文献情報
文献番号
200100493A
報告書区分
総括
研究課題名
バイオテクノロジー応用食品の安全性確保及び高機能食品の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
首藤 紘一(国立医薬品食品衛生研究所長)
研究分担者(所属機関)
- 鎌田 宏(筑波大学生物科学系教授)
- 豊田正武(国立医薬品食品衛生研究所食品部長)
- 手島玲子(国立医薬品食品衛生研究所機能生化学部室長)
- 白井智之(名古屋市立大学医学部教授)
- 熊谷 進(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
- 加藤順子(三菱化学安全科学研究所調査部長)
- 江崎 治(国立健康・栄養研究所臨床栄養部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(バイオ食品研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
100,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、厚生労働省食品保健部の強い依頼をうけ遂行されるもので、バイオテクノロジーを応用した食品の安全性確保のための科学的知見の蓄積、当該食品の検知に関する試験法の確立及び国民受容に関する調査研究、並びに高機能食品の開発を行うことを目的とする。
研究方法
植物中の遺伝子発現変動調査法の開発等による安全性評価に関する研究を鎌田班員DNA組換え体の検知に関する研究を豊田班員、組換え体のアレルギー性に関する研究を手島班員、組換え体の慢性毒性試験に関する研究を白井班員、クローン技術を用いた動物食品の安全性に関する研究については熊谷班員、リスク・コミュニケーションに関する研究については加藤班員、高機能食品の開発については江崎班員が担当し、主任研究者が総括を行った。また、諸外国における遺伝子組換え食品に関する法制度の調査、抗生物質耐性遺伝子の移行性、組換え微生物を用いた食品の安全性に関する国際動向の調査研究、遺伝子組換え魚に関する文献調査について、京都大学医学部、国立感染症研究所並びに独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所で行われたものを主任研究者がとりまとめた。
結果と考察
諸外国における遺伝子組換え食品に関する法制度の調査:遺伝子組換え食品に関する法制度を国際調和する試みには、世界保健機関(WHO)と国際連合食糧農業機関(FAO)の下に設けられている国際食品規格委員会(Codex Alimentarius Commission; CAC)が取り組んでおり、主に、安全性評価を含む危険分析および食品表示の両面から議論が進んでいる。本研究では、2001年度に食品保健に関する法制、なかんずく遺伝子組換え食品の取り扱いについて新たな動きのあった欧州共同体の状況を明らかにし、遺伝子組換え食品に関する法制度の国際調和の将来に与える影響などを考察した。
抗生物質耐性遺伝子の移行性:カナマイシン(ネオマイシン)耐性遺伝子nptIIは、特に組換え植物開発の初期に、組換え植物体選抜のためのマーカーとして利用された。現在でもnptIIを用いた既存の組換え作物は依然として市場に供給され続けている。このような組換え作物から、可食部の摂食や不可食部の圃場への放置などによりnptII遺伝子がヒト体内や環境中に放出され、正常菌叢を構成する微生物を自然形質転換して薬剤耐性を与えるという可能性は、一般社会においては依然として根強い懸念の対象であり、このような薬剤耐性遺伝子の拡散の可能性を正しく評価することが必要である。本研究では、nptII遺伝子をマーカーとして持つ組換え植物DNAが、実験的条件下で細菌を形質転換して薬剤耐性を与えうるかどうかを調べる。本年度は、自然形質転換能を持つことで知られる枯草菌(Bacillus subtilis)とアシネトバクター菌 (Acinetobacter sp.)を用いた自然形質転換系を確立した。
