先進諸国の少子化の動向と少子化対策に関する比較研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100007A
報告書区分
総括
研究課題名
先進諸国の少子化の動向と少子化対策に関する比較研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小島 宏(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 津谷典子(慶應義塾大学)
  • 原俊彦(北海道東海大学)
  • 西岡八郎(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 釜野さおり(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 福田亘孝(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
37,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本の出生率は1970年代半ば以降低下し続け、政府や自治体ではこの傾向に刃止めをかける方策が模索されている。このような時代背景と政策的要請の下で、日本と同様の少子化傾向を経験している先進諸国の出生動向と経済社会の動向ならびに社会政策との関係をクロス・ナショナルに計量的に分析し、かつ主要国について国別に分析する。
研究方法
①総括班:国際比較可能なデータの最終的な整備とデータベースの構築、出生率の関連要因の分析、モデル家族手法を用いた日本データの分析、少子化の進む日本とイタリアにおいて若者の性行動ならびにパートナーシップ形成行動の実態と意識・子供観に関する比較調査の実施。②各言語圏・地域:圏・地域内の共通点と相違点に注目しながらの人口統計データの収集と分析、地域特有テーマの研究などによる出生率と家族政策の関連の分析。
結果と考察
(総括班)(1)財政的支援と出生率の関連の分析:①日本と欧米先進諸国の家族手当、児童手当、所得税控除などの財政面からの子育て支援政策の国際比較データの収集と整理を行い、各国の家族政策、社会政策体系に焦点を据え、国際比較可能なデータベースを構築し、各国の子どもを持つ親への経済的な支援の水準や手段を明らかにした。②欧米先進諸国と日本の児童給付パッケージと出生率の関連の分析を行なうため、ブラッドショウ教授と共に「モデル家族」法の特徴と限界や手法の日本への応用について検討した。③日本のモデル家族分析について、ブラッドショウ教授との議論から、日本は住居費が高く、親が負担する子どもの保育・教育コストが高いことが少子化の背景として重要であり、対策としての家族に対する経済支援政策を考える鍵になるとの結論をえた。(2)データベース化と分析: ①マクロ・データの時系列比較:少子化動向をみる指標(出生率データ)、出生率の近接要因(結婚・出産・パートナー関係に関するデータ)、社会経済的要因(女性の社会進出、高学歴化の指標となるデータ)、保育に関するデータを取り上げ、比較分析を行った。②モデル家族方式による児童給付パッケージの分析:モデル家族別、費目別に出生率との関係を分析し、どのような家族に対するどのような経済的支援が出生率と関係しているのかという観点から考察した。(3)リプロ・ヘルス等に関する国際比較分析:若者の性行動の実態と関連要因を明らかにするため、少子化の進む日本とイタリアで大学生の意識・行動・価値観の調査をおこなった。両国は先進諸国の中で10代妊娠率が最も低い国であり、国際的にみて10代の性的活動の高さと出生率の高さとの間に関連がみられることは注目される。少子化対策において、若者のリプロダクティブ・ヘルス/ライツの向上ならびに若者の自立とパートナーシップ形成を支える政策が重要な意味を持つことを示唆する。
(各言語圏・地域の主要国研究):①ドイツ語圏諸国:年齢別出生率の時系列変化のサーモグラフ化により、戦後の結婚ブームを反映し若年層での爆発的な出生率上昇が発生し、1962~3年から高年齢の出生減退が始まり、70年代中頃から出生の先送りが起きたパターンが確認された。ドイツ、イタリア、日本の無子割合、第1子割合の推移を比較した結果、ドイツでは無子と有子家庭への二極化、イタリア、日本では家族規模の縮小傾向がみられた。フランクフルト市及びその近郊で、子ども数の異なる家族計11組に対し、収入、税金、児童手当、育児休業についてインタビューした。収入、税金、支出は各家族とも納税票や家計簿を確認しない限り把握が困難で認識も曖昧である。児童手当の額は強く意識されているが、金額が不十分との回答を得た。産休は高く評価されているが、育休は所得制限の関係で3年後の職場復帰の権利の保障と理解されている。男性の取得は論外との意見が大勢を占めた。第1子出産を決意あるいは出産した後に始めて家族政策に関心を持つ点が共通している。②フランス語圏諸国:フランスでは本年1月から父親休暇が施行され、保育に関する論議も盛んになっていることが確認された。