安定供給に向けた国内外の抗毒素製剤の品質管理に関する研究

文献情報

文献番号
200000843A
報告書区分
総括
研究課題名
安定供給に向けた国内外の抗毒素製剤の品質管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 元秀(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内善信(国立感染症研究所)
  • 後藤紀久(国立感染症研究所)
  • 佐々木次雄(国立感染症研究所)
  • 桑原靖(デンカ生研株式会社)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
毒素性細菌の感染症、海洋生物の刺傷や蛇咬傷の治療には、各毒素に対する特異的抗毒素療法が行われている。抗毒素製剤は治療用医薬品として、一般医薬品と異なり、求められる品質管理手法が異なることも予想される。国内の生物学的基準には採用されていない試験項目、確認試験等が海外で導入されている場合には、それら情報と技術を調査研究する。また、輸入した抗毒素製剤を治療に用いる場合には、相手国の品質管理方法や技術を基とした製剤の品質についての情報は不可欠である。しかし、現在ではそれら情報が整っておらず、製剤を用いようとする際の障壁となる。近年、製剤の品質管理試験法の精度管理、適正な試験法等について国際的な協調も進む一方、ある種の製剤については地域特異性を生かして、限定した関連国間での共同研究の推進が求められている。これら製剤に対する地域標準品の制定の手始めとして、本研究班では、まむし抗毒素については日本、中国及び韓国で、統一した試験法で標準化した標品を作製することの必要性を協議する。さらに、試験担当者相互間の認識を取りつつ早急に標準品作製を実施し、今後予想される他の製剤のシステム構築における先駆的な規範としたい。
研究方法
国内で緊急対応または枯渇が予想される製剤は、ウミヘビ抗毒素、まむし抗毒素、ボツリヌス抗毒素、ガスえそ抗毒素等が予想される。これら抗毒素の製造国の国家検定機関および製造所より、品質管理・試験方法について情報を得ながら、輸入した製剤の品質試験の妥当性を試験する。安全性については、無菌試験とともに発熱物質否定試験(エンドトキシン試験)を行う。また、有効性試験については、特異的で精度が良く、且つ感度が高い方法を確立し、試験成績は統計学的解析を十分に行い判断する。共通抗原性の高い抗毒素については、使用している当該国同士の共通利用を目的として、地域性のある抗毒素製剤の標準品や試験毒素を作製する。特に、まむし抗毒素の標準化については、韓国から技術援助を求められている経緯もある。現在、当該製剤を製造し品質試験を実施している中国、日本および韓国の3ヶ国の国家検定担当者で協議後、候補標準品を選定し、標準化試験を実施する。さらに、相互間で標準品、抗毒素の需要・供給量について、継続的な関係を維持する体制についても可能な限り協議する。
また、国内蛇抗毒素の品質管理試験の向上を目的に国内蛇毒のin vitro測定法としてVERO細胞を用いた培養細胞法での検討を行い、やまかがし毒については、毒素の生化学的な性状を検討する。
結果と考察
1:海外から輸入した数種の抗毒素製剤について、国内生物学的製剤基準に準拠した無菌試験、ウサギ発熱試験、異常毒性否定試験、および現在基準では規定されていないが発熱物質を感度良く定量できるエンドトキシン試験法で測定した結果、不適当と判断される品質の製剤は確認されなかった。佐々木分担研究者が指摘しているように、最終製剤を用いて無菌試験を実施することで、その製剤の無菌性の保証を得ることは困難ではあるが、今回限られた本数を用いて数種の製剤について試験した結果では、無菌性を否定する成績は得られなかった。また、後藤分担研究者の成績によると、輸入製剤のウサギ発熱試験及びモルモットを用いた異常毒性否定試験ともに異常は観察されなかった。また、堀内分担研究者の報告にあるエンドトキシン試験も発熱物質をより感度良く定量する方法として、一部の国内生物学的製剤基準の試験項目に近年導入され始めた。抗毒素治療に際して、抗毒素の力価、投与時期、患者の症状等により、投与される抗毒素量は、医師の判断で大量投与される場合がある。このように抗毒素療法の特殊性から製剤中の発熱物質は精度の高い方法で定量することが必要である。中国の輸出用まむし抗毒素の製造記録には中国国内基準では制定されていないが日本の基準で規定されている試験項目を追加実施した成績を添付しており、関連情報の収集と試験技術の改良・向上について努力し、品質管理体制の充実が窺われた。
なお、輸入製剤の中にはガラスアンプルに封入されているものがあり、開封に際してガラス片が混入する恐れがある。製剤中に混入した微細なガラス片を除去することは困難なため、ワクチン瓶を利用する等の製造技術の改良が求められる。
2.今年度、後藤分担研究者が台湾、高橋がタイ国について、抗毒素の国家品質管理状況と関連製剤を製造している製造所を訪問して聞き取り調査した。なお、細菌製剤協会が実施しているWHO等の国際機関から得た情報のデーターベース化については、桑原分担研究者がその現状と進捗を報告し、本研究班とは有機的な関連があるため、双方で収集した情報を共有化することの意義は大きい。