組換え微生物を用いた食品の安全性に関する国際動向の調査研究:バイオテクノロジー応用食品の安全性、特に遺伝子組換え微生物を用いた食品の安全性に関する国際的な動向を調査するため、国際機関により開催される3つの関連会議に、協力研究者の五十君博士が出席し、その議論に参加した。参加した会議はFAO/WHO共同専門家会議(2001年9月スイス、ジュネーブ)、CODEX部会のドラフト案作成作業委員会(2001年11月米国、オークランド)およびCODEX部会(2002年3月日本、横浜)である。吉倉は、CODEX部会の議長としてこの部会の進行と取りまとめを行い、討議事項をステップアップする事が出来た。これら会議で取り上げられた遺伝子組換え微生物を用いた食品の安全性評価に必要と思われる項目で、特に重要と思われ、かつその試験法が確立していない項目について、モデル組換え体を用いた検討を試みた。本年度は、組換え微生物の免疫系への刺激に関する評価法と、動物腸管内における遺伝子の腸内フローラへの移行について検討を行った。
遺伝子組換え魚に関する文献調査:本研究によって次のことが明らかにされた。現在までに組換え体魚類は20数種で作出されており、魚類以外にも貝類、エビ類で組換え体が作出されている。さらに、これらの研究は実験室レベルのものとすでに大量に飼育されているものがある。また、アメリカでは、民間企業が組換え体大西洋サケを食品として利用する許可をFDAに申請中であるが、現段階で許可されていない。遺伝子組換え体ティラピアは発展途上国で技術が進んでおり、食品として利用されるのは、こららの国の方が早い可能性がある。しかし、これらの国の組換え体に関する情報は論文以外には乏しいのが現状である。
安全性評価に関する研究: 我が国において既に食品としての安全性が確認されている遺伝子組換え農作物、特に、大量に輸入されているダイズとトウモロコシについて、導入遺伝子の後代交配種における安定性を中心に解析した。本年度集中的に調査したダイズにおいては、我が国に輸入されている穀粒の中に、頻度は低いものの、導入遺伝子の一部配列が欠落しているために導入遺伝子産物(タンパク質)が発現していないものやプロモーター領域に変化が生じているもの等が見出された。現在、そのような事例について、導入遺伝子の塩基配列決定を進めており、その変化がどのような原因によって引き起こされたかを検討している。
一方、このような種子繁殖性植物ばかりでなく、ジャガイモ等の栄養繁殖性植物においても遺伝子組換え農作物が開発・利用されているため、栄養繁殖後代植物における導入遺伝子の安定性を調査するため、ジャガイモおよびサツマイモについて、植物個体再分化法や遺伝子導入法を検討し、形質転換体が育成できるようになった。次年度は、このような形質転換体の栄養繁殖後代植物について導入遺伝子の安定性を調査する予定である。
さらに、食用として通常利用している植物に由来する新規遺伝子を用いることで、新しいタイプのウィルス耐性植物を育成することに成功した。その種子繁殖後代における導入遺伝子の発現を調査したところ、遺伝子導入当代においては導入遺伝子が発現していたものの、種子繁殖第1代においては、調査した全ての系統において導入の発現が見られなくなった。導入遺伝子は変化せずに存在しているため、ジーンサイレンシングが起こったものと予想され、現在、その機構について解析を続けている。
組換え食品の検知法に関する研究:安全性審査を終了した遺伝子組換えジャガイモNewleaf Plus、ならびに審査中であるNewleaf Yのそれぞれについて、定性分析法確立のための検討を行い、上記2品種を特異的に検知可能である定性PCR検知法を開発した。本法を用いジャガイモ加工原材料について調査を行った結果、調査に供した54検体については当該遺伝子組換えジャガイモの混入している検体がないことを示した。また、安全性審査を終了した遺伝子組換えジャガイモ(Newleaf Plus ならびにNew-leaf) については定量分析法開発のための検討を行い、その開発段階を進めた。
次に、食発第110号により通知された定量的PCR法に同等の別法を開発するため、マイクロキャピラリー型リアルタイムPCRシステム (ライトサイクラーシステム, ロッシュ・ダイアグノスティック社製)を用いた定量分析法開発のための検討を行った。また、確立した分析法を用いて8分析機関による内標比測定試験およびブラインドテストを実施し、前記の定量的PCR法に同等の良好な結果を得た。
