野菜などの農水産物からの汚染微生物などの検出方法に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900644A
報告書区分
総括
研究課題名
野菜などの農水産物からの汚染微生物などの検出方法に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 遠藤卓郎(国立感染症研究所)
  • 島田俊雄(国立感染症研究所)
  • 武田直和(国立感染症研究所)
  • 外海泰秀(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
17,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近、野菜、果実、カキ等の農水産物の微生物あるいは農薬汚染等に起因する食中毒の発生が増加し、社会的に問題になってきている。細菌ではサルモネラ、腸管出血性大腸菌等、原虫関連ではクリプトスポリジウム、サイクロスポラ等、ウイルスではヒトカリシウィルス等および輸入小麦中における残留農薬による汚染がその対象となっている。当該食中毒の予防への対策および発生時における的確なる対処を行う為には、これらの農水産物の汚染状況を把握することが必要であるが、現在のところそれらの食材から正確に該当する微生物及び農薬を検出する方法論が確立されていない。本研究を行うことにより、野菜や果実等からの病原体の標準的な検出方法を確立するとともに、必要な対策を検討するための基礎資料を作成する。
研究方法
1。細菌の検出:野菜、果実等の検体をストマッカーやミキサー処理をした場合、pHの酸性化や、乳化された検体成分中の抗菌作用物質の存在等のため、細菌の検出率の低下が考えられる。又、自然界には損傷菌として存在している可能性もあり、より検出率の低下が予想される。これらを解決するため、検体の処理の仕方、検体の前培養に用いる培地の種類等の基礎的検討をさらに続け最適条件の確立を目指す。又、菌の存在をスクリーニングする方法として、免疫磁器ビーズ法を用いての菌の濃縮法、PCR等の分子遺伝学的技術も検討をさらに続ける。
2。原虫の検出:食材から原虫のオーシスト等を分離・濃縮する方法として、高速連続ローター遠心機による濃縮、及び比重差を利用しての浮遊分離や磁気ビーズの利用法の検討を続け、更なる検出感度の向上を図る。標本中の微量のオーシストを検出ために、in situ hybridization等の分子レベルの染色方法を検討する。また、ポリトレオニン遺伝子を用いての分子疫学的解析について、例数を増やし、実際に分子疫学的マーカーとして利用可能かをさらに検討する。
3。冬期に多いウィルス性胃腸炎の大部分がヒトカリシウィルス(human calicivirus,HuCV)によるものであるが、ウィルスを増殖させるための適当な細胞培養系がない。そのため原因食品を特定するのが困難な場合が多い。食品から病因ウィルスを迅速かつ感度よく検出する新しい方法を確立する必要性が高い。又、患者便材料から増幅されるHuCVには多数の血清学的に異なる株が存在することがわかってきている。我が国のHuCV感染源の多くはカキであるので、カキからHuCVの遺伝子を効率よく増幅方法を確立する
結果と考察
成果・考察
1。野菜等の農水産物からの汚染細菌を効率よく検出する方法の検討;
生野菜や果物に汚染した腸管出血性大腸菌O157が分離されにくい原因として、オキシダーゼ陽性のPseudomonas属の細菌が混入し、腸管出血性大腸菌O157より優勢に増殖してしまうことが挙げられる。増菌培養時に、還元剤(チオグリコール酸ナトリウム)を添加した培地(BPW;バファードペプトン水)を用いて嫌気培養することにより、Pseudomonas属の細菌の増殖を抑制し、腸管出血性大腸菌O157を効率よく増殖させることができることが判明した。さらに、分離培地として、一般的に用いられているCT-SMACよりも、改良した CT-SSMAC(1%サリシン及び0.01%4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシド加CT-SMAC)を用いることで、O157の分離率を飛躍的に高めることが出来た。そこに、PCR法や磁気ビーズ法を併用すれば、材料中に10個以下の菌しかいなくても検出可能であった。また、カイワレダイコン抽出液中には、腸管出血性大腸菌O157やサルモネラの発育を抑制する物質が存在することを、高速液体クロマトグラフィーを用いた成分分析で明らかにした。
2。ヒトカリシウィルスの解析; 
ノーオーク様ウィルス (Norwork-like virus,NLVs)のRNAポリメーラーゼの塩基配列の多様性を利用し、流行株の系統解析を行った。その結果、我が国でこれまで解析されたNLVsには、 Genogroup I(GI)が5種類、 Genogroup II(GII)が8種類あることが分かった。多量な検体を一度に解析しやすくするため、各genogroupに属する構造蛋白質をGI は4種類、 GIIは7種類、計11種類を用いて、抗体検出および抗原検出のためのELISA系を確立した。今回開発したELISAをもちいて、国内70の研究機関その評価を進行中である。このELISA系で陽性を示すためには、10の6乗のウイルス粒子を必要とする。RT-PCRに比べ感度が低い点が問題であり、今後、さらに感度を上げることを考慮中である。
3。原虫の消毒・加熱処理等の殺菌処理の効果判定法;
ジアルジアのシストを用いて、消毒・加熱処理等の殺菌処理の効果判定法の検討を行った。消毒・加熱等の処理で、脱嚢がどのぐらい阻止されるかをひとつの指標とした。脱嚢の程度は、脱嚢後にシスト壁特有の形態変化が起こることを種々の方法で測定することにより推定した。シスト壁の変化を蛍光抗体で染色した時の散乱光の程度により、形態変化をとらえる系を確立した。その系でシストを残留塩素濃度1mg/mlで処理した場合、99%程度の脱嚢阻止効果があることが分かった。
4。輸入農作物の試験方法
マラチオンの一部が、試料調整の際に水を加えて放置する行程で、酵素分解することを見出した。現行の迅速分析法に記載されている水膨潤後アセトンで抽出方法では、マラチオンの正確な値が得難いと判断された。現行法の改良が必要と考えられる。 
結論
野菜、果物等を汚染している微生物あるいは農薬の迅速なる検出法の開発、改良等の検討を行った。いくつかの効率よい方法の開発を手がけてきて新しい知見が得られてきている。今後更に発展させていく予定である。

公開日・更新日

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