台湾:後藤分担研究者の報告で明らかなように、製剤の品質管理担当部局は台湾行政院衛生署疾病管制局(CDC)と薬物食品検験局である。国内製造所は、現在はCDCで大半の製剤が製造されているが、近い将来、民間の国光生物科技股汾有限公司で全ての生物学的製剤の製造を移管する方針であった。現CDCは、衛生署の国立検疫所、国立予防医学研究所そして伝染病管制部を統合して1999年に設立された。現在CDCでは、5種の毒ヘビ咬傷に対するウマ抗毒素を製造している。製剤は各地の病院や医療センター等に備蓄され、毒蛇咬症の治療費は国家負担である。その他、破傷風抗毒素、 ジフテリア抗毒素およびボツリヌス抗毒素を製造し、破傷風抗毒素については、ウマ血液由来の製剤に替わり、抗破傷風人免疫グロブリン製剤をスイス(SSVI)、米国(バイエルン)から輸入している。これら製剤に関するGMP査察も実施されている。なお、有毒蛇の対策は、種の保存を優先する政府の方針で、一般人が捕獲することは法律で禁止されていた。 
タイ:高橋が国立品質管理研究所と製造所を現地調査した。
保健省の食品医薬品管理局(FDA)において、抗毒素製剤の品質管理試験とGMP査察が実施されている。FDAは11部門から組織され、この中に抗毒素の品質試験部門が位置づけられている。抗毒素の製造は、The Government Pharmaceutical organization(GPO)とタイ赤十字で行われていた。GPOは一般医薬品、試験試薬、診断薬、および生物学製剤の製造を行う政府の機関で、ここで製造されたものは、上記FDAで国家検査・検定を受けて市場に供給するシステムである。GPOではワクチン、トキソイド及び抗毒素製剤等の18品目の製剤が製造されている。タイではこれら製剤の使用後の副反応を調査・追跡するシステムが一般医薬品、生物学的製剤等の広範囲品目について、WHOの共同研究事業として進行中である。抗毒素使用後に観察された異常(嘔吐、発熱、アナフィラキシー等)について医療現場から中央のセンターに報告・集計され、特に問題のある場合は常設の委員会で協議され、患者に対する手当、品質改善を指摘していた。
3:本年2月(2001年2月)に抗蛇毒素の標準化と管理に関するWHOの国際会議が英国で開催された。この会議では、世界中に分布・生息する毒蛇は多数であり、それぞれの種に対する国際標準抗毒素をWHOで用意するのは困難であるとされている。従って、各国もしくは同種の蛇が生息する地域国でRegional Referenceを用意する必要性が確認された。本研究班ではマムシ抗毒素については、まさにこの方針で進めることを企画していたため、今年度中国および韓国の国家品質管理担当者と協議後、必要性を確認したため、Regional reference 作製を2年度の優先研究課題とした。具体的には、中国においてウマを高度免疫し、3ヶ国で日本で実施している測定法(ウサギ出血活性とマウス致死活性)で力価を定量する。なお、完成後の標準品は当該国で1000本程度保管することで、約10年間は同一標準品で試験を実施し、成績を共有化することができる。
4: 蛇抗毒素の品質管理の検討:国内蛇抗毒素のin vitro測定法の開発を目的に、ハブ毒、まむし毒及びやまかがし毒についてVERO細胞に対する毒性を定量した。各々の毒素1mg当たりの50%細胞を変性死させる細胞毒性活性で比較した。その結果、ハブ試験毒素には125-640 CD50、まむし試験毒素には7870-2,5600 CD50の活性が含まれていた。一方、やまかがし毒素は非常に弱く5 CD50であった。
やまかがし毒の生物化学的試験成績:やまかがし毒素をカラムでゲル濾過した結果、出血活性とProtease活性の分画パターンは異なるため、両活性は異なる成分によると考えられる。
やまかがし毒素の出血斑を観察するとハブ毒のそれと比較して拡散する傾向があるためHyaluronidase活性を測定した結果、その毒素中に存在が知られているThai cobra毒と比較すると約1/5程度の活性であった。Thrombin活性を測定した結果、検出レベル以下であったが、粗毒素によるラット血漿の凝固がカルシウムの存在下で起きることから、今後カルシウム存在下で検討を行う。Esterase活性を測定した結果、ほとんど検出されなかった。Elapidaeにはこの活性が無いという定説があり、“やまかがし"がElapidaeに属するという従来の知見と一致していた。
結論
(1)中国、タイ、台湾及び中国から輸入した蛇毒抗毒素は、安全性試験として無菌試験、発熱試験、異常毒性否定試験およびエンドトキシン試験を行った結果、国内抗毒素製剤の品質より劣るという結果は認められなかった。(2)台湾とタイ国の国家品質管理研究所と抗毒素製剤製造所を現地調査した結果、両国ともNational control authorityは保健省のFDA機能を有する組織に所属し、組織形態については整っていることが伺えた。また、国内基準書が用意され、安全性と有効性試験の実施が義務付けられていた。(3)中国、韓国の国家検定担当者と協議し、まむし抗毒素のRegional Reference作製の必要性を確認したため、共同で作製、標準化することとした。

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