住宅における生活環境の衛生問題の実態調査

文献情報

文献番号
199900711A
報告書区分
総括
研究課題名
住宅における生活環境の衛生問題の実態調査
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
田辺 新一(早稲田大学理工学部建築学科)
研究分担者(所属機関)
  • 真鍋重夫(日本たばこ産業)
  • 渡辺弘司(大阪化成(株))
  • 岸田宗治((株)ケイエヌラボアナリシス)
  • 内山茂久(千葉市環境保健研究所)
  • 角倉光彦(健康住宅普及協会)
  • 秋元孝之(関東学院大学工学部建築設備工学科)
  • 岩下剛(鹿児島大学工学部建築学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
20,199,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、シックハウス症候群に関してその実態、住宅供給者及び消費者の意識・対策を調査し、被害実態の把握、有効な対策を立てるための基礎データを収集することである。シックハウスの原因としては、ホルムアルデヒド、揮発性有機化合物(VOC)、防蟻剤、可塑剤、木材保存剤等の有機性汚染化学物質、カビ・ダニなどの微生物、温湿度環境、衛生環境など様々なものが考えられる。
研究方法
本研究はシックハウス症候群に関する問題を解決するためのデータを収集するために、以下の項目について分担研究に分けて実施した。
Ⅰ.報道事例の調査 Ⅱ.財団法人ベターリビング(BL)に寄せられた危害情報の調査 Ⅲ.シックハウスに関するアンケート調査 Ⅳ.建材から発生するアルデヒド類のパッシブ測定法(ADSEC)の開発 Ⅴ.シックハウス症候群の有病率について Ⅵ.戸建新築住宅における入居前後による衛生環境調査 Ⅶ.居住空間における化学物質の挙動とモニタリング方法の検討 Ⅷ.冷暖房方式の違いによる住宅における衛生環境評価 Ⅸ.蒸暑地域の住宅における夏季の住まい方及び室内空気環境に関する研究
結果と考察
Ⅰ.報道事例の調査 過去15年分の朝日新聞の記事データベース、建築専門雑誌をもとに、本研究に関連したキーワードについて記事検索を行った。シックハウス関連の新聞記事は、1995年から増加し始めた。建築専門雑誌におけるシックハウス関連の記事は1997年から記載されていた。近年のシックハウスに関する関心の高さが確認された。
Ⅱ.財団法人ベターリビング(BL)に寄せられた危害情報の調査 BLの住宅部品PLセンターに寄せられた危害情報をもとに分析を行った。相談は1994年の開設以後、総数2,117件であった。月毎の相談件数に大きな差はない。相談者は一般ユーザーが60%であった。都市部からの相談、持家、戸建、木造住宅の所有者からの相談が多かった。身体被害は、粘膜系の部位が多かった。
Ⅲ.シックハウスに関するアンケート調査 アンケート調査票を作成し、住宅の居住者と供給者計3,290件に対し意識調査を行った。家に帰ると何らかの症状が出る人は、アレルギーを持つ中高年層の非喫煙者の女性で、在室時間が長く、換気は行うが、化学物質を含む製品を使用し、周辺環境に空気質汚染の可能性があるという一般像が得られた。住まい手から供給者への情報交換には、両者に意識のずれが見られた。住宅供給者は、シックハウス対策に力を入れているが、「MSDS」の認知度は低く、住宅供給者への正確な情報提供も必要なことがわかった。
Ⅳ.建材から発生するアルデヒド類のパッシブ測定法(ADSEC)の開発 拡散サンプラッを利用した建材からのアルデヒド類の放散速度を測定する器具、ADSECを試作した。性能を把握するため、容器の大きさ及び捕集時間を変更した実験を行った。ADSECは、ステンレス容器、スタンド、パッシブサンプラーから成る。FLECによる測定も同時に行った。捕集時間が長く、建材測定表面積が大きいほど、捕集量が多くなることが確かめられた。ADSEC放散速度とFLEC放散速度の間に、環境条件が一定であれば、高い相関性が認められた。