次いで、遺伝子組換え食品とその加工品を対象とした検知技術の妥当性の評価を行った。食発第110号により通知されたDNA技術応用食品の検査方法には、定量分析法として酵素免疫検定法ならびに定量的PCR法が採用されている。これら2種の方法を用い、遺伝子組換えダイズを検体とした場合の測定値比較を行った。その結果、脱脂ダイズを検体とした場合には両測定法により得られる結果に相関性がなく、定量的PCR法を用いることで信頼性の高い値が得られることを明らかにした。また、表示義務制度施行以前、ならびに以後の市販豆腐を検体とし、定性ならびに定量的PCR法を用いた調査を行い、表示義務制度の与える影響についての検討を行った。さらに、食発第110号に記載の組換え食品の検査方法が、加工食品に応用可能かどうかの検証をおこなった。その結果、大豆加工品には応用可能であるが、トウモロコシ加工品においては、加工様式により影響を受ける可能性があることが示唆された。
組換え食品のアレルギー性に関する研究:本年度は、患者血清と、新規産生タンパク質との反応性の検討、及び動物を用いるアレルゲン性の検討、並びに新規産生タンパク質の人工胃腸液による分解性の検討を行った。患者血清を用いる研究では、国内食物アレルギー患者血清117種について、除草剤グリホサート抵抗性タンパク質(CP4-EPSPS),及び害虫抵抗性(Cry1Ab, Cry9C)タンパク質に対するIgE抗体の有無の検討を、ウェスタンブロット法でおこなったが、陽性の血清はみられなかった。動物実験では、人工胃液での分解性の悪い害虫毒素Cry9Cを導入したとうもろこしにつき免疫系への影響評価を行った。アレルギー高感受性のB10Aマウス及びBNラットを用い、亜急性毒性試験の期間(90日間)の、害虫抵抗性遺伝子(Cry9C)が導入された遺伝子組換え(GM)とうもろこし摂取が、動物の免疫系に影響を及ぼすか否かの検討を行った。同等の栄養成分を有する近親(isoline)の非組換え(non-GM)とうもろこしを対照として用いた。 GM, non-GMとうもろこし(50%及び5%)混餌飼料を摂取させたマウス、ラットとも両群の体重及び餌の摂取量に有意差はみられず、13週投与後の各種主要免疫臓器の重量並びに病理組織像においても、両群とも異常は認めらず、またCry9Cに対するIgE抗体産生は両群において認められなかった。このことより、GMとうもろこしの比較的長期の摂取により即時型アレルギーを誘発する可能性はほとんどないと考えられた。人工胃腸液による分解性の検討では、タンパク質の加熱前処理による分解性の変化について検討したが、特に人工腸液(SIF)による分解性試験の場合に、加熱による分解性の著しい亢進のみられることが判明した。
慢性毒性試験に関する研究:本研究では遺伝子組換え食品の安全性を検討する目的で、現在生産されている遺伝子組換えトウモロコシ(T25系統,除草剤耐性トウモロコシ)の90日反復毒性試験をおこなった。改良NIHの飼料に含まれるトウモロコシを遺伝子改変のものと置き換える方法をとり、全量、1/4量、1/8量の3用量で置き換えた。なお飼料中の大豆についてはすべて非遺伝子組換え大豆と置き換えた。結果、雌雄ともに体重増加、各種臓器重量には特記すべき変化は認められず、大きな影響はなかったと結論された。(但し、2,3の生化学的データに対照群と比して有意に変化する項目があったため、現在再測定を行っており、病理組織学的検索も検討している。)さらに、この試験結果を踏まえ慢性毒性試験について検討を加えた。
クローン技術を用いた動物食品の安全性に関する研究:我が国の都道府県や大学の試験研究機関等で成育中の体細胞クローン牛について、成育状況や繁殖能力といった各種データ収集するとともに、(社)畜産技術協会が行っている肉質や乳質の調査データ等を入手した。また、国外において報告されているデータについても入手、整理した。さらに体細胞クローン牛の筋肉中残留農薬測定を行うことによって、安全性の裏付けとなるデータをさらに集積した。また、と殺した体細胞クローン肥育牛の筋肉(横隔膜筋)の分与を受け、筋肉中の残留塩素系農薬(DDT、ディルドリン、ヘプタクロル)の分析を、厚生省通知による方法により行った((財)畜産生物科学安全研究所に依頼)。エストロゲン測定に供する体細胞クローン肥育牛のと殺時の血液、体細胞クローン搾乳牛と同肉用繁殖牛の血漿の分与を受けたが、測定は未だ完了していない。これらデータに、体細胞クローン牛について食品としての安全性を懸念する科学的根拠は見い出されなかった。今後、さらに乳質や肉質についてのデータを含め、体細胞クローン牛の知見を収集することによって、食品としての安全性について検討を加える。
