高分子素材からなる生活関連製品由来の内分泌かく乱化学物質の分析及び動態解析

文献情報

文献番号
199900691A
報告書区分
総括
研究課題名
高分子素材からなる生活関連製品由来の内分泌かく乱化学物質の分析及び動態解析
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中澤 裕之(星薬科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 山田  隆(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 宮崎  豊(愛知県衛生研究所)
  • 藤島 弘道(長野県衛生公害研究所)
  • 河村 葉子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成10年度厚生科学研究(課題番号:H10-生活-501、主任研究者中澤裕之)「内分分泌かく乱化学物質の胎児、成人等の曝露に関する調査研究」においてヒト血液、母乳等の生体試料中に含まれる内分泌かく乱化学物質の分析を実施した。本研究を通じて興味ある知見を得るととともに、検討すべき問題点も浮かび上がってきた。その一つにフタル酸エステル類やビスフェノールA等の化学物質が、分析操作過程(試料採取、保存、前処理段階)で使用する理化学実験用器材等の多くが高分子素材で成型されており、この高分子製品から溶出する可塑剤、モノマー等のコンタミネーションがバックグラウンド分析値を高めたり、分析精度に影響を与えることが明らかにされた。
本研究では身近な高分子素材を中心にした生活関連製品(玩具、食品用容器包装材料、理化学器材、医療用具等)に由来する内分泌かく乱物質(フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、ビスフェノールA等のフェノール性化合物、重金属類、その他未解明の物質)について、精度及び感度の高い分析法を構築する。また、高分子素材に由来する化学物質について内分泌かく乱作用という新たな観点からの安全性評価が求められており、これら化学物質や溶出物を中心に様々な視点から生体に及ぼす影響を解析するため、バイオアッセイ系の構築及び応用を目標とした。
1.ポリ塩化ビニル製おもちゃからのフタル酸エステルの溶出に関する調査研究 
乳幼児は、内分泌かく乱物質の影響を受けやすい可能性もあることから、玩具を口に入れてしゃぶり、あるいは噛んだとき、どの程度のフタル酸エステル類が溶出するか、またヒトのしゃぶり等による実験を代替しうる、in vitroでの溶出試験法の開発を目的とする。
2.食品容器包装材料等からの内分かく乱化学物質の動態
①缶コーティングからのビスフェノールA及び関連化合物の溶出
飲料缶(ビール缶を含む)あるいは缶詰コーティングからのBPA溶出のメカニズムや各種影響因子の究明と、缶入飲料及び缶詰食品中のBPA及びエポキシ樹脂のモノマー(BADGE)、塩化水素付加体(BADGE・HCl,BADGE・2HCl)等の関連化合物の分析法を開発して、市販缶入飲料あるいは食品中のこれら化合物の残存量を調査する。
②瓶詰め食品の内分泌かく乱化学物質
国産及び輸入瓶詰食品におけるキャップシーリング材中に含まれる可塑剤、BPAの最近の動向とシーリング材から食品への移行、使用状況を明らかにする。
3.医療用高分子素材及び製品由来の内分泌かく乱化学物質の動態解明
① 高分子素材からなる医療用プラスチック製品
医療プラスチック製品(血液バッグ、母乳バッグを含む)からどのような化学物質が血液等に溶出してくるか、また、どのような化合物が気化してくるかをGC/MSを用いて明らかにすることを目的とする。
②歯科用ポリカーボネート中のBPAの分析
歯科用ポリカーボネート材料について材質中に残留するBPA量と人工唾液に浸漬することによるBPA溶出量をHPLCにより把握する。
4.生活空間中の可塑剤の分析と分析精度の向上
