高齢者福祉施設の経営評価とケアの成果との関係に関する実証研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000211A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者福祉施設の経営評価とケアの成果との関係に関する実証研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
安川 文朗(広島国際大学)
研究分担者(所属機関)
  • 堀越栄子(日本女子大学)
  • 野村知子(桜美林大学)
  • 水流聡子(広島大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護保険施行にともない、高齢者福祉施設の質の保証がますます重要な課題となってきた。施設サービスの質保証とは具体的には、提供されるサービス水準が、期待される水準を十分満たしているかどうか、およびそのようなサービスが継続して提供される経営的基盤が確保されているかどうかを、何らかの客観的な指標で評価することである。本研究は、日本における高齢者福祉施設に対する評価の実態を明らかにすること、またその評価基準、評価方法及び評価結果の取り扱いが国際的にみてどのような水準にあるかを、英国等の福祉先進国との比較によって検証すること、さらにサービス利用者の立場にたった質の保証と経営評価を可能にする新たな評価基準・尺度・方法論を開発することを目的としている。
研究方法
研究2年目にあたる2000年度は、(1)日本における「サービス評価事業」をはじめとする施設評価の実施状況に関する、全国の高齢者施設(介護老人福祉施設および介護老人保健施設)へのアンケート調査、(2)英国ナーシングホームにおける施設評価のに関する現地同行調査、(3)利用者の視点にたった施設評価基準・尺度を検討するための、英国および豪州の施設評価基準・マニュアルを参考にしたモデル評価票の作成と試行、を実施した。(1)では、全国2500の介護老人福祉施設および介護老人保健施設、及び59の都道府県・政令指定都市に対し、自己評価、訪問評価、第三者評価それぞれの実施の有無、未実施の場合の理由、結果公開の有無などを質問する調査票を送付した。また(2)では、英国エジンバラのロジアン・ヘルスボードが管轄するナーシングホームにおける実際の査察に同行し、査察官の査察業務を参加観察した。(3)では、昨年度の成果である英国評価基準と、豪州の研究者が開発した施設利用者の評価シートを参考にしながらモデル利用者自己評価票を作成し、施設職員に内容の妥当性を検討してもらったうえで、実際の利用者に評価試行を依頼した(なお本調査については現在試行中である)。
結果と考察
(1)評価実施状況に関する実態調査結果:<施設調査の結果>回収率約14%、評価の実施率は、介護老人福祉施設では自己評価=53.2%、訪問評価=29.9%、第三者評価=5%,介護老人保健施設では自己評価=44.7%、訪問評価=24.8%、第三者評価=6.6%。また評価実施施設のうち、結果を公表しているのは半分以下、評価未実施理由のうち半数以上が、評価者及び評価時間の確保が困難と回答。さらに、サービス評価が施設サービスの内容や経営改善に役立つとは考えない施設が約四分の一あった。<自治体調査の結果>回収率約23%、施設に対する訪問評価実施自治体は6割強、また評価はすべて厚生省サービス評価マニュアルを使用していた。訪問評価未実施の理由は、法的根拠がない、時間的余裕がない、評価者の確保が困難、費用が大きいなど。また、第三者による評価を自治体の責任で実施している自治体はなし。以上の結果から、日本における高齢者福祉施設評価の実態は、自己評価をおこなう施設が約半数あるものの、厚生省のサービス評価事業の当初計画とは異なり、訪問評価の実施率はきわめて低く、第三者評価も含め、客観的な施設評価は遅れている状況が明らかになった。一方自治体の状況としては、評価に対する考え方や積極性には地域差があり、また評価における評価者の人数および質の確保が、自治体の評価を遅らせている大きな要因であることが示唆された。(2)英国施設評価の同行調査結果:ロジアン・ヘルスボード・インスペクションユニットにて、当地でも最大規模のナーシングホームへの告知査察について、訪問前のミーティ
ングから査察後のレビューまでの一連の実施手順を参加観察した。ミーティングでは、訪問施設の概要およびこれまでの査察結果のレビュー、査察時のチーム編成(2班に分かれて査察実施)、チェックリストの確認が行なわれた。施設へ移動後、一般居室エリアおよび痴呆者入居エリアに分かれて2名一組で査察が行なわれた。リネン、キッチン、ラウンジなどの管理設備基準の確認、廊下、居室、庭など生活関連設備基準の確認、食事メニュー、ソーシャルプログラムなどのアメニティ状況について観察確認後、施設管理者へのインタビュー調査(人員配置、休暇、入居者とのコミュニケーション等)及び入居者へのインタビュー(施設の快適性等の満足度調査)が実施された。約3時間の査察の最後に、当日の査察結果を施設管理者に口頭および文書で告知し、査察終了。本参加観察調査から、施設基準評価に際して、浴室の湯加減のチェックや、キッチンストッカーの中身のチェック、洗濯の状況など、査察専門官が非常にきめ細かい、かつ専門的なチェックをおこなっている事実を知った。査察官は全員修士以上の資格をもつ看護職もしくは栄養の専門家であった。また、日本の施設監視と同様、人員配置状況や書類保管状況などについても詳しいチェックが行なわれている。ただし、施設管理者との面談や利用者へのインタビューなど、全体としてコミュニケーションを重視する査察である印象を受け、日本の施設監視との違いを感じた。なお、経理や経営指標の評価などについては、英国では別途監査委員会による評価が実施されている。(3)モデル評価票の作成及び試行結果:本調査については、作成されたモデル評価票を使って、現在施設にて試行中。
結論
本年度の調査を通じて、日本における高齢者福祉施設のサービス評価の遅れ、英国の施設評価の成熟度が確認できた。日本における評価の遅れは、まず施設側に評価(自己評価、他者評価を問わず)の必要性に対する認識が浸透していないこと、また必要性が認識されても、費用や人員など評価な資源の不足が深刻であると感じていること、さらに、行政の側にも、自治体住民に対する福祉サービスの向上の観点から、主体的・積極的にサービス評価を実施するインセンティブが弱い(補助金が出るから仕方なくやっているという面がある)ことが背景にあると思われる。一方英国では、日本と異なり施設評価が施設登録のための査察に組み込まれており、施設にとっても必須要件として定着している。また、英国では近年利用者の立場にたったサービスという点を国家的目標として強調しており、高齢者入居サービスにおける入居者の自由、尊厳、安全の保証を査察を通じて具体化するという意図が明確になっていると思われた。日英比較の観点でいえば、単に制度の違いではなく、そのような評価の意味や成果についての根本的な意識の違いが、両国の施設評価のあり方に反映していると思われる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-