予防接種の効果的実施と副反応に関する総合的研究

文献情報

文献番号
200000809A
報告書区分
総括
研究課題名
予防接種の効果的実施と副反応に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
竹中 浩治(財団法人予防接種リサーチセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 井上栄(国立感染症研究所)
  • 千葉峻三(札幌医科大学)
  • 神谷齊(国立療養所三重病院)
  • 磯村思无(名古屋大学)
  • 平山宗宏(母子愛育会・日本子ども家庭総合研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
40,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、感染症から国民を守る社会防衛の唯一の積極的方法である予防接種が、その目的を達成できるために必要な事項を、基礎医学的、臨床医学的、疫学的見地から、行政的戦略の立場に立って明らかにすることを目的として実施した。
研究方法
主任研究者の下に4つの研究テーマ及び総括を担当する5名の分担研究者をおいた。研究協力者としては、ワクチン学の専門研究者(病原微生物学、病理学、疫学、免疫学、臨床医学、臨床検査学、等)、各都道府県から推薦された行政と連携のよい臨床医、日本医師会からブロック別等に推薦された代表医師等に協力を委嘱した。研究協力者数は全国で百名を越えるので、予防接種に関わる情報、研究の委嘱等は文書で行い、年度末には報告書の提出を求め、研究班総会を開催して研究発表、討議、情報の提供を行った。
研究は次の各研究分野につき分担して実施した。( )内は担当分担研究者名。
(1)予防接種の効果と副反応発症要 因並びに機序に関する基礎的研究(井上栄)
(2)予防接種の効果と感染症の発生状況に関する研究(千葉峻三)
(3)予防接種副反応に関わる臨床的並びに疫学的研究(神谷齊)
(4)予防接種の効率的実施と健康教育に関する研究(磯村思无)
(5)総括担当(研究の企画、調整、運営に関する総括)(平山宗宏)
結果と考察
3年間の研究成果を含めて以下のように要約された。
1)麻疹ウイルスがよく増殖するCOBL細胞を樹立し、この細胞を用いて麻疹中和抗体を測定する系を確立した。現行麻疹ワクチンによって獲得された抗体は、自然麻疹罹患児同様によく自然麻疹ウイルスを中和しており、現行ワクチンの有効性が確認された。また、自然麻疹罹患によって細胞免疫の低下が生じるが、麻疹ワクチン接種によっては免疫機能の低下は認められなかった。自然麻疹患者で起こる非感染リンパ球のアポトーシスは、感染によって生産されるIFN-γとIL-18によると考えられた。
2)ワクチン接種後のアナフィラキシー発生の問題は、ワクチンに含まれるゼラチンの除去によってほぼ解決された。しかし、重症アナフィラキシー報告例の中にはゼラチン特異IgE陰性例もあることからさらに検討が必要である。IgE抗体が反応するゼラチン分子上の主たるエピトープはウシⅠ型コラーゲンα2鎖のアミノ酸部位419ー510にあるとされた。また、幼弱マウスにDPTワクチンとBCG同時接種により、抗百日咳毒素IgEは抑えられ、IgG2a抗体は増加した。
3)各種血中抗体の測定法につき、各分野の研究者による意見と新技術の交換を行った。
4)インフルエンザAウイルス感染に伴う脳炎・脳症の調査が北海道を中心に行われた。インフルエンザワクチンの効果と安全性については6か月以降の乳児でも幼児と同等の抗体上昇が認められたが、小児では2回接種が必要であった。成人では高齢者を含め1回の接種で十分な抗体上昇が認められた。小児についてインフルエンザ罹患時の熱性痙攣合併頻度は、ワクチンにより低下傾向が認めた。問題となる副反応の経験はない。
