細胞・組織加工医薬品・医療用具の品質等の確保に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100492A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞・組織加工医薬品・医療用具の品質等の確保に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
早川 堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 土屋利江(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 山口照英(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 川西 徹(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 川崎ナナ(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 新見伸吾(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(再生医療研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
93,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、バイオテクノロジー応用技術の進歩や再生医学の技術的進歩により、ヒトまたは動物の細胞や組織を培養、加工し、様々な疾患の治療に用いる細胞・組織加工医薬品等の開発が急速に進んでいる。本邦においても、様々な形での細胞・組織加工医薬品等の開発が進められているところであるが、本格的な実用化に至るためには検討すべき課題が多い。
本研究では、細胞・組織加工医薬品等の品質、安全性等を確保するために、1)ウイルス等の感染性危険因子を排除するための基盤技術の開発や評価法に関する研究、2)多重標識FISH等を利用した染色体解析による細胞の同一性・純度・遺伝的安定性評価技術の開発研究、3)細胞由来タンパク質プロフィールを指標とする細胞特性の迅速・高感度解析法の開発、4)細胞・組織のがん化を予測する評価技術の開発に関する研究、5)細胞等による望ましくない免疫反応の検出技術開発に関する研究、6)細胞・組織由来目的生理活性タンパク質の新規体内動態解析法の開発研究、7)幹細胞や前駆細胞を素材とする細胞・組織加工医薬品等の製造過程における品質・安全性確保技術や製品の評価方法に関する研究などを行う。
本研究の成果により、より安全性の高い細胞・組織加工医薬品等の開発や実用化を適正に推進するための基盤作りをすることが可能となり、これを通じた保健医療の向上への貢献が期待される。
研究方法
1)NAT法によるウイルス検出の高感度化を目指して、ポリエチレンイミン及びスルホン酸基結合磁気ビーズを用いたウイルス濃縮法について詳細な検討を行った。2)G-バンド解析、マルチカラーFISH(m-FISH)、Competitive Genome-hybridization(CGH)、c-mycプローブを用いたFISH解析を組み合わせた染色体解析の有用性を検討した。3)イモビラン2次元電気泳動やキャピラリーLC/MSを用いて細胞由来タンパク質プロフィール解析や構造解析を行った。4)ヒトテロメラーゼ(hTERT)プロモーター領域とルシフェラーゼをつないだリポーター遺伝子を作製し、正常細胞と各種がん細胞にトランスフェクトしてその活性化を検討した。5)修飾ポリウレタンでコートした新規免疫隔離膜を作製し、同系、異系ラットへの移植実験により免疫隔離能を調べた。6)FlAsH[4',5'-bis(1,3,2-dithioarsolan-2-yl) fluorescein]反応性の-CCXXCC-(Cはシステイン、Xはシステイン以外の任意のアミノ酸)を含むタグペプチドを有する組換えTNF-αを作製し、組換えTNF-αとFlAsHの反応性を検討するとともに、タグが付加されたときの生物活性を解析した。7)ヒトAC133陽性細胞を取り上げ、血管内皮細胞への分化誘導時における細胞特性指標の解析を行った。生分解性ポリマーの分解産物であるε-カプロラクトンとL-乳酸共重合体[P(LA-CL)2510000]のヒト及びラット軟骨前駆細胞の分化や増殖に対する作用を解析した。
結果と考察
1) ウイルス等の感染性危険因子を排除するための基盤技術の開発や評価方法に関する研究:
NAT法の高感度化を目的としたウイルス濃縮法の検討を行い、ポリエチレンイミン磁気ビーズがHCVウイルスを含むエンベロープウイルスに対して優れたウイルス濃縮効果を示すことを見出した。一方、非エンベロープウイルスに対しては、スルホン酸磁気ビーズが2価イオン存在下にウイルス濃縮効果があることを見出した。両ビーズを用いることにより検討した全てのモデルウイルスやHCV、HBV、HAV等に適応可能であり、100倍から1000倍ほどのウイルス濃縮効果が見られた。また、ポリエチレンイミン結合樹脂を用いることにより細胞懸濁液から効率よくウイルスを除去できることを見出した。
2) 多重標識FISH等を利用した染色体解析による細胞の同一性・純度・遺伝的安定性評価技術の開発:
