文献情報
文献番号
199900580A
報告書区分
総括
研究課題名
混合性結合組織病の病態、治療と抗U1RNP抗体に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 啓文(北里大学)
研究分担者(所属機関)
- 三崎義堅(東京大学)
- 三森経世(慶応義塾大学)
- 高崎芳成(順天堂大学)
- 岡田 純(北里大学)
- 原まさ子(東京女子医科大学)
- 北里英郎(北里大学)
- 吉田俊治(藤田保健衛生大学)
- 大久保光夫(埼玉医科大学総合医療センター)
- 青塚新一(国立国際医療センター研究所)
- 吉尾 卓(自治医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
混合性結合組織病(以下MCTD:mixed connective tissue disease)は特定疾患の1つとして厚生省調査研究班で長期間研究が行われてきた。平成5年度から10年度には東條毅班長の下で研究が行われ、①MCTDの特徴的臨床所見と自然歴、②主な死因として肺高血圧症の重要性、③抗U1RNP抗体の産生機序に関する進展、の成果が得られた。この成果を継承し、新しい進展をめざす研究目的を設定した。すなわち、①本症を特徴づける抗U1RNP抗体の臨床的意義をMCTDの病態との関連から解明、②MCTDに合併した肺高血圧症の病態の解明と治療法の確立、③抗U1RNP抗体の産生機序の解明、である。
1. 抗U1RNP抗体の臨床的意義:MCTDの特徴の1つは本抗体の単独陽性である。班のプロジェクト研究として早期無治療の単独陽性例を抽出し、プロスペクティブに臨床経過を追跡して本抗体陽性例の自然歴を究明し、MCTDの病態との関連を明確にする。
2. MCTDにおける肺高血圧症の病態と治療:肺高血圧症はMCTDで最も重要な臓器病変である。その病態は肺血管病変であるが、その成立にクラミジアなど微生物感染の関与、エンドセリン、一酸化窒素あるいは抗U1RNP抗体などの自己抗体の関与を明らかにする。東條班が行った膠原病合併肺高血圧症の全国疫学調査に基づき、MCTDなど膠原病に合併した肺高血圧症の病態、治療及び予後に関する二次調査を実施し、治療法確立のヒントを得る。さらにプロスタサイクリン製剤や免疫療法の治療効果を検証する。この難治性病態の治療法の開発によって、本症の予後の改善に貢献する。
3. 抗U1RNP抗体の産生機序の解明:本抗体の産生機序の解明は病因、病態の解明への有力な手掛りとなるばかりでなく、本抗体の産生を制御することができれば本症の根本的治療につながる可能性がある。4名の分担研究者により4つの異なった手法で研究する。
1. 抗U1RNP抗体の臨床的意義:MCTDの特徴の1つは本抗体の単独陽性である。班のプロジェクト研究として早期無治療の単独陽性例を抽出し、プロスペクティブに臨床経過を追跡して本抗体陽性例の自然歴を究明し、MCTDの病態との関連を明確にする。
2. MCTDにおける肺高血圧症の病態と治療:肺高血圧症はMCTDで最も重要な臓器病変である。その病態は肺血管病変であるが、その成立にクラミジアなど微生物感染の関与、エンドセリン、一酸化窒素あるいは抗U1RNP抗体などの自己抗体の関与を明らかにする。東條班が行った膠原病合併肺高血圧症の全国疫学調査に基づき、MCTDなど膠原病に合併した肺高血圧症の病態、治療及び予後に関する二次調査を実施し、治療法確立のヒントを得る。さらにプロスタサイクリン製剤や免疫療法の治療効果を検証する。この難治性病態の治療法の開発によって、本症の予後の改善に貢献する。
3. 抗U1RNP抗体の産生機序の解明:本抗体の産生機序の解明は病因、病態の解明への有力な手掛りとなるばかりでなく、本抗体の産生を制御することができれば本症の根本的治療につながる可能性がある。4名の分担研究者により4つの異なった手法で研究する。
研究方法
分担研究者と研究班を形成し、班全体でプロジェクト臨床研究を行う。その課題として①抗U1RNP抗体の臨床的意義について、及び②肺高血圧症の病態と治療、を取り上げた。
①のプロジェクト研究:本年度研究者の施設を初診した無治療の抗U1RNP抗体陽性患者を抽出し、その臨床像を調査表に記載し、患者血清の抗核抗体の免疫沈降法による検索、HLAのDNAタイピングの検索を加えて、データーバンク化する。登録時から1年毎に3年間の追跡調査を予定している。このプロスペクティブ研究では本抗体単独陽性例と他の疾患標識抗体併存例を比較し、本抗体のMCTDの病態形成における意義を研究する。