リスクコミュニケーションのあり方に関する研究:厚生労働省からの情報提供改善を目的としてインターネットを通じた情報提供システムの試作をおこなった。Webページの作成は、下記の点に留意した。①市民に親しみやすく,市民の知りたいと思う情報が容易に得られること。②情報のありかが容易にわかること。③ウェブページをみることにより,基本的な知識が身に付くこと④厚生労働省の姿勢が見えること。⑤より詳しい情報を知りたい人には詳しい情報を提供すること。⑥先生と子供のページを作成し,情報提供のみでなく,学びの場を提供すること。⑦他の情報源や関連した情報にリンクが張られていること。
市民に親しみやすい市民向きのページ構成とするために,トップページの中央に市民が知りたい情報へのアイコンを配置し,より詳しい情報への入り口はサイドバーに配置する構成とした。トップページ中央には,遺伝子組換え技術,安全性審査,表示,何に入っているか,Q&A,先生と子供のページのアイコンを配置した。安全性審査のアイコンには,厚生労働省の主体的な姿勢が明確となるよう,「厚生労働省はこのように安全性を審査しています」と明記した。子供と先生のページでは総合学習の教材や学びの場が提供できるようにした。サイドバーでは,審議会のページ構成を工夫し,安全性審査の進行状況や,評価の概要書が容易にひきだせるようにした。また,サイト内検索やサイトマップを用意し,欲しい情報に容易にたどり着けるよう工夫した。さらに,基本的な知識が身に付くこと,ウェブページを詳しく読むことを狙ったクイズのページを作成した。
これらの工夫により,従来の情報羅列型のwebページから,市民の方を向いた,わかりやすい,親しみやすいwebページへの改良がなされたと考えられる。来年度は,主婦および小学校教師へのグループインタビューを行い,新たなwebページおよびさらなる改良点について意見を求める予定である。
また、本年度内に十分対応できなかった冊子体を通じた情報提供については,次年度に具体的な提案を行う予定である。
高機能食品の開発:ヒトは、n-3系列脂肪酸のα-リノレン酸とn-6系列脂肪酸のリノール酸をde novo合成できず、それぞれ食事から摂取する必要がある。また、これらの脂肪酸を相互に代謝変換することもできない。よって、生活習慣病予防に効果が期待されるn-3系列脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)は直接摂取するか、前駆体であるα-リノレン酸から生合成する必要がある。そこで本研究では、日本人の主食であるイネにα-リノレン酸を効率よく発現させる遺伝子改変作物を作出し、疾病予防や健康の維持増進に役立つ高機能食品の開発を最終目標とした基礎的研究を継続している。本年度は、リノール酸からα-リノレン酸への変換酵素であるイネω-3 fatty acid desaturase(OsFAD3)を酵母内に効率良く発現させ、酵素活性を測定できる実験系を確立した。
抗生物質耐性遺伝子の移行性:カナマイシン(ネオマイシン)耐性遺伝子nptIIは、特に組換え植物開発の初期に、組換え植物体選抜のためのマーカーとして利用された。現在でもnptIIを用いた既存の組換え作物は依然として市場に供給され続けている。このような組換え作物から、可食部の摂食や不可食部の圃場への放置などによりnptII遺伝子がヒト体内や環境中に放出され、正常菌叢を構成する微生物を自然形質転換して薬剤耐性を与えるという可能性は、一般社会においては依然として根強い懸念の対象であり、このような薬剤耐性遺伝子の拡散の可能性を正しく評価することが必要である。本研究では、nptII遺伝子をマーカーとして持つ組換え植物DNAが、実験的条件下で細菌を形質転換して薬剤耐性を与えうるかどうかを調べる。本年度は、自然形質転換能を持つことで知られる枯草菌(Bacillus subtilis)とアシネトバクター菌 (Acinetobacter sp.)を用いた自然形質転換系を確立した。