G-バンド染色、m-FISH、CGH法、c-mycプローブを用いるFISH解析を組み合わせた染色体解析の有用性についてモデル白血病細胞を用いて検討し、これら複数の染色法を組み合わせることにより染色体転座を正確に解析することが可能であることを明らかにした。
3) 細胞由来タンパク質プロフィールを指標とする細胞特性の迅速・高感度解析法の開発:
細胞由来タンパク質プロフィールの精密・迅速・高感度解析法の確立を目指して、培養上清に分泌される増殖因子等を濃縮し、イモビラン2次元電気泳動法を用いて分離した2次元上の各スポットをMSを用いて帰属決定する方法を確立した。また、細胞由来微量生理活性物質の一次構造、修飾アミノ酸、糖鎖結合位置、糖鎖構造、並びに部位特異的糖鎖の不均一性の迅速・高精度解析法を高感度化する目的で、キャピラリーLC/MSの検討を行い、キャピラリーLC/MSが細胞由来微量生理活性物質の構造解析や、糖鎖付加によるタンパク質の不均一性の解析法として感度、迅速性に優れていることを明らかにした。
4)細胞・組織のがん化を予測する評価技術の開発に関する研究:
ヒトテロメラーゼ発現を制御するhTERT遺伝子の5'上流286bpのプロモーター領域とルシフェラーゼから構成されるレポーター遺伝子を作製し、複数のがん細胞でレポーター遺伝子が活性化されること、正常細胞では活性化が見られないことを明らかにした。
5)細胞等による望ましくない免疫反応の検出技術開発に関する研究:
被検細胞等を封入し、分泌タンパク質により惹起される液性免疫反応の検出技術の開発を目的として、修飾ポリウレタンでコートした新規免疫隔離膜を作製した。この新規免疫隔離膜を用いることにより、レシピエント動物からの補体等の非特異的反応による攻撃を受けることなく、細胞由来タンパク質等によって惹起される液性免疫反応の影響をモデル動物を用いて評価できる可能性が示された。
6)細胞・組織由来目的生理活性タンパク質の新規体内動態解析法の開発研究:
体内動態解析の対象とする目的タンパク質のモデルとしてTNF-αをとりあげ、そのC末端にタグペプチドを導入した発現系を構築し、モデル細胞(HeLa)に導入したところ、タグ付き融合TNF-αが細胞から分泌され、TNF-αと同等の細胞致死活性を示すことを確認した。この結果より目的タンパク質の発現性、分泌性及び機能に影響することなくFlAsH結合性タグを附加することが可能であることが示された。
7)幹細胞や前駆細胞を素材とする細胞・組織加工医薬品等の製造過程における品質・安全性確保技術
や製品の評価方法に関する研究:
①幹細胞や前駆細胞を素材とする細胞・組織加工医薬品等の製造過程や製品における細胞の特性や品質評価のための指標探索の一環として、ヒト末梢血や臍帯血AC133陽性細胞をVEGF存在下に血管内皮に分化誘導させると、他の血管内皮細胞マーカーに先立ってCD31陽性細胞が出現することを見出した。この培養初期のAC133陽性細胞をCD31の発現を指標として分画し、CD31の発現と血管内皮分化能との関連を調べたところ、CD31強陽性細胞から効率よく血管内皮細胞が出現することを見出した。以上の結果より、血管内皮細胞への分化能の指標としてCD31が有用であることを明らかにした。②代表的な生分解性ポリマーである低分子量ε-カプロラクトンとL-乳酸共重合体の細胞高密度培養への影響をヒト及びラット軟骨前駆細胞を用いて調べた結果、細胞分化や増殖性に対して著しく異なる作用を示すことを見出した。したがって、組織工学利用医療用具の評価を行う上で、動物モデルでの結果をヒト臨床効果の予測に利用するときは、その作用が種間で異なる可能性を考慮する必要性が示唆された。
結論
(1)ウイルス等の感染性危険因子を排除するための基盤技術の開発や評価方法に関する研究として、ポリエチレンイミン結合磁気ビーズ及びスルホン酸磁気ビーズが各種ウイルスに対して優れた濃縮効果を示すことを見出した。 (2) G-バンド染色、m-FISH、CGH法、c-mycプローブFISH法を組み合わせた染色体解析より、染色体転座を正確に解析することが可能であった。(3) 細胞由来タンパク質プロフィールの迅速・高感度解析法の開発を目指して、培養上清に分泌される増殖因子等をイモビラン2次元電気泳動法で分離し、MSを用いてその帰属を決定する方法を確立した。また、キャピラリーLC/MSによる目的タンパク質の構造解析法は,細胞治療用細胞の品質評価法として有用であることが確認された。(4) ヒトテロメラーゼ触媒サブユニット遺伝子(hTERT)のプロモーター領域とルシフェラーゼ遺伝子とをつないだレポーター遺伝子を用いることにより細胞のがん化を予知できる可能性が示唆された。(5)修飾ポリウレタン膜をコートした免疫隔離膜が液性免疫の影響を評価する上で有用であることが示唆された。(6) 目的タンパク質にFlAsH反応性のタグペプチドを結合させる方法が、細胞由来目的タンパク質の体内動態の新規評価法として有用であることが示唆された。(7) ヒト末梢血幹細胞及び臍帯血AC133細胞の分化誘導初期に出現するCD31強陽性細胞が血管内皮への分化能を持つことを見出し、CD31の発現が血管内皮分化能をもつ細胞の特性指標となることを見いだした。 生分解性ポリマーが、ヒトとラット軟骨前駆細胞の分化及び増殖に対して異なる作用を持つことを見出し、組織工学利用医療用具の評価を行う上で、動物モデルでの結果をヒト臨床効果の予測に利用するときは、その作用が種間で異なる可能性を考慮する必要性が示唆された。

公開日・更新日

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