文献情報
文献番号
200000338A
報告書区分
総括
研究課題名
川崎病の治療と長期管理に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 裕久(久留米大学小児科)
研究分担者(所属機関)
- 原田研介(日本大学)
- 濱岡建城(京都府立医科大学)
- 賀藤 均(東京大学)
- 津田悦子(国立循環器病センター)
- 馬場 清(倉敷中央病院)
- 上村 茂(和歌山県立医科大学)
- 佐地 勉(東邦大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では,川崎病による突然死や虚血性心疾患への進展をどのように予防するか,心血管後遺症をすでに持つ患児に対していかに有効な治療・管理をするかを目的としている.今年度は前年より引続き,以下に述べる4つの項目について継続的な検討を行なった.1)川崎病冠状動脈狭窄病変に対するカテーテル治療ガイドラインの作成、2)川崎病心血管後遺症の長期予後の追跡調査,3)冠状動脈瘤の長期的血管リモデリングに関する検討 4)川崎病急性期の血管生物学的検討, 5)川崎病急性期における医療,経済効果のあるガンマグロブリン療法の確立,6)川崎病病因の検索,である.
研究方法
国内および海外よりの診断、治療評価についての情報をもとに、川崎病による冠動脈疾患に対するカテーテル治療が有効かつ適切に行われるにはどうあるべきかとの観点から本研究班班員の現時点での意見を集約し、川崎病冠状動脈狭窄病変に対するカテーテル治療のガイドラインを作成した.。川崎病心血管後遺症の長期予後の追跡調査としては,前年度に引続き各班員が追跡調査を行なっている川崎病罹患児の長期例につき,その予後,心血管障害のスペクトラム,頻度および発生時期,最も重篤な心血管後遺症である心筋梗塞や死亡例の実態について,川崎病の概念の確立する以前へもさかのぼり検討をおこなった.
川崎病急性期における医療,経済効果のあるガンマグロブリン療法の確立としては,現在一般的に行なわれているガンマグロブリン療法を調査し,各治療群における発熱期間,心血管合併症の頻度などについて,検討した.同時に,ガンマグロブリン療法が不応だった症例に対する他の治療法の評価およびその成因について検討した.また川崎病急性期の種々の因子(細胞接着因子,血中一酸化窒素酸化物,血管リモデリング関連因子)と冠動脈病変の関連について多方面より検討がおこなわれた.
川崎病血管炎は成人動脈硬化のリスクか,という項目に関しては,血管内エコー法を用いた冠動脈内皮機能の検討や,剖検例による冠動脈病変の病理学的検討が行われた.
川崎病急性期における医療,経済効果のあるガンマグロブリン療法の確立としては,現在一般的に行なわれているガンマグロブリン療法を調査し,各治療群における発熱期間,心血管合併症の頻度などについて,検討した.同時に,ガンマグロブリン療法が不応だった症例に対する他の治療法の評価およびその成因について検討した.また川崎病急性期の種々の因子(細胞接着因子,血中一酸化窒素酸化物,血管リモデリング関連因子)と冠動脈病変の関連について多方面より検討がおこなわれた.
川崎病血管炎は成人動脈硬化のリスクか,という項目に関しては,血管内エコー法を用いた冠動脈内皮機能の検討や,剖検例による冠動脈病変の病理学的検討が行われた.
