血液製剤の使用実態調査に基づく適正使用の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900720A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤の使用実態調査に基づく適正使用の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 頌一(九州大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋孝喜(虎の門病院)
  • 佐川公矯(久留米大学医学部附属病院)
  • 坂本久浩(産業医科大学病院)
  • 前田義章(福岡県赤十字血液センター)
  • 丹生恵子(福岡大学病院)
  • 高松純樹(名古屋大学医学部附属病院)
  • 比留間潔(都立駒込病院)
  • 鷹野壽代(聖マリア病院)
  • 大戸斉(福島県立医科大学附属病院輸血部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
21世紀前半における輸血療法適正化の実現による輸血使用量削減
研究方法
1.福岡、愛知、福島および北東京という四つの地域で統一アンケートによる使用実態調査
1) 病院の概要
a) 血液製剤の管理、運営、責任者、夜間の管理、輸血療法委員会
2) 血液製剤使用状況
a) 血液製剤の使用本数
b) 血液製剤の廃棄本数
c) 診療科・疾患別の輸血患者実人数(内科系)
d) 診療科・疾患別の輸血単位数(内科系)
e) 診療科・疾患別の輸血患者実人数(外科系)
f) 診療科・疾患別の輸血単位数(外科系)
g) 貯血式自己血輸血実施数
h) 貯血式自己血輸血単位数
i) 院内採血実施症例数
j) 輸血患者の性別・年齢
k) ABO不適合赤血球輸血症例数(1996-1998)
l) ABO不適合血漿輸血症例数(1996-1998)
の各項目について回答を求めた。使用状況の調査期間は平成11年1月から6月までの6ヶ月間とした。
2.個別病院が血液使用状況を患者レベルで把握するためのソフトプログラムの開発
3.外科医師の輸血対応評価のための模擬症例の作成
結果と考察
輸血療法適正化を目的として使用実態調査を行うことによって二つの問題点が明らかになった。一つは病院間における血液使用量の較差が非常に大きいことであった。病床あたりの使用量比較で見てみると赤血球で約3倍、凍結血漿で約5倍、血小板では約10倍にも達していた。一方、輸血療法は大病院集中化が顕著であった。調査を行った全国4ヶ所の都県では10~30の病院が地域使用量の50%以上を占めていた。このことは、地方自治体のレベルで少数の病院を標的に輸血使用量の少ない病院のレベルに標準化することができれば、確実な使用量削減が可能であることを示していた。血液使用量の大きな病院の血液の動きを把握するためには、患者実数、疾患分類、疾患別使用量などが基本情報として取り出せる輸血管理専用コンピュータプログラムの開発が求められた。また、このような地域における実態把握には県という地方行政の持つ調査権を積極的に利用することが重要であった。同時に製造者である地域血液センターも医薬情報部門を活用して積極的に参加する必要があった。二つ目は輸血療法が高齢者に集中的に施されていることであった。輸血は51歳以上の患者に80%、71歳以上の患者に40%が使用されていた。このことから、今後、高齢化少子化の進行によって輸血使用量の増加と献血採血量の減少が予想される。血液センターが献血量の増加に取り組むことはもちろんであるが、利用者側として臨床サイドには適正使用を強化し無駄な血液使用を抑制することが強く求められる。この状況下において大きな阻害因子となっているのが、現行の出来高払い保険制度である。病院側が適正使用に取り組もうとすれば、現場医師の輸血処方を監督しうる輸血専門医が必要である。現状は輸血専門医の数の不足はもちろんであるが、病院の輸血使用量削減に努力しても病院としては経済的損失ばかりが増えて行くシステムとなっている。このため、輸血削減の努力はほとんど評価されない。したがって、輸血療法は定額制の導入を柱として、適正使用に努力すれば多少とも経済的に恵まれるか、少なくとも経済的損失を招かないシステムを構築しない限り、いかに適正使用を叫んでも画に書いた餅でしかない。
結論
輸血療法適正化を目的として使用実態調査を行い、現在の問題点を明らかにした。その第一は輸血療法の高齢者への集中であった。我が国における高齢化・少子化という人口動態の急激な変化は保険問題同様、輸血療法を直撃する課題であることが明らかになった。第二は病院間における輸血使用量較差であった。この解決に実態調査結果を公開し、県という小地域での病院相互監視効果を期待する方法を提案した。また、各病院レベルでの輸血療法実態把握を容易にするために輸血管理専用コンピュータ・プログラムの開発が有効と考えられた。さらに医師に不必要な輸血を行わせない教育・啓蒙活動は緊急の課題である。そのためには、医師の輸血処方権に容喙して輸血療法の標準化を進めるための輸血専門医による監査システム(Audit)を支援できるよう保険制度の改善が望まれた。

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