyclin T1が必要であること、IFN-γによるCIITAの発現誘導がTat機能を抑制することを見い出した(岡本)。(iii)Env蛋白質の成熟:SIV Env糖鎖欠損変異体解析により、Gp120 C2領域4カ所の糖鎖が小胞体とゴルジ体における高次構造形成に重要な役割を果たすこと
、Gp120は糖鎖の欠失に寛容で、細胞内の蛋白質品質管理機構に低感受性であることを示唆した(佐藤)。(iv)集合・出芽・粒子成熟:Gagを用いた粒子形成系を作り、発芽粒子にゲノムRNA/Gag/nucleolin複合体が取り込まれること、複合体形成は出芽を促進すること、を示唆した(高橋)。一本鎖ゲノムの2量体化反応解析系を確立し、2量体化反応がパッケ-ジング反応の初期過程として分別可能であることを示唆した(櫻木=研究協力員)。(v)アクセサリ-遺伝子産物の機能:分裂酵母モデル系を用い、VprによるG2/M arrest誘導に関与する宿主因子(WEE1)を同定し、その機能発現にキナ-ゼ活性とC末セリン残基リン酸化が必要であることを明らかにした(増田道)。HIV/SIVの5種類のアクセサリ-蛋白質の網羅的変異体解析により、機能ドメインをマップ中。また、同蛋白質のin vivo機能解析に用いるHIV-1/SIVキメラウイルスを作製し、増殖能を解析中(足立)。(B)変異研究:HIVの変異研究に有用と考えられる逆転写酵素変異体を見い出し、構造と基質特異性の関連を解析中(佐藤)。分子シュミレ-ションシステムMOEを用いて日本のHIV-1サブタイプB感染者集団のV3高次構造の多様度を推定し、10年間ヒト集団内の多様度に変化が認められないことを示した(仲宗根)。(C)細胞指向性研究:PBMCのウイルス感受性を解析し、CD4+CD38+T細胞はT-tropic HIV-1に感受性が高いこと、この高感受性はIL-4による複製昂進(吸着・侵入以降の過程)が原因となっていることを示唆した(生田)。SDF-1高感度イムノアッセイ系を確立し、米国AIDSコホ-ト検体を用いて血中SDF-1濃度の変動がHIV感染者の病態進行、随伴症候群の出現、HIV細胞指向性変化と相関するか否かを検討中(田代)。(D)新規方法論の開発:HIV準種の迅速クロ-ニング系確立を目標とし、MAGIC-5A細胞を用いて西・中央アフリカ流行株HIV-1 CRF02 AGの感染性分子クロ-ンを単離した(巽)。HIV準種に対するCTL活性の迅速評価系確立を目標とし、CTL標的細胞の簡易作製法を開発した(横幕)。プロテオ-ム解析のHIV複製研究への適用を目標とし、CD4+T細胞中のVif変異体増殖阻害因子を検索中(松田)。
[考察]本研究班は、HIV増殖機構の理解向上と増殖制御法開発を目指す。このためには、(i)HIV複製の分子素過程、変異、細胞指向性の理解と(ii)ウイルス集団や宿主因子の網羅的解析法の確立が重要と考え、方法に示す4つの研究項目を設定した。これらの解析により、抗HIV剤やワクチンを理論的にデザインし、かつその有効性を確保するための基礎情報が得られると期待される。本年度は、運営の初年度で発足後の研究期間も短いことから、研究目標と戦略の明確化、人材や研究材料の確保、各分担研究課題の実現性の検討、など研究基盤整備に重点を置いた。その結果、研究班の目的を遂行するための体制がおおむね整った。
本年度の研究成果は、国内外の学会と論文発表を通じてエイズ並びにウイルス研究の発展に活用・提供された。発表欧文雑誌の多くは、同研究分野で国際的な評価を得ている雑誌である。すなわち、本研究班は、一定水準の学術成果を国内外の関連研究者に活発に提供する基礎医学研究班といえる。今後は、エイズ研究分野への学術的貢献度を保ちつつ、エイズの予防・治療や生命科学の進展に直接寄与する成果を目指す。このために、次ぎの2点を重点課題として挙げる。第一に、分担研究課題の推進。第二に、その結果同定されると期待される重要な生体高分子複合体の立体構造解析システムの構築。
第一の点については、個々の研究者の独創性・方法論・創意工夫を尊重して研究を進め、年1回の班会議開催により、班員間の情報交換と共同研究を促進する。第二の点については、最終的には当研究班のSpring-8放射光施設への共同利用参加を想定している。当座は、構造生物学のエイズ研究への適用に関するワ-クショップ開催、分子シュミレ-ション系の導入、化学・物理・数学の素養をもつ人材の登用などを計り、立体構造解析の研究基盤を強化する。また、ポストゲノム研究と一体化して急速に進展しつつある境界領域研究の中から、HIVの増殖と制御研究に適用できる方法や成果を選択し、適宜本研究に活用していきたい。