結果と考察
粥状動脈硬化を主体とする成人の冠状動脈病変と川崎病の冠状動脈狭窄病変は多くの点で異なっているため、成人領域で用いられているカテーテル治療の適応や、成人のカテーテル治療法をそのまま川崎病の病変に行うことは適当でなく場合によっては危険である。国内および海外よりの診断、治療評価についての情報をもとに、川崎病による冠動脈疾患に対するカテーテル治療が有効かつ適切に行われるにはどうあるべきかとの観点から本研究班班員の現時点での意見を集約し、川崎病冠状動脈狭窄病変に対するカテーテル治療のガイドラインを作成した。
川崎病心血管後遺症の長期予後の追跡調査として、1973年より心血管造影を行い、2000年までに1970例の川崎病患児をフォローアップしている。その予後、心血管障害のスペクトラム、心筋梗塞や死亡例の実態について検討した。冠状動脈瘤は302例(15.3%)に生じているが1991年以降ガンマグロブリン療法開始後は615例中49例(8.0%)に減少している。
長期的冠状動脈瘤の血管リモデリングに関する検討としては、加藤らは冠状動脈瘤が消退した例においても血管生物学的手法を用いて計測した血管内皮機能の低下がみられ同部位の血管内超音波により描出された壁構造は、成人の動脈硬化部位の壁構造に類似していた。(Iemura M, Kato H, et al Heart 2000,)。今後、成人の動脈硬化病変への進行の可能性に対して注意深い経過観察の必要性が示唆された。また濱岡らは川崎病における血管リモデリングに,細胞外基質の分解に重要な働きをする酵素群のひとつであるMMP--9とMMP阻害因子であるTIMP-1が重要な因子となっていることを指摘した.さらに血管新生や組織障害の修復機転で重要な調節因子と考えられているhHGFの動態とhHGFのMMP-9産生への影響を検討した.その結果IL-6などのサイトカインは直接的に血管内皮細胞のMMP-9産生を促進するのみならず血管内皮細胞のhHGF産生を調節することで自己分泌的hHGFによるMMP-9産生促進にも関与している可能性が確認された.また、津田らは長期予後に関する研究として津田らは,川崎病発症10年後に冠動脈壁肥厚をきたしうる急性期の冠動脈径について検討をおこなった.この研究は加藤らによって報告されている川崎病遠隔期の血管内皮機能および血管内超音波法を用いた冠動脈病変の検討と同様の見地から,後方視的に検討した研究である.それによると川崎病発症から100日未満に冠動脈造影を施行し冠動脈瘤が確認された28例に対し,発症後10年以上(10.8?14.7年)経過して血管内超音波法をもちいて冠動脈壁の検討をおこない,最も肥厚の見られた断面においてintima-media thicknessを計測した.この計測値と急性期冠動脈径は明かな相関をしめし,冠動脈の危険域とされるintima-media thicknessが0.40mm以上とすると,急性期の冠動脈径が4.0mm以上で鋭敏度90%,特異度98%となった.このため急性期の冠動脈径が4.0mm以上の場合は,遠隔期にわたっても冠動脈病変に対する注意が必要であることを裏付ける所見となった.また賀藤らは川崎病がひとつの疾患概念として確立する以前の診療録を調査し,日本においていつごろから川崎病が発現していたのかについて検討した.それによると昭和19年から29年の11年間に東大小児科に入院した症例のうち,今日の川崎病診断基準に適合すると思われる症例が5症例確認された.このうち最も初期の症例は昭和25年であり,昭和19年から24年までには発見する事ができなかった.川崎病がいつからでてきたのかは今だ不明であるが,このことは川崎病の成因を推察する上で大変貴重な因子となると思われる.