②のプロジェクト研究:東條班で調査した全国の膠原病に合併した肺高血圧症患者について病態、治療に関する二次調査を行う。さらに分担研究者の施設における肺高血圧症の治療に関する詳細な二次調査をする。重点研究事業、特定疾患に伴う肺高血圧症治療研究班と共同で本症に合併した肺高血圧症の治療に関するプロジェクト研究を計画する。
各個研究の主なテーマとして①抗U1RNP抗体の産生機序の解明:4つの異なった方法で4名の分担研究者により研究する。②肺高血圧症の発症機序に関する研究:各個研究として5名の分担研究者により各方面から行った。
①のプロジェクト研究:本年度研究者の施設を初診した無治療の抗U1RNP抗体陽性患者を抽出し、その臨床像を調査表に記載し、患者血清の抗核抗体の免疫沈降法による検索、HLAのDNAタイピングの検索を加えて、データーバンク化する。登録時から1年毎に3年間の追跡調査を予定している。このプロスペクティブ研究では本抗体単独陽性例と他の疾患標識抗体併存例を比較し、本抗体のMCTDの病態形成における意義を研究する。
②のプロジェクト研究:東條班で調査した全国の膠原病に合併した肺高血圧症患者について病態、治療に関する二次調査を行う。さらに分担研究者の施設における肺高血圧症の治療に関する詳細な二次調査をする。重点研究事業、特定疾患に伴う肺高血圧症治療研究班と共同で本症に合併した肺高血圧症の治療に関するプロジェクト研究を計画する。
各個研究の主なテーマとして①抗U1RNP抗体の産生機序の解明:4つの異なった方法で4名の分担研究者により研究する。②肺高血圧症の発症機序に関する研究:各個研究として5名の分担研究者により各方面から行った。
結果と考察
1.抗U1RNP抗体の臨床的意義:プロジェクト研究①として、分担研究者の施設における抗U1RNP抗体陽性の初診で無治療の症例を登録した。その際、臨床所見、検査所見のデーターを得るために調査表を作成して使用した。登録時に抗体検査とHLAの DNAタイピングのための採血を行ない、事務局でまとめて検査した。本年度は初年度のため、準備に時間を要し、12年3月までの登録数は35例にすぎなかったが、単独陽性群にはMCTDと未分化結合組織病が多かった。症例の集積をさらにすすめ、抗U1RNP抗体陽性例の自然歴に関するデータバンクを作ることを企図している。これに関連して、岡田は抗U1-RNP抗体単独陽性例の経過をレトロスペクティブに研究した。平均11年後でも58%がMCTDと診断されうることが示され、MCTDが未分化な病態でないことを明らかにした。
2.MCTDにおける肺高血圧症(PH)の病態と治療:プロジェクト研究②として、東條班で調査した班員施設の膠原病合併PH例について、治療に関する二次調査が行なわれた。ステロイド薬、免疫抑制薬の投与がPHの改善と相関することが示唆された。これに関連して、吉田はモノクロタリン投与ラットでステロイド治療の有用性を示唆した。岡田は膠原病に合併したPHの治療反応性をみたところ、MCTDを含む抗U1RNP抗体陽性群では治療反応性が良いと報告した。東條班で膠原病に合併したPHの全国調査が行われたのを引き継ぎ、PH例について臨床像、治療、予後に関する二次調査を計画した。平成12年度に調査を実施する。
PHの病態に関与する因子について、北里はPHの発症にクラミジア感染が関与する可能性を検討しMCTDのPH例で陽性頻度の高いことを示した。原は肺動脈内皮細胞のエンドセリン、一酸化窒素の産生に及ぼすサイトカイン、成長因子を検討し、IL-1α、IL-18、TGF-βが影響することを見出した。青塚は抗U1RNP抗体によって血管内皮細胞に接着分子およびMHC分子の発現を誘導することを見出し、血管病変の発症に関与する可能性を示した。吉尾は抗トロンボモジュリン抗体がPHの発症に関与する可能性を示唆した。
MCTDのPHの治療に決定的な薬物はないのが現状であるが、最近プロスタサイクリン製剤が原発性肺高血圧に有効であることが判明した。MCTDなど膠原病に合併するPHにも効果が期待されそれを示す成績も報告されている。本研究班もプロジェクト研究としてこの治験に参加すべく製薬メーカーと協議を行なった。一方PHの発症に免疫異常の関与の可能性があるとの仮説に立ち、免疫療法の有用性についても臨床研究を計画している。
