少子化に関する家族・労働政策の影響と少子化の見通しに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000012A
報告書区分
総括
研究課題名
少子化に関する家族・労働政策の影響と少子化の見通しに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 重郷(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 大淵寛(中央大学経済学部)
  • 樋口義雄(慶応義塾大学商学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の出生数は、1973年の年間209万人を記録した後、近年に続く長期的な出生数減少が始まり、1990年代に入ると年間120万人前後の出生件数となった。一方、合計特殊出生率は、1970年代前半まで2.0を超える人口置換水準をほぼ維持していたが、1973年以降低下を続け、1982~1984年に一旦上昇の気配を示したものの再び低下した。そして、1989年にはそれまで人口動態統計史上最低であったヒノエウマ年(1966年)の1.58を下回る1.57を記録した。その後も多少の変動を示しながら低下は続き、1995年には1.42、そして1998年に1.38と低迷を続けている。
このような少子化現象は、それによってもたらされる人口減少や超高齢化、ならびに社会経済に及ぼす影響から、広く社会的な関心を呼び、1990年代に入ってから政府による本格的な少子化対策が実施されてきている。
しかしながら、今後も低出生率が持続するものと見込まれる現状のもとで、総人口の減少や生産年齢人口の減少傾向は避けられない情勢になっている。このような生産年齢人口の変化は、若い労働力の減少、労働力の高齢化、総労働力の減少をもたらす可能性が大きい。現在の社会保障制度が人口の年齢構造に依存した制度であるため、少子化の進行に対する懸念は一層深刻なものとなっている。
本研究は、このような「少子化」現象をもたらす要因を実証的な研究から解明し、政策的な含意を引き出すことを第一の目的とし、さらに、「少子化」の今後の見通しに関して知見を見いだすことを第二の目的として実施する。
研究方法
出生率に影響を及ぼす様々な要因のうち、本研究プロジェクトでは、(1)女子労働と出産・育児(女子労働班)、ならびに(2)結婚・出生行動の社会経済モデル(社会経済モデル班)の2つの研究の柱を立て、研究を進めた。これらの研究を通じ、家族・労働政策と出生力の関係に関する研究と少子化の見通しに関する研究を実施した。
本研究では、本研究事業の中に二つの研究班を設置し、研究班毎に研究会を組織し、研究事業を実施した。研究は、『出生動向基本調査』(国立社会保障・人口問題研究所)、『社会生活基本調査』(総務省統計局)、ならびに『人口動態統計』(厚生省)等の指定統計や承認統計のデータの多変量解析、ならびにマクロ経済学モデル、人口学的シミュレーションモデル分析によって行い、適宜研究会において分析結果を評価しつつ個別の論文研究として成果をとりまとめた。
なお、指定統計については、総務庁実施の就業構造基本調査、社会生活基本調査の目的外利用申請を行い分析に用いた。なお、就業構造基本調査は官報第2810号、社会生活基本調査は第2832号に告示され使用許可がなされている。
本年度の研究は、2年度の研究であり、本年度研究成果報告書に基づき、次年度への研究発展を図る予定でいる。
結果と考察
1.女子労働と出生力の関係:本年度の研究は、女性就業と出産、育児の相互関連のうち、とくに時間配分の問題に着目し、労働時間と女性就業、保育所の役割について検討した。この問題を分析することは、99年4月から施行された改正男女雇用機会均等法におけるポジティブ・アクションの効果や保育行政における改善点を検討するうえで、重要な示唆を与えるものと期待される。