川崎病急性期の血管生物学的検討として、細胞接着分子であるP-, E-, L-セレクチンは、川崎病急性期および亜急性期には、慢性期および対照群に比して明らかに上昇しており、また、冠状動脈瘤を生じた例では生じなかった例に比して有意に上昇しており冠動脈瘤発生の予測因子となることが示唆された(Furui J. Kurume Med. J in press)。
川崎病急性期における医療,経済効果のあるガンマグロブリン療法の確立として,佐治らは現在国内で主として用いられているガンマグロブリン200?400mg/kg/日の5日間投与と欧米で承認されているガンマグロブリン2g/kg/日単回投与との比較を行ない,2g/kg/日単回投与のほうが200?400mg/kg/日の5日間投与よりも各種検査所見における改善度が高く,冠動脈障害の発生頻度も低いことを報告した.このガンマグロブリン2g/kg/日単回投与は現在のところ国内での保険適応はとれていないため,今後使用法の追加変更が強く望まれる.加藤らは2g/kgの1日投与法および400mg/kgの5日間の投与法について、治療効果および医療経済上の検討を行った。2g/kgの1日投与法の方が、冠状動脈障害の発生率は、有意に低く、総医療費は有意に低かった(Sato N, Kato H, et al Pediatr Int. 1999)。ガンマグロブリン不応例に対する再治療法の検討として、γグロブリン治療の約13%に不応例が生じる。これらの症例では高頻度に冠状動脈後遺症を生じるが、有効な再治療法は確立されていない。γグロブリン治療抵抗性の川崎病に対して再治療法としてγグロブリン追加療法およびステロイドパルス治療の有効性を検討した。冠状動脈病変の発生頻度には両治療法間に有意な差を認めなかったがステロイド治療中に冠状動脈の一過性の拡張を生じた。今後、ステロイドが血管壁へ及ぼす影響および投与時期などさらなる検討が必要である(Hashino K, Kato H, et al. Pediatr Int in press)。一方馬場らはガンマグロブリンの追加投与が必要であった症例を後方視的に検討し,その特徴と冠動脈病変の短期的予後の検討を行った.それによると追加投与の必要になった症例はガンマグロブリン投与例の25%で,追加投与例中40%の高率に何らかの冠動脈病変が合併していた.しかしながらこれら冠動脈病変が1カ月以上残存したのは15%で巨大冠動脈瘤の合併も認めなかった事を明らかにした.追加投与の必要な症例は確かに重症例と考えることができるが,ガンマグロブリンの追加投与でその発生と残存を最小限にできている可能性もある.
川崎病病因の検索として、上村らは本症の急性期、回復期で患児血清中の猩紅熱の発症にかかわる発熱毒素であるSPE-Cの抗γSPE-C抗体が高い値を示すことを報告した。これらの事より、この病気が発症する以前にすでにA群連鎖球菌の感染を受けていたことを推定せしめる。
川崎病心血管後遺症の長期予後の追跡調査として、1973年より心血管造影を行い、2000年までに1970例の川崎病患児をフォローアップしている。その予後、心血管障害のスペクトラム、心筋梗塞や死亡例の実態について検討した。冠状動脈瘤は302例(15.3%)に生じているが1991年以降ガンマグロブリン療法開始後は615例中49例(8.0%)に減少している。
長期的冠状動脈瘤の血管リモデリングに関する検討としては、加藤らは冠状動脈瘤が消退した例においても血管生物学的手法を用いて計測した血管内皮機能の低下がみられ同部位の血管内超音波により描出された壁構造は、成人の動脈硬化部位の壁構造に類似していた。(Iemura M, Kato H, et al Heart 2000,)。今後、成人の動脈硬化病変への進行の可能性に対して注意深い経過観察の必要性が示唆された。また濱岡らは川崎病における血管リモデリングに,細胞外基質の分解に重要な働きをする酵素群のひとつであるMMP--9とMMP阻害因子であるTIMP-1が重要な因子となっていることを指摘した.さらに血管新生や組織障害の修復機転で重要な調節因子と考えられているhHGFの動態とhHGFのMMP-9産生への影響を検討した.その結果IL-6などのサイトカインは直接的に血管内皮細胞のMMP-9産生を促進するのみならず血管内皮細胞のhHGF産生を調節することで自己分泌的hHGFによるMMP-9産生促進にも関与している可能性が確認された.また、津田らは長期予後に関する研究として津田らは,川崎病発症10年後に冠動脈壁肥厚をきたしうる急性期の冠動脈径について検討をおこなった.この研究は加藤らによって報告されている川崎病遠隔期の血管内皮機能および血管内超音波法を用いた冠動脈病変の検討と同様の見地から,後方視的に検討した研究である.それによると川崎病発症から100日未満に冠動脈造影を施行し冠動脈瘤が確認された28例に対し,発症後10年以上(10.8?14.7年)経過して血管内超音波法をもちいて冠動脈壁の検討をおこない,最も肥厚の見られた断面においてintima-media thicknessを計測した.この計測値と急性期冠動脈径は明かな相関をしめし,冠動脈の危険域とされるintima-media thicknessが0.40mm以上とすると,急性期の冠動脈径が4.0mm以上で鋭敏度90%,特異度98%となった.このため急性期の冠動脈径が4.0mm以上の場合は,遠隔期にわたっても冠動脈病変に対する注意が必要であることを裏付ける所見となった.また賀藤らは川崎病がひとつの疾患概念として確立する以前の診療録を調査し,日本においていつごろから川崎病が発現していたのかについて検討した.それによると昭和19年から29年の11年間に東大小児科に入院した症例のうち,今日の川崎病診断基準に適合すると思われる症例が5症例確認された.このうち最も初期の症例は昭和25年であり,昭和19年から24年までには発見する事ができなかった.川崎病がいつからでてきたのかは今だ不明であるが,このことは川崎病の成因を推察する上で大変貴重な因子となると思われる.
