非A非B型肝炎の予防、疫学に関する研究

文献情報

文献番号
200000542A
報告書区分
総括
研究課題名
非A非B型肝炎の予防、疫学に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
吉澤 浩司(広島大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本宏明(自治医科大学)
  • 佐藤俊一(岩手医科大学)
  • 田中 英夫(大阪府立成人病センター)
  • 田中純子(広島大学)
  • 三浦宣彦(埼玉県立大学)
  • 宮村達男(国立感染症研究所)
  • 山本匡介(佐賀医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.HCVキャリア対策、2.透析医療施設におけるHCV感染の実態把握、3.非B非C型肝炎候補ウイルス(TTVなど)の分子疫学的研究、4.非A~非C型肝炎ウイルス(HEV)の分子ウイルス学的、血清疫学的研究、を基礎医学、臨床医学、社会医学を担当する専門家の協力のもとに行い、得られた成果を迅速に社会に還元し、保健・医療の向上に役立てることを目的とする。
研究方法
研究目的に掲げた4項目を調査・研究の柱とし、3年計画でこれを行う。3年計画の3年目にあたる平成12年度は、1年目、2年目に行った調査・研究成果の不充分であった点を補うことを心がけて調査・研究を展開した。
結果と考察
1.HCVキャリア対策1)地域住民を対象としたHCV検診の推進1年目に設けた2つのモデル地区(岩手県、広島県)に佐賀県を加えて、それぞれの地区の実情を考慮に入れたHCVキャリア対策の構築を試みた。岩手県における地域住民検診受診者総数は、2000年12月末までに73,256人に達した。HCV検診の実施は、県内の22市町村、県予防医学協会での人間ドック、7団体での職域検診にまで拡大した。広島県では、HCV検診の実施自治体は34市町村にまで拡大した。特別政令指定都市である広島市においても、2000年3月末までに基本健康審査受診者54,689人中30,341人(55%)がHCV検診を受診した。また、県内のHCV感染の高度浸淫地区においても、検診により発見されたHCVキャリアの約10%に口腔粘膜病変(扁平苔癬、口腔粘膜白板症)が見出された。佐賀県では、本研究班への参加を機に、従来のHCV抗体陽性者を見出す検診からHCVキャリアを見出す検診に切り換え、併せてこれまでに判明しているHCV抗体陽性者計13,129人については、そのリストをもとに順次HCV RNAの有無を決定する検査を行うこととなった。3年目の研究終了時において、HCVキャリアの発見から健康管理、治療に至るまでの一連の対策指針を作成し、提示するには至ってないが、モデル地区として選定した3つの県域において、それぞれの県地の実情に応じた対策を展開中である。今後新たにHCVキャリア対策を開始する自治体に対して、未だ試行錯誤の途上にはあるものの、それぞれ異なる3つの対策のストラテージを提示できる目途が立った。2)職域における検診(企業内検診)の実態調査大阪府下の企業内診療所および健康保健組合員の診療所を対象に行った調査から、「肝機能検査上異常」を呈することを「HCV抗体検査」の受診条件としている施設が、回答を寄せた95施設のうちの58%を占めることが明らかとなった。一方、この条件の下でHCV検診を実施した場合、「肝機能検査上異常」を呈さないHCVキャリア(見逃し率)は、男性で40.3%、女性では77.3%にのぼると推計され、職域においてHCVキャリア対策を推進する際には、「HCVキャリア発見」のための検査の導入と、「肝機能検査」に先行して、1回だけ正確なHCV検診を行うことが重要であることが明らかとなった。3)HCVキャリアからの肝発がん献血を契機に発見されたHCVキャリア2,035例を、大阪府のがん登録システムと対比しつつ、6.3年にわたって追跡し、その中から36例(男性30例、女性6例)の肝発がん例を見出した。「肝がん」登録時の平均年齢は59.3歳(47歳~70歳)、肝発がん率は年率0.28%であり、肝硬変合併率は80.6%(36例中29例)であった。2.透析医療施設におけるHCV感染の実態把握9つの透析医療施設の全ての患者を対象としてHCV感染の実態把握を行った。その結果、透析患者におけるHCV抗体陽性率は20.9%(347/1,664)にのぼることが明らかとなった。また1999年11月から3ヶ