① 大気中のプラスチック可塑剤の実態調査
大気中のプラスチック可塑剤の汚染状況を把握する測定方法を確立し、その濃度が測定地点、気象条件や室内環境等でどのように変化するかを究明する。
②フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類の分析におけるバックグランド低減化
食品中のフタル酸エステル、アジピン酸エステル類について精度の高い分析法を構築するために、抽出・クリーンアップを閉鎖系で実施する精油定量器を用いた蒸留法を検討する。
③分析上の注意点及びブランクの扱いについて
アルキルフェノール類、芳香族炭化水素類、フタル酸エステル類及びBPA等を対象に、GC/MS分析における装置上の留意点や分析操作過程での対応に関して技術的情報を取得する。
5.生活関連製品由来の内分泌かく乱化学物質の作用評価
① 酵母 Two-Hybrid 法
化学物質のエストロジェン様作用の評価を酵母 Two-Hybrid 法で実施し、その操作過程にS9 mix 処理過程を組み込み、代謝物のエストロジェン様作用の活性測定も試みる。
② エストロジェン活性検出系の確立
E-SCREEN Assayの簡便かつ精度の高いバイオアッセイ系を検討し、新たにヒト由来の乳癌細胞であるT47Dを使用したエストロジェン活性検出系を構築、高分子素材由来の化学物質について評価する。
③ヒト副腎由来培養細胞を用いたホルモン産生に及ぼす内分泌かく乱化学物質の影響
化学物質がステロイドホルモン産生にどのような影響を及ぼすかを解明する目的で、ヒト副腎皮質由来のステロイドホルモン産生細胞(H295R細胞)を用いたアッセイ系を構築し、フタル酸エステル類、BPA、4-ノニルフェノール等の測定に応用する。
研究方法
1.ポリ塩化ビニル製おもちゃからのフタル酸エステルの溶出に関する調査研究 
① 乳児MOUTHING行動の実態調査:6~10ヶ月の各月齢児5名、計25名の親に、1回15分ずつ10回、計150分ビデオカメラで児の様子を記録し、被験児のMOUTHING時間を秒単位で測定し、1日の活動時間中のMOUTHING時間を推計した。
②ヒトのchewingによる玩具から唾液へのフタル酸エステルの溶出をHPLCにより、フタル酸エステル量を測定した。
③In vitro 溶出試験:溶出方法として玩具を表面積15 cm2に切断し、50 mlの遠心管に入れ、人工唾液30 mlを加え、渦巻き振とう機一定時間振とう抽出し、HPLCで分離定量した。
2.食品容器包装材等からの内分泌かく乱化学物質の動態
①缶コーティングからのビスフェノールA及び関連化合物の溶出
試料にはモデル缶、市販缶入飲料を使用し、材質判別はFT-IRで、材質試験は内面コーティングの一部を削り取り、ジクロロメタンで超音波抽出し、HPLC/UV/FLによりBPAを測定した。溶出試験は溶出溶媒、温度、時間を変えて実施した。缶入飲料はLC/MSによりBPA、BADGE、BADGE-4OH、BADGE-2Clを測定した。ビール中のBPAについては、GC/MS(SIM)による試験方法を検討し、国産、輸入の缶ビール製品に関して試験を行った。また、缶詰食品中のビスフェノールA及びビスフェノールA関連物質について固相抽出法等でクリーンアップし、蛍光検出-HPLCで分析した。
②瓶詰め食品のキャップシーリング材の内分泌かく乱化学物質
市販瓶詰食品(国産品15検体及び輸入品35検体)のキャップシーリング材を用い、GC及びGC/MSにて分析を行った。食品中のDEHPの分析はフロリジルカートリッジでクリーンアップし、GC及びGC/MSで測定した。
3.医療用高分子素材及び製品由来の内分泌かく乱化学物質の動態解明
①高分子素材からなる医療用プラスチック製品
医療用プラスチック製品の揮発性物質の測定は試料をはさみ等で細切し、ヘッドスペース瓶に採り、密栓し50℃で30分間、Polydimethylsiloxane/divinylbenzeneのSPMEファイバーで抽出し、GC/MSで測定した。更に細切した試料に生理食塩水を加え、10分間超音波・撹拌しながらSPMEファイバーで30分間抽出し、同様に溶出物質の測定を行った。