(1)女性の就業と保育所入所率:1996年『社会生活基本調査』を使って、どのような人が保育所を利用し、どのような人が幼稚園を利用しているかを検討し、保育所利用可能性の偏りの問題に接近している。保育所の利用者は、子供の面倒を見てくれる人のいない核家族に多く、三世代世帯において祖父母の果たしている役割を代替する機能を持っているように受け止められているが、分析の結果では、むしろ核世帯よりも三世代世帯のほうが利用率は高いとの結論を得た。
妻の就業状態による保育所の利用率の違いを回帰分析した結果では、自営業・家族従業者に比べ、パートタイム就業者の利用率は高く、さらにフルタイム就業者の利用率は高いが、労働時間別に見ると、週35~42時間勤務の人の利用率がもっとも高く、これを超えると利用率が低下することが確認された。
(2)女性の出産と就業継続の両立:1997年『就業構造基本調査』を基本に、96年『女子雇用管理調査』から得た育児休業制度を持つ企業割合と、98年『全国子育てマップ』から都道府県別の1歳児の保育所待機率をデータに追加することによって、出産時の継続就業に与えている要因を分析した。前年仕事を持っていた既婚女性が出産を迎え、仕事を継続するのか辞めるのかを被説明変数とし、妻の雇用形態、勤め先規模、教育年数、専門職・管理職ダミー、年齢、第1子出産ダミー、さらには上述した統計から得た育児休業制度と保育所待機率を説明変数とし、プロビット分析を行なった。その結果、1歳児の保育所待機率の高い地域では継続就業率は有意に低く結果を得た。
(3)子供のいる既婚女性の就業行動による地域差をもたらす要因:平成5年度の『人口動態社会経済面調査』と『社会福祉施設等調査保育所調査票』を用い、サンプルを大都市に限定し、1歳児を持つ母親の就業行動について分析を行なった。地域により子供のいる既婚女性の就業率が違うことに対し、これまで大別して4つの仮説が与えられてきた。第1は三世代世帯の構成比の違いであり、第2は保育所利用可能性の違いであり、第3は通勤時間の違いであり、第4は性別分業に対する意識の違いである。すなわち三世代世帯の多い地域ほど、保育所の利用可能性の高い地域ほど、地域外への通勤率が低い地域ほど、そして性別分業意識の弱い地域ほど、子供を持つ既婚女性の就業率は高いというものである。この章では12大都市にサンプルを限定し、市区町村別の地区特性を示すデータをもとに、どの仮説が妥当であるかを検証している。フルタイマーとパートタイマーを合わせた雇用就業率への影響、それらの継続就業率に与える影響を分析した結果では、三世代同居世帯の構成比、性別分業意識、地域外への通勤率は各地区の就業率に有意な影響を与えているが、保育所の利用可能性は有意な影響を与えていない。
(4)労働時間と就業、結婚行動--ー就業機会の均等化の影響との関連:夫の労働時間や妻の労働時間の長さが女性の探職者を含めた有業率や継続就業期間に与える影響について分析を行なっている。その結果では、夫の労働時間や本人に提示された労働時間の長さは、既婚女性の就業行動に有意な影響を与えていた。
(5)女子の就業と妊娠結果および結婚意識:女性の就業状態別に妊娠、人工中絶、流産の可能性について検討している。また「結婚の意識決定に関するパネル分析」はサンプル・セレクション・バイアイスや推計方法の違いがもたらす問題について、検討している。これらの分析は、いずれも女性の就業と結婚、出産の関係について、今後研究をすすめる上で必要となる基本情報を提供している。
2.結婚・出生行動力の社会経済モデル:本年度の研究は、第一に、結婚を予測するための計量経済学的モデルとして構築するとともに、個票データから、社会経済的要因と結婚・出生過程の要因分析を進めた。さらに、出生行動に及ぼす要因に関しては、職業の優位性や家族形態、育児休業など制度との関係について実証分析を進めた。、
