食品中の有害物質等の評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000703A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の有害物質等の評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
合田 幸広(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 豊田正武(国立医薬品食品衛生研究所食品部長)
  • 米谷民雄(国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部長)
  • 関田清司(国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター毒性部室長)
  • 内山貞夫((財)食品薬品安全センター秦野研究所食品衛生外部精度管理調査事業部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
40,438,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品の安全性及び健全性を確保するために必要な情報は、食品汚染物に関する情報と食品中の天然有害物情報である。まず食品中の化学物質の継続的なモニタリング(食品汚染実態調査)とそれらに対する人間の暴露状態即ち日常の経口摂取量の把握(摂取量調査)とは、化学物質による食品汚染に関するリスクアナリシスの一環として食品衛生行政研究に不可欠な二本柱である。好酸球増多筋肉痛症(EMS)に関し今後の同様な食中毒発生を未然に防止することを目的に、1999~2000年に公表された関連研究論文を検索した。アフラトキシンの試験法については、その改良を目的とした。菜種油については、植物ステロール類のヒト鼻咽喉癌細胞(KB 細胞) に対する増殖阻害作用試験とステロールの細胞内への取り込み実験を行いコレステロール含量を比較した。健康食品として販売されているアガリクス茸について健康影響と安全性を明らかにするため毒性情報に関する文献を調査した。放射線照射食品の安全性評価については、諸外国におけるO-157汚染対策としての照射対象食品の拡大化を踏まえ、安全性に関する文献を調査した。
研究方法
(1)日常食の汚染物摂取量及びモニタリング調査研究:FAO/WHO合同食品及び飼料汚染物モニタリング計画に準じ、食品中の含量データの全国的な集計処理と保存を行った。全国10ヶ所で実施したトータルダイエットスタディーの結果から我が国の平均的摂取量を求めた。食品部にサーバを設置し、データ変換及び検索用プログラムを作成した。(2)必須アミノ酸製品等による健康影響に関する調査研究:1999~2000年に発表されたEMS、5-OH Trp、有毒油症及びメラトニン健康補助食品に関し情報を検索した。(3)アフラトキシン告示試験法の改良に関する研究:新規多機能固相抽出カラム(MlutiSep #228カラム)で精製し、蛍光検出HPLCを利用した方法で分析した。(4)菜種油中のステロール類の検索と評価に関する研究:細胞中ステロール類は抽出物をGC/MS(SIM)で定量した。ヒト鼻咽喉癌細胞(KB)の増殖阻害は、検液に対するIC50値で示した。取り込み実験はKB細胞を72時間培養して調べた。(5)アガリクス茸による健康影響に関する調査研究:キノコとヒドラジン誘導体の毒性関係の6総説を対象に、Agaricus属のキノコ及びGyromitra esculenta(アミガサタケ)におけるヒドラジン誘導体の含有、含有誘導体に関する一般毒性、発癌性、再奇形性、アガリクス茸との関連性を調査した。生物活性に関する文献も調査した。(6)放射線照射食品の安全性評価について:文献調査を行い、またWHO、米国FDA等の資料を中心に検討を行った。
結果と考察
1.日常食の汚染物摂取量及びモニタリング調査研究:国内及び輸入食品汚染物のモニタリング件数は今年度約33万件が追加され2001年初頭現在283万件に上った。これらのデータから食品汚染物の検出レベルの経年変化、全国平均値及び汚染食品の種類、汚染レベル等が明らかとなった。また重金属、農薬等の1日摂取量はそのADIを超えない。分析機関により測定値に若干変動の見られた鉛の測定法について、標準試料による精度管理を実施した。統計情報部に蓄積されたモニタリングデータの食品部への移管を完了した。