組換え微生物を用いた食品の安全性に関する国際動向の調査研究:バイオテクノロジー応用食品の安全性、特に遺伝子組換え微生物を用いた食品の安全性に関する国際的な動向を調査するため、国際機関により開催される3つの関連会議に、協力研究者の五十君博士が出席し、その議論に参加した。参加した会議はFAO/WHO共同専門家会議(2001年9月スイス、ジュネーブ)、CODEX部会のドラフト案作成作業委員会(2001年11月米国、オークランド)およびCODEX部会(2002年3月日本、横浜)である。吉倉は、CODEX部会の議長としてこの部会の進行と取りまとめを行い、討議事項をステップアップする事が出来た。これら会議で取り上げられた遺伝子組換え微生物を用いた食品の安全性評価に必要と思われる項目で、特に重要と思われ、かつその試験法が確立していない項目について、モデル組換え体を用いた検討を試みた。本年度は、組換え微生物の免疫系への刺激に関する評価法と、動物腸管内における遺伝子の腸内フローラへの移行について検討を行った。
遺伝子組換え魚に関する文献調査:本研究によって次のことが明らかにされた。現在までに組換え体魚類は20数種で作出されており、魚類以外にも貝類、エビ類で組換え体が作出されている。さらに、これらの研究は実験室レベルのものとすでに大量に飼育されているものがある。また、アメリカでは、民間企業が組換え体大西洋サケを食品として利用する許可をFDAに申請中であるが、現段階で許可されていない。遺伝子組換え体ティラピアは発展途上国で技術が進んでおり、食品として利用されるのは、こららの国の方が早い可能性がある。しかし、これらの国の組換え体に関する情報は論文以外には乏しいのが現状である。
安全性評価に関する研究: 我が国において既に食品としての安全性が確認されている遺伝子組換え農作物、特に、大量に輸入されているダイズとトウモロコシについて、導入遺伝子の後代交配種における安定性を中心に解析した。本年度集中的に調査したダイズにおいては、我が国に輸入されている穀粒の中に、頻度は低いものの、導入遺伝子の一部配列が欠落しているために導入遺伝子産物(タンパク質)が発現していないものやプロモーター領域に変化が生じているもの等が見出された。現在、そのような事例について、導入遺伝子の塩基配列決定を進めており、その変化がどのような原因によって引き起こされたかを検討している。
一方、このような種子繁殖性植物ばかりでなく、ジャガイモ等の栄養繁殖性植物においても遺伝子組換え農作物が開発・利用されているため、栄養繁殖後代植物における導入遺伝子の安定性を調査するため、ジャガイモおよびサツマイモについて、植物個体再分化法や遺伝子導入法を検討し、形質転換体が育成できるようになった。次年度は、このような形質転換体の栄養繁殖後代植物について導入遺伝子の安定性を調査する予定である。
さらに、食用として通常利用している植物に由来する新規遺伝子を用いることで、新しいタイプのウィルス耐性植物を育成することに成功した。その種子繁殖後代における導入遺伝子の発現を調査したところ、遺伝子導入当代においては導入遺伝子が発現していたものの、種子繁殖第1代においては、調査した全ての系統において導入の発現が見られなくなった。導入遺伝子は変化せずに存在しているため、ジーンサイレンシングが起こったものと予想され、現在、その機構について解析を続けている。
組換え食品の検知法に関する研究:安全性審査を終了した遺伝子組換えジャガイモNewleaf Plus、ならびに審査中であるNewleaf Yのそれぞれについて、定性分析法確立のための検討を行い、上記2品種を特異的に検知可能である定性PCR検知法を開発した。本法を用いジャガイモ加工原材料について調査を行った結果、調査に供した54検体については当該遺伝子組換えジャガイモの混入している検体がないことを示した。また、安全性審査を終了した遺伝子組換えジャガイモ(Newleaf Plus ならびにNew-leaf) については定量分析法開発のための検討を行い、その開発段階を進めた。