(1)結婚モデルの構築と将来予測:本研究は今後の出生率の見通しを展望するために、時系列データを用い結婚行動に関する計量モデルの構築を行い、将来予測を試みた。結婚行動を経済学的な視点から理解するために、結婚の理由を①比較優位、②家計内公共財への需要、③取引コストの低減、④家族内の保険機能の活用、の四つに分類した。また、晩婚化の機会コストとして「未婚のコスト」を独自に計算し過去の結婚動向をこの未婚のコストから説明を試みた。こうした結婚の理由や未婚のコストに加え、労働市場の要因などを考慮して、年齢5歳階級別の初婚率等の関数を設定し、その推定を行い、推定された方程式を組み合わせて27の内生変数からなる小規模計量モデルを構築した。モデルは、結婚ブロック、労働力ブロック、離婚・再婚ブロックおよび有配偶女子人口ブロックの4つのブロックから構成されており、初婚のほか、再婚や離婚などもモデルから計算可能なモデルを構築した。
(2)コーホート別出生関数・結婚関数の測定およびその社会・経済的要因に関する分析:この課題においては、①出生動向基本調査(第9回~第11回)出生コーホート別に結婚関数を測定し、また結婚コーホート別に出生順位別出生関数を測定した。なお、「結婚関数」は独身票と夫婦票を接続させるためにデータを整理した上で分析。「第1子出生関数」については新しいコーホートは、相対的に結婚してから第1子を出生するまでの間隔がわずかながら早いとともに、結婚後、一定程度経過すると今度は逆に、出生するタイミングが遅れる。例えば、同一コーホートの70%が第1子を出産するまでに1960年代・70年代結婚コーホートでは結婚後およそ20ヶ月で到達するのに対して、1990年代結婚コーホートでは結婚後およそ30ヶ月で到達するというように10ヶ月程度の遅れが生じる。「第2子出生関数」については、同様に、1970年代第1子出生コーホートと1990年代第1子出生コーホートとでは、第2子の出生に関して13ヶ月程度の遅れが生じることが確認された。
さらに、②多重ロジスティックによって第1子・第2子出生ハザードの経済的な要因について回帰分析した。(1)年収 (2)学歴 (3)就業上の地位 (4)職種 (5)職場の従業員数 (6)親からの経済的援助(すべて調査対象の女性本人)を二値型の説明変数とし、出生ハザードを被説明変数として回帰した。(但し、年収はデータ整備のため現在作業中)。一般的に次のような結果を得た。a.学歴:高い(低い)ほど出生ハザードを弱める(強める)。b.就業上の地位: 自営業内職に関しては出生ハザードを強める。c.職種:農林漁業や現場労働に関しては出生ハザードを強め、専門や事務、販売・サービスは弱める。d.職場の従業員数:規模の違いが出生ハザードに影響を与えることは確認できなかったが、官公庁に属することは、出生ハザードを強めることは確認された。e.親からの経済的援助:いずれの回答項目も有意な結果を得られなかった。
(3)平均初婚年齢のコーホート変化とその要因分解:本研究は、近年わが国で生じた少子化の世代的メカニズムの解明を目的として、1970年代半ばから1980年代に出生率低下をもたらした女子世代に焦点を当てて、その初婚行動の変化を統計的に観察、分析を行ったものである。対象としたのは出生低下以前との比較も含め、1930年代末生まれ女子出生コーホートから、初婚過程が完了したか、ほぼ過程の生涯傾向が判明している1959年生まれまでのコーホートで、第9~11回出生動向基本調査結果を用いて、その初婚過程のタイミング変化の観察と、変化の過程分解、および要因分解を行った。過程分解とは、平均初婚年齢の変化を、出会い年齢の変化と出会いから結婚に至る期間(交際期間)の変化に分解するもので、いわば結婚過程の時間的変容を調べるものである。また要因分解とは、同じく平均初婚年齢の変化を、高学歴化、就業-職種構造の変化、結婚形態の変化などコーホート属性変化の寄与に分解するもので、そうした既知の変化によって結婚行動変化がどの程度説明できるかを調べるものである。それらは手法としては多変量回帰法を用いているが、これに用いる初婚年齢分布モデルとして、通常の回帰モデルである正規分布を用いた場合に加えて、ここでは初婚年齢分布として提案されている一般化対数ガンマ分布を用いた分析を合わせて実施し、比較を行っている。前者は簡便であり、また初婚に対する分析結果とその過程事象ごとの結果に整合性が保証されるなど利点があるが、平均の分析に限られる。後者は要因効果などに関してより精密な分析が期待され、また分布形状を対象とした分析への発展性を含んでいる。