3. 抗U1RNP抗体の産生機序の解明:本抗体の産生機序の解明は各個研究として、4名の分担研究者によって行われた。三崎はヒトU1-Aに対する免疫学的寛容成立の機序をT細胞クローンレベルで解析することを目的として、U1-Aに対するT細胞エピトープを検索した。C末側の断片に対する応答が顕著であることを明らかにした。三森は抗核抗体の産生に重要な共刺激分子であるCD40Lを欠損させたマウスでも抗U1RNP抗体の産生が認められることを明らかにした。その抗体産生に膜結合型TNF-α-TNF-R2の関与を示唆した。高崎はランダム配列のRNAライブラリーを用いたスクリーニング法でMCTD患者血清と反応するRNA抗原を見出した。新たな抗RNA抗体の存在が示唆された。大久保はMCTD患者で妊娠出産を契機に発症あるいは増悪した症例においてマイクロキメリズムの有無を検索した。その存在を明らかにし、発症機序との関連を示唆した。
2.MCTDにおける肺高血圧症(PH)の病態と治療:プロジェクト研究②として、東條班で調査した班員施設の膠原病合併PH例について、治療に関する二次調査が行なわれた。ステロイド薬、免疫抑制薬の投与がPHの改善と相関することが示唆された。これに関連して、吉田はモノクロタリン投与ラットでステロイド治療の有用性を示唆した。岡田は膠原病に合併したPHの治療反応性をみたところ、MCTDを含む抗U1RNP抗体陽性群では治療反応性が良いと報告した。東條班で膠原病に合併したPHの全国調査が行われたのを引き継ぎ、PH例について臨床像、治療、予後に関する二次調査を計画した。平成12年度に調査を実施する。
PHの病態に関与する因子について、北里はPHの発症にクラミジア感染が関与する可能性を検討しMCTDのPH例で陽性頻度の高いことを示した。原は肺動脈内皮細胞のエンドセリン、一酸化窒素の産生に及ぼすサイトカイン、成長因子を検討し、IL-1α、IL-18、TGF-βが影響することを見出した。青塚は抗U1RNP抗体によって血管内皮細胞に接着分子およびMHC分子の発現を誘導することを見出し、血管病変の発症に関与する可能性を示した。吉尾は抗トロンボモジュリン抗体がPHの発症に関与する可能性を示唆した。
MCTDのPHの治療に決定的な薬物はないのが現状であるが、最近プロスタサイクリン製剤が原発性肺高血圧に有効であることが判明した。MCTDなど膠原病に合併するPHにも効果が期待されそれを示す成績も報告されている。本研究班もプロジェクト研究としてこの治験に参加すべく製薬メーカーと協議を行なった。一方PHの発症に免疫異常の関与の可能性があるとの仮説に立ち、免疫療法の有用性についても臨床研究を計画している。
3. 抗U1RNP抗体の産生機序の解明:本抗体の産生機序の解明は各個研究として、4名の分担研究者によって行われた。三崎はヒトU1-Aに対する免疫学的寛容成立の機序をT細胞クローンレベルで解析することを目的として、U1-Aに対するT細胞エピトープを検索した。C末側の断片に対する応答が顕著であることを明らかにした。三森は抗核抗体の産生に重要な共刺激分子であるCD40Lを欠損させたマウスでも抗U1RNP抗体の産生が認められることを明らかにした。その抗体産生に膜結合型TNF-α-TNF-R2の関与を示唆した。高崎はランダム配列のRNAライブラリーを用いたスクリーニング法でMCTD患者血清と反応するRNA抗原を見出した。新たな抗RNA抗体の存在が示唆された。大久保はMCTD患者で妊娠出産を契機に発症あるいは増悪した症例においてマイクロキメリズムの有無を検索した。その存在を明らかにし、発症機序との関連を示唆した。
結論
MCTDの特徴的自己抗体である抗U1RNP抗体陽性の無治療患者について、MCTDの病態との関連を追求するプロスペクティブ研究を開始した。MCTDの肺高血圧症に関する研究では、病態に関して血管内皮細胞を用いた研究などで成果が得られた。その治療に関しては、ステロイド薬の有効性を示す成績は得られた。プロスタサイクリン製剤の治験については計画の段階である。抗U1RNP抗体の産生機序について4つの方向から研究が進められ、それぞれ進展がみられた。
公開日・更新日
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