川崎病急性期の血管生物学的検討として、細胞接着分子であるP-, E-, L-セレクチンは、川崎病急性期および亜急性期には、慢性期および対照群に比して明らかに上昇しており、また、冠状動脈瘤を生じた例では生じなかった例に比して有意に上昇しており冠動脈瘤発生の予測因子となることが示唆された(Furui J. Kurume Med. J in press)。
川崎病急性期における医療,経済効果のあるガンマグロブリン療法の確立として,佐治らは現在国内で主として用いられているガンマグロブリン200?400mg/kg/日の5日間投与と欧米で承認されているガンマグロブリン2g/kg/日単回投与との比較を行ない,2g/kg/日単回投与のほうが200?400mg/kg/日の5日間投与よりも各種検査所見における改善度が高く,冠動脈障害の発生頻度も低いことを報告した.このガンマグロブリン2g/kg/日単回投与は現在のところ国内での保険適応はとれていないため,今後使用法の追加変更が強く望まれる.加藤らは2g/kgの1日投与法および400mg/kgの5日間の投与法について、治療効果および医療経済上の検討を行った。2g/kgの1日投与法の方が、冠状動脈障害の発生率は、有意に低く、総医療費は有意に低かった(Sato N, Kato H, et al Pediatr Int. 1999)。ガンマグロブリン不応例に対する再治療法の検討として、γグロブリン治療の約13%に不応例が生じる。これらの症例では高頻度に冠状動脈後遺症を生じるが、有効な再治療法は確立されていない。γグロブリン治療抵抗性の川崎病に対して再治療法としてγグロブリン追加療法およびステロイドパルス治療の有効性を検討した。冠状動脈病変の発生頻度には両治療法間に有意な差を認めなかったがステロイド治療中に冠状動脈の一過性の拡張を生じた。今後、ステロイドが血管壁へ及ぼす影響および投与時期などさらなる検討が必要である(Hashino K, Kato H, et al. Pediatr Int in press)。一方馬場らはガンマグロブリンの追加投与が必要であった症例を後方視的に検討し,その特徴と冠動脈病変の短期的予後の検討を行った.それによると追加投与の必要になった症例はガンマグロブリン投与例の25%で,追加投与例中40%の高率に何らかの冠動脈病変が合併していた.しかしながらこれら冠動脈病変が1カ月以上残存したのは15%で巨大冠動脈瘤の合併も認めなかった事を明らかにした.追加投与の必要な症例は確かに重症例と考えることができるが,ガンマグロブリンの追加投与でその発生と残存を最小限にできている可能性もある.
川崎病病因の検索として、上村らは本症の急性期、回復期で患児血清中の猩紅熱の発症にかかわる発熱毒素であるSPE-Cの抗γSPE-C抗体が高い値を示すことを報告した。これらの事より、この病気が発症する以前にすでにA群連鎖球菌の感染を受けていたことを推定せしめる。
結論
国内および海外よりの診断、治療評価についての情報をもとに、川崎病による冠動脈疾患に対するカテーテル治療が有効かつ適切に行われるにはどうあるべきかとの観点から本研究班班員の現時点での意見を集約し、川崎病冠状動脈狭窄病変に対するカテーテル治療のガイドラインを作成した。
本研究班により,川崎病心血管後遺症の長期的予後の解明がすすんだが今後更なる追跡調査が必要性が示唆された。
本研究班により,川崎病心血管後遺症の長期的予後の解明がすすんだが今後更なる追跡調査が必要性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-