また、従来5年間隔などで固定的にコーホートを区分していたのに対し、ここでは急速なコーホート変化を捉えるため、単年コーホートに対して過程・要因分解を適用して、これらを合計することによって任意の期間のコーホート変化を調べる方法をとった。:分析の結果、1947年生まれコーホート以降、すなわちベビーブームコーホート以降、それまでに比べて急速な晩婚化が見られ、とりわけ1954年以降に変化が加速していることがわかった。1946~53年コーホートの晩婚化(第1期)は、もっぱら交際期間の延長にともなっており、出会い年齢はむしろやや若年化していたようである。これに対して1953~59年コーホートの晩婚化(第2期)では、出会い年齢も上昇しており、平均初婚年齢上昇への寄与は出会い年齢上昇と交際期間の延長でほぼ半々であった。また、高学歴化は両時期を通じて出会い年齢を引き上げる効果を持つが、第1期では、見合い結婚の減少による出会い年齢の低下によって相殺され、同じく見合い結婚の減少による交際期間の延長効果が残った形となっている。第2期では出会いのきっかけの変化幅がやや縮小し、結婚年齢上昇への影響が弱まったのに対し、高学歴化はむしろ加速したため、出会い年齢上昇につながり、晩婚化を加速したものと見られる。
(4)非婚型カップル拡大の背景と見通し:パートナー関係の多様化に関するシミュレーション:今後の出生力変動に大いに影響を与えると考えられる結婚の動向について、前年度までの研究では、男女のパートナーシップというより広い枠組みからとらえ直すことを試みてきた。その結果、同じように結婚しない男女が増加している先進諸国の中でも、日本や南欧では、交際相手はいるものの同棲も結婚もしない非婚非同居型のパートナーシップが増加していることが明らかになった。本論文では、このようなパートナーシップ形態の変容をより定量的に、かつコウホートによる変化として明らかにすることを目的としている。ある人に親密なパートナーがいるという場合には、その形態として、結婚、同棲、交際の3つの場合が考えられる。その人がいずれの形態をとっているかは、さまざまな要因によって規定されているはずである。そこで、それぞれのパートナーシップ形態に至る確率が、多項目に拡張したロジスティック・モデルで表現できると仮定し、確率予測に有効な独立変数として、出生年、調査時の年齢、現在のパートナー関係の継続期間、本人の学歴、パートナーと知り合ったきっかけ、就業形態、離婚経験の有無を選んだ。過去3回の出生動向基本調査のデータを用い、パートナーがいる18歳から34歳の女性(サンプル数11,751)についてモデルの推定をおこなったところ、ほとんどの変数が統計的に有意であった。とくに最近の出生コウホートほど他の条件が等しければ結婚以外の形態を選択する傾向が確認できた。また離婚経験がある場合、結婚よりも交際、交際よりも同棲を選択する傾向が示された。一方本人の学歴と同棲の選択に関しては有意な関係性が認められなかった。さらに、推定されたモデルを使って、一定条件のもとで、各パートナーシップ形態をとる確率を予測した。具体的には女性の基本属性を、大卒、職場で出会う、フルタイム就業、離婚経験なしとした場合のそれぞれのパートナーシップ形態の確率(集団における割合とも考えられる)を、出生コウホートおよびパートナー関係の期間別(3年目、5年目、7年目)に算出した。出会いから3年目の場合、1950年出生コウホートでは8割が結婚、2割弱が交際であったのに対し、1965年出生コウホートになると両者が5割と拮抗し、以後は交際が逆転するような予測となった。出会いから7年目になると、1960年代コウホートでも結婚が8割、交際が2割であるが、傾向としては結婚が減少し、交際が増加している。そしてこのまま出生年の効果が継続すれば、1970年代コウホートでは、結婚と交際の割合が逆転することがモデルから予測された。また同棲の増加傾向は交際に比べるとかなり緩やかではあるが、1970年代コウホート以後は、一定割合を占め、1980年コウホートに至っては1割近くを占める可能性が示唆されている。