Ⅴ.シックハウス症候群の有病率について シックハウス症候群の有病率や室内環境との関連について検討を行った。埼玉県北部の一戸建て住宅居住者(主として主婦)を対象としてアンケート調査を行った。回答から本症候群が疑われるケースでは更に電話インタビューや現場調査を実施した。アンケート回収率は82.5%で回答者99名中85名は女性であった。自覚症状と居住環境調査結果を総合して10名(10.1%)を本症候群と診断した。化学物質過敏症は1例も認められなかった。発症10例すべて女性であったため、女性回答者85名について本症の発症要因としてライフスタイル、健康状態、室内環境、在宅時間、睡眠時間などを分析した結果、①受動喫煙②室内の強い臭気③上気道刺激臭④眼刺激臭⑤有機溶剤臭⑥畳臭⑦カビ臭⑧換気不十分が本症の発症と有意な関連があることが明らかになった。
Ⅵ.戸建新築住宅における入居前後による衛生環境調査 高気密高断熱仕様住宅を対象に、ホルムアルデヒド、TVOC及びダニ、カビについて、入居前及び入居後(約2~3ヶ月)でどの様に変化するか実態調査を行った。ホルムアルデヒドは、入居前で5邸中4邸が厚生省の示すガイドライン値以下であり、対策が進んでいた。TVOCはWHOの示すガイドラインを大幅に越えており、対応が遅れていることが分かった。ダニ測定について、入居前の検出数は少なかったが、入居後はチリダニ類の検出数が増加する傾向を示した。カビ測定については、入居前で多くのカビの菌数が検出され、引き渡し前住居の汚塵除去方法の改善及び強化が必要と考えられた。
Ⅶ.居住空間における化学物質の挙動とモニタリング方法の検討 居住空間におけるVOCを、様々な方法で同定・定量することにより、それらの発生メカニズムを検討した。また、VOCを簡便に精度良く分析できる方法を検討した。約40件の住宅でVOCを測定した結果、屋内濃度と屋外濃度の比(I/O)は1.3~31を示し、全ての住宅で屋内濃度が屋外濃度より高かった。発がんの疑いのある物質の中で、最も高い濃度とI/O比を示した物質は、パラジクロロベンゼンであるが、スチレンが非常に高い濃度(180 オg/m3)を示した住宅もあった。建材から放散する物質をFLECで測定した結果、畳、床、天井からそれぞれ12, 19, 32 オg /m2 hの速度でスチレンが放散していた。これらの建材に共通することは発泡スチロール系の断熱材(EPS, XPS)を伴っていることである。XPSからスチレンの放散量を測定したところ49~84 オg /m2 hであり、断熱材から室内空気への拡散が示唆された。
Ⅷ.冷暖房方式の違いによる住宅における衛生環境評価 住宅における冷暖房方式に関するアンケート調査を郊外型集合住宅63世帯に対して行い、使用実態と満足率を検討した。頭部と足元の温度差は、よくある・たまにあるの合計で半数以上を占め、気流による不快感は、よくある・たまにあるの合計で約30%であった。また、放射と対流双方の効果により冷暖房を行う次世代床冷暖房システムを採用した住宅を対象に、季節ごとの温熱、空気環境の実測調査を行った。冬季の本システムの使用時において、PMV値は、暖炉、通常空調使用時と比較して、ISOが定めている快適推奨範囲を多く満たし、最も上下温度分布が少なく、ASHRAEが定める床上0.1mと1.7mの上下温度差が3℃以内の快適推奨範囲を満たした。
Ⅸ.蒸暑地域の住宅における夏季の住まい方及び室内空気環境に関する研究 新築住宅において入居前、入居後にVOCの測定を行い、室内で検出されたVOCが、建材由来か、生活行為由来なのかを調査した。実測は、夏季の5日間および秋季の1日、鹿児島市内の新築住宅二軒において行った。二軒の住宅は機械換気システムをもつO邸と、機械換気設備のないM邸である。夏季実測は、入居前の連続した5日間行った。ホルムアルデヒドの濃度は、二軒共にWHOの基準値である0.08 ppmを越え、TVOC濃度は、O邸でペンキ工事のあった日以外は、M邸の濃度がO邸よりも高かった。入居後のM邸の秋季実測においては、TVOC濃度が極端に高く、衣装ケース内の防虫剤から発生したパラジクロロベンゼンの影響と考えられた。
結論
本研究は、シックハウス症候群に関してその実態、住宅供給者及び消費者の意識・対策を調査し、問題解決のために有益なデータを収集することを目的とし、上述する9つのテーマを分担研究に分けて実施した。近年のシックハウスに関する関心の高さが確認された。住宅供給者と消費者のシックハウス対策に対する情報の間に相違が見られた。また、受動喫煙・室内の強い臭気・上気道刺激臭・眼刺激臭・有機溶剤臭・畳臭・カビ臭・換気不十分がシックハウス症候群の発症と有意な関連があることが明らかになった。

公開日・更新日

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