2.必須アミノ酸製品等による健康影響に関する調査研究:EMSの発症への関与が疑われている昭和電工製L-Tryに含まれる6種不純物のうちPeakCとPeak FFの構造が決定され、EMSの起因物質である可能性が浮上している。市販されている5-OH Trp及びMelatoninはmelatonin-formaldehyde縮合産物等を含む。また有毒油発症のリスクと個体の遺伝学的感受性に関する新知見が得られ、HLA class Ⅱ抗原であるDR-DQのサブタイプであるDR2を発現し、NAT-2遺伝子に変異を持つヒトにおいて、本症で死亡した例が有意に多く、発症へのリスクも増加する。
3.アフラトキシン告示試験法の改良に関する研究:新規多機能固相抽出カラムとHPLCを利用した方法で、従来十分な狭雑物除去が行えなかった唐辛子、ナツメグ等の香辛料に関し迅速分析が可能になった。
4.菜種油中のステロール類の検索と評価に関する研究:KB細胞に対する増殖阻害作用を調べた結果、ブラジカステロールとエルゴステロールに弱い増殖阻害作用が観察されたがその他のステロールに増殖阻害作用は観察されない。培地中に3種ステロールを添加して培養したグループはコレステロールの他それぞれ添加したステロールが検出された。コレステロール濃度はコントロールとブラジカステロール及びβ―シトステロールで有意差があった。カンペステロールには有意差がなかった。
5.アガリクス茸による健康影響に関する調査研究:Agaricus属の茸27種とGyromitra esculenta(アミガサタケ)にヒドラジン誘導体の存在が明らかとなった。一部のヒドラジン誘導体に発癌性を含む毒性が明らかにされていた。また、Ataricus bisporus(ツクリタケ:通称マッシュルーム)及びG.esculentaで動物実験により発癌作用が確認されていた。しかし、茸の摂取を介したヒドラジン誘導体のヒトの健康への影響は明らかとなっていない。アガリクス茸のA.blazei Murillに関しては、ヒドラジン誘導体の存在、或いは発癌性を含む毒性に関する報告は見あたらなかった。逆に抗癌(腫瘍)作用に関する文献が多数見られた。これは、アガリクス茸が誘導体を含まない或いは毒性がないことを忌みするものではなく、この分野での研究が行われていないことを意味するものと考えられた。
6.放射線照射食品の安全性評価について:近年WHOは高線量域での安全性を確認したとして、10kGyを超える照射を認めるよう勧告を出している。照射による誘導放射能、放射線分解物、過酸化物質の生成、変異原性物質の生成についてまとめたが、安全性に関する詳細な検討は、評価基準などを定めた上、生物系学識経験者を含む毒性専門家によるリスク評価のための検討が必要である。
結論
1.日常食の汚染物摂取量及びモニタリング調査研究:我が国における食品汚染の背景レベル及び摂取量が明らかとなり、我が国の食生活の安全性を検証できた。食品部への蓄積データの移管を完了した。1977~1999年間の摂取量データをまとめて冊子を刊行した。
2.必須アミノ酸製品等による健康影響に関する調査研究:EMS関連L-Trp中の6種不純物のうちPeakCとPeak FFの構造が決定された。メラトニン中不純物である縮合産物は5-OH Trp中にも見いだされ、またL-Trp中不純物のPeakEの構造同族体であることが重要な知見である。また有毒油症発症のリスクと個体の遺伝学的感受性に関する新知見が得られている。
3.アフラトキシン告示試験法の改良に関する研究:多機能固相抽出カラムのMyco Sepカラムを用いた分析方法は簡便で、高毒性溶媒を利用せず、従来法とほぼ同等の精度と正確さで分析可能である。
4.菜種油中のステロール類の検索と評価に関する研究:ステロールにはブラジカステロールとβ―シトステロールのようにコレステロール含量を減少させる作用を持つステロールがあり、コレステロール含量を減少させる作用のあるステロールの喫食により、心筋と血管の細胞膜のコレステロール含量が減少し膜の脆弱化を誘起し、ラットの生存期間の短縮を引き起こす可能性が考えられた。
5.アガリクス茸による健康影響に関する調査研究:健康食品として販売されているアガリクス茸は菌糸体の培養液、菌糸体の濃縮液、乾燥粉末であったり、通常の茸の摂取方法とは異なる方法で節食されており、大量摂取の恐れも視野に入れ、アガリクス茸のヒドラジン誘導体の分析或いは動物実験によるアガリクス茸の長期摂取による健康への影響について検討するなどの必要があると考えられる。
6.放射線照射食品の安全性評価について:安全性に関する詳細な検討は、評価基準などを定めた上、生物系学識経験者を含む毒性専門家によるリスク評価のための検討が必要である。

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