(5)育児休業の利用・子どものケアと女性の就業:育児休業の利用状況については、92年以前と以後で、育休の利用は有意に高まったが、就業継続そのものは有意に増加していない。育児休業の利用者は、ゆるやかに増加しているが、現在でも出産時には離職する者が多い。(92年以降に第1子を出産した者の6.4%が育児休業を利用。結婚前正社員である者に限るとや7.6%。結婚後も正社員を続けた者に限定すると15%、さらに妊娠中も正社員を続けた者の18.3%。妊娠中も正社員での就業継続をしている女性の5人に1人しか利用していない)。その一方で、出産後も継続する者は、育児休業を利用することが一般的になってきた(92年以降、第1子出産後1歳時点で正社員である者の38.9%が育児休業を利用)。非正規社員での若年女性の就業が大幅に高まっているが、正社員と比べて育児休業利用者は10分の1である(92年以降の出産で結婚前正社員以外の仕事についていた者の2.4%、結婚後では1.3%。)育休利用者は、職種別には、結婚後の勤務先が官公庁の場合、95年以後の出産ではその利用率は5割ともっとも高く、企業規模別には、300人から999人が19%、1000人以上が15%、30から99人が18%であり、大企業では利用率が高い。99人以下の企業では、3~4%である。しかし中小企業においても育休利用者は有意に増加している。利用者は、妻の就業収入が比較的高所得層-年収400万以上-で高い結果が得られた。一方妻の年収が300万未満の層は、親族利用で就業継続をしている者が多いという結果であった。
就業継続と第1子の養育については、第1子が1歳時点での就業継続を71年から97年まで時系列で見ると特に就業継続についての明確な傾向はない。70年代に自営業・家族従業が減少した分だけ、やや専業主婦比率が上昇。子どものケアについては、専業主婦世帯では、「母のみ」が減少し、「父母」および特「父母と別居祖父母」が増加した。父母と同居祖父母は減少。共働き世帯の場合、育児休業法の影響があり、「母のみ」が増加した。また「母と施設保育」が増加。同居の祖父母の役割が減少。父親の役割増加は高学歴女性に多く、また施設保育の利用も高学歴女性に多い結果が得られた。
(6)同居が妻の就業選択・就業継続に与える影響:日本の総世帯に占める三世代世帯の割合は10.6%(1999年『国民生活基礎調査』)で、60歳以上の高齢者に限ると子との同居率は50%に達する(1995年、舟岡・鮎沢(2000))。成人親子同居についての既存研究は、岩本・福井(2000)のサーベイに詳しいが、これまでは高齢者の介護や遺産との関連で論じられることが多かった。しかしながら女性の労働供給に関する既存研究でも明らかなように、育児と就業の両立が困難な日本において、祖母の存在は妻の就業選択や就業継続にきわめて大きな影響を及ぼしている。そこで本研究では、第10回・第11回『出生動向基本調査』のマイクロ・データに基づき、親子同居を妻の就業や子育てとの関係で分析した。具体的には、①親子同居の決定要因、②妻の就業選択に及ぼす同居の影響、③妻の就業継続に及ぼす同居の影響、の3点について分析した。主な分析結果は以下の通りである。
①親子同居の決定要因:夫方の親との同居、妻方の親との同居では、各変数の影響度が異なる。例えば、妻の年齢が高いほど、夫の親との同居を選択しない傾向にあるのに対し、夫の年齢が高いほど、妻の親との同居を選択しない傾向にある。また、同一家屋での同居と、準同居を含んだ場合とでは、各変数の影響度が異なる。いずれのケースでも、夫の所得が高いほど別居を選択する確率が高く、既存研究と整合的な結果が得られた。
②妻の就業選択に及ぼす同居の影響:妻の就業形態を常勤・パート・自営業・不就業の4つに分け、各就業形態を選択する要因をmultinomial logitモデルで分析した。その結果は以下の通りである。まず、夫が高所得なほど不就業を選択しやすく、幼児の存在は不就業を選択する確率を高める。ただし、子供数が多い場合はパート選択確率が高まる。夫の労働時間が長い場合、妻のパート選択確率は高まる。妻が高学歴なほど、常勤就業確率が高まる。親との同居は、とくに35歳未満の有配偶女性の常勤就業にきわめて強い影響を及ぼしている。35歳以上と未満の2つの年齢層に分けて推定すると、各変数の影響度にかなり差がみられた。