、Gp120は糖鎖の欠失に寛容で、細胞内の蛋白質品質管理機構に低感受性であることを示唆した(佐藤)。(iv)集合・出芽・粒子成熟:Gagを用いた粒子形成系を作り、発芽粒子にゲノムRNA/Gag/nucleolin複合体が取り込まれること、複合体形成は出芽を促進すること、を示唆した(高橋)。一本鎖ゲノムの2量体化反応解析系を確立し、2量体化反応がパッケ-ジング反応の初期過程として分別可能であることを示唆した(櫻木=研究協力員)。(v)アクセサリ-遺伝子産物の機能:分裂酵母モデル系を用い、VprによるG2/M arrest誘導に関与する宿主因子(WEE1)を同定し、その機能発現にキナ-ゼ活性とC末セリン残基リン酸化が必要であることを明らかにした(増田道)。HIV/SIVの5種類のアクセサリ-蛋白質の網羅的変異体解析により、機能ドメインをマップ中。また、同蛋白質のin vivo機能解析に用いるHIV-1/SIVキメラウイルスを作製し、増殖能を解析中(足立)。(B)変異研究:HIVの変異研究に有用と考えられる逆転写酵素変異体を見い出し、構造と基質特異性の関連を解析中(佐藤)。分子シュミレ-ションシステムMOEを用いて日本のHIV-1サブタイプB感染者集団のV3高次構造の多様度を推定し、10年間ヒト集団内の多様度に変化が認められないことを示した(仲宗根)。(C)細胞指向性研究:PBMCのウイルス感受性を解析し、CD4+CD38+T細胞はT-tropic HIV-1に感受性が高いこと、この高感受性はIL-4による複製昂進(吸着・侵入以降の過程)が原因となっていることを示唆した(生田)。SDF-1高感度イムノアッセイ系を確立し、米国AIDSコホ-ト検体を用いて血中SDF-1濃度の変動がHIV感染者の病態進行、随伴症候群の出現、HIV細胞指向性変化と相関するか否かを検討中(田代)。(D)新規方法論の開発:HIV準種の迅速クロ-ニング系確立を目標とし、MAGIC-5A細胞を用いて西・中央アフリカ流行株HIV-1 CRF02 AGの感染性分子クロ-ンを単離した(巽)。HIV準種に対するCTL活性の迅速評価系確立を目標とし、CTL標的細胞の簡易作製法を開発した(横幕)。プロテオ-ム解析のHIV複製研究への適用を目標とし、CD4+T細胞中のVif変異体増殖阻害因子を検索中(松田)。
[考察]本研究班は、HIV増殖機構の理解向上と増殖制御法開発を目指す。このためには、(i)HIV複製の分子素過程、変異、細胞指向性の理解と(ii)ウイルス集団や宿主因子の網羅的解析法の確立が重要と考え、方法に示す4つの研究項目を設定した。これらの解析により、抗HIV剤やワクチンを理論的にデザインし、かつその有効性を確保するための基礎情報が得られると期待される。本年度は、運営の初年度で発足後の研究期間も短いことから、研究目標と戦略の明確化、人材や研究材料の確保、各分担研究課題の実現性の検討、など研究基盤整備に重点を置いた。その結果、研究班の目的を遂行するための体制がおおむね整った。
本年度の研究成果は、国内外の学会と論文発表を通じてエイズ並びにウイルス研究の発展に活用・提供された。発表欧文雑誌の多くは、同研究分野で国際的な評価を得ている雑誌である。すなわち、本研究班は、一定水準の学術成果を国内外の関連研究者に活発に提供する基礎医学研究班といえる。今後は、エイズ研究分野への学術的貢献度を保ちつつ、エイズの予防・治療や生命科学の進展に直接寄与する成果を目指す。このために、次ぎの2点を重点課題として挙げる。第一に、分担研究課題の推進。第二に、その結果同定されると期待される重要な生体高分子複合体の立体構造解析システムの構築。
第一の点については、個々の研究者の独創性・方法論・創意工夫を尊重して研究を進め、年1回の班会議開催により、班員間の情報交換と共同研究を促進する。第二の点については、最終的には当研究班のSpring-8放射光施設への共同利用参加を想定している。当座は、構造生物学のエイズ研究への適用に関するワ-クショップ開催、分子シュミレ-ション系の導入、化学・物理・数学の素養をもつ人材の登用などを計り、立体構造解析の研究基盤を強化する。また、ポストゲノム研究と一体化して急速に進展しつつある境界領域研究の中から、HIVの増殖と制御研究に適用できる方法や成果を選択し、適宜本研究に活用していきたい。
結論
研究目標と戦略の明確化、適切な人材配置により、HIVの複製・変異・細胞指向性研究の基盤がほぼ整った。今後は、既に一定の水準にあるエイズ研究分野への学術的貢献度を保ちつつ、エイズの予防・治療研究や生命科学一般の進展に寄与する研究成果を目指す。このために、各分担研究課題の推進と並行して、立体構造解析研究の基盤強化を計る。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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