5)麻疹については、過去6年間の北海道内の麻疹流行のまとめがなされた。全道にわたる施設から、生後2週から19歳までの1,015症例が報告され、乳児麻疹は187例(18.4%)であったが、7か月以上が90%以上であり、10歳以上の年長児は145例(14.3%)であって、1980年代前半の調査成績に比し、いずれも明らかな増加が認められた。生後2週からの乳児の罹患例や7か月からの罹患の増加は、母体の抗体価低下の傾向が懸念される。ワクチン接種率の向上がまず重要課題である。年長児の麻疹罹患増加傾向はあるが、ワクチン接種後の抗体低下による罹患の増加については今のところ大きな心配はない。
6)風疹では、罹患していないと答えた中学生の61%が抗体陽性である一方、高校生女子の18%が抗体陰性との報告があり、ワクチン接種率の低下が懸念される。水痘ワクチンについては、1回接種で15%程度認められたその後の自然罹患が2回接種では見られず、2回接種が効果的であった。また、DPT1期を3回受けた者と4回受けた者との比較を2期の小学6年生時に行ったところ、いずれの抗体価も差異が認められなかった。
7)予防接種副反応を疑う症例については任意接種分についての公式なデータがないが、本研究班では、おたふくかぜ、水痘、インフルエンザ各ワクチンに関連した報告があった。
8)予防接種副反応の確認、紛れ込み事故の防止のために、臨床検査と病理学的検査の励行がすすめられ、併せて背景疾患の新たな調査が継続的調査事業の一環として行われた。最近2年間に急性神経系疾患で入院した小児6,878例が報告された。性別には男児が1.47倍多く、年齢別には1歳が22.7%で多かった。病名別には、熱性痙攣41.6%、てんかん16.6%であり、無菌性髄膜炎27.6%、細菌性髄膜炎2.3%、脳症1.6%、脳炎1.5%、急性小脳失調症0.6%、脳血管障害0.5%、多発性神経炎0.4%などであった。原因ウイルスが判明したのは、30~40%であった。発症1か月以内にワクチン接種歴のあった75例中、他の原因が明らかなものは13例、ワクチンとの因果関係が考えられたのは、おたふくかぜワクチン後の無菌性髄膜炎11例であった。
9)予防接種実施状況の全国調査により、本年度も全市町村の94.9%が把握された。接種率は、乳幼児期のポリオ(全国平均で86.3%)、DPT(85.8%)は良好であったが、麻疹(81.0%)、日本脳炎Ⅰ期(75.2%)はやや低率、就学後の接種率はとくに個別接種で低率で危惧された。地域、学校における予防接種に関する健康教育はなお低調であった。
結論
本年度研究結果を中心に、3年間の研究の成果をまとめて報告した。
1)ワクチンに添加されたゼラチンの除去により、アレルギー性副反応は激減した。
2)麻疹の流行株に変異が起きているが、現行ワクチンは十分有効であることが確認された。しかし母体の抗体価の低下に伴う乳児期の麻疹罹患が増加している。一方麻疹罹患による細胞免疫の機能低下が確認されたが、ワクチンウイルスの免疫抑制作用は低い。
3)インフルエンザ桿菌ワクチンの導入を費用便益効果を考えながら検討すべきである。
4)インフルエンザAウイルス感染に伴う脳炎・脳症の実態調査が継続され、その病態や病理学的検討も行われた。予防対策として、高齢者や重症心身障害児などハイリスク者の施設の他、乳幼児についても予防接種の有効性と安全性の検討が行われた。成人は1回接種で有効と判断されたが、乳幼児については2回の接種が必要である。
5)予防接種事故の背景疾患の新たな調査が行われ、最近2年間の実態が明らかにされた。
6)基礎疾患のあるハイリスク小児への予防接種判断基準の検討が行われ、予防接種ガイドラインの改訂に活用したい。
7)都道府県を通じて各市町村にアンケート調査を依頼した全国調査により、市町村の94%以上の実情が把握された。ほとんどの市町村で未接種者への配慮をしており、接種率は、乳幼児期については比較的良好であるが、小中学生への接種率が不十分で危惧された。麻疹と風疹の混合ワクチン(MRワクチン)の実用化を急ぎたい。健康教育と広報の努力が、文部省との連携を含めて緊急に必要である。

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