③妻の就業継続に及ぼす同居の影響:出産前後の妻の就業継続に及ぼす同居の影響を分析した。得られた結論は以下の通りである。まず、妻の賃金が高いほど就業継続する確率は高まる半面、夫の賃金が高い場合には退職する確率が高くなる。親との同居は正社員としての就業継続に大きな影響を及ぼしている。
(7)公務員女性の就業継続と出生力:公務員女性の高出生力の背景:急激な少子高齢化による本格的な労働力不足の到来を控え、女性の就業と子育ての両立の問題は社会的支援の対象となってきた。これまでさまざまな両立支援策が試みられてきたものの、未だこれらの施策が際立った効果をもたらしているとはいえず、むしろ出産後の家庭専業傾向が強まったという分析も明らかとなっている。一方、近年における独身女性の理想の生き方に注目してみると、就業と子育ての「両立」志向は着実に強まっており、既婚女性の実態とのギャップがさらに大きくなりつつあるのが現状である。このような理想と現実のギャップをもたらすものは何であるのか、就業と子育ての両立はいかなる状況のもとで可能なのか、その要因を明らかにすることが急務といえよう。
本研究では、就業を継続しつつも高い出生力をもつ公務員女性に注目し、就業と子育ての両立可能条件を探るため、未婚男女の分析を新たに試みた。これまでの公務員研究においては、公務員女性の高い出生力は、企業と比較して育児休業などの支援システムが確立し、利用しやすいこと、夫が公務員である割合が高く、比較的サポートが受けやすいということなどがその要因として示唆された。今回の未婚女子の分析においては、結婚以前から両立志向が強いこと、また結婚相手の条件として、経済力や学歴を重視する割合がひくく、パートナーの家事・育児などのサポートを重視する傾向があり、また仕事にやりがいを感じている者の割合高いことなどが、公務員女子の特徴として見出された。また、未婚男子の分析においても、理想とする女性の生き方として両立コースを支持する割合が、企業勤務の男性よりかなり高いことが明らかとなった。希望子ども数に関しては、男女ともに他の就業形態よりも多くの子どもを持ちたいと思っており、公務員は結婚以前から高い出生意欲を持っていることがわかった。その他、性別役割観に関しては、男女とも性別分業にこだわらない者の割合が高く、その他の結婚・家族意識に関しても非伝統的な意識をもつ者が多い。
(8)日本における子ども需要の動向と見通し:子ども観・子ども数制限の長い歴史を経て、資本主義経済が発達し始めた18世紀後半以降、変化が生じた。まず、生命への関心の高まりから間引の罪が意識され、行われなくなった。また、次世代の国民というマクロ的な子ども観が広まる一方、学校制度の整備や工業の発達による生活様式の変化からミクロ的な子どもの所得効用(働き手としての効用)が失われ始めた。戦後は、乳児死亡率の低下、社会保障制度の充実、所得水準の上昇を背景として、2~3人の子ども需要が普通になった。
考察=女性の就業と保育所入所率については、祖父母の存在と保育所の利用は代替関係にはなく、むしろ保育所の開園時間帯は保育所に子供を預け、この終了後は祖母が孫の面倒を見るといった補完関係にあることを示唆している。核世帯における幼児を持った既婚女性の就業を促進するためには、保育所における利用時間の延長が必要であり、こうした施策がとられてはじめて、幼児を持つ既婚女性もフルタイマーとしての就業が可能になるということができよう。幼稚園に通園している世帯割合は、核世帯に比べ三世代世帯のほうが低く、保育所利用率とは対照的である。また保育所の利用率とは異なり、幼稚園の利用率は妻の就業時間の違いによる差は見られず、世帯年収の差が大きく影響している。なお妻の就業促進効果が保育所や幼稚園にあるのかを検討した結果では、パートタイマー、フルタイマー、いずれについても促進効果のあることが確認された。また、女性の出産と就業継続の両立については、保育所の整備が女性の継続就業を促進する効果のあることが明らかとなった。