ベルギーでは終戦直後にも人口政策的意図も交えた家族政策に関する論議が盛んになされ、政府、労働組合、経営者団体、家族擁護団体による会議や報告書作成が行われている。「フランスの家族論に関する論考」では、家族の社会的役割を再評価する論調が見られ、親子関係は強化され、法的に保護されるべきであるとの考え方があることと、少子化が再び注目を集めていることが指摘された。「フランスにおける働く親の支援に関する論考」では、1994年家族法以降の家族政策の変化と、家庭責任に関する男女間の不平等に関する検討がなされ、家族政策が異なる目的の間で揺れ動いていることが再確認された。「フランスの保育政策に関する論考」では、乳幼児に対するケアを巡る家族と政府、市場の間の関係が論じられた。両性間の平等の不徹底さが父親の育児不参加の要因をなし、政策目標において雇用創出の優先度が高いことが、家事・育児の両性間での分担よりも外部サービスへの依存が促進していることが指摘された。「ベルギーとルクセンブルグの家族政策の歴史的展開に関する論考」では、両国とフランスとの類似が指摘された。③北欧圏諸国:出生率変動の人口学的構造の変化を分析した。80年代後半に出生率は4カ国で回復し、90年のTFR2.1をピークに出生率が急落し上下動したスウェーデンを除き、90年代のTFR は1.7~1.9と安定している。出生の年齢構造では北欧4カ国は類似した傾向を示している。1960年代半ば以降15~24歳の出生率は低下し続け、25~29歳の出生率は1960年代~70年代に低下したがその後安定もしくは80年代半ば以降若干の増加傾向にある。30歳代の出生率は80年代以降明確な増加傾向を示している。60年代半ば~70年代の出生率の置換水準以下への急激な低下は主に10代後半から20代の女性の出生率低下によって起こったが、80年代半ば以降の出生率の回復は20代後半、特に30代女性の出生率の増加によって起こったことがわかる。80年代以降出生タイミングは遅くなっている。また、80年代半ば以降、全出生児における第1子の割合が若干低下傾向にあるのに対し、第3・4子の割合が漸増している。その他、避妊・人工妊娠中絶および結婚・同棲についてのデータを収集・分析し、性・年齢別配偶関係割合および平均初婚年齢の推移に加え、婚外出生割合についても、北欧圏の特徴を捉えた。 ④南欧圏諸国:基礎的統計データの整備、出産・育児支援施策、家族手当・児童手当等の子育て支援施策に関する資料の整備に力点をおき、少子化動向と対策に関する総合的な分析と検討を行った。主要国では、70年代後半以降に急激に出生率が低下し、90年代後半にはTFRが1.1近くまで落ちた。出生率低下も女性の社会進出も、他の西欧諸国に比べ遅く始まったが急速であること、一方で出産・育児支援、家族手当・児童手当などの法・制度の整備が低い水準で近年まで推移していたこと、性別役割分業観など
伝統的な価値観が根強いことなどが南欧圏の特徴である。急激な社会的状況の変化、特に女性を取りまく変化に社会全体のサポートシステムが対応できず、女性の仕事と出産・子育てが分断されたことによって出生率低下に拍車をかけたことは明示的である。また、イタリアとスペインで12タイプ合計24家族にインタビューを行い、イタリアでは、国からの支援は不十分であると考えられていることや子どものいる女性は採用の際に不利になっていることがわかった。子育てコストが子どもを持つかどうかの決定に影響していること、子育ての経済的コストの認識が強い傾向もみられた。スペインでは、子どものいる女性の半数および子どものいない女性は、子どもを経済的コストとみる傾向が見られた。家事分担、子どもに関する規範、保育サービスの利用などに関しても知見を得た。⑤英語圏諸国:家族に対する支援施策と出生率との関連を分析した。家族政策、出産・育児休業制度、児童手当、家族税控除・手当、保育サービスとその利用について60年代以降の変遷をまとめた。インタビュー調査を行い、イギリスでは保育サービス不足の認識はあるが、子育て費用は子どもをもつかどうかを考える際に考慮されないこと、オーストラリアでは、出産が仕事にあたえる影響に多様性がみられ、子どもをもつかどうかを考える際、教育コストが考慮されること、ニュージーランドでは、子育ての経済的コストの認識が薄いことなどがわかった。英語圏諸国では、就労形態や保育サービスに多様な選択肢と柔軟性があるため、個々人の裁量でまかなっていけることが、出生率の大幅な低下を防いでいると思われる。
結論
(1)出生率の上昇がみられた国における重要な社会経済変化と、それをもたらした社会政策の種類と強度 (2)出生率が低下している国に共通する社会特性、各種の社会政策の欠如等が明らかとなり、日本の少子化対策への有益な提言をひき出すことが可能となった。今後も、本研究で収集したデータを分析し、適宜成果を発表していく。

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