②血液バッグ保存血液中の内分泌かく乱化学物質の分析
血液バッグについては6℃の冷蔵庫中に保存し、一部は発泡スチロール製の小型容器に入れ、ふたを装着して、その他のバッグとは異なる冷蔵庫内で保存した。母乳バッグに牛乳を規定量詰めて密封し、-30℃で30日間凍結保存した後、試料とした。分析はヘッドスペース-GC/MSで行った。
③歯科用ポリカーボネート中のBPAの分析
PC製ブラケット、テンポラリークラウン、レジン歯について、材質試験は適量のジクロロメタンに溶解させて調製した検体を、溶出試験は材料を人工唾液中に浸漬させ、37℃の恒温槽で遮光下静置したものを電気化学検出HPLCで行った。
4.生活空間中の可塑剤の分析と分析精度の向上について
①大気中のプラスチック可塑剤の実態調査
試料捕集はテフロン製のろ紙ホルダーにGF(QF)、CFを重ねて装着し、10 L/minで24hr (約14.4m3)2段捕集し、ろ紙一部をジクロロメタンを用い、超音波抽出した。内部標準物質を添加して、GC/MSで分析した。
②フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類の分析におけるバックグランド低減化
精油定量器にトルエンを1mL正確に加え、ジムロート冷却器を取り付け、加熱蒸留した。蒸留後、トルエン抽出層を小試験管に取り、無水硫酸ナトリウムで脱水し、GC/MS用検液とした。
③分析注意点及びブランクの扱いについて
フタル酸エステル類等の分析を例に、GC/MSを使用して分析誤差に及ぼす要因を検討した。
5.生活関連製品由来の内分泌かく乱化学物質の作用評価
①酵母 Two-Hybrid 法:エストロジェンアッセイは酵母を前培養し、DMSO に溶解した被検化学物質を添加して実施した。生成したbーガラクトシダーゼの酵素活性を被検化学物質のエストロジェン様作用の指標とした。S9 mix 処理はCofactor I 溶液ラット S9を添加し、被検化学物質の DMSO 溶液を加え、37 ℃、4時間のインキュベーションを行った。S9 mix 処理後、エストロジェンアッセイを実施した。
②エストロジェン活性検出系の確立:MCF-7、T47Dを用いて、被験物質を加えて、37℃、5%CO2中で3日間インキュベートした後、各ウェルにセルカウンディングキットの試薬溶液を加えて、3時間後にプレートリーダーで測定波長450nm、参照波長600nmにて測定した。
③ヒト副腎由来の培養細胞を用いたステロイドホルモン産生に及ぼす内分泌かく乱化学物質の影響:細胞はITS+(1.0 %)、Ultroser G (2.0 %)及び抗生物質を含有するD-MEM-F12メジウムを用い、5% CO2-95% Airの気相中、37 (Cの条件下で継代培養した。メジウム中に分泌されたステロイド、LDH全タンパク質量、コルチゾールを測定した。
結果と考察
1.ポリ塩化ビニル製おもちゃからのフタル酸エステルの溶出に関する調査研究
6~10ヶ月乳児のMOUTHING行動を観察した結果、1日のMOUTHING時間は、平均105.3±72.1分で、フタル酸エステルを溶出する可能性の無いおしゃぶりを口にしている時間を除くと、平均73.9±32.9分(最大値136.5分、最小値11.4分)であった。ヒトが、フタル酸ジイソノニル(DINP)58%を含む玩具の片を口に含んだ際、10 cm2あたり平均63.7μg/hrのDINPが唾液中に溶出した。この値と、MOUTHING行動の平均時間を用いて、乳幼児が、この玩具を口に入れた場合に摂取するDINPの量は78.4μgと試算された。渦巻き振とう機を用い15 cm2の玩具片に30 mlの人工唾液を加えて300回転/分で10分間振とうを行うと、ヒトがchewingしたときの最大溶出量に近似した値が得られた。
2.食品容器包装材等からの内分泌かく乱化学物質の動態