子供のいる既婚女性の就業行動と地域差に関しては、大都市では保育所の待機率が高く、必ずしも十分な施設が用意されていない。そのため、利用可能性に地区間の差が小さいために生じているのではないかと考えられる。今後、地域の必要性に応じた保育サービスの充実が望まれることを示唆している。さらにいえば、保育所「不足」が絶対量の不足にとどまるのか、サービスの質的な柔軟性(たとえば延長保育や病児保育など)にまでおよぶのかについても、今後、検討が必要である。
労働時間と就業、結婚行動--ー就業機会の均等化の影響との関連については、労働時間の短縮が女性の就業促進にとって不可欠であることを示している。従来の男女雇用機会均等法は、企業の指定する雇用機会に応募してきた者については、男女で差別をしてはならないというものであった。したがって、長い労働時間が企業から指定され、これに応募する女性がいなければ、結果的に女性を採用できなくても仕方がないとされてきた。しかし改正された男女雇用機会均等法では、女性の応募者がいなければ、なぜ女性の応募者がいないのかを調査し、改善していくことが企業に求められるポジティブ・アクションが法認された。女性の継続雇用を容易にし、能力発揮の場を提供していく上では、労働時間の問題を改めて検討する必要のあることが示された。
結婚モデルの構築と将来予測については、構築したモデルに基づいて将来予測を行うと、2015年の20~24歳女子の初婚率は現在(1998年)よりもおよそ10‰ポイント低下する一方、25~29歳女子の初婚率は現在よりも6‰ポイント上昇する。また、30歳代の初婚率をみると30~34歳女子では現在に比べおよそ8‰ポイント上昇するが、過去において急激に上昇していた35~39歳女子の初婚率はより緩やかな上昇に留まる。なお、平均初婚年齢をみると、現在の26.7歳は2015年では27.0歳程度となるとみられ、しばらくは晩婚化のトレンドは続くものとみられる。
一方、離婚についてみると、年齢5歳階級別にみた離婚率は若年層でさらに上昇し、とりわけ25~29歳女子では2015年には現在のおよそ1.5倍に上昇する。しかし、30~34歳の離婚率は現在よりやや高い水準に留まる。再婚の動向等を踏まえて、労働力調査ベースの有配偶女子人口を試算すると、20~24歳女子では現在の50万人から2015年では32万人に、また25~29歳女子では223万人から147万人に大幅に減少する。30歳代の有配偶女子人口も現在の633万人から505万人程度に減少する。
このモデルは、少子化を解明する総合的な計量モデルの一部であり、今後、出生行動や経済・社会部門の動向をモデルに加え、さらなる拡充を試みる予定である。
コーホート別出生関数・結婚関数の測定およびその社会・経済的要因に関する分析では、現在の晩婚化現象は、一般的に晩産化と言われる平均出産年齢の上昇(時代・時間を固定)や、昨年度までの研究などに示されたような出産のタイミングを出産年齢における累積割合推定値(年齢を固定)では分からなかったが、今回の分析により、明らかに1970年代以降の日本における晩産化にはコーホート効果が作用していることが確認された。
平均初婚年齢のコーホート変化とその要因分解では、1947年生まれコーホート以降、急速な晩婚化が見られ、とりわけ1954年以降に変化が加速していることがわかった。1946~53年コーホートの晩婚化(第1期)は、もっぱら交際期間の延長にともなっており、出会い年齢はむしろやや若年化していたようである。これに対して1953~59年コーホート(第2期)では、出会い年齢も上昇しており、平均初婚年齢上昇への寄与は出会い年齢上昇と交際期間の延長でほぼ半々であった。また、高学歴化は両時期を通じて出会い年齢を引き上げる効果を持つが、第1期では、見合い結婚の減少による出会い年齢の低下によって相殺され、同じく見合い結婚の減少による交際期間の延長効果が残った形となっている。第2期では出会いのきっかけの変化幅がやや縮小し、結婚年齢上昇への影響が弱まったのに対し、高学歴化はむしろ加速したため、出会い年齢上昇につながり、晩婚化を加速したものと見られる。