次に、食発第110号により通知された定量的PCR法に同等の別法を開発するため、マイクロキャピラリー型リアルタイムPCRシステム (ライトサイクラーシステム, ロッシュ・ダイアグノスティック社製)を用いた定量分析法開発のための検討を行った。また、確立した分析法を用いて8分析機関による内標比測定試験およびブラインドテストを実施し、前記の定量的PCR法に同等の良好な結果を得た。
次いで、遺伝子組換え食品とその加工品を対象とした検知技術の妥当性の評価を行った。食発第110号により通知されたDNA技術応用食品の検査方法には、定量分析法として酵素免疫検定法ならびに定量的PCR法が採用されている。これら2種の方法を用い、遺伝子組換えダイズを検体とした場合の測定値比較を行った。その結果、脱脂ダイズを検体とした場合には両測定法により得られる結果に相関性がなく、定量的PCR法を用いることで信頼性の高い値が得られることを明らかにした。また、表示義務制度施行以前、ならびに以後の市販豆腐を検体とし、定性ならびに定量的PCR法を用いた調査を行い、表示義務制度の与える影響についての検討を行った。さらに、食発第110号に記載の組換え食品の検査方法が、加工食品に応用可能かどうかの検証をおこなった。その結果、大豆加工品には応用可能であるが、トウモロコシ加工品においては、加工様式により影響を受ける可能性があることが示唆された。
組換え食品のアレルギー性に関する研究:本年度は、患者血清と、新規産生タンパク質との反応性の検討、及び動物を用いるアレルゲン性の検討、並びに新規産生タンパク質の人工胃腸液による分解性の検討を行った。患者血清を用いる研究では、国内食物アレルギー患者血清117種について、除草剤グリホサート抵抗性タンパク質(CP4-EPSPS),及び害虫抵抗性(Cry1Ab, Cry9C)タンパク質に対するIgE抗体の有無の検討を、ウェスタンブロット法でおこなったが、陽性の血清はみられなかった。動物実験では、人工胃液での分解性の悪い害虫毒素Cry9Cを導入したとうもろこしにつき免疫系への影響評価を行った。アレルギー高感受性のB10Aマウス及びBNラットを用い、亜急性毒性試験の期間(90日間)の、害虫抵抗性遺伝子(Cry9C)が導入された遺伝子組換え(GM)とうもろこし摂取が、動物の免疫系に影響を及ぼすか否かの検討を行った。同等の栄養成分を有する近親(isoline)の非組換え(non-GM)とうもろこしを対照として用いた。 GM, non-GMとうもろこし(50%及び5%)混餌飼料を摂取させたマウス、ラットとも両群の体重及び餌の摂取量に有意差はみられず、13週投与後の各種主要免疫臓器の重量並びに病理組織像においても、両群とも異常は認めらず、またCry9Cに対するIgE抗体産生は両群において認められなかった。このことより、GMとうもろこしの比較的長期の摂取により即時型アレルギーを誘発する可能性はほとんどないと考えられた。人工胃腸液による分解性の検討では、タンパク質の加熱前処理による分解性の変化について検討したが、特に人工腸液(SIF)による分解性試験の場合に、加熱による分解性の著しい亢進のみられることが判明した。
慢性毒性試験に関する研究:本研究では遺伝子組換え食品の安全性を検討する目的で、現在生産されている遺伝子組換えトウモロコシ(T25系統,除草剤耐性トウモロコシ)の90日反復毒性試験をおこなった。改良NIHの飼料に含まれるトウモロコシを遺伝子改変のものと置き換える方法をとり、全量、1/4量、1/8量の3用量で置き換えた。なお飼料中の大豆についてはすべて非遺伝子組換え大豆と置き換えた。結果、雌雄ともに体重増加、各種臓器重量には特記すべき変化は認められず、大きな影響はなかったと結論された。(但し、2,3の生化学的データに対照群と比して有意に変化する項目があったため、現在再測定を行っており、病理組織学的検索も検討している。)さらに、この試験結果を踏まえ慢性毒性試験について検討を加えた。