①缶コーティングから飲料へのビスフェノールA(BPA)の溶出に関連する各種ファクターの影響及び溶出原因を解明するために、BPA含有量が高かったコーヒー及び紅茶各2銘柄の相当缶及びその改良缶を試験した。缶各部位のコーティング中のBPA含有量に違いが見られ、食品擬似溶媒を用いた溶出試験を行ったところ、溶出時間の増加とともに溶出量の増加がみられた。BPA、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)、その四水酸化体(BADGE-4OH)及び二塩素体(BADGE-2Cl)について、LC/MSによる飲料中の分析法を開発、市販缶入飲料72検体中の含有量を分析した。一部飲料からBADGE-4OH、BADGE-2Clから検出された。
②瓶詰め食品のキャップシーリング材について、フタル酸エステル等の可塑剤およびBPAの使用動向を調査した。可塑剤は約50%から検出され、全体的にはフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)の使用が自粛されていた。材質自体もポリ塩化ビニル製から可塑剤を必要としないものに変わりつつあることが窺えた。シーリング材から食品への可塑剤の移行について調べたところ、脂質の多い食品に高い濃度で溶出されているものがあった。
③缶詰食品中のビスフェノールAおよびビスフェノールA関連物質の分析を行った。その結果、72検体中47検体からBPAが約1-22μg/缶検出された。加熱処理条件の厳しい野菜缶および肉・魚介缶であり、10μg/缶以上検出された缶詰(9検体)はすべてプルトップ型の缶詰であった。さらに、BADGEおよび2種類の塩化水素付加体(HCl型,2HCl型)について20検体分析したところ、BADGEが3検体(0.6-4μg/缶)、BADGE・2HCl型が9検体(0.1-47μg/缶)、BADGE・HCl 型が3検体(0.1-2μg/缶)から検出された。
④市販缶ビール製品中のBPA含有量を調査した。国内の主要製品からBPAは検出されなかったが、輸入品の一部製品で、ビール中からBPAが検出された。
3.医療用高分子素材及び製品由来の内分泌かく乱化学物質の動態解明
①医療用プラスチック製品に由来する揮発性物質をSPMEファイバーに吸着させ、GC/MSで測定した結果、飽和炭化水素でC17以下の沸点を持つような化合物(PTRIで1700以下)として、アニリン、トルエン、THF、フェノール、アセトフェノン、ベンゾチアゾール、ジクロロベンゼン、スチレン、BHT等が検出された。また、生理食塩水でカテーテルから溶出してきた物質を同様に測定した結果、ベンゾチアゾール、ベンゾフェノン、BPA、ノニルフェノール、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)等約120物質が推定された。
②輸血用血液バッグに豚の血液を詰めて冷蔵保存した血液中にはベンゼン、トルエン、スチレンモノマーなどの芳香族系有機化合物が経時的に増加し、20日間の保存期間でこれらは数十ppbの濃度に達することが確認された。また、血液バッグからはテトラヒドロフラン (THF) および2-エチル-1-ヘキサノールが大量に溶出することも判明した。一方、母乳バッグに牛乳を詰めて30日間凍結保存した後、分析を行ったところ、一部種類からはトルエンの溶出が認められた。
③PC製歯科材料中に残留しているBPAと人工唾液中に溶出するBPAを分析したところ、歯科材料中には残留BPAが数μg/g~数百μg/g確認され、浸漬することによりPC中に残留しているBPAの増加が確認された。
4.生活空間中の可塑剤の分析と分析精度の向上について
①大気中のプラスチック可塑剤(フタル酸エステル10種、アジピン酸エステル1種)を同時に測定する方法を検討し、その屋外、屋内及び自動車内空気の濃度の実態を調査した。屋外で多く検出されたのはDnBP、DEHPであった。55℃以上となる夏季の駐車中の車内では、検出する可塑剤の種類も多く、特にDnBP、DEHPは数千ng/m3オーダーで検出された。