非婚型カップル拡大の背景と見通しについては、結婚という法的な結びつきの関係から、交際や同棲といったより緩やかな関係への移行が確認できる。日本の場合、婚外子をさける傾向が依然強い。今後このようなパートナーシップ形態の変容が続けば、出生力低下は避けられないであろう。今後はなぜ若い世代が結婚ではなくより緩やかな関係を維持するのか、その理由についても検証していく必要がある。
育児休業の利用・子どものケアと女性の就業については、就業継続の賃金および出産に与える効果については、正規就業はもちろんパート就業であっても就業継続は稼得賃金を上げる。一方、出産タイミングは、就業継続による機会費用が大きい者ほど時期を後ろにずらす選択が行われている。したがって、女性を中心とする労働政策の改善は、少子化対策の上で重要なポイントとなる。
同居が妻の就業選択・就業継続に与える影響では、親との同居は正社員としての就業継続に大きな影響を及ぼしており、育児の社会化の一方で、伝統的に家族の果たす役割が強いことである。
また、公務員女性の高出生力の背景としては、未婚男女の分析から、公務員男女は、結婚以前からより強い両立志向、高い出生意欲を持っていることが明らかとなった。この結果からみると、公務員女性の出生力の高さは、『公務員』である者のもともとの特性の結果でもあり、育児環境が充実しているなどの環境要因のみに帰することはできないかもしれない。しかし、男女双方において「子育てと共働きが可能である」と考えるにいたる環境が整っている結果と解釈することもできる。この点に関しては、今後のより詳細な研究が望まれる。また、結婚相手の条件の点からいえば、男女ともにライフコースのすり合わせが可能な異性が近くに存在することも、女性の就業と子育ての両立を可能にする大きな要因のひとつであろう。実際の調査結果からみても、公務員女性の6割が夫も公務員であり、公務員女性の多くは最も身近で強力なサポートを得やすい環境にあるといえ、労働環境の改善を考える上で多くの示唆が得られた。
希望子ども数などを代理変数とする子ども需要の動向は、将来の出生率水準の予測において考慮すべき重要事項である。
現在の子ども観には、子どもは親にとってかわいいという消費効用的見方、老後の介護の担い手や精神的支えになるという社会保障効用的見方が残っている。一方、子どもを大切に育てるためにかかる費用と育児時間は増加しているのに女性の社会進出や低成長経済への移行によってそれらの捻出が難しくなっている。子ども需要は、子どもの効用と費用のバランスで決まり、予定子ども数はそのバランス計算の結果として出てくるが、調査のデータを分析すると、若年層において予定子ども数は減少している。これは、出生タイミングの遅延によるみせかけの出生率低下とは違い、ともすれば完結出生力の低下を予測させるものである。将来人口推計において重要な出生率の将来仮定値を考える際、こうした子ども需要の分析は有用であり、大きなヒントを与える。
結論
本研究は、1970年代から始まる出生率低下に関して、その長期的な出生率の将来趨勢を予測するための社会経済モデルを構築することにある。いうまでもなく人口置換水準を大きく割り込んでいる出生率の将来動向は、今後の日本社会に大きく影響を及ぼす。したがって、将来の出生率の規定要因を定量的に把握し、予測可能なモデルとして構築することが重要な意味を持っている。
将来人口推計は国の将来計画の基本をなすもので、この予測の精度の改善が政府の各種政策・長期計画の正確性を高める事となる。とくに、社会経済的要因との関連で、出生率の将来動向を明らかにすることは、家族・労働政策との関連からも重要な意味をもっている。
本研究では、平成14年度において本研究最終年度となる社会・経済学的な出生率予測と出生率を規定する女性労働と出産・育児に焦点を置いた研究を行い、研究三カ年の総合研究成果を報告書としてとりまとめて行く。

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