クローン技術を用いた動物食品の安全性に関する研究:我が国の都道府県や大学の試験研究機関等で成育中の体細胞クローン牛について、成育状況や繁殖能力といった各種データ収集するとともに、(社)畜産技術協会が行っている肉質や乳質の調査データ等を入手した。また、国外において報告されているデータについても入手、整理した。さらに体細胞クローン牛の筋肉中残留農薬測定を行うことによって、安全性の裏付けとなるデータをさらに集積した。また、と殺した体細胞クローン肥育牛の筋肉(横隔膜筋)の分与を受け、筋肉中の残留塩素系農薬(DDT、ディルドリン、ヘプタクロル)の分析を、厚生省通知による方法により行った((財)畜産生物科学安全研究所に依頼)。エストロゲン測定に供する体細胞クローン肥育牛のと殺時の血液、体細胞クローン搾乳牛と同肉用繁殖牛の血漿の分与を受けたが、測定は未だ完了していない。これらデータに、体細胞クローン牛について食品としての安全性を懸念する科学的根拠は見い出されなかった。今後、さらに乳質や肉質についてのデータを含め、体細胞クローン牛の知見を収集することによって、食品としての安全性について検討を加える。
リスクコミュニケーションのあり方に関する研究:厚生労働省からの情報提供改善を目的としてインターネットを通じた情報提供システムの試作をおこなった。Webページの作成は、下記の点に留意した。①市民に親しみやすく,市民の知りたいと思う情報が容易に得られること。②情報のありかが容易にわかること。③ウェブページをみることにより,基本的な知識が身に付くこと④厚生労働省の姿勢が見えること。⑤より詳しい情報を知りたい人には詳しい情報を提供すること。⑥先生と子供のページを作成し,情報提供のみでなく,学びの場を提供すること。⑦他の情報源や関連した情報にリンクが張られていること。
市民に親しみやすい市民向きのページ構成とするために,トップページの中央に市民が知りたい情報へのアイコンを配置し,より詳しい情報への入り口はサイドバーに配置する構成とした。トップページ中央には,遺伝子組換え技術,安全性審査,表示,何に入っているか,Q&A,先生と子供のページのアイコンを配置した。安全性審査のアイコンには,厚生労働省の主体的な姿勢が明確となるよう,「厚生労働省はこのように安全性を審査しています」と明記した。子供と先生のページでは総合学習の教材や学びの場が提供できるようにした。サイドバーでは,審議会のページ構成を工夫し,安全性審査の進行状況や,評価の概要書が容易にひきだせるようにした。また,サイト内検索やサイトマップを用意し,欲しい情報に容易にたどり着けるよう工夫した。さらに,基本的な知識が身に付くこと,ウェブページを詳しく読むことを狙ったクイズのページを作成した。
これらの工夫により,従来の情報羅列型のwebページから,市民の方を向いた,わかりやすい,親しみやすいwebページへの改良がなされたと考えられる。来年度は,主婦および小学校教師へのグループインタビューを行い,新たなwebページおよびさらなる改良点について意見を求める予定である。
また、本年度内に十分対応できなかった冊子体を通じた情報提供については,次年度に具体的な提案を行う予定である。
高機能食品の開発:ヒトは、n-3系列脂肪酸のα-リノレン酸とn-6系列脂肪酸のリノール酸をde novo合成できず、それぞれ食事から摂取する必要がある。また、これらの脂肪酸を相互に代謝変換することもできない。よって、生活習慣病予防に効果が期待されるn-3系列脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)は直接摂取するか、前駆体であるα-リノレン酸から生合成する必要がある。そこで本研究では、日本人の主食であるイネにα-リノレン酸を効率よく発現させる遺伝子改変作物を作出し、疾病予防や健康の維持増進に役立つ高機能食品の開発を最終目標とした基礎的研究を継続している。本年度は、リノール酸からα-リノレン酸への変換酵素であるイネω-3 fatty acid desaturase(OsFAD3)を酵母内に効率良く発現させ、酵素活性を測定できる実験系を確立した。
結論
バイオテクノロジー応用食品については、安全性に関する研究を中心に、当該食品の検知に関する試験法の確立及び国民受容に関する研究等を持続するとともに、開発研究の透明性を確保する必要があると考えられる。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
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