②超純水を製造した後、8時間以上、精油定量装置で加熱還流を行い、フタル酸エステル類を含む共存物質をトルエンで捕集・除去することで、操作ブランクを低減することが可能となった。本法を氷菓の分析に応用したところ、内標準法を採用することで良好な回収率が得られた。
③アルキルフェノール類、芳香族炭化水素類、フタル酸エステル類及びBPA等について、GC/MS上でのマトリックスの妨害、異性体ピークパターンの扱い、測定環境からの汚染(セプタム等の部品の表面汚染、装置ブランク、室内空気、試薬ブランク)、混合物スタンダードの使用等の留意点を明らかにし、対策を検討した。
5.生活関連製品由来の内分泌かく乱化学物質の作用評価
①酵母 Two-Hybrid 法を運用し、化学物質のエストロジェン様作用について評価した。さらにその代謝産物を含めた化学物質のエストロジェン様作用の評価を実施するために、酵母 Two-Hybrid 法の操作過程にS9 mix 処理過程を組み込み、その有用性を検討した。本法は化学物質自体のみならずその代謝産物の内分泌かく乱作用を検討する上で有用であることが判った。
②H295R細胞を用いてステロイドホルモン産生に及ぼす環境化学物質の影響を評価するアッセイ法の基礎的検討を行った。このアッセイ法を用いて、プラスチック可塑剤として用いられているフタル酸エステル類の影響、プラスチック関連物質としてBPA、4-ノニルフェノールおよび4-t-オクチルフェノールの影響、および食品包装用ラップ類のジクロロメタン抽出物低分子画分・メタノール可溶部分の影響を検討し、コルチゾール産生を抑制するいくつかの化学物質を特定した。
③MCF-7を用いた内分泌かく乱作用のin vitroスクリーニング試験法である E-SCREEN Assayの、より簡便な操作でかつ精度の高いアッセイ系の確立を目的に、諸条件の基礎的検討を行った。さらに、同じくエストロジェンレセプターを発現しているヒト由来の乳癌細胞であるT47Dを使用したエストロジェン活性の検出系の確立を目的とし、高分子素材由来の化学物質について評価を行った。
結論
本研究では身近な高分子素材を中心にした生活関連製品(玩具、食品用容器包装材料、歯科材料、医療用具等)に由来する内分泌かく乱物質(フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、ビスフェノールA等のフェノール性化合物、揮発性有機化合物等)について、精度及び感度の高い分析法をGC/MS、蛍光検出あるいは電気化学検出LCやLC/MSP等のハイブリッドな最新機器分析装置を駆使して構築した。高分子素材製生活関連製品からの当該化学物質の血液、唾液、食品(飲料を含む)への溶出挙動を究明した。また、環境大気中に残留する内分泌かく乱化学物質を測定した結果、高分子製品由来と推測される化学物質が室内空気や自動車内では高い濃度で存在が認められた。
検出された高分子素材に由来する化学物質のヒトヘの暴露量評価に関しては血液、母乳、唾液等の生体試料をターゲットにした微量分析が不可欠である。このために、厚生科学研究における関連プロジェクトチームとの共同研究が必要である。また、人体暴露が判明した化学物質に関しては本研究でも検討した、細胞・分子レベルでの影響を検討することも総合的な評価をする上で必須である。
いずれにしても我々の生活環境中に存在する高分子製品から多種多様な化学物質が様々な形態で放出されており、間接あるいは直接的にヒトが暴露されていると認識すべきであろう。シックハウス症候群、化学物質過敏症等の報告は化学物質のヒトへの具体的健康影響として捉えることもできる。高分子素材に由来する化学物質のリスク評価はこの視点からも密接に関係していると思われ、更に多角的な研究推進が必要である。

公開日・更新日

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