疾病管理による保健サ-ビスの経済的評価(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900804A
報告書区分
総括
研究課題名
疾病管理による保健サ-ビスの経済的評価(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
久繁 哲徳(徳島大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急速に高齢化社会を迎えるわが国では,生活習慣病および老人病に対応できるような効果的な保健医療の提供とともに,それにともない高騰する保健医療費の適正化が緊急の政策的課題となっている。国際的には,こうした課題に対応するために,最も効果的な保健医療サ-ビスの評価を行い,しかも限られた保健医療費の下で最大の健康改善をもたらす効率的なサ-ビスの選択を試みている。そうした戦略が「根拠に基づく保健医療」(evidence-based healthcare)である。その中でも「疾病管理」(disease management)は,個別の疾患に焦点を絞り,地域全体を視野に入れ,予防からリハビリまで,継続的で統合的な保健医療のあり方を検討する接近法として注目されている。そこで,わが国において,生活習慣病および老人病に対する効果的で効率的な保健医療サ-ビスのあり方について,疾病管理の枠組みにより戦略を設定するための研究を行いたいと考えた。とくに,今回は生活習慣病の代表として糖尿病を選び,疾病管理の具体的な適用を,昨年度に引き続き試みた。
研究方法
わが国の生活習慣病および老人病に対する保健医療サ-ビスについて,疾病管理の枠組みに基づく系統的な研究を,糖尿病を対象として,以下の方法および計画にしたがって実施した。
1.方法論: 1) 糖尿病の疾病経営管理(地域プログラムの開発の検討), 2) 地域における糖尿病の疾病経営管理の評価(評価枠組みの設定), 3) 糖尿病の診療ガイドラインの評価
2.事例研究: 1) 糖尿病患者の配置と流れ, 2) NIDDM の強化療法の経済的評価(SU剤), 3) NIDDM の疾病費用, 4) NIDDM の生活の質の評価, 5) 富山県糖尿病地域医療における効果の検証, 6) 徳島県における糖尿病予防プログラム, 7) 香川県における糖尿病診療の実態, 8) 島根県における糖尿病対策, 9) NIDDM スクリ-ニングの経済的評価, 10) 検診から治療を結ぶ患者マネジメント, 11) 糖尿病受療者の保健行動と医療費との関連, 12) 糖尿病腎障害の実態とスクリ-ニング, 13) 糖尿病網膜症の実態とスクリ-ニング,14) 糖尿病神経障害の実態とスクリ-ニング, 15) NIDDM の発症と進展に対する介入効果の批判的吟味
結果と考察
1.方法論: 1) 糖尿病の疾病経営管理(地域プログラムの開発):わが国の保健医療システムに対応したプログラム開発方法を明らかにした。 2) 地域における糖尿病の疾病経営管理の評価:地域における管理結果の評価枠組みを明らかにした。 3) 糖尿病の診療ガイドラインの評価:わが国と国際ガイドラインのチェックリストによる評価を行ったが,わが国のガイドラインの質は低く,根拠に基づく開発が求められた。
2.事例研究: 1) 糖尿病患者の配置と流れ:糖尿病合併症予防の基礎となる,各種合併症の頻度と経過が推定できた。 2) NIDDM の強化療法の経済的評価(SU剤):SU剤を用いた合併症予防に対する強化療法が経済的効率に優れており,積極的に利用すべきことが明かとなった。 3) NIDDM の疾病費用:合併症なしの医療費は60万円/人/年,ありでは150万円,間接費用はそれとほぼ同額であった。 4) NIDDM の生活の質の評価:EuroQol で生活の障害が1/3に認められ,効用値も0.5から0.7の範囲にあった。 5) 地域における糖尿病疾病経営管理の試みの評価:富山県,徳島県,香川県,島根県における疾病経営管理の試みについて,1次から3次予防の現状が把握された。また,富山県では,受療率は増加,死亡率は低下していた。 6) NIDDM スクリ-ニングの経済的評価:NIDDM スクリ-ニングの経済的効率は,1600万円-1800万円/QALY であり,利用の根拠は弱いことが示された。 7) 検診から治療を結ぶ患者マネジメント:検診異状者の継続通院率は50%程度であり,合併症予防上,問題が認められた。それに対して,現在実施している改善対策を示した。 8) 糖尿病受療者の保健行動と医療費との関連:生活習慣と医療費との間に関連が認められ,生活習慣の改善による医療費の減少が期待された。 9) 糖尿病合併症の実態とスクリ-ニング:糖尿病合併症(腎,眼,神経)の実態とスクリ-ニングに関する既存情報の把握とその批判的吟味により,現在の状況が明かとなった。 10) NIDDM の発症と進展に対する介入効果:批判的吟味により,運動療法による効果は中間的指標に基づくものであり,最終的な健康結果については,不明であることが示された。
以上の結果から,わが国の糖尿病に対して疾病管理により保健医療サ-ビスの戦略を設定することが可能であることが示された。昨年および今年度,次年度の成果を統合して,疾病管理の導入が,国民あるいは住民の健康改善と医療費の削減にどのような影響を与えるかを,システム・ダイナミック分析により検討を行う予定である。
結論
効果的で効率的な保健医療サ-ビス戦略を検討するために,昨年度に引き続き,糖尿病に焦点を当てて疾病管理による評価を実施した。研究に際しては,方法論と事例研究の2つの領域おいて検討を進めた。その結果,わが国の糖尿病に対して疾病管理の枠組みにより,保健医療サ-ビスの戦略を設定することが可能であることが示された。この間の研究結果に基づき,費用と効果を統合して,地域あるいは国レベルにおける疾病経営管理の導入と,その影響予測を試みる予定である。そうした成果を積み上げることにより,国あるいは地域の最適な糖尿病予防サ-ビス戦略を確立することが期待できる。

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