たばこ税増税の効果・影響等に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100022A
報告書区分
総括
研究課題名
たばこ税増税の効果・影響等に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
油谷 由美子((財)医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 望月友美子(国立公衆衛生院)
  • 石井聡((財)医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
  • 久保田信治((財)医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
  • 石井剛((財)医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
12,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喫煙によるコストについては、我が国では、医療医療経済研究機構(平成6~8年度)が1993年時点のコストを推計したものがある。「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」における喫煙対策の推進やWHOの"Framework Convention on Tobacco Control"(たばこ対策枠組条約)策定にむけての取り組み等をうけ、喫煙によるコストについて、最新データを用いた再推計の必要があると考えられた。本研究では、これまでの喫煙の健康影響に関する疫学的研究の成果も利用して、喫煙による医療の超過需要(医療費増分)をはじめとした喫煙によるコストを再推計することを第一の目的とした。
また、たばこ税の増税(たばこ価格の上昇)が個人の喫煙行動に与える影響を検討することを第二の目的とし、喫煙者へのアンケート調査等を実施した。さらに、諸外国におけるたばこ税等の実態について調査し、今後の医療政策、喫煙対策等の議論に参考となる資料を提供することを第三の目的とした。
研究方法
1)喫煙による超過医療需要および喫煙によるコストの推計
疫学データ、医療費データ等を活用し、超過医療需要をはじめとした喫煙によるコストの推計値を算出した。また、地域単位(都道府県)において、喫煙によるコストを推計するモデルを作成した。
2)たばこ価格の購買、喫煙傾向への影響に関する研究
①各5人程度からなる7グループに対し、グループインタビューを実施した(2001年11,12月)。主な調査内容は、喫煙量、ニコチン依存度/普段の喫煙行動/禁煙に対する関心度/喫煙の健康被害に対する認識/たばこをめぐる消費行動/喫煙のコストとたばこ税への考え方等とした。
②たばこの価格変動が喫煙行動に与える影響を検討することを目的として、アンケート調査を実施した(2001年12月)。調査対象は、全国20歳以上男女で、喫煙習慣のある者とし、2,420人を抽出し、郵送で配付、回収した。主なアンケート項目は、職業、世帯年収、こづかい/たばこの購入金額、購入単位、たばこ代の値ごろ感/喫煙習慣、喫煙量/仮想のたばこ価格における喫煙行動の変化/禁煙への関心、たばこの健康被害への認識等とした。(なお、回答内容をもとに、回答者のニコチン依存度を評価、推定した。)
3)諸外国におけるたばこ税等に関する調査
調査対象国は、イギリス、オーストラリア、韓国の3か国とし、たばこ税税率、使途、健康対策におけるたばこ税の活用の実態把握、たばこ税の喫煙対策における効果の捉え方、政府判断の立場等の整理を行った。
結果と考察
1)喫煙による超過医療需要及び喫煙によるコストの推計
本研究においては、過去の高い喫煙率のもとで、1999年度に発生した死亡や疾患等がもたらすコストを測定するという立場をとった。直接喫煙が本人や胎児に及ぼした影響や受動喫煙により超過的に発生した医療費は1兆3,086億円、喫煙に起因する疾患や火災被害等の影響を受け生産活動に従事できなかったり、死亡により将来にわたって生産活動に従事できなくなったために社会が被る損失は5兆8,454億円となった。これらを合計し、総額7兆1,540億円を喫煙によるコストと推計した。
2)たばこ価格の購買、喫煙傾向への影響に関する研究
アンケート調査では、発送2,420件に対し、回収は2,105件、回収率87.0%であった。
本調査において、たばこ1箱が仮想的に「300円」「500円」「1000円」に値上げされた場合の行動変容についてたずねた結果、「300円」に値上げされた時点で、たばこをやめるという回答は全体の16.2%、「500円」でやめるという回答は全体の42.2%に達した。さらに、たばこ1箱が1000円に達すると、全体の63.1%の人がたばこをやめると回答した。このことから、過半数の人が禁煙する価格は、500円から1000円の間にあると考えられる。
300円までの値上げでは、女性のほうが男性よりもたばこをやめる、という回答割合が高かった。また、ニコチン依存度が低いほど「たばこをやめる」という割合が高く、さらに、禁煙への関心が高いほど「たばこをやめる」という割合が高くなる。ニコチン依存度が低い人に対しては、300円程度までのたばこの値上げも、禁煙対策として効果があるものとみられる。
500円までの値上げは、300円までの値上げと同様、禁煙への関心が高い人ほど「たばこをやめる」という回答が多くなる。1000円になってもたばこをやめないという全体の40%の人は、禁煙への関心が他の人に比べ低い。本人の禁煙への関心があってこそ、価格の上昇がきっかけとなり、禁煙を実際に行う可能性が高くなる、という見方ができる。
3)諸外国におけるたばこ税等に関する調査
イギリス:1999年以降、インフレ率+3%以上の増税が続けられてきており、現在、市場価格の約80%が税金であり、EU内で最も高い税率となっている。価格上昇にしたがい、消費量は下がっているものの、税収は維持されている。EU内においては、たばこ税が貿易障壁にならないようEU指令が設けられている。EU指令との整合性を保ちながら、イギリスにおいては、たばこ価格上昇による喫煙対策に取り組んでいる。従量税と従価税のバランス、ブラックマーケット対策が主な課題になっている。
オーストラリア:以前は、州がたばこの卸売り価格に対して課税し、この一部が健康増進目的の施策に用いられていたが、違憲とされたため、現在では連邦によって物品税および消費税が課されている。
韓国:今回の調査対象国のうち唯一、現在も健康対策を目的とした税金が課せられていた。たばこ価格の1割が健康増進、健康保険財源として活用されている。たばこには、他に教育、廃棄物対策、たばこ農家の転作支援等を目的とした税が課せられている。政府は、明確に喫煙対策を推進し、この結果、税収の減少も受け入れるという立場をとっている。
結論
本研究においては、直接喫煙が本人や胎児に及ぼした影響や受動喫煙により超過的に発生した医療費は1兆3,086億円と推計し、これは国民医療費の4.2%(下2桁まで計算することに意味がありますか?)にあたることが分かった。
また、たばこの価格弾力性は小さいと一般的には言われているものの、アンケートの結果からは、過半数の人が禁煙に踏みきる価格は、おおよそ500円から1000円の間にあると考えられ、値上げ(価格)は喫煙対策として効果が期待できると考えられる。同時に、禁煙への関心やたばこの病気への影響の理解とも関連があることが分かり、禁煙対策には情報提供が重要であることも分かった。
本研究の喫煙によるコストは、過去の喫煙の影響が99年度に及ぼした影響を推計したが、現在の喫煙行動の変化が将来に対し、どのような影響を与えるかについて検討するモデルを構築していくことが今後の課題になると考えられる。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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