月に1回の頻度で2000年11月までの1年間に亘って追跡し、途中脱落例を除いた全対象者2,042例中、初回の検査時にHCV抗体が陰性であった1,642例の中から9例(0.55%)のHCV新規感染例を見出した。これらの9例は、いずれも経過観察期間中にHCV抗体価の上昇を認め、HCV RNAはその後も持続して検出された。この他、初回検査時にHCV RNAが検出され、低力価のHCV抗体が検出された3例は、いずれも経過観察中に抗体価の上昇(213PHA価以上)を認め、調査開始時点がHCV感染の初期に担当していたことが明らかとなった。この成績は、透析施設では「免疫能が低下している為、HCV抗体陰性、あるいは低力価陽性を示すHCVキャリア状態が存在することがある」との解釈をくつがえし、これらの例は「HCV感染のウインドウ期、あるいは感染初期像の一断面を捉えたものである」ことを初めて立証したものである。3.非B非C型肝炎候補ウイルス(TTVなど)の分子ウイルス学的研究TTウイルス(TTV)が外殻を持たない直径30~32nmの小型球型粒子であることを初めて電子顕微鏡下で捉えた。また、TTV(1型)を含む患者血清、糞便浮遊液をチンパンジーの静内に接種し、感染が成立することを実証した。さらに、TTVはDNA型ウイルスであるにもかかわらず、遺伝子の多様性が顕著であり、遺伝子型の違いによって臓器や組織親和性が異なり、棲み分けがあることを示唆する成績を得た。4.非A~非C型肝炎ウイルス(HEV)の分子ウイルス学的、血清疫学的研究E型肝炎ウイルス(HEV)の遺伝子を昆虫細胞を用いて発現させて得た蛋白は中空粒子を形成し、感染性のある真のHEV粒子と区別できない免疫原性、抗原性を有することを明らかにした。この中空粒子を動物に経口投与すると、血中のIgG抗HEV抗体と共に、糞便中にIgA抗HEV抗体が誘導できることを明らかにした。また、この中空粒子を抗原として、ELISA法による抗HEV抗体の測定法を確立し、非A~非C型急性肝炎242例を対象に抗体の検出を試み、4例にIgM抗HEV抗体を、45例にIgG抗HEV抗体を検出した。IgM抗HEV抗体陽性者は40歳~50歳代に、IgG抗HEV抗体陽性者は20歳~70歳代に広く分布し、いずれも海外渡航歴を持たない例が大半を占めることが明らかとなった(臨床研究班との共同研究)。この成績は、各種の食料品が地球規模で流通するようになった現在、わが国においてもHEV感染のウイルス・血清学的調査を行ない監視をおこたらないようにする必要が生じたことを示すものであるといえる。
結論
1.モデル地区として選定した3つの県域においてHCV検診を展開し、それぞれの県域の実情に応じた対策のストラテージを提示できる目安を立てるに至った。2.職域における検診(企業内検診)では、その多くが「肝機能検査上異常」を呈することを「HCV抗体検査」の受診条件としていることから、HCVキャリアの見逃し率が男性で40.3%、女性では77.3%にのぼると推計され、改善の余地が残されていることを明らかにした。3.献血を契機に発見されたHCVキャリア2,035例を前方視的に6.3ねんにわたって追跡し、36例の肝発がん例を見出した。「肝がん」登録時の平均年齢は59.3歳、肝硬変合併率は80.6%であった。4.透析施設では依然としてHCVの新規感染が少なからずおこっていること(1642例中9例/1年)を明らかにした。5.TTウイルス(TTV)は、外殻を持たない直径30~32nmの球形粒子であること、血清中のTTV(1型)のみならず糞便中のTTVも感染性があることを、チンパンジーを用いた感染実験により実証した。6.昆虫細胞を用いて発現させた感染性ないHEVの中空粒子を動物に経口投与すると、血中のIgG抗HEV抗体とともに糞便中にIgA抗HEV抗体が誘導されることを立証した。また、非A~非C型急性肝炎242例を調査し、4例(1.7%)のIgM抗HEV抗体陽性例、45例(18.6%)のIgG抗HEV抗体陽性例を見出した。

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