介護保険制度下における介護サービスの質の評価に関する研究

文献情報

文献番号
200000189A
報告書区分
総括
研究課題名
介護保険制度下における介護サービスの質の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
筒井 孝子(国立公衆衛生院 併任:国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、平成11年度から3か年間の継続研究を予定しており、本年は、第2年度にあたる。研究の最終的な目的としては、介護サービスの質を評価するための機関であるJPRO(Japan Peer Review Organization)の設立の要件としての介護サービスの質に関する評価指標の検討を行なうことである。
本年度の目的は、1)介護サービスと介護保険サービスの概念の整理とその定義の検討、2)介護保険サービス提供に際してのわが国の評価基準のアメリカ合衆国(カリフォルニア州)への事例への適用、3)介護保険サービスの質を評価するために必要な条件の整理、4)提供された介護保険サービスの質の最低基準の設定とその考え方、5)介護保険サービスの質を評価するための「成果」の考え方、6)「成果」を評価するための方法論の検討を行なうことである。
これらの検討を行なうことは、介護保険制度の設計段階から政策立案担当者の多くが「介護サービスの質をどのように確保するのか」、「その方法と具体的手法は、あるのか」、「仮に政策としてサービスの質を確保する」仕組みを創設するとすれば、どのような手順が必要かということについて、長寿科学研究者に問われ続けた課題であったといえる。
本年は、この課題に対応できるよう多くの検討を行なった。その検討の過程において、新たな課題となったテーマは、介護保険制度において、在宅の介護者が担うことになった私的な介護者としての介護と介護保険制度の下で提供される介護保険サービスの担い手としての公的な介護者という二つの立場の両立についてである。
この両者の立場についての検討は、現代社会における新たな社会問題となる家族の扶養義務における老親の介護という極めて大きなテーマになることを意味しており、重要である。
研究方法
多義的な介護サービスにおいて、質の評価をすべき内容を明らかにするため、介護サービスと介護保険サービスの概念の整理を行ない、1)介護保険サービスおよびその評価に関する文献研究を行なった。
アメリカ合衆国で行われている介護サービスの質の評価方法とその考え方をわが国適用できるかどうかを調査するために、2)アメリカ合衆国の在宅高齢者宅への訪問調査ならびにサービス提供機関に対するヒアリング調査を平成12年8月に2週間にわたって行なった。その際に、わが国の介護保険制度を説明することを目的に、3)介護保険制度における基本調査項目、手引きの英訳を行なった。
現場で行われている介護サービス計画の評価の実態を調査するために、4)各市町村の行政担当者への居宅サービス計画の評価方法とその基準についてのヒアリング調査を行なった。
さらに、介護保険サービスの質としての最低基準を確保するために、5)介護支援専門員による高齢者約300名への在宅介護における介護サービスの「適切さ」に関する郵送調査、6)介護支援専門員約200名に対する居宅サービス計画の評価に関する郵送調査を行なった。
また介護保険サービスの質の「成果」を評価するために、7)介護保険サービス給付者333名を対象にした介護保険制度前後の心身状況の変化に関する訪問面接調査結果を分析し、その要介護の変動とそれに関わる高齢者の心身状況との関係について統計的な解析を行なった。
高齢者の心身状況としては、その状態像を「ADL」や「知的能力」、「問題行動の有無」など多方面からの情報を収集した。
<倫理面での配慮>
研究対象者となる高齢者については、本人等の同意を得ると共に人権擁護上の配慮を行い、氏名や個別データ等プライバシーについては厳重に注意する。調査集計について、個人名については一切関係なく行ない、個人名が明らかにならないように調査票の作成は、複数の人間がチェックをすることとする。調査票並びにその結果は、秘密保持のための厳密な管理運営を行なう。調査の実施にあたっては、対象に十分な説明と同意を得る。なお、本研究は、国立医療・病院管理研究所の「人間を対象とする生物医学的研究に関する倫理委員会規定」第1条の「生物医学的研究」に該当しないものである。
結果と考察
これまでの文献研究の結果、「介護サービスの質」を評価する方法は、近接領域の看護学の分野で多くの取り組みがなされているものの、独立した領域としては、諸外国でもほとんど研究が行われていないことが明らかとなった。しかし、介護といっても範囲が広く、介護サービスを意味する内容は、医療・保健・福祉領域にも存在することから、本研究でとりあげる内容についての検討を行なった結果、介護保険サービスを対象とすることを決定した。
わが国にとって、介護保険サービスの質の評価は、介護保険制度の安定に不可欠な要素であり、今後の研究が望まれる領域であることからも、この概念の整理は重要であると考えられる。
また本研究では、介護保険サービスの質の評価に際して、アメリカ合衆国で標準的に用いられるDonabetianの「構造」、「経過」、「成果」という3構成要素の考えを取り入れ、まず構造の評価として、書面としての居宅サービス計画の評価を行なった。この評価は、書面としての居宅サービス計画を収集するだけでなく、これを作成した介護支援専門員らに計画についての自己評価とその評価基準について、調査を行なった。しかし、彼らが示した評価基準は、極めて抽象的であることがわかった。また、収集された計画書に記述された内容は、表現についての標準化が全く行われておらず、計画書に必要な要素についての概念も明らかになっていなかった。
第二の段階である、実施段階の評価については、法律上は、「適切な」介護保険サービスの提供を行なうことが義務づけられているが、その「適切さ」を構成する概念は明確でないことから、逆に「不適切さ」を明らかにすることによって、介護保険サービスの最低基準を明らかにすることを試みた。この結果、「不適切さ」を示す情報が整理された。
これらの内容は、客観的な観察が基礎情報になっているものがほとんどであることから、最低基準として利用できる可能性が高いのではないかと考えられる。
また、「成果」の評価を行なうために、提供されている高齢者の状態像の変化と介護保険サービスとの提供の実態を共分散構造解析や二項ロジスティク解析などを用いて解析したが、現状のデータからは、構造的なモデルは、作成できなかった。
これは、介護保険サービスに関しては、わずか6ヶ月間の継続的な評価が行われたに過ぎず、成果を評価するには十分なデータとはいえなかったことが原因ではないかと考えた。
このために、今後の継続研究を行なう上では、さらにデータ数を増やすこと、とくに在宅の介護者が提供している介護の実態を数量的に把握することなどが重要であると考えられた。
結論
本年度は、介護保険制度が実施された初年度であることから、多くの現地調査を実施した。とくに介護支援専門員や市町村の担当者に対するヒアリング調査や郵送調査は、今年度しか意味をなさない、極めて貴重な調査であったと考えられる。アメリカ合衆国においても、在宅高齢者に対する訪問面接調査やサービス提供機関へのインタビュー調査を実施したことによって、わが国との差異が明らかになったといえる。
さらに、いわゆる質の評価方法として、基本的な考え方とされている、Donabetianの「構造」、「経過」、「成果」という3構成要素の考えを取り入れた研究をすべてのプロセスにおいて実施できたことは、有益であったと考える。
特に成果の評価研究において、介護保険制度実施前後の介護サービスの量および質の変化について、サービスを購入する高齢者の側からの分析を行なえたことは、今後の貴重な資料となると考えられ、重要である。
介護サービスの量や質を担保するための評価システムの構築は、介護保険制度の安定のためには、最も重要であると考えられる。しかし、先進国で行われている医療サービスに関連するような評価関連の指標やその方法を介護サービスへそのまま適用することは困難である。
本研究で開発された評価方法の利用や、今後の継続研究の成果は、対人サービスの評価手法として大いに期待されるものとなると考えられる。

公開日・更新日

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